利尿薬の基本:先天性心疾患における心不全治療Diuretics in the Treatment of Heart Failure Due to Congenital Heart Disease
徳島大学病院 小児科・地域小児科診療部Department of Pediatrics, Tokushima University Hospital ◇ Tokushima, Japan
左右短絡性先天性心疾患を中心とした乳児心不全における治療は利尿薬の投与から始まる.利尿薬の使用に際しては,腎臓の構造,ネフロン・腎小体・尿細管の機能,傍糸球体装置からのレニン分泌とレニン・アンジオテンシン・アルドステロン(RAA)系の制御,対向流メカニズム・腎神経・緻密斑・尿細管糸球体フォードバックなどの機序を理解することが循環動態への影響を把握するという観点から望ましい.ほとんどの心不全薬には大規模臨床試験によるエビデンスが存在しているが,利尿薬に関しては十分な臨床試験からの確立されたエビデンスは存在しない.また,慢性心不全では利尿薬の使用量が多いほど予後が悪いことも報告されている.非代償性心不全・利尿薬抵抗性の症例にどのように利尿薬を使用するのが予後改善に有効かという臨床的問題には不明な点が未だ多く残されている.本総説では腎臓の構造と機能を説明したのちに利尿薬の種類・作用機序・副作用について解説していく.さらにループ利尿薬に焦点を当てて慢性心不全における利尿薬抵抗性に関する注意点について述べることとする.
Diuretics are crucial in the treatment of infantile heart failure, particularly in cases of left-to-right shunt heart disease. Their use should be guided by an understanding of renal structure, the functions of nephrons, renal corpuscles, and tubules, as well as the mechanisms of renin secretion from the juxtaglomerular apparatus, the renin-angiotensin-aldosterone system, the counter-current system, renal nerves, the macula densa, and tubuloglomerular feedback. Although evidence from large clinical trials exists for most heart failure medications, there is a lack of sufficient clinical trial data specifically for diuretics. Additionally, higher doses of diuretics in chronic heart failure have been associated with a worse prognosis. The effectiveness of diuretics in patients with heart failure who exhibit diuretic resistance is still unclear. This review discusses the structure and function of the kidney, outlines the types of diuretics, their mechanisms of action, and side effects, and emphasizes the importance of recognizing diuretic resistance in chronic heart failure.
Key words: diuretics; loop diuretics; nephron; renin-angiotensin-aldosterone system; diuretic resistance
© 2025 特定非営利活動法人日本小児循環器学会© 2025 Japanese Society of Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery
乳児期に診断される心室中隔欠損症,心房中隔欠損症,動脈管開存症などの左右短絡性先天性心疾患における心不全治療は小児循環器医師・小児科医師にとって臨床現場で最も頻繁に経験する診療行為である.我々は利尿薬内服の処方から開始して経過観察しながら利尿薬静脈注射やカテコラミン投与,呼吸管理などの治療を追加していく.これらは定型的な乳児先天性心疾患症例に対する心不全治療であるが,その背景にある心臓・血管・腎臓の病態と循環動態を把握し,薬剤の作用機序を理解して加療をすすめることが基本となる.
本総説では乳児心不全治療において初期段階で使用されることの多い利尿薬に焦点を当てて述べていく.まず,腎臓の構造と機能について解説したのち,利尿薬の種類,効果,副作用などについて説明する.さらに使用頻度の多いループ利尿薬の作用機序と利尿薬抵抗性について詳細に解説する.
乳児期に診断された先天性心疾患の薬物治療に関しては詳細なデータやエビデンスに基づいたガイドライン,基本方針が定められていない1, 2).小児循環器疾患関連の総説や教科書には一般的な薬物療法の記載はあるが,どの程度の心不全からどの種類の薬剤を用いて治療を開始するのが適切であるのかは定まった指針はなく,施設や医師によって異なっているのが現状であろう.そのため,成人症例や他疾患における急性・慢性心不全診療におけるガイドラインを参考にして応用することが必要である.日本循環器学会・日本心不全学会合同ガイドライン,European Society of Cardiology(ESC)が提示しているガイドラインにおいても利尿薬,特にループ利尿薬が推奨クラスIで推奨されている3, 4).利尿剤の内服薬では効果が十分でない場合には静脈注射に移行することが示されている.また,その他の利尿剤であるサイアザイド系利尿薬,ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬,バソプレシンV2受容体拮抗薬も薦められている.ドブタミン,ドパミンなどの強心薬,昇圧薬はクラスIIa~IIbの推奨であり,利尿薬に続いて使用される3, 4).ジギタリス製剤は成人ではうっ血性心不全に有効とされているが,新生児・乳児の左右短絡性先天性心疾患では効果は十分ではなく,陽性変力作用を要する場合には前述のカテコラミンが使用されることが多い.また,ジギタリス製剤,ホスホジエステラーゼIII(PDE-III)阻害剤,血管拡張薬などは左–右短絡性心疾患に対しては肺体血流比を増加させる可能性があり,推奨されていない5).
このようにガイドラインや総説,実際の臨床現場では多くの先天性心疾患乳児症例に対して利尿薬は初期使用を推奨される薬剤となっている6).乳児心不全症例に対する利尿薬の作用機序,効能,副作用を理解しておくことは,患児の循環動態評価や治療効果を判定する際に欠かせない知識である.
腎臓には水・電解質・老廃物の排泄調整,酸塩基平衡調整,血行動態を調整するレニン,アンジオテンシンII,プロスタグランジンの分泌や制御,赤血球産生にかかわるエリスロポエチンやカルシウム・リン代謝にかかわるビタミンD・副甲状腺ホルモンの分泌調整など様々な機能があるが,本稿では利尿薬に関係する内容についてのみ記載する.腎臓で濾過される血液は心拍出量の20~25%であり,濾過されたあとは原尿となる.ネフロンは腎小体と尿細管で構成される尿生成に関する最小の機能単位である(Fig. 1).腎小体は糸球体とボウマン嚢で形成され,尿細管は近位尿細管・ヘンレループ・遠位尿細管・集合管で構成される.ネフロンは腎臓1個に約100万個,両腎で約200万個存在するとされているが,実際に機能しているのはその10%ほどである7–9).
腎小体は毛細血管が豊富に屈曲している糸球体と糸球体を包み込むボウマン嚢から成り立っている.糸球体の壁から原尿が滲み出してこれをボウマン嚢が受け止めて尿細管へ導く.糸球体の壁は他の毛細血管と同様に血管内皮細胞,基底膜で構成されるが,それに加えて血管の外周を上皮細胞(タコ足細胞,Podocyte)が覆っている7–9).内皮細胞,上皮細胞ともに細胞間接着が弱く間隙があるため血圧に依存する濾過圧がかかると糸球体外へ原尿が滲み出る.血球やグロブリン,リポ蛋白質などの高分子蛋白質は糸球体の間隙を通過できないので血管内に残る.この糸球体濾過の原動力は糸球体内圧すなわち血圧である7–9).これに対して糸球体内側の膠質浸透圧とボウマン嚢内圧上昇が濾過圧に対抗する圧力となる.原尿の生成量,すなわち糸球体濾過量(Glomerular Filtration Rate; GFR)は成人では両腎の合計で90 mL/mi/1.73 m2以上が正常とされている.新生児期のGFRは成人の約1/5ほどであり,徐々に上昇して2歳前後で成人とほぼ同程度となる10).
尿細管は近位尿細管,ヘンレループ,遠位尿細管,集合管から構成される(Fig. 1).尿細管は伴走血管との間において物質の輸送(尿細管再吸収,尿細管分泌)を行うことが主な機能とされる.尿細管の周囲の血管は腎小体の輸出細動脈から枝分かれしている.つまり,腎小体を発した尿細管と血管はそのまま伴走している.そのため尿細管の伴走血管の血流量は糸球体を流れる血流量と同じである7–9).
近位尿細管は皮質内を走行してヘンレループへ移行する.ヘンレループは皮質側から髄質まで伸びる下行脚と反転して皮質へ戻る細い上行脚とその後の太い上行脚に分けられる.皮質に戻った尿細管は遠位尿細管となり,自ら発した腎小体の輸入細動脈と輸出細動脈の間で糸球体と接している.これは後述する尿細管糸球体フィードバック機構に重要な解剖学的特徴である.いくつかの近隣のネフロンの遠位尿細管は合流して集合管となる.集合管は髄質を貫いて乳頭部に開口する.
糸球体から濾過された原尿は血漿とほぼ同じ構成・濃度の電解質が存在しており,その大半を占めるのはNa+である.尿細管におけるNa+再吸収の割合は,近位尿細管70%,ヘンレループ20%,遠位尿細管7%,集合管2%ほどとされている.腎皮質から腎髄質に向かっては大きな浸透圧勾配がある.ヘンレループは下行脚と上行脚が向かい合っており,上行脚のNa+再吸収が間質を介して下行脚に影響を及ぼす.ヘンレループ下降脚では浸透圧勾配による尿濃縮が行われ,上行脚では浸透圧勾配とNa+能動輸送による尿希釈が行われ,さらに浸透圧勾配が維持される.そのために下降する集合管では浸透圧勾配によって尿濃縮が行われる.このような尿の濃縮・希釈の調整を対向流メカニズムと呼ぶ7–9).
腎小体の輸入細動脈の内皮細胞の一部は比較的大きな細胞で傍糸球体装置と呼ばれ,レニンを分泌する機能を有している.傍糸球体装置にはレニン分泌を刺激する交感神経系である腎神経が伸びてきている.また,糸球体濾過を腎臓内で調整する仕組みとして尿細管糸球体フィードバック機構が挙げられる.遠位尿細管は起源の腎小体の輸入細動脈と輸出細動脈の間を通り抜ける.この部位の遠位尿細管上皮細胞の一部は背の高い細胞群となっており緻密斑(macula densa)と呼ばれる(Fig. 1).この細胞は遠位尿細管内腔にある尿のNaCl濃度,特にCl−濃度上昇を敏感に感知し,輸入細動脈を収縮させてGFRを低下させる11).また,Cl−濃度上昇に反応して傍糸球体装置に作用してレニン分泌を抑制させる働きを有する.逆にNaCl濃度が低下すると輸入細動脈が拡張させて糸球体への流入血流量を増加させてGFRを高くする・レニン分泌を増加させるという制御を行っている7, 12).
レニンは傍糸球体装置でつくられる蛋白質分解酵素であり,肝臓で生成された血液中アンジオテンシノーゲンをアンジオテンシンIに変換する.さらに肺で産生されるアンジオテンシン変換酵素(angiotensin converting enzyme; ACE)が働くことでアンジオテンシンIIになる.アンジオテンシンIIは非常に強い血管収縮物質であり,全身の動脈を収縮させるとともに糸球体の輸出細動脈を収縮させる.さらに,副腎皮質を刺激してアルドステロンを分泌させる作用を有する.アルドステロンは集合管でNa+再吸収を促進させる働きがある.このような血圧や体液量,血清電解質の調節に関わる調節機構をレニン・アンジオテンシン・アルドステロン(RAA)系と呼ぶ(Fig. 2)7, 12).
傍糸球体装置からのレニン分泌を促進する要因としては様々な因子が挙げられる.①輸入細動脈に流入する血液量が減少すること,②遠位尿細管における尿中Cl−濃度の低下が緻密斑を介して傍糸球体装置を刺激すること,③血圧低下による腎神経を介した交感神経刺激などが主なものである.
心不全の薬物療法のほとんどには大規模臨床試験によるエビデンスが存在している.しかし,利尿薬に関しては十分な臨床試験からのエビデンスは存在しない.利尿薬は多くの心不全症例の管理に不可欠であり比較的容易に安全に使用可能であるが,非代償性心不全・利尿薬抵抗性の症例にどのように利尿薬を使用するのが有効かなど不明な問題も多く存在している.また,慢性心不全では利尿薬の使用量が多いほど予後が悪いことも報告されている.単に体重減少,浮腫,肺うっ血を改善させるという目的だけではなく,心不全の悪性サイクルを断つという視点からの使用が必要であろう13–15).
利尿薬にはループ利尿薬,サイアザイド系利尿薬,カリウム保持性利尿薬,ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬,バソプレシンV2受容体拮抗薬,SGLT2阻害薬などの種類があり,それぞれ腎臓での作用部位が異なる(Fig. 3)16, 17).以下に各利尿薬を簡潔にまとめた.
ループ利尿薬は血液中ではほとんどがアルブミンと結合しており,近位尿細管細胞で有機アニオントランスポーター(Organic Anion Transporter; OAT)を介して血液中から尿細管細胞内に取り込まれる.尿細管腔内へ分泌された後,ヘンレの太い上行脚に到達してNa+/K+/2Cl−共輸送体(NKCC2)を管腔側から阻害し,Na+の再吸収を抑制することで利尿作用を発揮する18).詳細な薬理作用については次章に記載する.
サイアザイド系利尿薬も近位尿細管細胞におけるOATを介して血液中から細胞内に取り込まれる.尿細管腔へ分泌された後,原尿とともに遠位尿細管まで到達してNa+/Cl−共輸送体(NCC)を管腔側から阻害し,Na+再吸収を抑制する.ループ利尿薬に抵抗性を示す患者の一部は遠位尿細管でのNa+再吸収亢進が原因であることが多いためサイアザイド系利尿薬併用が有効であることがある19).
カリウム保持性利尿薬は,遠位尿細管と皮質集合管に発現する上皮型Naチャネル(ENaC)を抑制する作用をもつ.トリアムテレンは直接ENaCを阻害し,スピロノラクトン,エプレレノンはミネラルコルチコイド受容体を阻害することによってENaCを阻害する.ENaC阻害によってNa+再吸収が抑制され利尿作用が得られる.遠位尿細管・集合管細胞内に取り込まれるNa+が減少すると二次的にNa+/K+ ATPase活性が抑制され,尿中に排泄されるK+量は減少してK+は体内に保持されることになる20–22).
トルバプタンは選択的バソプレシンV2受容体拮抗薬であり,Na+やK+の排泄に影響を与えることなく集合管での自由水排泄を促進する作用を有する.バソプレシンがV2受容体に結合するちと細胞内のアクアポリン2(aquaporin 2; AQP2)が管腔側膜に発現し,水が再吸収される.トルバプタンはこの経路を阻害することで水利尿を促進する.Na+は排泄されずに血清浸透圧が維持されるため血管内脱水を来しにくく,血圧や腎機能,血圧,心拍数への影響が少ないと報告されている23, 24).
ナトリウム・グルコース共輸送体2(Sodium-glucose cotransporter 2; SGLT2)阻害薬は近位尿細管に存在して尿糖の90%を再吸収するSGLT2を阻害することによって尿中にグルコース排出を促進する25, 26).当初は糖尿病薬として開発されたが,浸透圧利尿にも大きな注目が集まった.その後,糖尿病の有無にかかわらず,心不全の予後を改善させる心保護作用が認識されるようになった.エンパグリフロジン,ダパグリフロジンは心不全治療薬として承認を受けている.SGLT2阻害薬が心不全の予後を改善させる機序はまだ不明であるが,ナトリウム利尿,浸透圧利尿,体重減少,血圧低下に加えて心筋の代謝,線維化,炎症,血管機能に有益な作用を及ぼすことから複合的に予後改善に寄与していると考えられている.
ループ利尿薬は有機アニオンであり,血中では蛋白質と結合して存在する.そのためループ利尿薬は糸球体では濾過されず,近位尿細管にあるOATを介して尿細管細胞内に取り込まれ,尿細管腔側のトランスポーターmultidrug resistance-associated protein 4(Mrp-4)によって尿細管腔内に分泌される2, 27, 28).ループ利尿薬はヘンレループの太い上行脚の尿細管上皮の管腔側に存在するNKCC2に細胞外から結合して電解質の細胞内への輸送を阻害する(Fig. 4).ループ利尿薬は他の利尿薬に比し非常に強力で効果的であるが,これは以下の2つの理由による.①太い上行脚で再吸収されるNa+は糸球体で濾過されたNa+の20%程度と高く,NKCC2を阻害することで効率的にナトリウム利尿を得ることができる.②ヘンレループの太い上行脚は電解質の再吸収を行うが,水分は再吸収しない領域である.つまり,髄質の浸透圧勾配形成に重要な部分であるため,この部位でのNa+, Cl−の再吸収を抑制すると集合管において最終的な尿の濃縮が阻害されることによって水利尿の促進が得られることになる18).Table 1にループ利尿薬の種類と薬理学的特徴を示す.
ループ利尿薬は血液中では蛋白質と結合して存在し,近位尿細管にあるOAT1/OAT3によって尿細管細胞内に取り込まれ,尿細管腔側のMrp-4によって尿細管腔内に分泌される.ループ利尿薬はヘンレループ尿細管上皮の管腔側に存在するNKCC2に細胞外から結合して電解質の細胞内への輸送を阻害する.
フロセミド (ラシックス®) | アゾセミド (ダイアート®) | トラセミド (ルプラック®) | ブメタニド (ルネトロン®) | |
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成人量(mg/日) | 40~80 mg | 30~60 mg | 4~8 mg | 1~2 mg |
フロセミド40 mg内服に対する同力価 | 40 mg | 60 mg | 20 mg | 1 mg |
Bioavailability (%) | 10~100(平均50) | 20 | 68~100 | 80~100 |
静注から内服への変換比 | 1 : 2(静注の2倍) | 内服のみ | 1 : 1 | 1 : 1 |
最大投与量(内服) | 80 mg | 60 mg | 8 mg | 2 mg |
最高血中濃度到達時間(内服後) | 1時間 | 4時間 | 0.5~2時間 | 0.5~2時間 |
半減期 | 1.5~2時間 | 2.2時間 | 3~4時間 | 1時間 |
腎機能障害時 | 2.8時間 | 4~5時間 | 1.6時間 | |
代謝 | 50%腎代謝 | ほぼ肝代謝 | 80%肝代謝 | 50%肝代謝 |
効果持続時間 | 6~8時間 | 12時間 | 6~8時間 | 4~6時間 |
ループ利尿薬の血中濃度とNa+の排泄との間にはS字曲線を描く急峻な用量反応曲線とプラトーが認められる.利尿薬の血中濃度は閾値に達して初めて利尿効果を発揮し,その後は急激にNa+排泄が高まる29, 30).さらに血中濃度が上昇するとル一プ利尿薬は一定量以上投与してもその量の投与量以上にはNa+利尿を得られない.一般的に正常腎機能患者ではフロセミドを同量静脈内投与した場合と経口投与した場合を比較すると,静脈内投与の方が約2倍の効果を示す.心不全増悪時ではフロセミドの利尿を発揮する閾値が高くなり,Na+利尿効果が減弱するため経口投与より静脈内投与のほうが効果的である(Fig. 5)29).
A:正常対象例と重症心不全症例における血漿ループ利尿薬濃度とナトリウム利尿効果との関係を示す.重症心不全症例では効果が得られ始めるループ利尿薬の閾値を上昇させ,効果の上限であるナトリウム利尿の天井値が低下する.B:静脈注射または経口投与における血漿ループ利尿薬濃度と投与からの時間との関係を示す.ナトリウム利尿の閾値(破線)は重症心不全症例では正常対照例より高い.ナトリウム利尿はこの閾値以上の時間における関数(AUC; area under the curve)である.このため,正常対照例では経口投与と静脈注射では同程度の効果が認められるが,重症心不全症例では経口投与では効果が非常に小さく,静脈注射によってある程度の効果が得られることとなる場合が多い.C:ループ利尿薬の反復投与によるナトリウム利尿効果を6時間ブロックで示す.ループ利尿薬投与後のナトリウム利尿の後にナトリウム排泄停滞が生じ,利尿薬の効果においてもブレーキ現象が認められる.Figure modified from Ellison DH, et al. [ref. 29] with permission.
単回のループ利尿薬投与は尿中Na+排泄量を増加させるが,その後はpostdiuretic sodium retentionと呼ばれるNa+排泄量低下が起こる(Fig. 5)2, 29).つまりループ利尿薬投与直後のNa+利尿を帳消しとしてしまっている可能性もあるため,全治療期間におけるNa+排泄量・バランスを評価する視点が必要である.このような現象はループ利尿薬のNa+利尿に対する代償機転が働くことによると考えられる.つまり,細胞外液量が減少すると交感神経系とRAA系が亢進すること,遠位尿細管細胞の肥大とNCCの機能亢進,集合管のENaCが活性化することが関与する.さらに,ループ利尿薬はヘンレループの太い上行脚にあるNKCC2と同様に遠位尿細管の緻密斑に存在するNKCC2も阻害することによってレニン分泌を促進する作用を有する.これらの機序によるpostdiuretic sodium retentionに注意して臨床経過を観察する必要がある2, 29).
多量のループ利尿薬を使用しても利尿を得られない利尿薬抵抗性の重症心不全症例にしばしば遭遇する.さらに非代償性心不全・慢性心不全を対象とした臨床研究においてはループ利尿薬の使用量が多いほど予後が悪いことが報告されているが31–33),そのメカニズムとして利尿薬抵抗性が考えられている.利尿薬抵抗性とは同じ利尿効果を得るのに多量の利尿薬を要する状態であり,利尿薬濃度に対するNa+排泄分画の低下と定義される34).この背景には多彩な病態が存在し,個々の症例により対策を講じる必要がある.利尿薬抵抗性の機序としては(1)ループ利尿薬の作用不全による抵抗性と(2)ループ利尿薬による尿細管の病的変化による抵抗性の大きく2つに分類される(Fig. 6)35).
ループ利尿薬は腸管で吸収されて血中で蛋白質に結合して腎臓に運ばれる.その後,近位尿細管を介して尿細管管腔内に分泌され,蛋白非結合状態でヘンレループのNKCC2を抑制して効果を発揮する.この過程のいずれが障害されても効果が得られず,利尿薬抵抗性となる35, 36).
腸管からの吸収は心不全に伴う腸低還流・腸管浮腫の存在下では著しく障害される.ループ利尿薬の内服投与では十分に吸収されず利尿効果を発揮できない症例も多く経験する.心不全や低栄養による血清蛋白・アルブミン低下はループ利尿薬の運搬障害となり作用低下につながる.さらにアシドーシスや非ステロイド系抗炎症薬の使用はOATに影響して尿細管管腔に分泌されるループ利尿薬が減少して利尿薬抵抗性を招く.腎血流が低下すると近位尿細管周囲の毛細血管に到達できるループ利尿薬が低下する.また,糸球体濾過量が低下すると尿細管内の尿が減少してヘンレループに到達できるループ利尿薬が低下する.これらがループ利尿薬の作用障害による利尿薬抵抗性の代表的な例である.各機序を理解して適切に対応することでループ利尿薬の効果発揮につながると思われる.
心拍出量が低下し,腎血流が低下すると輸入細動脈にある傍糸球体細胞からレニン分泌が促進され,アンジオテンシンII依存性に近位尿細管でのNa+再吸収が亢進する.このため遠位尿細管に到達するCl−が低下し,それを感知した緻密斑がレニン産生を促進する.このようにRAA系が活性化されるとさらに活性化を促進するサイクルが形成される35, 37).また,アンジオテンシンIIは副腎皮質に作用しアルドステロン分泌を促し,集合管ENaCからのNa+再吸収を亢進させ,また直接脳に働いて抗利尿ホルモン分泌を促し,集合管での水吸収を亢進させる(Fig. 3).心拍出量が低下すればするほどこれらの経路によりRAA系が亢進され,体液貯留に傾き利尿薬抵抗性となる35).このような重症心不全における体液貯留改善のためにループ利尿薬を使用すると腎血流のさらなる低下・遠位尿細管に到達するCl−のさらなる低下が引き起こされ,RAA系がさらに亢進し,利尿薬抵抗性が増悪する.またループ利尿薬は緻密斑のNKCC2に直接作用して非体液性にRAA系の亢進を起こして利尿薬抵抗性を加速させる(Fig. 7).
ループ利尿薬によって尿細管およびレニン・アンジオテンシン・アルドステロン系の作用が影響(赤矢印の上下に作用するよう影響)され,利尿薬抵抗性を生じさせる.
以上のようにループ利尿薬は体液性にも非体液性にもRAA系を亢進させるため漫然としたループ利尿薬の使用自体が利尿薬抵抗性に結びつく38).さらに,ループ利尿薬を長期間使用した場合,代償機転により遠位尿細管のNCC機能亢進,集合管のENaCの活性化によってNa再吸収が亢進して利尿作用が減弱し,利尿薬抵抗性となる35, 39).
慢性心不全に対して漫然とループ利尿薬を使用することは利尿薬抵抗性を引き起こすことにつながるためその機序を理解して注意深く利尿薬の効果を評価することが重要であると考えられる.
腎臓の構造と機能を理解したうえで,利尿薬の種類・作用機序・副作用を考慮しながら心不全治療を行うことが大切である.利尿薬抵抗性の重症心不全に対しては漫然とループ利尿薬を使用するのではなく,病態を把握して適切に対応することが肝要である.乳児心不全治療における利尿薬については未だ不明なことが多いことも事実である.今後,利尿薬の適切な使用方法,利尿薬抵抗性の病態の解明および有効な治療方法の確立が望まれる.
日本小児循環器学会が定める指針に則り本総説に関して開示すべき利益相反はない.
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