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特定非営利活動法人日本小児循環器学会 Japanese Society of Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery
Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery 40(2): 82-90 (2024)
doi:10.9794/jspccs.40.82

ReviewReview

小児心筋症の診断と治療Diagnosis and Treatment of Pediatric Cardiomyopathy

大阪大学大学院医学系研究科 小児科学Department of Pediatrics, Osaka University Graduate School of Medicine ◇ Osaka, Japan

発行日:2024年5月31日Published: May 31, 2024
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小児期発症の特発性心筋症は比較的稀な疾患であるが,小児循環器専門医にとってはその診断と治療に関して十分な知識を備えておくべき疾患である.本総説では,2023年7月8日に開催された日本小児循環器学会第20回教育セミナーベーシックコースでの発表内容をもとに,小児心不全に対する薬物療法の基礎および最近の進歩について総論として紹介し,各論として拡張型心筋症,肥大型心筋症,拘束型心筋症について,その診断に関連する主な臨床検査と治療について概説する.最後に,日本および当院における小児心臓移植医療の現状について簡単に紹介する.

Childhood-onset idiopathic cardiomyopathy is relatively rare, and its management requires sufficient knowledge and expertise of pediatric cardiologists. This review article was based on the presentations at the 20th Educational Seminar Basic Course of the Japanese Society of Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery on July 8, 2023. First, this review provided an overview of recent pharmacotherapy strategies for heart failure according to adult guidelines published in the US, Europe, and Japan. Subsequently, it delved into the clinical assessment and treatment of specific topics, including dilated cardiomyopathy, hypertrophic cardiomyopathy, and restrictive cardiomyopathy. Finally, it briefly introduced the current status of pediatric heart transplantation in Japan and our hospital.

Key words: cardiomyopathy; diagnosis; treatment; guideline; heart transplantation

はじめに

小児期発症の心筋症は先天性心疾患に比べると発症頻度は低く,それほど多く出会う病気ではないかもしれない.しかし,小児循環器専門医としては,その診断や治療については精通しておくべき疾患であり,特に心不全に対する薬物療法は近年大きな進歩がみられている.この総説では,2023年7月8日に開催された日本小児循環器学会第20回教育セミナーベーシックコースでの講演内容をまとめることで,これから小児循環器専門医を目指す若手の先生方を対象に,小児心筋症の診断と治療についての概略を述べたい.

総論:小児心不全に対する薬物療法の考え方

心不全とは,「なんらかの心臓機能障害,すなわち心臓に器質的および/あるいは機能的異常が生じて心ポンプ機能の代償機転が破綻した結果,呼吸困難・倦怠感や浮腫が出現し,それに伴い運動耐容能が低下する臨床症候群」と定義される1, 2).心不全の原因としては,成人領域では虚血性心疾患,小児領域では先天性心疾患が主である.また,頻度は多くないものの,成人においても小児においても特発性心筋症は心不全の主要な原因となる.症候性心不全に対する治療戦略としては,まず徹底的な薬物療法や生活管理(水分や塩分制限など)が挙げられる.次に,心室内伝導障害や不整脈がある場合には,それらに対する薬物療法やペースメーカー植込み,心臓再同期療法(Cardiac Resynchronization Therapy, CRT)などが考えられる.このような薬物療法に反応せず循環動態が維持できない場合には,強心薬や人工呼吸管理を含む集学的治療が開始されるが,必要な場合には機械的補助循環(Mechanical Circulatory Support, MCS)の導入も躊躇せず考慮すべきである.集学的治療にもかかわらず,MCSや強心薬持続静注療法から離脱できないことが予想される場合には心臓移植が必要になる可能性を検討し,移植実施施設との連携を始めるべきである.

これまで成人の心不全について数多くのガイドラインが日米欧から発表されている.1995年に米国(ACC, American College of Cardiology/AHA, American Heart Association)から,そして1995年と1997年に欧州(ESC, European Society of Cardiology)からガイドラインが発表され,日本では2000年に日本循環器学会より急性重症心不全治療ガイドラインおよび慢性心不全治療ガイドラインが発表された.それから幾度の改訂を経て,2021年にESCガイドライン3),2022年にAHA/ACC/HFSAガイドラインが発表され4),日本では2017年の急性・慢性心不全ガイドラインおよび2021年のJCS/JHFSガイドライン・フォーカスアップデート版が発表された1, 2).これらが2023年9月現在での最新版となる.この間,心不全に対する薬物療法の考え方や新規薬剤のエビデンスの拡充など,心不全診療は大きく変化した.現在では,様々な大規模無作為二重盲検試験の結果を踏まえ,日米欧全てのガイドラインにおいて,概ね同じような薬物の推奨およびエビデンスレベルが設定されている.それはいわゆる「fantastic four」と呼ばれる4種の薬剤を,全ての心収縮の低下した心不全(Heart Failure with reduced Ejection Fraction, HFrEF)患者にclass Iで推奨するというものである.すなわち,①アンジオテンシン変換酵素(Angiotensin Converting Enzyme, ACE)阻害薬/アンジオテンシン受容体拮抗薬(Angiotensin II Receptor Blocker, ARB)/アンジオテンシン受容体拮抗薬・ネプリライシン阻害薬(Angiotensin Receptor Neprilysin Inhibitor, ARNI),②β遮断薬,③ミネラルコルチコイド拮抗薬,④ナトリウム・グルコース共輸送体2(Sodium Glucose co-Transporter 2, SGLT2)阻害薬,の4種である.またこれらに加えて,Ifチャネル阻害薬であるイバブラジンは,十分な量のβ遮断薬を含むガイドラインに沿った治療をしているにもかかわらず洞調律で75拍/分以上(欧米では70拍/分以上)の場合にclass IIaで推奨されている.また,可溶型グアニル酸シクラーゼ刺激薬のベルイシグアトも,ガイドラインに沿った標準的な併用療法にもかかわらず増悪傾向にある心不全に対してclass IIbで推奨されている.

一方で小児に対する抗心不全薬物療法はエビデンスに乏しい.ACE阻害薬については,平均年齢3.6歳の拡張型心筋症(Dilated Cardiomyopathy, DCM)患者に対する後方視的コホート研究で,1年生存率に改善を認めたとされているが,投与群27例,非投与群54例と症例数は少ない5).単心室循環の小児においてはACE阻害薬の有用性のエビデンスはなく,平均14歳のFontan術後症例については血行動態データや運動耐容能に有意な改善効果はなかった6).また,単心室の乳児に対する無作為二重盲検試験においても心室機能や体重増加に有意な改善は認めなかった7).現在,ARNIであるサクビトリルバルサルタンの小児における大規模無作為二重盲検試験の結果が解析中であり,その発表が待たれる8).β遮断薬についても小児でのエビデンスは乏しく,最も大規模な無作為二重盲検試験では,18歳未満の症候性心不全患者において,カルベジロール投与群では死亡率,心不全入院,NYHA分類において有意な改善を認めなかった.しかし,この試験では単心室を含む複雑先天性心疾患に伴う心不全患者が含まれており,サブ解析にて主心室が左心室である患者のみに絞って解析すると有意な改善を認めたと報告されている9).また,平均2歳のDCM患者に対する二重盲検試験では,カルベジロール投与群では左室駆出率(Left Ventricular Ejection Fraction, LVEF)の有意な改善を認めたとされているが,この研究では投与群14例,非投与群8例と非常に症例数が少ない10).近年,イバブラジンの小児における無作為二重盲検試験が実施されており,平均5.8歳のDCM患者において有意に心拍数を低下させ,LVEFを改善させたと報告されている11).SGLT2阻害薬については,小児および先天性心疾患術後心不全への有効性に関して後方視的研究による報告が出始めている.DCM 26症例を含む中央値12.2歳の小児心不全に対するダパグリフロジンの投与は,BNP値を有意に低下させ,LVEFを改善したと報告されている12)Table 1).

Table 1 Summary of the previous studies for anti-heart failure drug therapy in pediatric patients
Ref. no.YearJournalStudyDiseaseAgeDrugsN of Pts (vs control)Outcome
51993Pediatr CardiolRetrospective cohortDCM3.6±0.6Enalapril27 (vs 54)Improvement in mortality after 1 year treatment
61997CirculationRCTFontan14.5±6.2Enalapril18No difference in hemodynamics and exercise capacity
72010CirculationRCTSingle-ventricle<14 m.o.Enalapril91 (vs 94)No difference in body weight and ventricular function
92007JAMARCTSymptomatic HF (DCM, CHD, SV)<18 y.o.Carvedilol161No difference in mortality, admission, and NYHA classification. However, in the patients with systemic left ventricle, there was significant improvement in mortality and exercise capacity.
102002J Am Coll CardiolRCTDCMMean 2–3 y.o.Carvedilol14 (vs 8)Improvement in LVEF
112017J Am Coll CardiolRCTDCM5.8±4.9Ivabradine74 (vs 42)Ivabradine safely reduced the resting heart rate of children with chronic HF and DCM. Ivabradine treatment improved LVEF, and clinical status and QOL showed favorable trends.
122023Pediatr CardiolRetrospective cohortDCM 2612.2 (IQR 6.2–17.5)Dapagliflozine38BNP was significantly decreased. In DCM patients, LVEF was significantly improved. Six (16%) patients experienced symptomatic urinary tract infection.
SV 7
Others 5
CHD, congenital heart disease; DCM, dilated cardiomyopathy; HF, heart failure; IQR, interquartile range; LVEF, left ventricle ejection fraction; QOL, quality of life; RCT, randomized controlled trial; SV, single ventricle.

このように小児における心不全薬物療法のエビデンスは少ないが,わが国では日本小児循環器学会「小児心不全薬物治療ガイドライン(平成27年改訂版)」と日本循環器学会「先天性心疾患並びに小児期心疾患の診断検査と薬物療法ガイドライン(2018年改訂版)」が出版されており,診断および治療の参考としていただきたい13, 14)

各論

次に,各論として拡張型心筋症(DCM),肥大型心筋症(Hypertrophic Cardiomyopathy, HCM),拘束型心筋症(Restrictive Cardiomyopathy, RCM)の診断および治療について概説する.それぞれの疾患の疫学や診断,検査,治療の詳細については,「小児成育循環器学」を始めとした成書を参考にしていただきたい.また今回のベーシックセミナーの後,2023年7月11日付でAHAより小児心筋症に対する治療戦略のscientific statementが発表された15).こちらも是非参考にしていただきたい.

拡張型心筋症(DCM)

DCMは左室拡大と壁の菲薄化を伴い,心収縮力低下により心不全を呈する疾患である.約30~40%に家族性があるとされ,様々な遺伝子が原因遺伝子として報告されている.主なものとして,ミオシン軽鎖や重鎖,アクチン,トロポニン,ミオシン結合蛋白,タイチン,ラミンA/Cをコードする遺伝子などがある.しかし浸透率は高くなく,同じ遺伝子に異常があっても必ずしも表現型は一致しない.主な臨床症状は,哺乳不良,易疲労感,体重増加不良,不整脈,浮腫などがある.

診断に関連する臨床検査

胸部X線:心拡大や肺うっ血の有無などを確認する(Fig. 1A).

12誘導心電図:左室肥大所見やST-T変化,T波異常,心室内伝導障害の有無などを確認する.QRS幅が広く心エコーにてdyssynchronyを認める際にはCRTの適応になる場合がある.

心エコー検査:左室容積やEF,僧帽弁閉鎖不全の評価,左房拡大,右室機能,拡張障害の有無など多くの情報が得られる(Fig. 1B).

心臓MRI検査:左室容積やEFに加え,ガドリニウム遅延造影像やT1-mapping法での線維化評価など様々な情報が得られる.

血液検査:BNP値やNT-proBNP値を始め,心筋逸脱酵素の評価,電解質,肝腎機能の評価など,全身管理に当たり有用な情報が多数得られる.

心臓カテーテル検査:左室拡張末期圧や肺動脈楔入圧,中心静脈圧,心拍出量などの測定に加えて,冠動脈起始・走行異常や冠動脈狭窄の評価など鑑別診断に重要な情報も得られる.

心内膜心筋生検:心臓カテーテル検査と同時に可能な限り心筋生検も行うことが望ましい.二次性心筋症の鑑別に重要である.近年では電子顕微鏡検査も保険償還されており,ミトコンドリア心筋症の鑑別にも役立つ(Fig. 1C, 1D).

核医学検査:心筋血流評価や脂肪酸代謝評価などの情報が得られる.

運動負荷検査:年齢に応じてエルゴ負荷検査やトレッドミル検査,6分間歩行距離など,運動耐容能を評価することは重要である.

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Fig. 1 Representative clinical findings of pediatric dilated cardiomyopathy patients

(A) Chest X-ray image shows cardiomegaly and pulmonary congestion. (B) Echocardiography shows left ventricular dilatation and moderate mitral valve regurgitation. Cardiac biopsy shows mild disarray and vacuolization around the nuclei of cardiomyocytes by Hematoxylin–Eosin staining (C) and mild interstitial fibrosis by Masson-trichrome stain (D). Scale bar: 100 µm.

鑑別が必要な主な二次性DCM

ミトコンドリア病:筋力低下や難聴,不整脈およびその家族歴の聴取は重要であるが,家族歴がない場合も多い.ミトコンドリア病であっても必ずしも血清乳酸値が高値を示すわけではないことに注意が必要である.心筋生検での電子顕微鏡検査によりミトコンドリア形態を評価することや,心筋組織あるいは皮膚細胞におけるミトコンドリア呼吸鎖酵素活性測定,酸素消費速度測定,遺伝子検査(ミトコンドリア遺伝子だけでなく核遺伝子についても)など,各種の検査を組み合わせて診断する必要がある.

筋疾患:いくつかの筋ジストロフィーやミオパチーなどの筋疾患がDCM病態を引き起こす.筋力低下や血清CK値などの評価に加えて,鑑別に筋生検が必要になる場合もある.

慢性心筋炎/炎症性心筋症:近年の臨床研究では,特発性DCMと診断されたなかにも,炎症が病態の主体となる心筋症が含まれていることが報告されている.心エコーなどの評価だけでは鑑別は困難であり,心筋生検による免疫染色やMRI検査など組み合わせて評価する必要がある.

治療

総論で述べた成人HFrEFに対するガイドラインに沿った心不全治療が基本となる.循環破綻時は,強心薬や人工呼吸管理を含めた集学的治療およびMCSの導入について,機を逃さず判断するべきである.

肥大型心筋症(HCM)

HCMは心筋肥大による拡張障害や左室流出路狭窄,心室性不整脈などを呈する疾患で,約半数に家族歴を認め,50~70%で病原性のある遺伝子バリアントが同定される.主な病原遺伝子は,ミオシン軽鎖,重鎖,アクチン,トロポニン,ミオシン結合タンパク,タイチンなどである.小児では無症状であることも多く,学校心臓検診で発見されることがある.心室性不整脈や左室流出路狭窄による失神,心筋虚血による胸痛を訴えることがある.

診断に関連する臨床検査

胸部X線:心拡大を呈さないケースも多い.左室拡張障害による肺うっ血の有無などを確認する(Fig. 2A).

12誘導心電図:左室肥大所見やST-T変化,T波異常,心室性不整脈,心室内伝導障害の有無などを確認する.WPW症候群の合併がないか確認する.

心エコー検査:心筋壁厚の評価に加え,左室容積やEF,僧帽弁閉鎖不全の評価,左室流出路狭窄の評価,拡張障害の有無など多くの情報が得られる.

心臓MRI検査:心筋肥大の評価,左室容積やEFに加え,ガドリニウム遅延造影像やT1-mapping法での線維化評価などの情報が得られる(Fig. 2B).

血液検査:BNP値やNT-proBNP値を始め,多くの有用な情報が得られる.

心臓カテーテル検査:左室拡張末期圧や肺動脈楔入圧,中心静脈圧などに加えて,心拍出量の測定など重要な情報が得られる.

心内膜心筋生検:心臓カテーテル検査と同時に,可能な限り心筋生検も行うべきである.蓄積物の有無など二次性心筋症の鑑別に重要である(Fig. 2C, 2D).電子顕微鏡検査も有用である.

核医学検査:心筋血流評価や脂肪酸代謝評価などの情報が得られる.

運動負荷検査:心肺運動負荷テストが小児HCMの予後や突然死リスクを反映するという報告があり,十分に注意した環境下における運動負荷検査はリスク層別化に有用な可能性がある16)

ホルター心電図検査:心室性不整脈の把握に重要で,HCMの50~85%に心室性期外収縮を,20~28%に非持続性心室頻拍を認めるとされる.30~50%に心房性頻脈性不整脈を認める.

遺伝学的検査:50~70%に病原性のあるバリアントが同定されると報告されている.二次性HCMとしてNoonan症候群関連や先天性代謝異常の遺伝子バリアントが同定される場合もある.HCMに対する遺伝子検査は最近保険収載され,今後臨床現場で広まっていくことが期待される.

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Fig. 2 Representative clinical findings of pediatric hypertrophic cardiomyopathy

(A) Chest X-ray image shows no cardiomegaly nor pulmonary congestion. (B) Cardiac magnetic resonance image shows hypertrophy of left ventricular wall. Cardiac biopsy shows cellular hypertrophy of cardiomyocytes by Hematoxylin–Eosin staining (C) and mild interstitial fibrosis by Masson-trichrome stain (D). Scale bar: 100 µm.

鑑別が必要な主な二次性HCM

Noonan症候群,LEOPARD症候群,CFC症候群,コステロ症候群などのRAS関連症候群:特異顔貌や胸郭変形,肺動脈弁狭窄や心房中隔欠損の合併などから疑う.遺伝子検査は保険償還されており,診断に迷う際にも鑑別に有用である.

Pompe病:αグルコシダーゼ欠損により筋肉内にグリコーゲンの蓄積がみられる.特に乳児型において心肥大が合併することがある.

Fabry病:αガラクトシダーゼ欠損による糖脂質代謝異常症.心筋に糖脂質が蓄積しHCM様の病態を示す.

Danon病:LAMP-2遺伝子変異によるリソソーム性糖原病.X連鎖顕性遺伝で男性患者のほうが進行が早いとされるが,女性での発症もある.男性では精神発達遅滞やミオパチーを合併することが多い.

治療

薬物療法としては,小児におけるエビデンスは少ないが,閉塞性HCMあるいは有症状の非閉塞性HCMに対しては,β遮断薬およびカルシウムチャネル拮抗薬の投与が推奨される.無症状の非閉塞性HCMに対するβ遮断薬およびカルシウムチャネル拮抗薬の有効性は確立していない.心室性不整脈に対しては,症例に応じてアミオダロンやメキシレチン,ソタロールの投与が推奨される.非薬物療法として,植込み型除細動器(Implantable Cardioverter Defibrillator, ICD)の適応が問題になる.小児HCMに対するICDの適応については,2020年のAHA/ACCガイドラインにおいて以下のリスク因子のうち1つ以上が該当する症例において,class IIaで植込みを考慮することが推奨されている.①他に原因のない失神既往,②重度の心筋肥厚,③非持続性心室頻拍の既往,④早期に突然死したHCMの家族歴.しかし,成人におけるリスク因子は一概に小児に当てはまると限らないため,個々の症例に応じて適応を判断すべきとされている17).中隔切除術については小児におけるエビデンスは無く,個々の症例に応じて判断される.中隔切除術が必要なほどの重度閉塞性HCMに対して,抗ミオシン阻害薬であるマバカムテンの有効性が成人領域では報告されている.

小児HCMの医学的管理として最も重要なのは突然死の予防であり,小児HCMの診断後5年の累積突然死イベント発生率は8~10%とされる.主に成人HCMに対するこれまでの研究で確立された突然死のリスク因子としては以下のものが挙げられる.

  1. 突然死したHCMの家族歴:50歳以下で突然死した2親等以内のHCM
  2. 極度の心筋肥厚:成人では30 mm以上の心筋肥厚はリスクとされる.小児ではZスコアで20以上はリスクが高いと考えられている.
  3. 失神の既往
  4. 収縮不良を伴う場合:LVEFが50%未満
  5. 左室心尖部心室瘤の合併
  6. 非持続性心室頻拍の頻度が高く,持続時間が長く,心拍数が高い(小児ではベースの心拍数より20%以上)場合

上記の突然死リスクを有する小児患者においては,競合的スポーツの禁止を含む適切な運動制限が考慮されるが,どのような症例でどの程度の制限が適切かというエビデンスはなく,個々の症例に応じて判断せざるを得ない.

拘束型心筋症(RCM)

RCMは,心収縮が保たれている一方で著明な拡張障害による心不全を呈する疾患である.約半数で病原性のある遺伝子バリアントが同定され,主な病原遺伝子としてはトロポニン,ミオシン軽鎖,重鎖,フィラミンCなどである18).初期は無症状であることが多く,学校心臓検診が診断の契機となる場合がある.突発的で一時的な腹痛や顔色不良,長引く湿性咳嗽,喘鳴,心室性不整脈による失神などが臨床症状としてあげられる19).小児RCMの予後は非常に悪く,1990年から2008年の北米での小児心筋症レジストリ研究では,診断後2年の移植回避生存率は40%程度とされており,わが国での多施設研究でも診断後5年の移植回避生存率は40%程度である20, 21)

診断に関連する臨床検査

胸部X線:心房陰影の拡大や肺うっ血の有無などを確認する(Fig. 3A).

12誘導心電図:心房負荷所見,左室肥大所見やST-T変化,T波異常,心室性不整脈,心室内伝導障害の有無などを確認する(Fig. 3B).

心エコー検査:著明に拡大した両心房が特徴的所見である.左室容積やEF,僧帽弁閉鎖不全の評価などの情報が得られる.小児RCMではE/e′は必ずしも上昇しておらず,E, e′ともに低下を認めることが多い.下大静脈および肝静脈の拡大がみられる.病状の進行とともに左室容積の低下がみられることがある.時に心室壁の肥厚を伴う(Fig. 3C).

心臓MRI検査:左室容積やEFに加え,ガドリニウム遅延造影像やT1-mapping法での線維化評価など様々な情報が得られる.収縮性心膜炎の鑑別にも有用である.

血液検査:BNP値やNT-proBNP値に加えて,右室拡張障害に伴う肝うっ血により,γGTPやT-Bilの上昇を認める場合がある.

心臓カテーテル検査:左室拡張末期圧や肺動脈楔入圧,中心静脈圧などに加えて,心拍出量の測定など,血行動態評価として重要な情報が得られる.投薬管理が十分に行われている場合には肺動脈楔入圧は低下するが,心房拡大は改善しないことが多い.左室圧波形におけるdip and plateauなどの典型的所見を見る場合がある.

心内膜心筋生検:心臓カテーテル検査と同時に,可能な限り心筋生検も行うべきである.RCMに特異的な所見はないが,心筋細胞の肥大や波状の配列変化,軽度から中等度の間質線維化を認める(Fig. 3D).

ホルター心電図検査:心室性不整脈の把握に重要である.病期の進行とともに徐脈が進行する場合がある.

運動負荷検査:年齢に応じてエルゴ負荷検査やトレッドミル検査,6分間歩行距離など,運動耐容能の低下を評価することは重要である.心室性不整脈の誘発に十分注意を払う.

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Fig. 3 Representative clinical findings of pediatric restrictive cardiomyopathy

(A) Chest X-ray image shows dilatation of atria and severe pulmonary congestion. (B) Electrocardiogram indicates left atrial dilatation and ST-T changes in II, III, aVF, V2-6. (C) Echocardiography shows severe left and right atrial dilatation with preserved ventricular contraction. (D) Cardiac biopsy shows disarray of cardiomyocytes and mild interstitial fibrosis by Masson-trichrome stain. Scale bar: 100 µm.

鑑別が必要な主な疾患

収縮性心膜炎は鑑別を要する疾患である.心エコーやMRIによる心膜肥厚の有無,開胸手術や感染症の既往などを確認する.

治療

RCMに対する有効性の証明された治療法は存在しない.うっ血改善のための利尿薬や心房内血栓予防のための抗血小板薬などが投与される場合が多い.心室性不整脈に対するアミオダロン投与やICDが適応されるケースがある.β遮断薬については,RCMでは病状の進行とともに徐脈傾向となる場合があり,個々の症例に応じて適応や投与量を考える.心室容積が小さく,左右両心室とも拡張障害があるため,補助人工心臓の適応や管理にも困難が伴う.一部に心不全の進行が緩徐で長期管理ができるケースも存在するが,一般には予後不良な場合が多く心不全管理にも困難を伴うため,基本的には診断がついたと同時に移植適応について考慮し,移植実施施設と連携して情報提供および治療を進めていく必要がある.

小児心臓移植医療の現状

世界では年間600~700例の小児心臓移植が実施されている.本邦では,2010年の臓器移植法改正により小児脳死臓器移植提供への道が開かれ,以降徐々に臓器提供数は増加している.2022年までに日本では68症例の小児(レシピエントが18歳未満)心臓移植が実施されている(Fig. 4A).2020年での小児心臓移植の平均待機日数は442日と成人の1625日に比較して短いが,それでも年余におよぶ待機が必要であり,コロナ禍以降さらに待機日数は増加傾向にある.しかし2023年に入り小児脳死ドナーによる臓器提供数は増加してきている.当院ではこれまで77例の20歳未満心臓移植後患者(海外渡航移植35例,国内移植42例)の管理を行ってきた.原疾患はDCM 44例(57%),RCM 23例(30%),先天性心疾患4例(5%)などであった.発症年齢中央値は2歳(四分位数:IQR 0.3–6),移植時年齢中央値は6.5歳(IQR 2–13),移植後観察期間中央値7年(IQR 2–12.75)であった.移植前に補助人工心臓装着していたのが39例(51%)であった.移植後5年,10年,15年のoverall survival rateはそれぞれ,91%,91%,84%であり,国際心肺移植学会(ISHLT)レジストリデータ(それぞれ77%,66%,56%)よりも良好であった(Fig. 4B).死亡原因としては,移植後リンパ増殖性疾患4例,移植後冠動脈病変2例,感染症2例などであった.海外渡航移植と国内移植との生存率曲線に有意差はなかった(p=0.548; log-rank test).一方で,欧米では先天性心疾患に伴う心不全に対する移植件数が増加しており,特に北米では移植全体の約40%にのぼるが,日本国内での移植例では5%に満たない.そこで,ISHLTデータを我々の状況に近い2004年以降の拡張型心筋症のみに絞って移植後生存率を解析すると,5年,10年生存率はそれぞれ87%,74%と比較的良好であった.これまでも先天性心疾患術後心不全に対する移植成績は特発性心筋症に比べれば不良であることが報告されており,今後日本においても先天性心疾患に伴う重症心不全に対する心臓移植が増加すれば,移植後生存率は現在のような良好な成績を保つのは難しいかもしれない.

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Fig. 4 The current situation of pediatric heart transplantation in Japan

(A) The number of cases for pediatric heart transplantation in Japan. (B) The Kaplan–Meier curve for overall survival after heart transplantation (HTx) in the patients who are managed in Osaka University, and received HTx in oversea (red line) and in Osaka University (blue line). The shadows delineate the 95% confidence intervals.

おわりに

小児心筋症に対する診断および治療についてセミナーでお話しした内容をもとに概説した.ここで参考文献に挙げた各種ガイドラインや,重要な無作為二重盲検試験などは是非原文を一読していただきたい.また,重症心不全の管理や治療方針について質問や困ったことがある場合は,日本小児循環器学会重症心不全相談窓口(https://jspccs.jp/report/consult/)に気軽に相談していただければと考える.

利益相反

本論文に関連して申告すべき利益相反はありません.

引用文献References

1) 日本循環器学会/日本心不全学会合同ガイドライン:2021年JCS/JHFSガイドライン フォーカスアップデート版 急性・慢性心不全診療

2) 日本循環器学会/日本心不全学会合同ガイドライン:急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版)

3) McDonagh TA, Metra M, Adamo M, et al: ESC Scientific Document Group: 2021 ESC Guidelines for the diagnosis and treatment of acute and chronic heart failure. Eur Heart J 2021; 42: 3599–3726

4) Heidenreich PA, Bozkurt B, Aguilar D, et al: 2022 AHA/ACC/HFSA Guideline for the Management of Heart Failure: A Report of the American College of Cardiology/American Heart Association Joint Committee on Clinical Practice Guidelines. Circulation 2022; 145: e895–e1032

5) Lewis AB, Chabot M: The effect of treatment with angiotensin-converting enzyme inhibitors on survival of pediatric patients with dilated cardiomyopathy. Pediatr Cardiol 1993; 14: 9–12

6) Kouatli AA, Garcia JA, Zellers TM, et al: Enalapril does not enhance exercise capacity in patients after Fontan procedure. Circulation 1997; 96: 1507–1512

7) Hsu DT, Zak V, Mahony L, et al: Pediatric Heart Network Investigators: Enalapril in infants with single ventricle: Results of a multicenter randomized trial. Circulation 2010; 122: 333–340

8) Shaddy R, Burch M, Kantor PF, et al: Baseline characteristics of pediatric patients with heart failure due to systemic left ventricular systolic dysfunction in the PANORAMA-HF Trial. Circ Heart Fail 2023; 16: e009816

9) Shaddy RE, Boucek MM, Hsu DT, et al: Pediatric Carvedilol Study Group: Carvedilol for children and adolescents with heart failure: A randomized controlled trial. JAMA 2007; 298: 1171–1179

10) Azeka E, Ramires JAF, Valler C, et al: Delisting of infants and children from the heart transplantation waiting list after carvedilol treatment. J Am Coll Cardiol 2002; 40: 2034–2038

11) Bonnet D, Berger F, Jokinen E, et al: Ivabradine in children with dilated cardiomyopathy and symptomatic chronic heart failure. J Am Coll Cardiol 2017; 70: 1262–1272

12) Newland DM, Law YM, Albers EL, et al: Early clinical experience with dapagliflozin in children with heart failure. Pediatr Cardiol 2023; 44: 146–152

13) 日本小児循環器学会:小児心不全薬物治療ガイドライン(平成27年改訂版)

14) 日本循環器学会:先天性心疾患並びに小児期心疾患の診断検査と薬物療法ガイドライン(2018年改訂版)

15) Bogle C, Colan SD, Miyamoto SD, et al: American Heart Association Young Hearts Pediatric Heart Failure and Transplantation Committee of the Council on Lifelong Congenital Heart Disease and Heart Health in the Young (Young Hearts): Treatment strategies for cardiomyopathy in children: A scientific statement from the american heart association. Circulation 2023; 148: 174–195

16) Conway J, Min S, Villa C, et al: The prevalence and association of exercise test abnormalities with sudden cardiac death and transplant-free survival in childhood hypertrophic cardiomyopathy. Circulation 2023; 147: 718–727

17) Ommen SR, Mital S, Burke MA, et al: 2020 AHA/ACC Guideline for the Diagnosis and Treatment of Patients with Hypertrophic Cardiomyopathy: Executive Summary: A report of the American College of Cardiology/American Heart Association Joint Committee on Clinical Practice Guidelines. Circulation 2020; 142: e533–e557

18) Ishida H, Narita J, Ishii R, et al: Clinical outcomes and genetic analyses of restrictive cardiomyopathy in children. Circ Genom Precis Med 2023; 16: 382–389

19) 石田秀和:小児期発症の特発性拘束型心筋症.日小児循環器会誌2021; 37: 184–192

20) Webber SA, Lipshultz SE, Sleeper LA, et al: Pediatric Cardiomyopathy Registry Investigators: Outcomes of restrictive cardiomyopathy in childhood and the influence of phenotype: A report from the pediatric cardiomyopathy registry. Circulation 2012; 126: 1237–1244

21) Mori H, Kogaki S, Ishida H, et al: Outcomes of restrictive cardiomyopathy in Japanese children: A retrospective cohort study. Circ J 2022; 86: 1943–1949

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