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特定非営利活動法人日本小児循環器学会 Japanese Society of Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery
Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery 41(3): 140-144 (2025)
doi:10.9794/jspccs.41.140

症例報告Case Report

腹腔内へのペースメーカmigration診断から6か月後に待機的抜去術を行った1歳女児例A Pediatric Case of Elective Removal Surgery at 6 Months after the Diagnosis of Pacemaker Migration into the Abdominal Cavity

1東京大学医学部附属病院 小児科Department of Pediatrics, University of Tokyo Hospital ◇ Tokyo, Japan

2東京大学医学部附属病院 心臓外科Department of Cardiac Surgery, University of Tokyo Hospital ◇ Tokyo, Japan

受付日:2025年1月22日Received: January 22, 2025
受理日:2025年7月9日Accepted: July 9, 2025
発行日:2025年8月1日Published: August 1, 2025
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心外膜リードを用いた小児のペースメーカ植込み術ではgenerator本体は上腹部に植込まれることが多い.術後の腹腔内へのgenerator migrationは重篤な病態に発展しうる重要な合併症である.皮膚の潰瘍形成・generator露出リスク低減の観点から,generatorは上腹部の腹直筋筋層上(皮膚直下)ではなく筋層下に植込まれることがあるが,筋層下に植込んだ場合には腹膜を隔てた腹腔内へmigrationしやすくなる.今回,上腹部・腹直筋筋層下に留置したgeneratorが腹腔内へmigrationし,6か月間の経過観察後に抜去術を行った1歳女児例を経験したので報告する.抜去術時にはリードが大網と絡み合って強く癒着している術中所見を認めた.この癒着は腸管を巻き込み,腸閉塞や腸管穿孔といった重大な合併症をその後に引き起こす危険性があり,migration状態での待機期間が長期間にわたるリスクを示唆する重要な所見と考えた.

In most pediatric cases of epicardial pacemaker implantation, generators are generally placed in the upper abdomen. Postoperative generator migration into the abdominal cavity is a serious complication that could lead to severe clinical conditions. Although generator placement in the rectus abdominis submuscular layer is sometimes preferred over placement in the supramuscular layer for infection prevention, it could increase the risk of intraperitoneal migration. We report the case of a 1-year-old girl who had a generator implanted in the upper abdomen, specifically in the rectus abdominis submuscular layer, that migrated into the abdominal cavity. The implant was removed after 6 months of follow-up. Intraoperative findings during implant removal showed that the lead was entangled with the large mesh and strongly adhered to it. This adhesion entrapped the intestinal tract and could lead to serious complications, including intestinal obstruction or perforation.

Key words: pacemaker implantation; generator migration; epicardial pacing; submuscular implantation

背景

小児に対する心外膜ペースメーカ植込み術(PMI; pacemaker implantation)後の合併症としてgenerator migrationが知られている.成人の場合,generatorは左鎖骨下の皮下脂肪と筋層の間に通常植込まれ,胸郭によって下支えされるため,胸腔内へのmigrationは生じにくい.一方で,小児に対するPMIの際には,電極は心外膜リードを用い,generatorを前上腹部に植込むことが多い.前上腹部は胸郭のようなしっかりとした下支えがないため,腹腔内にmigrationしやすい.植込み部位の違いから,腹腔内へのmigrationは小児に特徴的で1),乳幼児におけるgenerator migrationの頻度は追跡期間40.4か月で5.8%(52人中3人)との報告がある2).一般的に腹腔内へのmigrationでは,腸閉塞や腸管穿孔などの重篤な消化器病変を伴う可能性があり手術介入を要する.今回,migrationの診断から6か月後に待機的抜去術を行った際にリードが大網と絡み合って強く癒着している術中所見を認めた症例を経験したので報告する.

臨床経過

Double outlet right ventricle(DORV)の胎児診断ののち,在胎31週6日,体重は1,239 gで出生した.出生後subpulmonary ventricular septal defect(VSD)を伴うDORV, Coarctation of the Aorta(CoA)の診断となった.生後4日に肺動脈絞扼術を行ったのち,生後3か月時にArterial Switch Operation・VSD closure・CoA repairを行った.術後は誘引なく洞徐脈および完全房室ブロックが出現し循環不全を繰り返した.徐脈時には術後留置していたtemporaryリードからAAIペーシングを試みたが有効なpacingができなかった.心停止も経験し,二度の体外式膜型人工肺管理を要した.冠動脈はShaher 9型で,右冠動脈孔は非常に小さな2つの開口部に分かれており,開口部異常・起始部狭窄と診断した.これに伴うsinus node dysfunctionが一過性徐脈の原因と考えられたが,冠動脈起始部への介入は技術的に困難であったため,PMIの方針となった.術後2か月(生後5か月)時,体重4.3 kgで心外膜リードを用いたPMI(Generator: Medtronic社Attesta ATSR01,心室リード:Medtronic社CapSure Epiを使用し,single chamber pacing, bipolar pacing)を行った.徐脈時に房室ブロックを伴うためVVI(lower rate 90 bpm)で設定した.機種は自施設で選択できる機種の中で容積が最小のものを選択した.generatorは左上腹部腹壁の腹直筋筋層直下・腹膜上に植込まれた.前述の右冠動脈起始部狭窄および肺動脈分岐部狭窄に伴う両心室機能低下のため,人工呼吸器管理からの離脱に難渋し,7か月時に気管切開術を行い,以降は人工呼吸器管理を継続している.慢性心不全のため栄養が進まず,体重は4か月時に3.0 kg台に到達,1歳時は4.6 kgと顕著な体重増加不良がみられた.また,運動発達遅滞がみられ,1歳時点で寝返りができず入院管理中は仰臥位での長期臥床状態であった.PMI後インピーダンスや刺激閾値の変化はみられていなかったが,1歳2か月時,generatorを皮下直下に触れずgeneratorのmigrationを疑い,胸腹部レントゲン撮影を行った.正面像ではgeneratorの傾きの変化を認め,側面像では背側へのmigration,腹腔内migrationを認めた(Fig. 1).migrationと診断された時点ではgenerator migrationによる重篤な合併症(腸閉塞や腸管穿孔などの消化器病変)は認めていなかったが,その後に生じる危険性を踏まえ,治療介入が必要と判断した.ただし,植込み術から9か月が経過しており既にgenerator周囲はポケットを形成し,さらにレントゲンではリードのたわみもあまり変化ないことから,generatorが腹腔内でさらに背側や尾側へmigrationが進展する可能性は低いと考え,抜去術までの時間の猶予があると判断し,緊急抜去術は行わなかった.一方で,徐脈を呈しpacingを要する頻度は減少し,PMIから4か月後(生後9か月)以降はほぼpacingを要さず,migration診断時点で数か月間pacingされていない状態であった.いったん退院し,自宅生活でもpacingが不要であることを確認する期間を設けてgeneratorの留置継続は不要と判断し,migrationの診断から6か月後の1歳8か月時にgenerator抜去術を行った.

Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery 41(3): 140-144 (2025)

Fig. 1 PMI後の胸腹部単純X線写真

(a) 植込み直後(5か月時),(b) 診断時(1歳2か月).

術中所見ではリードと大網とが絡み合って癒着が強かったものの,generatorとの癒着はなかった.植込み時には筋層直下・腹膜上に植込まれていたgeneratorが,抜去時には腹膜直下,腹腔内へmigrationしていた(Fig. 2).generatorを抜去,リードは腹膜との癒着を剥離しつつ一部腹膜を切離して抜去した.その後,徐脈を呈することなく退院に至った.

Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery 41(3): 140-144 (2025)

Fig. 2 植え込み時,抜去時の模式図(矢状断)

(a) 植込み時,(b) 抜去時.

考察

慢性心不全で長期臥床管理を行っていた児がPMIから9か月後にgenerator migrationを来たした.migrationの診断から6か月後に待機的な抜去術を行ったが,その際にリードが大網と絡み合って強く癒着している術中所見を認めた.

新生児や乳児に対してPMIを行う場合,前上腹部皮下の筋層上にgeneratorを植込む場合と筋層下に植込む場合とがある.腹腔内へのgenerator migrationを予防する観点からは,generatorの下支えが薄い腹膜だけになる筋層下よりも,筋層がgeneratorの下支えとなる筋層上にgeneratorを植込むほうがよい.一方で皮膚の圧迫壊死・潰瘍形成の観点からは優劣が逆転する.皮下直下である筋層上に植込んだ場合には皮膚の潰瘍形成が懸念され3),その結果としてgeneratorの露出が引き起こされる可能性が考えられる.Generatorの露出に伴って敗血症や骨髄炎などの重症感染症のリスクが上昇することが報告されており2),露出した場合には感染の懸念からリードを含めたPMシステム全体の抜去,再度の植込みを要する重大な事態となる4).筋層上(皮下)よりも筋層下に植込む方がこのリスクは低下するため,特に体重10 kg以下の体格の小さな児では,皮膚の潰瘍形成・generator露出リスク低減の観点から,腹腔内へのmigrationのリスクは上がるものの筋層下にgeneratorを植込むことが選択される5)

Table 1は小児期までにPMIを行い腹腔内へのmigrationを引き起こした過去の報告に関してまとめたものである2, 6–19).これは2024年6月時点でPubMedにて“pacemaker migration”と検索したものと,「ペースメーカ 脱落」と医中誌にて検索し該当した症例からまとめたものである.植込みからmigration発覚までの期間の中央値は5.4(1.8~6.9)年と,植込みから長期間を経て発覚するという特徴があった(Table 1).特に幼少時に植込みを行った症例では長期間経過後もmigrationへの注意が必要と考える.migrationの際に認める症状としては,腹痛や便秘,嘔吐や下痢,直腸異物感など消化器症状・腹部症状が多いが,腸閉塞や腸管穿孔,小腸癒着により腸管の部分切除を要する症例など重篤な合併症を生じることもある8, 10, 19)

Table 1 generator migrationの報告例
症例植込み時年齢植込み時体格診断時年齢症状(合併症)所見や発見された位置介入時期報告年文献
1生後1日4歳失神ダグラス腔不明20179)
2生後2日1.9 kg1歳大腿部筋収縮後下腹膜内不明19996)
3生後2週10歳腹痛・嘔吐(癒着性腸閉塞)右下腹腔内緊急199510)
4生後2週4か月なしリードと大網が絡まり腹腔内不明201811)
5新生児期7歳腹痛リードと周辺組織の癒着S状結腸付近不明20077)
6新生児期7歳腹痛リードの断裂不明200812)
7生後8週2.3 kg5か月なし記載なし待機的(6年後)20202)
82か月2歳なしリードの癒着不明200213)
92か月8歳便秘・腹部筋収縮ダグラス窩不明200714)
105か月4.3 kg1歳なしリードと大網の癒着待機的2024自験例
116か月6歳なし骨盤腔内で癒着不明202215)
128か月2歳発熱直腸から排出緊急200616)
138か月2歳腹痛・下痢直腸から排出不明200812)
149か月6歳皮膚炎症記載なし不明20202)
1510か月3.0 kg1歳嘔吐ダグラス窩不明202017)
161歳5歳腹痛(腸管穿孔)周囲との癒着緊急20058)
175歳9歳排尿時不快感直腸付近リードと結腸の癒着不明201118)
18幼児期6歳腹痛(小腸癒着)リードと小腸の癒着不明200812)
198歳8歳腹痛・嘔気(腸管穿孔)S状態結腸内膿瘍形成緊急200719)
2011歳21歳発熱・腹痛(腸管穿孔)結腸に膿瘍形成緊急200719)
介入時期に関しては筆者が以下の通り定義した.「緊急」当日に手術を行った,もしくは緊急手術を行ったと記載のある例,「待機的」介入まで数か月以上の期間を空けたことが記載されている例,「不明」介入の時期が不明である例.

腹腔内へのmigration報告例では全例で手術介入が行われていたが,手術介入時期には差がみられた(Table 1).診断時点で腸閉塞や腸管穿孔といった合併症をきたしている場合には緊急の対応がとられている.一方で自験例のように無症状例では待機的に再植込み術が行われていた2).本症例ではmigrationの診断から6か月経過時点でリードが大網と絡み合って強く癒着している術中所見を認めた.この所見は腸閉塞や腸管穿孔のリスク因子である20).migrationの診断から6か月経過時点では,腹膜との癒着が進んでいることが今回確認され,腸管合併症予防の観点からmigration診断後の経過観察は長期間にすべきではないと考えられた.

在胎31週1,940 gで生まれた早産児に対し,日齢2でPMIを行った例6)や,生後2か月時点2.3 kgと体重増加が不良な児にPMIを行った例2),在胎32週で生まれ新生児期にPMIを行った例7)などが見られる.generatorの大きさ・重さに対して,月齢・体格が小さいため腹膜が相対的に脆弱であることから腹腔内へmigrationしやすくなると考えられる.低体重がゆえに筋層下にgeneratorを植込む必要性が生じ,そのために腹腔内へのmigrationをきたしやすくなっていると推定される.本症例は生後5か月時点での植込みであり,生後3か月未満の基準からは外れるが,植込み時の体重は4.3 kgであったことを踏まえると,通常の児の生後1か月相当であり,やはり体格が小さかったことがリスクファクターとなっていた可能性がある.

migrationの診断には触診やレントゲン撮影が有用である.触診時に皮膚直下にgeneratorを触れないことでmigrationを疑うことが可能である.疑った際にはレントゲン側面像の撮影にて容易に診断ができる.なお,本症例においては正面像でのgeneratorの角度異常からもmigrationを疑うことが可能であった.

結語

PMI後の合併症として腹腔内へのgenerator migrationがある.migration後,6か月経過時点でリードと大網が強く癒着することが確認された.癒着により腸閉塞や腸管穿孔のリスクがあるため,migration診断後の経過観察は長期間にすべきではないと考えた.

利益相反

本論文について日本小児循環器学会の定める利益相反に関する開示事項はありません.

著者の役割

伊藤智由希は筆頭著者として論文を執筆した.佐藤要,渡辺恵子,小澤由衣,高見澤幸一,小川陽介,田中優,益田瞳,松井彦郎,柴田深雪,平田康隆は循環器疾患の検査,診断判断を行い,論文執筆の指導を行った.白神一博,犬塚亮は循環器疾患の検査,診断判断を行い,論文執筆の指導,最終的な校正を行った.共著者全員が論文校正に貢献した.

付記

本症例については,学会発表,論文投稿に関して患者の両親に説明し,同意を得ている.

引用文献References

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