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特定非営利活動法人日本小児循環器学会 Japanese Society of Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery
Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery 40(1): 66-67 (2024)
doi:10.9794/jspccs.40.66

Editorial CommentEditorial Comment

小児患者に対するECMO管理中の理学療法とECMO診療の今後の展望Physiotherapy for Pediatric Patients Supported with Extracorporeal Membrane Oxygenation (ECMO), and Future Direction in the ECMO Management

公益財団法人 榊原記念財団附属 榊原記念病院 集中治療部Division of Pediatric Critical Care Medicine, Department of Critical Care Medicine, Sakakibara Heart Institute ◇ Tokyo, Japan

発行日:2024年2月29日Published: February 29, 2024
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小児集中治療の普及とともに本邦でも小児領域で対外式膜型人工肺(extracorporeal membrane oxygenation: ECMO)は広く知られるようになった.小児分野では当初は心疾患を中心に発展したECMOであったが,本邦においても専門分野としての小児集中治療学の拡がりや今までの経験・データに基づく管理方法の進歩により成績が向上してきたのは疑うところがない.一方で,本邦では漠然としたリスクの観点からECMO中の理学療法が敬遠されることも少なくない.特に患者が年少児であればあるほど送脱血カニューレの挿入長などから敬遠される傾向があり,開胸管理ではなおさらである.また,小児集中治療医のいない施設でも同様に敬遠される傾向があるように感じる.

しかし,北米をはじめとする国外小児施設のICUでは,ECMO中であっても条件を整えたうえで理学療法を早期から行っている.米国の単施設からの総説1)のみならず英国・アイルランドからは提言2)も出されており,単にECMO中だからという理由で理学療法を躊躇しないことがわかる.近年,集中治療の分野で集中治療後症候群(post intensive care syndrome: PICS)はホットトピックの1つであるが,本邦もECMO後の長期予後・QOLをいかに改善させるかという次のステップへと進む必要があるだろう.

筆者も,実際の臨床現場で漠然としたカニューレの位置変化や計画外抜去に対する不安という言葉が飛び交い,それに対する客観的な評価や対策が十分話し合われないことをたびたび目にしてきた.もちろんECMO flowが安定しない状況や創部からの出血が多い場合などは理学療法を検討することは難しいが,循環ECMOに限って言えばVA-ECMO中は組織酸素供給という点では安定するはずであり,むしろなんとかECMO離脱できたが心拍出量に懸念がある状況などに比べて理学療法を進めやすい状況かもしれない.前述のような現場に懸念・不安の声がある状況で必要な症例に理学療法が進められない場合には,外科的な側面ではカニューレの固定をより確実にするために工夫の余地がないか検討をすべきであるし,内科・集中治療的な側面では患児が苦痛なく理学療法を受けられるように静脈鎮静・鎮痛に工夫の余地がないか検討すべきである.ここにチームとして必要な理学療法をどのように施行していくか理論的に導くのはICUのチームリーダーとしての小児集中治療医の腕の見せ所であろう.

今回の金田論文3)でも筋弛緩薬投与下で安全にECMO中の理学療法は施行可能であった.現場では多くの苦労があったことと推察されるが,安全に理学療法を施行できたことだけでなく,理学療法の実際やそれを行ううえでの工夫,客観的指標を用いた経時的な身体機能評価の報告は本邦の他施設にとっても参考にすべき有用な情報と考える.

なお,筆者が海外臨床留学をした際にも多数の小児ECMO患者を経験したが,筋弛緩薬を使用しているのはごく少数でほとんどの症例は処置時のみの投与だったと記憶している.多くの症例はモルヒネの持続静注のみで管理でき,必要に応じてデクスメデトミジンを併用する程度であり,ベンゾジアゼピンまで使用するのはごく少数であった.その状況下で理学療法は必要に応じて積極的に介入し,安全性に問題はなかったように思う.おそらく本邦において今以上にECMO中の理学療法を浸透させるには,そもそもECMO中の静脈鎮静・鎮痛のあり方を見直す必要があると思う.本邦では心臓手術後のICU管理でフェンタニルの持続静注の頻度が高いように感じるが,ECMO管理中に限って言えばフェンタニルはモルヒネに比して回路に吸着されるなど効率が悪い可能性も知っておくべきであるし,フェンタニルはモルヒネに比して耐性を作りやすいことも知っておきたい.当院ではモルヒネをうまく使用することで開胸下の新生児ECMOであっても筋弛緩薬を使用することなく管理でき,四肢末梢の関節拘縮予防を中心とした理学療法を比較的早期から導入している.今回の金田論文3)にもある通り,筋弛緩薬投与はICU-acquired weakness発症のリスク因子としても知られており,理学療法を進める努力とともにこういった身体機能に関わる合併症のリスク因子を減らす努力も忘れてはならない.

今までの筆者の経験では,開胸下の循環ECMOであったが背側に広範囲の無気肺形成によりECMO離脱が難しいと予想された症例に対し,筋弛緩薬投与下ではあったが腹臥位・呼吸理学療法を行い改善させたこともある.この際には集中治療科のみならず心臓外科やICU看護師をはじめとした多職種の尽力があってこそ安全に成し得たものであった.高度医療は常にリスクとベネフィットが隣り合わせであるが各診療科・多職種でコンセンサスを得て本当に患児にとって必要なことは何か協議し実行に移すことのできるチームダイナミクスも重要である.そして何より理学療法を受ける重症患児とそれを施行する理学療法士が安心して理学療法を継続できるような対策と情報共有を図るように心がけたい.

難易度の高い小児心臓手術と同様に小児に対するECMO管理も数が限られているため施設の経験の差が成績に出る傾向がある.ここでいう成績とは単に生存・死亡だけでなく後遺症なき生存が重要であることを強調しておきたい.ICU退室が目標でなく,患児たちの発達や社会復帰という点まで見据えた管理ができるように心がけていきたいものである.急性期の全身管理の専門家である小児集中治療医がここに寄与する部分は大きいと思われるが,小児集中治療医が増えつつある現在でも本邦では心疾患の管理により精通した小児循環器集中治療医はまだまだ少ない.近年,地域拠点化に向けて本邦も動き始めているが,小児心疾患のICU診療においてリーダーシップを取るべき小児循環器集中治療医を増やすことは急務であろう.本邦でもいくつかの小児心疾患のhigh-volume centerで小児循環器集中治療医が活躍しはじめた現在,小児心疾患のECMO診療では今回の金田論文3)のテーマであった理学療法などを始め,生存はもとよりPICSを最小限にできるような長期予後・QOLを重視した次のステージに進むことを考える時期かもしれない.

注記:本稿は,次の論文のEditorial Commentである.金田直樹,ほか:頸部カニュレーションによる体外式膜型人工肺装着中の患児に対して,合併症なく早期理学療法を施行可能であった一例.日小児循環器会誌2024; 40: 57–63

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