谷内論文に対するEditorial CommentEditorial Comments for the Yachi’s Case Report
東京歯科大学市川総合病院 小児科Depertment of Pediatrics, Tokyo Dental College Ichikawa General Hospital ◇ Chiba, Japan
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谷内論文は,複雑な先天性心疾患を伴わない無脾症候群症例のケースレポートである1).稀ではあるが,複雑心疾患を伴わない無脾症候群が存在することを,リアリティをもって読者に提示したことに意義があると感じる.また,無脾症候群の早期発見に関する示唆を提供している点でも重要な報告である.
無脾症以外に発生異常を伴わない孤発性先天性無脾症候群を,侵襲性細菌感染が生じる前に身体徴候から推測することは困難である.では,複雑心疾患や内臓錯位症候群を示唆するものを除いて,どのような身体徴候,発生異常を持つときに無脾症を疑うべきなのであろうか.
報告症例のひとつの特徴は大動脈弓の発生に関するもの,すなわち右大動脈弓と左鎖骨下動脈起始異常の存在である.本論文中では,大動脈走行異常と無脾症を関連付ける報告は認められなかったと述べられており,本症例と全く同じ組み合わせの症例を,筆者も過去の報告から見いだすことはできなかったが,ほかの大動脈弓の発生異常と無脾症とが併存する症例の報告はあるようである.Georgakarakosらは,重複大動脈弓,Kommerell憩室から起始する左鎖骨下動脈と先天性無脾症との合併例を報告している2).報告のなかで,先天性心疾患を伴わないとは明示されておらず,断定はできないが,おそらく複雑心疾患を伴わない症例と思われる.この報告を併せて考えると,大動脈弓の発生異常を有する場合は無脾症の合併も念頭におくのがよい,という可能性もある.
報告症例のもうひとつの特徴は,消化器系の先天性十二指腸閉鎖,メッケル憩室,鎖肛および呼吸器系の気管支狭窄,気管気管支の存在である.これらについては比較的類似した症例の報告が本論文中にも引用されており,谷内らが述べているように,複雑心疾患でなくても多臓器異常を認める場合は無脾症も念頭において丁寧に診断を進める必要があると思われる.
孤発性先天性無脾症への関与が指摘されているPRSA遺伝子の異常など,報告症例の遺伝学的原因にも興味をそそられる.今後,報告症例に遺伝学的検索を進める機会があれば,ぜひ追加の報告をお願いしたい.
今後も,一例一例の経験が論文を通じて医療者に共有され,先天性心血管疾患の診療の進歩につながることを期待する.
注記:本稿は,次の論文のEditorial Commentである.
谷内裕輔,本多真梨子,竹田義克,ほか:複雑な先天性心疾患を伴わない無脾症候群の7か月女児例.日小児循環器会誌2024; 40: 215–220
1) 谷内裕輔,本多真梨子,竹田義克,ほか:複雑な先天性心疾患を伴わない無脾症候群の7か月女児例.日小児循環器会誌2024; 40: 215–220
2) Georgakarakos E, Karangelis D, Stylianou C, et al: An asymptomatic double aortic arch with separate right vertebral artery and left subclavian artery originating from Kommerell Diverticulum combined with congenital asplenia and absence of celiac trunk. Folia Morphol (Warsz) 2024; 83: 727–733
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