純型肺動脈閉鎖の治療戦略Therapeutic Strategy of Pulmonary Atresia with Intact Ventricular Septum (PAIVS)
埼玉県立小児医療センター循環器科Pediatric Cardiology, Saitama Children’s Medical Center ◇ Saitama, Japan
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純型肺動脈閉鎖(PAIVS)は,2心室修復/単心室修復のどちらを目指すかを念頭に治療方針を決定する.RV-TVindexなど様々な指標を用いた治療指針があるが1),近年は三尖弁輪径中心に治療指針を決定する場合が多い(Fig. 1)2).しかし,三尖弁は弁輪径のみならず形態の問題もあり,個別の検討が必要である.また右室が低形成の症例で冠動脈の狭窄や閉塞を合併すると,その遠位部の血流は右室からの類洞血管に依存し,右室依存性冠循環(RVDCC)と呼ばれる.RVDCCは右室冠動脈瘻の3~34%に認められ,治療方針決定の際に重要な所見である.
ASD, 心房中隔欠損;PGE1, プロスタグランディンE1; RVDCC, 右室依存性冠循環;TVD, 三尖弁輪径;TVZ, 三尖弁輪径Zスコアー.文献2) p. 633より引用.
本論文3)の治療方針について検討してみる.出生時の心エコーで右室はtripartite・三尖弁輪径は8.0 mm(Z-value=−1.4)であり,2心室修復の方針となっている.出生後肺血流の調整を行うが内科的制御は困難となり,生後65時間で介入が必要となる.
この時点で治療の選択肢は,1. 経皮的肺動脈弁形成術(PTPV)+PDA ligation/banding(or bilateral PA banding: bPAB),2. 外科的肺動脈弁形成(SPVP)+PDA ligation/banding(or bPAB),3. PDA bandingのみ,4. bPABのみ,などが考えられる.1はPTPV後のPDA(or bPAB)処置までにhigh flow shockとなる可能性が高く,現実的ではない.2は,術後の肺血流制御が問題となる.右室コンプライアンス(RVC)・肺血管抵抗などの問題から,PTPV・SPVP直後は,右室からの順行性血流のみで肺血流を維持するのは困難な場合が多い.本症症例では,肺血管抵抗は低下している可能性があるが,RVCの問題から,術後24~72時間は順行性血流のみでSPO2の維持は困難が予想される.したがってPDA ligationは危険であり,PDA banding(or bPAB)が選択肢と考えれる.本論文の考察でも述べられているが,我々の施設の経験でもPDA bandingは,術後の肺血流の調整が不安定な場合・体血流に影響が出る場合(bandingによる大動脈縮窄の形成)がある.さらにSPVPと同時に行うと,肺血流制御の困難が予想される(bPABも同様).したがってこの時点では,bPABのみ行うことが確実な術式選択と考えられる.本論文では肺血流が動脈管依存性の場合でも,bPABが有効な術式であることを述べている.
その後,日齢21に右室造影でRVDCCがないことを確認後にPTPVを行っている.PTPVでは,1. 右室造影・2. 右室流出路(RVOT)へのguiding catheter(GC)の留置・3. RF wireでの肺動脈弁穿通・4. バルーン拡張,などに注意が必要である.
本症例では,肺血流が安定していため日齢21まで待機してPTPVを行っている.この選択は一般的だが,術後もbPABにより右室圧は高値が続くため,この時点でSPVP+debanding+PDA ligation/bandingという選択肢もある.しかし先に述べたように,RVCの問題からSPVP後に順行性の血流のみではSPO2維持が困難で,数日はPDA血流が必要となる可能性が高い.術後の肺血流量の制御を考えると,外科的介入では不安定な管理が予想され,本論文3)のようにPTPVを選択がよかったと考える.
一方,次の介入はいくつかの選択肢がある.右室圧高値は持続し,肺血流はbPABで制御され,肺血流にはPDA血流も関与しているため,血行動態の評価は難しい.本論文では,SPO2が上昇してきたため,右室からの順行性血流で肺血流維持が可能と判断している.日齢33でbPAB解除,PDA ligationを行っているが,この時点での追加処置必要性の判断が重要である.結果的に必要となったRVOTRをこの時点で判断できたかが問題となる.肺動脈弁の解放制限があると,RVOTの評価が過少となる可能性がある.したがって,bPAB解除・PDA ligationを行う前に再度PTPVを実施して,RVOTの評価をしっかり行ったうえで,外科介入時にRVOTRまで実施すべきか判断できれば最善であったかもしれない(本症例ではPTPVが実施できなかったため,この選択肢は外れてしまう).外科介入を1回減らせる可能性はあり,今後の教訓とし検討していただければ幸いである.
初回のbPABは,安全かつ有用な治療法であるが,その後の治療方針には様々な選択肢がある.本症例は最終的には良好な経過となっているが,より低侵襲で最善の治療法の選択が重要である.それぞれの施設での治療方針・治療実績をふまえて治療方針を決定していくことの重要性を再認識する症例であった.
注記:本稿は,次の論文のEditorial Commentである.小野頼母,ほか:在胎35週の心室中隔欠損を伴わない肺動脈閉鎖における両側肺動脈絞扼術を用いた肺血流制御.日小児循環器会誌2025; 41: 102–107
1) 松久 弘:純型肺動脈閉鎖,日本小児循環器学会(編):小児・成育循環器学,2018, pp446–449
2) 星野健司:純型肺動脈閉鎖(重症肺動脈弁狭窄を含む),最新ガイドライン準拠 小児科診断・治療指針 改定第3版,中山書店,2024, pp631–635
3) 小野頼母,小泉 沢,荒川貴弘,ほか:在胎35週の心室中隔欠損を伴わない肺動脈閉鎖における両側肺動脈絞扼術を用いた肺血流制御.日小児循環器会誌2025; 41: 102–107
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