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特定非営利活動法人日本小児循環器学会 Japanese Society of Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery
Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery 41(2): 89-90 (2025)
doi:10.9794/jspccs.41.89

Editorial CommentEditorial Comment

成人動脈管開存の特徴に対応した経カテーテル的閉鎖術Transcatheter Closure Tailored to the Anatomical Features of Adult Patent Ductus Arteriosus

静岡県立こども病院 循環器科Department of Cardiology, Shizuoka Children’s Hospital ◇ Shizuoka, Japan

発行日:2025年5月31日Published: May 31, 2025
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小児期には血行動態的に軽微と判断され,治療適応とされなかった動脈管開存(patent ductus arteriosus: PDA)であっても,成人期に至る長期経過のなかで動脈管の壁構造が変性・脆弱化し,瘤状に拡張する症例が報告されている1, 2).とくに,大動脈圧に晒される大動脈側のampullaは,石灰化や内膜の菲薄化を伴いながら拡張し,動脈管瘤(ductus arteriosus aneurysm: DAA)へと進展することがある.このような変化は,血行動態的に無症候であっても破裂や血栓塞栓,感染といった重篤な合併症を引き起こす潜在的リスクをはらんでおり,適切な治療介入が考慮される3)

本症例報告は,成人期に偶発的に診断された大型のDAAに対して,Amplatzer™ Duct Occluder(ADO)を用いた経カテーテル的閉鎖術が安全かつ有効に施行されたことを詳細に示した,価値の高い記録である.

本症例では,39 mmに達する瘤径と流入・流出の存在から,無症候であっても早期の治療介入が正当化される症例であったといえる.動脈管開存に対する治療法として,開胸手術やTEVAR(thoracic endovascular aneurysm repair)も挙げられるが,成人において前者は人工心肺併用,後者は保険適用外の大きなステントグラフトを要するなど患者負担が大きく,合併症リスクも少なくない.そのため,ADOを中心とする経カテーテル的閉鎖術が第一選択といっても過言ではない4).本症例は特殊なPDA形状においても,本法が低侵襲かつ有効な治療選択肢となり得ることを明示している.

本症例に示された治療方針は,成人PDAに対するカテーテル閉鎖術の知見とも合致している.カテーテル治療に関連した成人PDAの特徴として,大動脈側のampullaが経年的に弓部小弯側からやや垂直に近い方向に肺動脈に流入する角度をなすことが知られている.通常小児例で行われるような肺動脈側から単独のガイドワイヤーやカテーテルで大動脈側に通過させるが,成人体格の肺動脈側をカテーテルで選択することは難しく,とくに高齢者の場合はPDAの角度変化も相まって極めて困難となる.そのため,著者らが示したように,スネアカテーテルを用いて肺動脈内で対側からガイドワイヤーを把持しAVループを作成する手法がとられている5).このスネアカテーテルの導入経路については,本症例のように肺動脈側から挿入する方法と,逆に大動脈側からスネアを導入し肺動脈側のワイヤーを把持する方法の双方が報告されている.いずれの場合も安全性の確保と手技時間短縮の両面において有用とされ,一般的手法として広く用いられている.成人例においては大動脈解離のリスクを回避するため,スムーズで過剰な抵抗のない操作が求められる6)

また,閉鎖栓の選択においても,瘤流入径や瘤内空間の解剖学的評価に基づいた適切な製品とサイズ決定,ならびに留置部位の選定が極めて重要である.本報告では,瘤内の血流遮断を確実に行うべく,大動脈側の流入部に対してADOを留置する方針が採用された.この留置位置は,術後に瘤内で生じた血栓が体循環側へ流出することを防ぐと同時に,閉鎖栓が大動脈壁に“くさび”のように安定して圧着されることで,術中・術後の大動脈解離のリスクを低減する構造的役割も果たしており,合理的な判断であったと評価できる.

本症例報告は,成人における大型DAAに対する経カテーテル的閉鎖術の安全性と有効性を裏付けるものであり,今後の同様症例における診療・治療方針策定に貴重な知見を提供するものと考える.PDAに限らず,成人期に到達した先天性心疾患の多くは,長期の血行動態変化や組織変性を背景に,形態や性状が小児期とは大きく異なっていることがある.したがって,治療方針の検討にあたっては,画像診断や解剖学的評価に基づく総合的な判断が極めて重要である.

なお,2021年の1年間において,JCICレジストリーに登録されたPDAに対する閉鎖栓による閉鎖術の例数は391件(年齢分布:日齢28日以下11件,日齢29以上1歳未満88件,1歳以上15歳未満259件,20歳以上34件),そのうち合併症発生は9例(2.3%),ただし重篤な合併症や死亡はなかった,と報告されている7).それに対して,CVIT学会年次報告によるとPDAに対する閉鎖栓による閉鎖術の例数は43件(年齢41~69歳,中央値57歳)が登録されている8).2023年から両レジストリーの連絡協議会が発足しており,今後は心房中隔欠損,卵円孔開存を含めた閉鎖栓治療に関する統合されたデータの報告がなされる予定である.

注記:本稿は,次の論文のEditorial Commentである.西岡真樹子,ほか:成人期に診断された動脈管動脈瘤に対してAmplatzer™ duct occluderを用いて経皮的閉鎖術を施行した1症例.日小児循環器会誌2025; 41: 84–88

引用文献References

1) 西岡真樹子,北野正尚,吉野佳佑,ほか:成人期に診断された動脈管動脈瘤に対してAmplatzer™ duct occluderを用いて経皮的閉鎖術を施行した1症例.日小児循環器会誌2025; 41: 84–88

2) Yukimoto M, Okuma T, Sohgawa E, et al: Incidentally identified ductus arteriosus aneurysm in eight adults: A case series. BJR Case Rep 2021; 7: 20200097

3) Cohen BA, Efremidis SC, Dan SJ, et al: Aneurysm of the ductus arteriosus in an adult. J Comput Assist Tomogr 1981; 5: 421–423

4) Khajali Z, Firouzi A, Ghaderian H, et al: Trans-catheter closure of large PDA in adult patients with Amplatzer device: Case series. Cardiol Young 2022; 32: 161–164

5) Galeczka M, Szkutnik M, Bialkowski J, et al: Transcatheter closure of patent ductus arteriosus in elderly patients: Initial and one-year follow-up results-do we have the proper device? J Interv Cardiol 2020; 2020: 4585124

6) 新家俊郎:高齢者PDAに対するカテーテル治療の工夫と実際.Structure Heart Club 2018; 6: 45–50

7) 伊吹圭二郎,松井彦郎,犬塚 亮,ほか:2021年における先天性心疾患,川崎病および頻拍性不整脈に対するカテーテルインターベンション・アブレーション全国集計—日本先天性心疾患インターベンション学会レジストリー(JCIC-Registry)からの年次報告—.J JCIC 2024; 9: 9–18

8) J-SHD年次報告2022年年報告(2020年・2021年症例).最終更新日2025年6月13日.https://www.cvit.jp/_new/docs/registry/annual-report/j-shd/2021.pdf

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