2024年4月,医師に対する時間外労働の上限規制が適用され,医療界においても「働き方改革」が本格的に始動した.これまでの医療提供体制は,医師個人の献身的な労働に大きく依存してきたが,過重労働による疲弊や人材の流出など,さまざまな問題が顕在化している.小児循環器領域においても例外ではなく,専門性の高い医療を限られた人材で支えている現場では,持続可能な働き方の実現が喫緊の課題となっている.加えて,ダイバーシティの視点からも,性別・年齢・ライフステージを問わず,すべての医療従事者が能力を発揮できる環境づくりが求められている.こうした課題意識を共有するなかで,第60回日本小児循環器学会総会・学術集会では,働き方改革委員会企画によるセッション「ダイバーシティ時代の小児循環器医療のあり方を考えよう」が開催された.本セッションでは,働き方改革時代を見据え,持続可能で多様性を尊重した医療現場の実現に向けた先進的な取り組み事例として,4施設の実践を紹介した.本稿ではその内容を踏まえ,現場からの具体的な実践例と今後の課題について報告する.
なお,各章の執筆は以下の通りである.第I章では,永井礼子先生が小児循環器科における8つの視点から,多様な働き方と組織改革の在り方を提言している.
第II章では,瀧聞浄宏先生が人材育成に焦点を当て,心理的安全性とコーチングの導入による教育改革の実践を報告する.第III章では沼野藤人先生が地方国立大学病院における業務改善と地域連携の工夫を,データとともに具体的に紹介している.第IV章では津村早苗先生が心臓血管外科領域におけるタスクシェア・タスクシフトの運用体制と教育面への波及効果を総括している.医療の質と安全を守りながら,誰もが無理なく働き続けられる環境を構築するためには,多様な立場からの知見と工夫の積み重ねが欠かせない.本稿が,働き方改革のさらなる推進と,ダイバーシティに富んだ持続可能な医療の実現に向けた一助となれば幸いである.
全ての小児循環器医が確実に,かつ無理なく職務を遂行し,個々人の人生も充実させていくために,筆者が特に重要だと考えている8つの視点を挙げさせていただきたいと思う.
1. 完全チーム主治医制への移行
担当医制は患者さん達との信頼関係を構築しやすいというメリットはある.しかし,それは裏返せば,患者さん達が担当医以外の医師を信頼することが比較的難しくなるということでもある.また,重症患者さんが多いと,担当医の精神的負担が大きくなりやすい.学会や出張などでの担当医不在時の対応にも支障が出やすい.完全チーム主治医制はこれらの業務の負担も心理的負担も皆で分け合うことができる,非常に有効なシステムである.総入院患者数が多い場合には,チームを複数設けることで対応が可能である.オンコール当番制を組み合わせることで,当番以外の医師の時間外労働を抑えることもできる.デメリットとしては,「きっと誰かが診ているだろう」とお互いが甘えてしまって,皆で診ているようで誰も診ていない状況が生じうること,特に当番制の若手の負担が増えすぎる可能性があることが挙げられる.これらについては,上級医が特に留意して対策をたてる必要がある.参考までに,北海道大学小児科循環器グループでは5~7名の病棟担当医により,完全チーム主治医制で診療を行っている.平日は1日2回,土日休日は1日1回申し送りを行うことで皆の意見を可能な限りすり合わせることができ,また,前述したデメリットが予防できていると感じている.
2. 男女差を感じさせない環境
残念ながら過去の医療現場では,性差に基づくハラスメントが当たり前の時代があった.だいぶ改善されてはきたものの,現在でも撲滅されたとは言い難い.政治の世界では近年,クオータ制導入の是非が話題となっている.医療現場でそのまま取り入れるには問題点が多すぎるが,かといって,あまりにも組織内の男女の人数差が大きくなりすぎると,少数者側が特別扱いされやすくなり,それに関連した好ましくない発言や行動も増えて分断や派閥が生じやすくなることが懸念される.男女差を感じさせない環境を作るためには,組織内の男女比は最低でも7 : 3を目標に調整する必要があるのではないかと考えている.ちなみに,北海道大学小児科医師の男女比はほぼ7 : 3で推移している.
以前は職場でなんとなく許容されていたジェンダーに関する発言が(ほとんどは一部の方々の忍耐力を犠牲にして許容されていただけなのだが),現代では完全アウトとなりうる.それを本人が,まるで自覚できていないパターンも多いように思われ,これによって若者達が失望していく.解決策は,各自が意識して,脳を現代にあわせてアップデートしていく他にはない.自覚がある人もない人も,「アンコンシャス・バイアス」について学ぶ必要がある.「アンコンシャス・バイアス」という単語をご存じでない方には,いますぐ検索することをお勧めする.自分は大丈夫,と思っている人ほど危ない.東京大学「#言葉の逆風」1),日経×Woman編「早く絶版になってほしい#駄言辞典」2)も非常に参考になるので,気になる方はぜひご覧いただければと思う.
3. 関係各部署,近隣施設との良好な関係の構築
小児循環器科,小児心臓血管外科,麻酔科,小児外科,NICUなどの循環器以外の小児科部門等,関係各部署間の風通しがあまりよろしくない施設について見聞きした経験は,誰もが複数あるだろう.近隣の施設間の関係についても同様である.長年の医局間の歴史が絡んでいる場合もあり,短期間での解決が難しいケースもしばしばであるが,何よりも患者さんを中心にして考えることで,その都度よりよい連携を目指して行動していきたいところである.関係者の人事異動も契機となりうるだろう.月に1~2回,大学から基幹施設に小児循環器専門医を送って出張専門外来を行うことで,スムーズな連携が可能となったパターンもある.各地域の特性も踏まえて対応していきたい.
4. PICUとの連携
小児心臓血管外科医がメインとなって,小児の心疾患術後管理や重症心不全管理を担っている施設はいま現在も少なくないと思われる.これが,小児心臓血管外科医の過重労働の原因となり,手術件数の方を減らさざるを得ない場合もある.PICU専属医を確保することで,それぞれの役割分担が明確になり,安全な患者管理にもつながると考えられる.2025年7月現在,北海道大学病院にはPICUは設置されていないが,ICUで小児科PICU班の医師3名が勤務しており,その八面六臂の活躍は,小児心臓血管外科医だけではなく小児循環器科医の負担軽減にもつながっている.今後のPICU設置に向けて,人員も教育体制もさらに増強,発展していくことを期待している.
5. 心臓カテーテル検査を含め,不要な処置や検査等を削減する努力
うちの施設では年間●件の心臓カテーテル検査を行っている!と誇る時代はもう終わっている.その診断カテーテルは本当に必要なのか? 心エコーやMRI等,ほかの検査では本当に代用できないのか? 一部の心房中隔欠損症や心室中隔欠損症では,心エコーと心臓MRIで手術適応となる肺体血流比を十分に見いだせるのではないか? 合併症のないファロー四徴症の心内修復術前の評価は,心エコー,心臓MRI,胸部造影CTで十分ではないか? 症例ごとによくよく検討する必要がある.それは,患者さんへの侵襲的検査を削減するだけではなく,病棟スタッフの「働き方改革」にもつながる.
6. メディカルクラークや医療ソーシャルワーカー(MSW)による支援
入院・退院サマリー,各種医療費助成申請,診断書,入院日程変更,手術延期,通学先との調整などの業務を,全て医師が担っていた時代があった.現在も施設によっては,特に若手医師の時間外労働を増やす一因となっているであろう.これらの業務が学会発表や症例報告論文作成の一助となることや,医療費助成制度を勉強する契機となることもあると思われるが,全てを医師が背負うのは「働き方改革」の時代には難しい.メディカルクラークやMSWによる支援をどんどん活用していきたいところである.
7. 小児循環器医・小児心臓血管外科医のみならず,医局員全体を増やす方策
言うまでもないことだが,新人が入ってこない組織は弱体化するほかない.しかし,小児循環器医や小児心臓血管外科医だけに特化して,入局者を増やそうとしてもなかなか難しい.小児科,心臓血管外科を選択する入局者を増やす努力を,科内全体で行っていく必要がある.可能であれば,医学生や初期研修医,専攻医をこまめにフォローできるスタッフを科内に1名以上配置することが望ましい.また,昨今は,部署単独のホームページやSNSの活用効果は侮れない.SNSにかまけて,臨床や研究が疎かになるようでは本末転倒であるが,ホームページやSNSを更新していく程度の余裕が十分ある組織なのだというアピールは重要である.特に,他都道府県からの入局者はほぼ100%,SNSをチェックしていると思って対応する必要がある.
8. 上級医の意識改革
太平洋戦争での日本軍の敗因と教訓を分析した名著『失敗の本質—日本軍の組織論的研究—』3)では,組織が継続的に環境に適応していくための条件として,「不均衡の創造」,「自律性の確保」,「創造的破壊による突出」,「異端・偶然との共存」,「知識の淘汰と蓄積」,「統合的価値の共有」の6つを挙げている.どれも重要な項目であるが,特に「異端・偶然との共存」,「統合的価値の共有」の2点は必須である.異質なヒト・情報,末端からの問題提起,偶然の発見を取り込み,独善性・閉鎖性を打ち破ること.組織がいかなる方向へ進むべきかというビジョンを,リーダーがメンバー全員に示し,理解させること.このような意識をどれだけ持つことができているだろうか? 上級医一人一人が,自分自身に問いかける必要がある.徹夜で働くことでなんとかなっていた若かりし頃を懐かしんでも,組織は発展しない.さまざまな働き方を応援できない組織は,緊急時にも脆弱であり,そして気づかぬうちに衰退していく.「予防」はなにかと軽んじられやすいが,平時のうちに対策を始めたいところである.
II. 小児循環器科が働き方改革を乗り切るには?—人材育成方法のシフトチェンジこそ人材発掘の切り札—
働き方改革の波は医療現場にも押し寄せ,小児循環器領域も例外ではない.従来,小児循環器科の医師育成は「伝統的徒弟制」,すなわち「背中を見て学べ」「技は目で盗め」といった方法に依存してきた.しかし,これらはパワハラ,アカハラ,モラハラなどの温床となりやすく,現代の複雑な医療環境においては非効率かつ不適切であることは明白である.また,働き方改革を進めるにあたり,単に超過勤務の抑制や業務の効率化を図るだけでは,高度な医療の質や安全性を維持することは困難である.
こうした課題に対応するためには,人材育成方法自体のシフトチェンジが必要であり,それを実行に移すには,現場の価値観を変革し,組織を方向づける強いリーダーシップが不可欠である.単なる指示命令ではなく,理念を共有し,ビジョンを示し続けるリーダーの存在が,持続的な改革を推進する鍵となる.当院でもこの課題に対し,「心理的安全性」と「コーチング」を人材育成の中核に据え,循環器小児科部長,心臓血管外科部長 共同で取り組みを行っている(Fig. 1).
1. 心理的安全性とは何か—フェアレスな組織を目指して—
心理的安全性(psychological safety)とは,チームの中で自分の意見や疑問,不安,失敗を率直に表明できる状態を指す.これは1999年,ハーバード・ビジネススクールのエイミー・エドモンドソン教授が提唱し4),2016年にはGoogleがプロジェクト・アリストテレスにおいて,生産性の高いチームの共通因子として科学的に実証された.
当院ではこの概念を単なる「仲が良い雰囲気」と混同せず,「対等で率直かつ誠実な意見交換ができ,誰もがリスクを恐れずに発言できる組織文化」として定義している.すなわち,「フェアレス(fearless)な組織」の実現こそが,現代医療における組織的成功の鍵であると考えている.
小児循環器の現場では,医師,看護師,技師,ほかのコメディカルスタッフなど多様な職種が緊密に連携する必要がある.心理的安全性が確保されていない職場では,若手スタッフが上司に意見を言いづらく,問題提起や報告が遅れ,結果として医療安全に深刻な影響を及ぼすことがある.逆に,心理的安全性の高いチームでは,すべてのメンバーが自らの視点から発言し,互いの考えを尊重する文化が根づき,学習と改善が日常化する.このような環境を支えるのがアサーティブ・コミュニケーションである.これは「自分も相手も大切にする表現技術」であり,対等性・率直さ・責任感・誠実さの4つの要素に基づいている5).当院では,これらのスキルをチーム全体に普及させるため,定期的な研修を実施し,全職種で共通の対話スタイルを育成している.VUCA(Volatility=不安定,Uncertainty=不確実,Complexity=複雑,Ambiguity=曖昧)な現代社会において,職場における心理的安全性は単なる理想ではなく,変化と複雑さに立ち向かうための「戦略的な組織能力」である.安心して意見が言える職場があってこそ,高い目的意識と専門性をもつチームが真価を発揮できるのである6, 7).
2. コーチングとは何か—人を動かす“問いかけ”の力—
コーチングとは,クライアント(部下)が自らのゴールを設定し,それに向かって主体的に取り組めるよう,コーチ(上司)が支援する教育手法である.ティーチングが知識や技術を一方的に伝えるのに対し,コーチングは傾聴・質問・フィードバック・承認といった対話を通じて,本人の内面にある答えを引き出す点に大きな特徴がある.
当科では2021年度より,フェローに対する教育にこのコーチング手法を本格導入している.定期的なOne on One(1対1面談)を実施し,日常診療の振り返りに加え,「自分はどのような医師になりたいか」「今何を課題と感じているか」など,本人が主体的に考える機会を重視している.これは指導医が一方的に助言するものではなく,フェロー自身が考え抜き,行動に移せるよう寄り添いながら支援するプロセスである.コーチングでは,まずクライアントが自ら「ゴール(目標)」を設定し,次に「そこまでの道筋(プラン)」をコーチとともに考える.その途中で「フィードバック」を適宜行い,達成への進捗を確認し,「承認」によって自信を高めることで,継続的な挑戦が可能となる.これにより,単なる作業指示では得られない主体性と成長実感が生まれる.このような関係性は,上下の指示命令系統ではなく,対話と信頼に基づいた「伴走型の育成モデル」として機能している.実際,フェローからも「自分の意見や悩みを安心して共有できる」「目標に対する意識が明確になった」との声が多く,教育効果の実感が高まっている8, 9).
当院の2本柱の取り組みでもある,組織のあり方としての心理的安全性の確保と,教育手法としてのコーチングの導入は,職場環境が改善され,信頼関係が強化され,チーム全体のモチベーションや目的意識が向上に繋がる.こうしたチームでは,高いゴール設定が可能となり,優れた学習能力を持つ組織へと成長すると考えられる.そしてコーチングを通じた経験により医師個人も自己達成感が高まり,長期的な成長が期待できる.さらに,長野県立こども病院循環器小児科では,信州大学との連携大学院制度を活用し,臨床研究を推進して若手医師の国内外での学術発表も促進している.U40の医師たちが,米国心エコー図学会,欧州心臓病学会,米国心臓病学会,日本小児循環器学会などの有数の学会へ積極的に発表している.
このように,2021年度から心理的安全性とコーチングによる指導を開始した結果,フェローの応募が増加し,安定した人員確保が実現された.2021年にたった一人になったフェローは,2024年には5人へと増加した.よってこの人員確保が,スタッフ,フェローともに実質的なA水準クリアを達成させた.また,当科では,いままで考えられなかった男性の育休取得も実現している.また,連携大学院生の当科第1号のスタッフは,フィラデルフィア小児病院へPOST DOCTORとして2年間留学(当院のスタッフのまま)し,加えて,若手スタッフはすべて連携大学院生となり,2028年にはスタッフ7人全員が博士号をもつ予定である(Fig. 2).もちろん,一度減少した人員を取り戻すには,相応の努力が必要であった.循環器科部長が専攻医教育にも参画,小児科専攻医がすべての科をローテートする,スーパーローテート研修を取り入れ,専攻医が雰囲気のよくなった当科を研修して彼らがフェローを希望したり,また,見学者による口コミの評判が向上することで,フェロー,スタッフの応募が増えた.さらにスタッフ増員やこども病院からの海外留学に関しては,働き方改革への対応と若手育成に不可欠であることを病院管理部との交渉で理解をえることができた.
3. まとめ
小児循環器科が働き方改革を乗り切るためには,従来の徒弟制から脱却し,心理的安全性とコーチングを基盤とした人材育成方法への転換が重要である.よい教育環境,安心して挑戦できる人間関係,自分の意志を尊重される文化がそろってこそ,個の力は最大化され,組織の生産性や創造性も飛躍的に向上する.そして,これらは偶然に形成されるものではなく,リーダーの明確な方針と実行力によって実現されるのである.我々,小児循環医の上級医は(だれでもいずれ上級医となる),体系的な理論と情熱をもって,次世代を育成することこそが,小児循環器診療の最大の遺産(Raise the next generation is greatest heritage)であることを常に肝に銘じねばなるまい10).
III. 実践!働き方改革~地方国立大学の小児循環器医が取った方策をご紹介—地方国立大学における小児循環器医の働き方改革—
1. 新潟県の小児循環器診療
新潟県内においては2024年4月現在で小児心臓手術は新潟大学医歯学総合病院に集約されており,新潟大学小児循環器チームは小児循環器医5名,小児心臓血管外科3名+レジデント1名で診療を行っている.集中治療室はセミクローズドICU12床でそのうち小児ベッドは4床,高度救命救急センター内に小児科スタッフが4名所属しており,術後ICU管理はこの13名でオンコール制を取っている.新潟県は最大長300 kmで都道府県面積では第5位の広い面積と離島を持つ県であり,集約化されたことで手術成績の向上,継続的医療,チーム医療の推進,教育や医療資源の効率化といった,プラスの影響がみられた反面,NICU・ICUベッドの逼迫,手術枠不足,患者と家族の移動負担増や,医療者の業務負担増といったマイナスの影響も表出した.
これらマイナスの影響のなかで行った,働き方改革に関わる医療者の業務負担に対する取り組みの実際を紹介したい.
2. 新潟大学小児科と働き方改革
2024年4月より医師に対しても時間外・休日労働の上限規制が始まり(医師の働き方改革),時間外労働時間を減らすべく見直してきた労働契約や労働内容が開始された.小児循環器を診療する部門は一般病院,大学病院,専門病院(こども病院),診療所があり,それぞれが診療内容に特徴を有していることから,勤務形態はそれぞれの施設によって異なることが想定される.
我々新潟大学小児循環器チームは地方国立大学病院小児科の一部門として小児循環器診療を行っている.新潟大学小児科では循環器グループのほか4つの診療グループがそれぞれの診療内容を勘案して勤務形態を採用した.循環器グループ5名は特例水準であるC-2水準を選択し,その他では5名が裁量労働制を,15名がA水準を選択し(ICU,NICUは除く),その中で各自が働き方改革への対応を考えている.
3. 時間外労働時間を減らすには
小児科循環器グループはC-2水準を選択したが,特例水準を選択した場合,時間外労働時間の削減計画を提出する必要がある.その削減として現在の業務量を把握すること(III-4-1,III-4-2),効率のよい労働時間の使い方を考えること(III-5-1,III-5-2),この2点を中心に労働時間の見直しを行った.
4. 現在の業務量を把握して対応を考える
1)多施設での診療連携
小児心臓手術が新潟大学病院に集約化されたことにより,患者数の増加が時間的・空間的な業務量の増加につながった.その内容は出生後のNICU入院,術後のICU入院,小児病棟入院と多方面にわたり,特にNICU・ICUベッドの逼迫は重要な問題であった.これらの業務量を見直すために,県内地域基幹病院(NICUあり,小児循環器医の常勤あり)との連携を強化して術前のNICU待機や,術後や待機中の外来診療を地域基幹病院へ移す“ワークシェア”を目指した.そのためにコロナ禍より開始されたWebミーティングを活用し,小児循環器カンファレンスをオープンとして地域基幹病院医師にも参加してもらうことで連携の強化を図るようにした.
地域診療へのシフトによって患者の移動負担増に対しては,2021年に導入された県内2機目のドクターヘリが有効であった.2機のドクターヘリが補完しながら搬送を行うことや,地域への下り搬送として利用することで,移動負担を軽減させている.
2)外勤(出張,いわゆるバイト)について
2022年度,働き方改革の開始前に小児循環器学会働き方改革委員会が行ったアンケートで基本給と契約労働時間から算出された平均時給を調査した.その結果,大学病院で勤務する医師の平均時給は,一般病院に勤務する医師の半分程度ということが明らかとなり,大学病院医師の外勤は地域医療機関への人的支援を担うだけでなく,収入の補助としても必要であることが厳然たる事実となった.しかしながら,働き方改革では自院以外での労働,つまり外勤での労働時間はすべて時間外労働時間に計上されるため,大学病院医師は外勤そのものを調整するか,外勤の調整以外で時間外労働時間を調整する必要がある.
そこで小児科循環器グループの外勤内容を見直し,「小児科一般外来」(循環器診療以外が主体)を「小児循環器専門外来」へとシフトすることを基本とした.この変更には,小児科内での調整,医師の移動負担の増加,というデメリットが生じたが,大学病院の外来業務を地域連携病院へシェアすることで,患者の移動負担を軽減させつつ医師の収入確保と時間外労働時間を削減する,というメリットを得られたことは大きかった.
5. 効率のよい労働時間の使い方を考える
1)心臓カテーテルのスケジュールを見直す
小児循環器診療で重要な位置を占め,時間と人員を必要とするのは心臓カテーテル検査および治療(心カテ)である.働き方改革の目前に労働時間の見直しを行ったところ,就業時間内に業務が終わらない,特に心カテが終わらないことが時間外労働時間の増える要因として挙げられた.そこで,心血管造影室を利用する循環器内科や放射線部スタッフと1週間の心カテスケジュールを見直し,各部門が心カテの内容と開始時刻を調整して部門間のスケジュールが干渉しないようにすることで,効率よく心カテ室を使用することができるようになり,終了時刻を早めることができた.具体的には,金曜日は「午前:循環器内科,午後:小児科」というスケジュール枠(以下「枠」)となっていたが,午前の循環器内科心カテの終了が遅れることで午後の小児科心カテの開始が遅れることとなり,その結果,終業時刻も遅れることが判明した.そこで,小児科が有していた「水曜日午後(小児科)」という枠と循環器内科が有していた「金曜日午前(循環器内科)」という枠を交換して,金曜日を「午前,午後とも小児科」という枠にすることで,小児科が金曜日の終業時刻をコントロールすることが可能になった.実際に2021年度の心カテ終了時刻の平均は17時56分(就業時間は17時15分まで)であったが,2022年度は17時37分,2023年度は15時57分にまで短縮することができた.このことにより,週に約100分の就業時間の短縮がなされ,年に換算すると約75時間の労働時間を短縮できたこととなる.
2)自己勤務シフトを考える
これまで裁量労働制であった我々がC-2水準を選択したことにより,個人の自己勤務シフトを設定することとなった.これにより契約労働時間(7時間45分/日×5日=38時間45分/週)を日によって細かく配分することとした.働き方改革開始前には曜日一律で8:30~17:15に固定された勤務時間であったが(Fig. 3-1)),「時間内」とみなされるのは自院での勤務時間のみであり,外勤はすべて時間外労働時間と計上されるうえに自院の実質的な勤務時間を減らすこととなり,帰院後に残務を行うことも時間外労働となってしまうことから,勤務時間計算における二重の「ムダ」となっていた.そこで自己勤務シフトを設定し,実情に合わせて外勤時間と自院の勤務時間を重ならない形に自己シフトを細かく分割調整することで(Fig. 3-2)),この「ムダ」を少なくして時間外労働時間を減らすことができた.
3)集中治療室(ICU)スタッフを増員してワークシェアをする
当院ICUはセミクローズド型のICUとなっており,小児先天性心疾患術後患者は主に心臓血管外科医と小児科循環器医がオンコール制をとって術後管理を行ってきた.その管理にICUドクターからサポートも受けていたが,2019年度よりICU内の小児科スタッフ(小児集中治療室(PICU)ドクター)をICUスタッフとして配置した.このことによりPICUドクターが勤務する時間帯には先天性心疾患患者の診療と処置をシェアすることが可能となり,我々の業務量は減ることとなった.さらに,2022年度にはPICUドクターを2名に,2023年度からは4名に増員することで,ICUにおけるワークシェアが進み,さらに我々の業務量が減ることとなった.
4)最後に—今後も働き方改革への対応は続く—
2024年4月から医師の働き方改革が始まったが,2024年7月までの3か月間で2名に一度ずつ面接指導が実施された.当院では月の時間外労働時間が80時間を超えた時点で面接指導の対象としているため,C-2水準の規定(最大155時間/月)を超えた水準違反ではなく,概ね水準以内に収まるように働いており,前年度より時間外労働時間は減少して働き方改革への意識が浸透してきたように感じている.
広い医療圏で高度先進医療を達成するためには集約化は必須であることから,10年以上に渡って新潟県ではこども病院・センター構想が進行中であり,新潟県内では小児循環器診療のみならず小児診療全体で集約化が始まっている.今回挙げた当院ICUへのPICUドクターの配置もその集約化の一環としての施策であり,働き方改革への対応と同様に数年かけて行ってきたことから,時間がかかるものであるとも感じている.それ故,さらなる時間外労働時間の削減のためには今後も労働環境の把握と業務内容・システムなどの見直しは継続していく必要はある.
IV. 働き方改革「張り付かない」心臓外科医—当院のタスクシェア・タスクシフトの実際—
2024年4月,「医師の働き方改革」11)が施行され,時間外労働の上限規制が医師に適用された.これにより,特に長時間勤務が常態化していた心臓血管外科領域では,従来の勤務体制の見直しが必至となった.
当院ではこれに先立ち,周術期管理体制の再構築を段階的に進めており,働き方改革にも十分に対応できる体制を整えてきた.本稿では,当院におけるタスクシェア・タスクシフトの取り組みとその成果,さらに残された課題について,実際の運用状況やデータを交えて報告する.
1. 働き方改革と心臓外科医の現状
心臓血管外科医は,手術に加え,術後管理,病棟業務,外来対応など多岐にわたる業務を担っている.従来は術後もICUに「張り付いて」患者を診ることが当然とされてきたが,このような勤務形態は,長時間労働を常態化させ,医師の健康や若手医師の教育環境に悪影響を及ぼしている.
2022年に日本胸部外科学会など4学会が提出した「『医師の働き方改革』に対する胸部外科関連4学会からの要望書」12)によれば,心臓外科医の約80%がICU管理に関与しており,その勤務実態は極めて過重であるとされている.
また,病院に泊まり込んで行うICU管理は,通常「宿日直許可あり」とは認められず,法的には労働時間とみなされる.その結果,勤務間インターバル制度により,18時間以上の連続休息が努力義務として課されるため,翌日の手術業務に支障が生じる.特にマンパワーに制限のある施設では,業務継続に深刻な影響を及ぼす可能性がある.
このような背景から,タスクシェア・タスクシフトの導入と定着は,働き方改革を実効性のあるものとするために極めて重要である.
2. 当院の周術期管理体制の変遷とPICUの充実
当院でもかつては,術後管理を心臓血管外科医が一手に担っていたが,2008年からは麻酔集中治療科の協力の下,日勤帯での術後管理を麻酔集中治療科の医師が担当するようになった.ICUカンファレンスを朝夕の2回実施し,情報共有を密に行う体制が確立された.
2010年にはPICU専属医3名が配属され,小児科ローテーターとともに平日日勤帯および一部の夜間当直を担当するようになった.PICU医が配属されて以降も,心臓血管外科医は,月・火・木の手術日には主治医および執刀医(上級医)が院内に泊まり,PICU医と共同で術後管理にあたっていた.特に火・木は循環器科当直(主に病棟業務と通院患者の時間外受診等に対応)を心臓血管外科医が担っており,主治医はその役割も兼務していた.
その後,PICU医を段階的に増員し,2012年からはPICU医が24時間365日常駐する体制が整備され,2013年には集中治療科が麻酔科から独立,2014年には新棟開設に伴いPICUが10床に増床された.2018年にはPICUは18床(ICU 10床+高度治療室8床)となり,2025年4月現在,PICU専属医14名が所属し,夜間当直はPICU医2人体制となっている.増員においては,人員の確保が不可欠であるが,当院では小児科レジデント時代にPICUを経験した医師が専属医を志すケースがあり,内部育成を継続してきた.さらに,PICUの体制強化と症例集積により施設としての認知度が高まり,他施設から当院での勤務や研修を希望する医師も増え,これらの人材を受け入れることで,人的基盤を拡充してきた.
この専属体制の充実により,術後管理の主導権は心臓血管外科医からPICU医へと移行し,心臓血管外科医が「張り付かない」体制が整った.当初はそれでもなお「手術当日は主治医・執刀医が泊まる」文化が根強く残っていたが,PICU医との信頼関係の構築が進むなかで,徐々に手術当日も帰宅する体制へと変化し,さらには「医師の働き方改革」告示により,現在では火・木の循環器科当直(宿日直許可あり)担当医を除き,全員が帰宅する体制が確立されている.
3. 実際の勤務体制と時間外労働
上述の体制変更により,心臓血管外科医の働き方も大きく変化し,手術当日であっても,火・木の循環器科当直担当医以外は帰宅できる体制が確立された.さらに,休日は完全当番制を導入し,確実な情報共有を行ったうえで当番医1名のみが出勤し,病棟業務を担当している.これらの勤務体制の確立により,時間外勤務は大幅に削減された.
2024年に当科で施行された手術は,開心術127件を含む280件であったが,これに対し,外科医1人あたりの時間外労働時間は平均533時間/年に抑えられた.これは,時間外・休日労働の上限である年間960時間以内(A水準)を十分に満たす水準であり11),持続可能な勤務体制が実現されている.
4. 当院におけるほかのタスクシェア・タスクシフトの取り組み
1)医師事務作業補助者(メディカルクラーク)
当院では,医師事務作業補助者(メディカルクラーク)の導入と拡充により,医師の事務負担軽減が大きく進んでいる.2008年9月に4名体制で導入された本制度は,2025年4月現在で42名体制にまで拡充され,診療情報の代行入力,書類作成の下書き,検査・手術の代行オーダーなどを担っている.これにより,医師の事務作業負担が軽減され,診療・手術に専念できる環境が整っている.
2)特定行為に係る看護師
当院には数名の特定行為に係る看護師が在籍し,現在は「胃ろうまたは腸ろうカテーテルあるいは胃ろうボタンの交換」「気管カニューレの交換」「褥瘡や慢性創傷の治療における壊死組織の除去」を実施している.小児専門病院という特性上,成人施設と比較すると実施可能なタスクシフトには限りがあるものの,今後は「橈骨動脈ラインの確保」や「侵襲的陽圧換気の設定変更」といった行為を実施できる看護師の育成も視野に入れ,看護部と連携し体制強化を図っている.
5. 若手医師の教育面での課題と対策
時間外労働の削減は,医師の健康維持に寄与する一方で,若手心臓血管外科医の教育,とりわけ術後管理の経験機会減少という課題を生じさせている.かつての,厳しい上司の監督下で行われるベッドサイドでの「張り付き」術後管理は,身体的・精神的に大きな負担である一方で,外科医として不可欠な知識や経験を獲得する貴重な機会でもあった.特に心臓手術後の急性期の変化とその対応は,手術技術と同等に重要であり,「ただ手術ができればよい」という認識では不十分である.
また,ベッドサイドでの「張り付き」は,上司と部下のコミュニケーションの場としても機能しており,非公式な会話や雑談を通じた教育効果も無視できない.これらの教育的側面を担保するため,当院では以下の対策を導入している:
ICUローテーションの導入:集中治療科所属としてPICU業務に一定期間専念し,術後管理の基本を体系的に学ぶ機会を設ける.心臓手術の周術期管理のみならず,小児集中治療全般を学ぶ機会としている.
1 on 1ミーティングの導入:一般企業のマネジメント手法を参考としたものであるが,上司と部下が定期的に(月1回以上を目安),自由に意見交換できる時間を設け,長期目標や短期目標の設定を行ったり,若手医師が感じている「不安・不満・不便」を共有したりする場としている.
6. タスクシフト・シェアの前提と注意点
働き方改革において,タスクシェア・タスクシフトの推進が必須であるが,円滑に進めるには以下のような前提と注意点を常に意識する必要がある.
ICUに術後管理を「丸投げ」するのではなく,外科医自身が合併症リスクを適切に予測し,ICUスタッフと連携して術後経過を主体的に見守る姿勢が重要である.
「心理的安全性」が保たれたチーム医療を構築することが重要であり,互いに率直に意見を交換できる関係性の醸成が不可欠である.
術後経過は最終的には「手術次第」であり,遺残病変や不完全な修復が原因でPICUでの管理が複雑化するケースもある.外科医は,確実な手術を前提としたうえで,起こりうる経過を正確に伝え,ICUスタッフと対等な関係で協働することが求められる.
7. まとめ
医師の働き方改革は,心臓外科医にとって「集中すべき業務への専念」と「心身の健康維持」を両立させる契機であり,最終的には質の高い医療の提供につながるものである.当院では,PICU体制の充実を基盤にタスクシェア・タスクシフトを積極的に推進してきたが,これを持続可能にするには,人材育成,教育,組織文化の変革が不可欠である.
今後は,全国的な研修制度の整備や病院間の役割分担(地域拠点化)を通じて,小児循環器医療全体の質と持続性をさらに高めていくことが期待される.
利益相反
本論文の内容に関連し,著者らが開示すべき利益相反関係はない.
著者の役割
武田および岩本は本総説の着想に関与した.武田は序章の執筆を担当した.永井,瀧聞,沼野および津村は各章の執筆を担当した.倉岡,本宮および栗嶋は原稿の校正に関与した.
引用文献References
1) 東京大学:「#言葉の逆風」https://wechange.adm.u-tokyo.ac.jp/ja/wp/wp-content/uploads/2024/05/leaflet_JP_website.pdf
2) 日経×woman編:早く絶版になってほしい #駄言辞典.日経BP,2021
3) 戸部良一,寺本義也,鎌田伸一,ほか:失敗の本質—日本軍の組織論的研究—.ダイヤモンド社,1984
4) Edmondson A: Psychological safety and learning behavior in work teams. Adm Sci Q 1999; 44: 350–383
5) 堀田美保:アサーティブネスで心理的安全性を形成する.RMS Message,リクルートマネジメントソリューションズ2017; 48
6) エイミー・C・エドモントン:恐れのない組織—心理的安全性が学習・イノベーション・成長をもたらす—.英治出版,2021
7) ピョートル・F・グジバチ:心理的安全性—最強の教科書—.東洋経済新聞,2023
8) ジャニー・ロジャース:決定版 コーチング 良いコーチになるための実践テキスト.日本能力協会マネジメントセンター,2022
9) 奥田弘美:メディカルサポートコーチング入門.日本医療情報センター,2003
10) 瀧聞浄宏:人を遺すということ.日小児循環器会誌2022; 38: 145–146
11) 厚生労働省:医師の働き方改革手続きガイド.https://www.mhlw.go.jp/content/001115352.pdf
12) 日本胸部外科学会・日本心臓血管外科学会・日本呼吸器外科学会・日本食道学会:「医師の働き方改革」に対する胸部外科関連4学会からの要望書.https://dx-mice.jp/jpats_cms/files/info/1203/HP_Final.pdf