Online ISSN: 2187-2988 Print ISSN: 0911-1794
特定非営利活動法人日本小児循環器学会 Japanese Society of Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery
Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery 40(1): 64-65 (2024)
doi:10.9794/jspccs.40.64

Editorial CommentEditorial Comment

ECMO装着中の小児に対する安全な早期理学療法The Safety of Early Mobilization for Pediatric Patients on Extracorporeal Membrane Oxygenation

宮城県立こども病院 集中治療科Miyagi Children’s Hospital, Department of Intensive Care ◇ Miyagi, Japan

発行日:2024年2月29日Published: February 29, 2024
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重症患者に対する早期リハビリテーションには,入院期間の短縮,筋力低下の予防や軽減,人工呼吸器関連肺炎の発生率低下といった効果があると考えられている.リハビリテーションの意味するものは幅広く,理学療法のほか作業療法や言語聴覚療法などが含まれる.Extracorporeal membrane oxygenation(ECMO)装着中のリハビリテーションは理学療法が基本となり,成人を対象とした本邦のガイドラインでも触れられている1).いっぽう重症小児については,早期リハビリテーションの有効性に関する質の高いエビデンスが少なく,早期理学療法そのものがチャレンジングであるといえる.

安全性という点に目を向けると,pediatric intensive care unit(PICU)内の早期理学療法の安全性はすでに確認されている2).成人の知見ではあるが,内頚静脈からのカニュレーションであればECMO中でも腹臥位は可能とされる3).それゆえ,ECMO装着中の小児であっても,有害事象を懸念して早期理学療法を避ける意義は乏しいと考えられる.しかし,ECMOの送脱血管や気管チューブ,中心静脈カテーテルなどの計画外抜去を懸念して,医療者が理学療法の開始を遅らせているという現実も存在する4)

では,医療者の早期理学療法に対する懸念を軽減する方法はあるだろうか? ケアバンドル,特に早期理学療法のプロトコールの作成は,その有用性が報告されている5).プロトコールの基本コンセプトは「系統立てて患者の状況を評価し,適切な患者に適切な理学療法を選択する」ことで,実際には「適応と禁忌に基づいて患者を選択し,個々の状況にあわせた強度の運動を行う」ことになる.

早期理学療法の絶対的な適応や禁忌は今のところ示されていない.このため,除外基準にあてはまらなければ適応があると判断し,理学療法を実施するのが現実的である.除外基準には,患者・家族の同意が得られない,不安定な循環動態,コントロール不良の疼痛,活動性出血,頚椎不安定や,固定不良の骨折といった項目を設けるのが一般的である.先に述べたとおり,ECMO中の早期理学療法の安全性が確認されるようになったため,(その有効性については議論が必要だが)ECMO装着中という理由だけでは早期理学療法の禁忌にはならないと考えられるようになってきている.また,不安定な循環動態とは,ショックや新規の重症不整脈・心筋虚血,血圧変動が大きい,直近でカテコラミン使用量が増加している状態などのことであり,循環器系の疾患を抱える患者では早期理学療法を避けるべきという意味ではない.

個々の状況に合わせた強度の運動を選択できるように,理学療法の強度をステージングするという方法も有効である.一例として,ステージ1(ベッド上での他動的運動および軽度の体位交換のみ行う),ステージ2(腹臥位を含めすべての体位交換可,頭部挙上可),ステージ3(介助つき座位可),ステージ4(端座位可),ステージ5(ベッド外の運動可)などの分類が考えられる.分類が細かくなりすぎないように配慮し,分類そのものは全症例で統一する(疾患や状態で分類方法を変えない)ほうが運用しやすい.ECMO装着中の小児は持続鎮痛鎮静下におかれている可能が高いので,先に例として述べた分類のなかでは,ステージ1または2の理学療法が選択される可能性が高い.

ここまでは,ECMO装着中の小児に対する早期理学療法を取り巻く,現在の状況をみてきた.そのうえで金田論文6)をみてみると,施設内で用いている除外基準のほか,理学療法の内容や実施方法,ECMO管理に不都合が生じた他動的運動が,一つの症例を通して具体的に示されている.これから理学療法を取り入れる施設や,すでに早期理学療法を開始しているものの経験の浅い施設にとっては,有益な情報が多いと思われる.

最後に,金田論文の主題からは外れるが,安全に早期理学療法を実施するうえで医療者の教育も重要である.忙しい日常業務の中でリハビリテーションだけに長い時間を割くことは難しいと思われるので,早期理学療法の安全性や有効性,特に早期から理学療法を始めることの重要性について,医療者間での知識・認識の格差を埋めることに注力するのが実際的であろう.まずは,各職種で早期理学療法に中心的にかかわる人物を選定して集中的に経験を積ませ,ほかのスタッフへと経験を広げていくという方法も考えられる.現時点ではチャレンジングと思われる重症小児に対する早期理学療法を,質を担保しつつ安全に実施するには,理学療法士や医師,看護師を含むチームとして取り組むことが欠かせない.本邦においても,重症小児に対する積極的な,かつ安全な早期理学療法が広く浸透していくことを強く望む.

注記:本稿は,次の論文のEditorial Commentである.金田直樹,酒井 渉,茶木友浩,ほか:頸部カニュレーションによる体外式膜型人工肺装着中の患児に対して,合併症なく早期理学療法を施行可能であった一例.日小児循環器会誌2024; 40: 57–63

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