日本小児循環器学会雑誌 Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery

新型コロナウイルス感染症（coronavirus disease 2019: COVID-19）の流行当初より，先天性心疾患の診療に携わる医療者にとって，COVID-19に罹患した先天性心疾患患者がどのような臨床像を呈するのか，また重症化しやすいのかは常に懸念されてきた．国内外からの報告が蓄積し，診療経験が増えるにつれて，Multisystem inflammatory syndrome in children（MIS-C）など注意を要する病態はあるものの，成人と比較すると小児における重症化リスクは高くないことが徐々に明らかとなった^1）．ただし，先天性心疾患患者は健常小児と比べて重症化リスクが高いことが報告されている^2）．多くの症例は軽症から中等症にとどまり，死亡率は低いが，集中治療を要する場合がある．

今回，土田らは機能的単心室患者を対象としたCOVID-19の診療経験を報告している^3）．著者らの東京都立小児総合医療センターは，パンデミック早期から東京都における中心的施設として機能し，多数のCOVID-19患者を受け入れてきた．先天性心疾患患者におけるCOVID-19に関する報告は海外からは散見されるものの，本邦からの報告はこれまで皆無であった．COVID-19を契機として生じる多彩な臨床症状が記載された本報告は非常に貴重であり，診療の一助となるであろう．海外からの既報と同様に，臨床症状は多岐にわたり，酸素化障害，血栓症，不整脈などに留意すべき点がまとめられている．特に，Fontan術後患者に鋳型気管支炎を合併した症例の詳細や，喀痰の病理所見が記載されており，注目すべき内容である．この病態に対する陽圧呼吸開始のタイミングは議論の多いテーマであるが，胸部X線検査での無気肺形成に常に注意を払い，乳び胸の既往を有するFontan循環患者においては，鋳型気管支炎の合併の可能性に特に注意する必要がある．

COVID-19はインフルエンザウイルスと同様に，定期的な流行が予測される．単心室などの心形態，肺高血圧，染色体異常といった因子がCOVID-19罹患時の重症化を規定するかについては報告により差異があり^{1, 2, 4）}，個々の患者における重症度は多岐にわたる．本研究で示された臨床像の多彩さは，併存する病態の多様性が関与していることを示唆している．それゆえ，先天性心疾患患者がCOVID-19に罹患した際には，感染に伴う特有の全身状態の変化を十分に理解し，患者特有の血行動態に留意しつつ，全身管理を行う診療体制が求められる．