最新の胎児心機能評価Latest Assessment of the Fetal Cardiac Function
長野県立こども病院循環器小児科Department of Pediatric Cardiology, Nagano Children’s Hospital ◇ Nagano, Japan
胎児心エコーによる胎児心疾患の出生前診断は,これまで形態診断を中心に行われてきたが,近年胎児の心機能評価についての知見も集積されてきており,国内外のガイドラインでも胎児心機能評価についての記載がなされている.一方で,胎児の心機能評価においては,出生後とは異なる胎児循環であること,小さい胎児を母体の腹壁を通して観察しなくてはならず超音波診断装置が進歩した現在でも画質に限界があること,胎位が一定ではなく常に一定の断面が得られるわけではないこと,心電図が利用できないことなどの制約あり,必ずしも出生後と同様の方法を用いて評価することができるわけではない.本稿では,現在胎児心エコーにおいて用いられている胎児心機能評価法について,中心静脈圧上昇の評価,心室収縮機能評価,心室拡張機能評価,心室の統合機能評価,胎児心不全の予後評価,新しい技術を使用した心機能評価の各項目に分けて,簡単な原理もふまえて概説する.
Prenatal diagnosis of fetal heart disease by fetal echocardiography has so far focused on morphological assessment. However, more knowledge on fetal cardiac function has been accumulated recently, and the guidelines for fetal echocardiography now describe the assessment of fetal cardiac function. Conversely, the assessment of fetal cardiac function, such as that used in transthoracic echocardiography, is not always possible for the following reasons: the fetal circulation differs from the neonate’s circulation after birth; the small fetal heart must be observed through the maternal abdominal wall, which limits the image quality; the fetal position is not constant; a constant cross-sectional view cannot always be obtained; and electrocardiograms cannot usually be used on fetuses. The present review article outlines the fetal cardiac functional assessment currently used in fetal echocardiography, including the assessment of central venous pressure, ventricular contractility, ventricular diastolic and integrated ventricular functions, prognostic value of fetal heart failure, and cardiac functional assessment using new techniques, such as speckle tracking echocardiography and three-dimensional echocardiography.
Key words: fetus; cardiac function; fetal echocardiography
© 2025 特定非営利活動法人日本小児循環器学会© 2025 Japanese Society of Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery
胎児心エコーによる胎児心臓評価の普及と超音波診断装置の進歩や新しい診断技術の開発により,形態診断が中心であった胎児心エコー検査も,日本小児循環器学会の「胎児心エコー検査ガイドライン(第2版)」では「胎児心機能評価」の項が追加されるなど,近年胎児の心機能評価についても知見が集積されている1).一方で,胎児では心機能評価についても検査法はほぼ心エコーに限られ,出生後とは異なる胎児循環であること,小さい胎児を母体の腹壁を通して観察しなくてはならず超音波診断装置が進歩した現在でも画質に限界があること,胎位が一定ではなく常に一定の断面が得られるわけではないこと,心電図が利用できないことなどの様々な制約により,出生後と同等の評価はできない側面がある.本稿では最新の胎児心機能評価の現状について解説する.
胎児の心機能を考えるにあたっては,胎児循環を理解しておく必要がある.胎児循環では肺は酸素化に寄与せず,胎盤が静脈血の酸素化を担う.胎盤からの酸素化血は臍帯静脈–臍静脈から静脈管を経て下大静脈へ還流する.静脈弁(Eustachian弁)の働きで下大静脈からの酸素化血は主に卵円孔を経由して左房へ,上半身からの静脈血は上大静脈から主に右室へ流入する.左房へ流入した酸素化血は左室から上行大動脈を経由して主に上半身へ送られ,右室の静脈血は肺動脈へ流れるが,左右肺動脈は血管抵抗が高く,出生後の2割程度の血流しか流れないため,そのほとんどは動脈管を経由して下行大動脈へ流れ,多くは臍帯動脈を経て再び胎盤で酸素化を受ける.
胎児循環の大きな特徴のひとつとして,動脈管による短絡があるために両心室は並列循環になっていることが挙げられる.このため,一方の心室の機能が障害された場合でも,他方の心室が両心室の機能を担うことで循環が維持される.しかし,出生後に左室が体循環,右室が肺循環をそれぞれ担う直列循環に移行すると,一方の心室の大きさや機能が障害されていると循環が成立せず,その場合には動脈管の開存を維持して並列循環を保つ必要がある.
また,胎児循環では卵円孔が開存しているために,どちらの心室の障害による心房圧の上昇も最終的には右房圧(中心静脈圧)上昇につながる.胎児では心不全の最終的な状態として胎児水腫に至るが,これは,胎児では細胞外液が多く,血管透過性が高いために容易に末梢のリンパ流が低下して浮腫を生じやすく,中心静脈圧の上昇が胎児水腫を引き起こす.
羊での実験から,羊胎仔では,羊成体と比較して心筋の長さを一定にして刺激を与えた時に生じる張力(活動張力)は低い一方で,弛緩している筋肉を引き伸ばした時に抵抗して元に戻そうとする張力(静止張力)は羊胎仔のほうが強い2).また,胎児心筋細胞ではサルコメアやT管などの収縮成分が少なく未熟で心筋細胞の錯綜配列がみられる.このため,胎児心筋細胞は収縮力が弱く,後負荷の増加で収縮力が著しく低下する一方で,前負荷の増加による収縮力の増加は限定的で早期にプラトーに達する.
胎児心臓は身体の成長に伴って発育する.しかし,左心低形成症候群でみられるように,大動脈弁狭窄などの後負荷によって収縮力が高度に低下すると左室はいったん拡大するが,左房圧の上昇によって流入血流が減少し,その結果左室の成長が阻害されて低形成となっていく.このように一部の先天性心疾患では心室のサイズも心機能を反映していることになる.
母体の胎内にいて体格が小さく,心拍数の速い胎児では,他のモダリティでの検査が難しいこともあり,心機能の評価は胎児心エコー検査が中心となる.ガイドライン1)では,胎児心機能評価として,中心静脈圧評価,心室の統合機能評価,心室収縮機能評価,心室拡張機能評価,胎児心不全の予後評価などの項目が記載されている.
先に述べたように,胎児循環では左右どちらの心機能が低下した場合でも中心静脈圧の上昇を来す.心室に拡張障害を来した場合,心房機能が保持されている間は心房収縮が亢進して心室への流入を補うため,心房収縮時の心房圧(中心静脈圧)が上昇する.成人において左室拡張障害時に肺静脈血流波形のA波が増高して持続時間が延長するのと同様に,胎児でも中心静脈圧の上昇を反映して静脈系の血流パターンに変化が起きる(Fig. 1).主に計測されるのは心房に近い部位から,下大静脈,静脈管,臍帯静脈の血流で,心房からの距離が遠い部位に行くほど重症になってから波形に影響がでる.
A・Bは下大静脈,C・Dは静脈管,E・Fは基線上が臍帯静脈(基線下は臍帯動脈)のドプラ波形.A・C・Eは正常胎児のドプラ波形パターン,B・D・Fは中心静脈圧上昇が疑われる三尖弁閉鎖症の胎児のドプラ波形.文献21)より引用.
下大静脈血流はPreload Index(PLI)によって評価される.下大静脈では正常でも逆行性血流を認め,血流波形は収縮期順行性血流のS波,拡張期順行性血流のD波,拡張期逆行性血流のa波と呼称されるが,PLIはa/S比として算出される3)(Fig. 2).中心静脈圧が上昇するとa波の流速が速くなり,PLIは中心静脈圧の上昇を反映して上昇する.正常値は在胎週数が進むに従って低下するが,妊娠後期では0.5以上は異常と考えられる1, 4).
静脈管と臍帯静脈の血流は後述する胎児心不全の予後評価の指標となるCardiovascular Profile Score(CVPS)に示されているように,心臓に近い静脈管血流のほうがより早期に影響を受けて逆行性血流を認めるようになり,本来定常流で心房収縮の影響は受けない臍帯静脈血流は重症になると拍動を認めるようになる(Fig. 3).
なお,静脈血流パターンによる評価は洞調律時のみ行うことができる.
心機能の評価として最も直接的と考えられるのが心室収縮機能の評価であるが,胎児では胎位によって常に一定の角度で心臓の断面を描出できるわけではないこと,胎児の心電図が通常の方法では得られないことから,心室収縮機能の評価に用いることのできる方法は出生後と比較して限定される.現在用いられるのは心室内径短縮率(Fractional Shortening; FS)/心室駆出率(Ejection Fraction; EF)とdP/dt,収縮期僧帽弁/三尖弁輪移動距離(Mitral/Tricuspid Annular Plane Systolic Excursion; MAPSE/TAPSE),心室の統合機能評価として後述するMyocardial Performance Index(MPI)があげられる1, 5).
経胸壁心エコーでも古くから用いられているFSが心室収縮機能評価の指標の一つとして用いられており,最新の米国心エコー図学会の胎児心エコーガイドラインにも記載されている5).2Dエコーの四腔断面像もしくは短軸像,あるいはMモード法により計測される.ガイドライン1)ではMモード法での計測が示されている(Fig. 4A).いずれの計測法でも によって計算される.正常値は週数によらず一定で0.28~0.40とされる1).
ただし,FSは立体的な構造をしている心室の一方向の機能しか評価できず,胎児では左室圧と右室圧が等圧で短軸像の心室中隔が扁平であること,右室は更に複雑な形態をしていることからより不正確と考えられることに注意が必要である.FSは現在の日本循環器学会の「循環器超音波検査の適応と判読ガイドライン」では左室収縮能の評価項目に記載されていない6).
なお,米国心エコー図学会の胎児心エコーガイドラインでは胎児の左室機能評価としてBullet(弾丸)法やmodified Simpson法などの方法によるEFにも言及されている2).ただし,胎児心エコーでは胎位によって描出できる断面の向きが一定ではないため常に計測に必要な断面を描出できるわけではない.EFは によって計算される.
なお,Bullet法は弾丸形態の体積を,短軸像における左室面積と四腔断面像における左室長から, として近似的に求める方法である7).この方法の使用にあたっても,胎児では右室圧と左室圧が等圧で心室中隔が扁平になっており,幾何学的推定が不正確であることに注意が必要である.
左室・右室の長軸方向の収縮機能指標で,僧帽弁輪自由壁側/三尖弁輪自由壁側の長軸方向の移動距離がそれぞれMAPSE/TAPSEである.心尖が12時もしくは6時方向になるように四腔断面像を描出し,カーソルを心室中隔と平行になるように置いてM-mode法を用いて計測して算出される(Fig. 4B).これまでに複数の正常値(Z値)が報告されているほか,双胎間輸血症候群,胎児心不全,母体糖尿病などで検討されている8).
正常単胎の胎児ではMAPSEとTAPSEは在胎週数と共に大きくなり,MAPSEのほうがTAPSEより小さい.
なお,出生後の心エコーではTAPSEはセクタプローブを使用して心尖部四腔断面において三尖弁輪にカーソルを置いて計測するため,心室中隔には平行ではなく厳密には計測の方向が異なっている.
長軸方向の収縮機能指標としては組織ドプラ法によるS’(収縮期房室弁輪最大移動速度)を用いた評価についても報告されている.
dP/dtは,心室内圧の時間変化曲線の一次微分関数(傾き)で,その最大値max dP/dtは通常は等容収縮期に得られ,後負荷の影響を受けにくい心室収縮機能の指標となる9).心室収縮機能が良好であれば心室圧は急速に上昇するため高値となる.心エコーでは,これを房室弁逆流の連続波ドプラ波形の立ち上がり速度の時間変化から簡易ベルヌーイ式を基に算出し,収縮機能の指標の一つとしている.出生後の心エコーでは房室弁逆流血流速度が1→3 m/sまで上昇するのにかかる時間から算出されるが,胎児心エコーでは,房室弁逆流血流速度が0.5→2.5 m/sまで上昇するのにかかる時間をdtとし,dPは簡易ベルヌーイ式を用いて(2.5)2×4−(0.5)2×4=24 mmHgであるので,そこからdP/dtを算出する(Fig. 5).800 mmHg/sec以下は低値で,400 mmHg/sec以下は重度の収縮機能低下と考えられる5).なお,dP/dtは最大値が心室収縮機能の指標となるが,胎児では心室圧が低いため,2.5 m/sでも血流波形のピークに近く,流速の増加率が低下している部分にあたる場合には正確な収縮機能を反映しない結果が算出されてしまうため,1→2 m/sで計測するなどの工夫が必要であるが,計測の誤差が大きくなる可能性がある.
心室拡張機能の指標としては,房室弁流入波形とその拡張期充満時間(Diastolic Filling Time; DFT),MPIなどがあげられている1, 5).もちろん,中心静脈圧上昇が心室拡張機能の障害を反映している場合が多いことから,前述した中心静脈圧上昇を反映する指標は心室拡張機能の指標の一部となる.
胎児においても房室弁流入波形は心室拡張に伴う拡張早期のE波と,心房収縮に伴う拡張後期のA波の2峰性である.正常の小児から成人ではE波>A波であるが,胎児ではE波<A波である.E波,A波の流速はともに経時的に増加するがE波の流速の増加のほうが大きくE/Aは経時的に上昇し妊娠初期で約0.5,中期で約0.8と報告されており,出生直前には新生児の正常値に近づく1).これは胎児心室の拡張機能が経時的に改善することを反映していると考えられている.
房室弁流入波形の計測は,血流方向(心室中隔)が超音波ビームとなるべく平行になるように四腔断面像を描出し,サンプルボリュームは房室弁の直下(房室弁開放時の弁尖の高さ)に置いて血流波形を記録して行う.
DFTは房室弁流入血流の持続時間として房室弁流入波形から計測され,1心周期の時間で除したcorrected DFT(DFTc)で評価される.心室拡張機能が悪化するとDFTcは低下し,房室弁流入波形は1峰性となる.
大動脈弁狭窄による重症心不全,双胎間輸血症候群受血児のうっ血性心不全,胎児発育不全の予後不良例などでこうした変化が報告されている1).また,房室弁流入波形の1峰性化は予後不良の所見としてCVPSにも取り入れられている10).ただし,正常心機能の場合でも胎動などで心拍数が増加している時には1峰性となることがあるので慎重に判断する必要がある.
心周期における房室弁閉鎖から半月弁開放までの等容収縮時間(Isovolumetric Contraction Time; ICT),半月弁閉鎖から房室弁開放までの等容弛緩時間(Isovolumetric Relaxation Time; IRT)はそれぞれ収縮障害,拡張障害により延長する.MPIは心室流入終了から開始までの時間(a)と心室駆出時間(b)より,MPI=(a−b)/bとして算出されるが,これは(ICT+IRT)/bと同義である(Fig. 6).このため心室の収縮機能・拡張機能いずれの低下でもMPIは増大し,心室収縮機能と拡張機能の統合指標とされる.胎児での正常値はこれまでにさまざまな報告がされているが,Ghawiらの報告によると左室0.464±0.08,右室0.466±0.09とされている11).週数による変化は報告によって異なり一定の見解はない12).
胎児の左室においては,左室内でサンプルボリュームを広くして血流を計測することによって左室流入血流・流出血流を同時に記録することができるため,この波形により計測する.一方,右室では三尖弁と肺動脈弁が離れているため通常は同時記録ができず,それぞれの血流波形を別時相で記録して計測しなくてはならず,胎児心拍数の変動が少ないタイミングで記録する必要がある.Dual Doppler機能を備える心エコー装置であれば同時記録ができる.また,弁のクリックを用いてICT,IRT,心室駆出時間をそれぞれ計測する方法(modified MPIと呼ばれる)も提唱されている13).
MPIは子宮内発育遅延や双胎間輸血症候群の症例で検討されているほか,Inamuraらは重症Ebstein病/三尖弁異形成において左室のMPIと生命予後が関係すると報告している12, 14).
弁輪径から計算した大動脈・肺動脈の断面積と,大動脈・肺動脈弁上の血流波形をトレースした速度時間積分値(Velocity Time Integral; VTI)との積が1回拍出量で,左室・右室の心拍出量は1回拍出量と心拍数の積として, と計算される.胎児循環では左室・右室から拍出された血液は8割以上が体循環へ潅流しており,左室と右室の心拍出量の合計である複合心拍出量(combined cardiac output)の胎児における正常値は週数によらず425 mL/min/kgとされている15).
血流計測において注意すべき点は,血流と超音波ビームがなるべく平行になるように計測することで,角度が20度を超えないようにする.血流と超音波ビームのなす角度をθとすると理論上cos θだけ過小評価することになり,角度が大きくなるにしたがっ誤差が大きくなる.20度では7%の誤差であるが,30度では14%の誤差となる(Table 1)16).
角度 | cos | 誤差 |
---|---|---|
0° | 1.00 | 0% |
10° | 0.98 | 2% |
20° | 0.93 | 7% |
30° | 0.86 | 14% |
45° | 0.70 | 30% |
60° | 0.50 | 50% |
文献16)より引用・改変. |
なお,出生後の心エコーにおいてはVTIの計測は血管径を計測した弁輪部で血流波形を記録して行われるのに対して,前述の複合心拍出量に関する胎児心エコーの報告では大動脈弁直上部で計測されており,前述の正常値を用いる場合には計測部位に注意する必要がある.新生児において,弁上部での計測では弁輪部での計測と比較してVTIが大きくなることが報告されている17).
CVPSは心機能・循環不全の指標5項目(胎児水腫の有無,臍帯静脈・静脈管のドプラ波形,CTAR,心機能(FS,房室弁流入波形パターン),臍帯動脈ドプラ波形)を合わせてスコア化したもので,合計10点から各項目それぞれ0~2点を減点してスコアを算出する(Fig. 3).
これまでに胎児水腫,先天性心疾患,胎児発育遅延,高心拍出性疾患,双胎間輸血症候群などでCVPSと胎児循環不全との関係が検討されている1, 5).
心エコー機器の技術的進歩により,Speckle tracking法を用いたストレイン計測や3D心エコーなどの新しい技術を用い,胎児でも心機能評価をより正確に行える可能性がある.ここではいずれも心電図を取得しなくても計測できる,Speckle tracking法による左右心室のストレイン計測とSpatio-Temporal Imaging Correlation(STIC)法により取得した4D画像を用いたEFの計測について示す.
ストレインは初期長からの長さの変化率を示す指標で,初期長をL,初期長からの長さの変化をΔLとすると,ストレイン=ΔL/L(%)と表される.Speckle tracking法は,エコー画像上の小斑点(スペックル)をフレームごとにパターンマッチングして追跡することによって2点間のストレインを計測する方法である.Speckle tracking法によるストレインは画像の角度に依存せずに計測できる.ストレインは四腔断面像から計測される長軸方向のLongitudinal strain,短軸像から計測される円周方向のCircumferential strainと短軸方向のRadial strainの3方向の成分に分けて解析されるが,胎児では主にLongitudinal strainが計測されている.
ストレインは四腔断面像もしくは短軸像の画像を記録し,それをオフラインで解析して計測する.ストレイン解析を行う際には,記録した画像の画質が良好であることに加えて,胎児心拍数は140 bpm前後と速いために画像のフレームレートが十分に高いことが重要で,フレームレートが低いとストレイン値が不正確になる可能性がある.本来は心電図を基に1心周期を判定して計測されるが,胎児では心室壁の動きから1心周期を設定して解析が行われる.現在複数のメーカーの心エコー装置で胎児のストレイン計測が可能である(Fig. 7).ただし心エコー装置・解析ソフトウェアによって解析アルゴリズムが異なるため算出されるストレイン値も異なることに注意が必要である18).これまでに各メーカーの装置により計測された胎児心室のストレイン値が多数報告されているが,値や在胎週数による変化は報告により一定しない.本邦からも多施設共同研究による多数例の日本人正常胎児のストレイン値が報告されており,左室,右室のGlobal Longitudinal Strain; GLS(心室全体の長軸方向ストレイン)はそれぞれ−24.3±3.5%,−23.5±3.7%で,在胎週数が進むにつれて増加(絶対値は低下)するとされている19).
通常,高画質でフレームレートが高い4Dエコー画像を取得するためには,複数の心拍の画像を組み合わせるために心電図同期が必要であるが,胎児は心電図を取得することができない.STIC法は心電図同期を必要とせず,画像上の心臓の周期的な変化を読み取ることにより胎児の心拍数・心周期を検出し,心臓全体をスキャンして取り込んだ画像データを,胎児の心周期に合わせてそれぞれ3D画像として合成して1心拍分の心臓全体の動画像を構築する4D超音波技術である.画像の取得には専用の超音波診断装置とプローブを必要とする.
STIC法を用いて取得した4D画像データを,Virtual Organ Computer-aided AnaLysis(VOCAL)を用いて解析することで心室容積を算出することができる(Fig. 8).この方法を用いて計測した正常胎児の在胎週数と推定体重による心室容積の標準曲線が報告されている20).EFは在胎週数によらず一定とされ,左室,右室のEFの平均値はそれぞれ45%,46%と報告されている.
胎児心機能評価について,現在一般的に用いられる評価法と新しい技術を使用した評価法について概説した.胎児循環の特異性と胎児心エコーによる評価の限界を理解し,正しい評価を行う一助になれば幸いである.また,今後新しい技術の汎用性が高まって広く利用されることにより,より正確な胎児心機能評価が行われることが期待される.
本論文に関して申告すべきCOIはありません.
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