早産低出生体重児へのカテーテル治療Catheter Intervention for Preterm and Low Birth Weight Infants
九州大学病院 小児科Department of Pediatrics, Graduate School of Medical Science, Kyushu University Hospital ◇ Fukuoka, Japan
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佐藤論文1)では,下心臓型総肺静脈還流異常を合併した極低出生体重児の肺静脈狭窄に対するステント留置術および再拡張術について詳述されている.報告された症例では,心内修復術の至適時期まで児の成熟と体重増加を待機することに成功している.先天性心疾患を合併した早産低出生体重児の治療戦略におけるカテーテル治療の適応,手技の実際,合併症管理などに関して示唆を提供するものである.
早産児における先天性心疾患(CHD)の有病率は,因果関係は不明であるが一貫して高いことが報告されている2, 3).Laasらによる大規模調査では,先天性心疾患児が早産となるリスクは,オッズ比2.0と有意に高い結果が示されている4).そして,先天性心疾患を合併した早産低出生体重児の予後は不良である.Costelloらによる971人の先天性心疾患児を対象としたコホート研究では,在胎週数別の早期死亡率は,在胎38~39週で3%,37~38週で7%,そして34週未満では32%であることが示されている5).この予後不良の原因としては,心筋の未熟なカルシウム代謝,肺や中枢神経系を含む臓器の未成熟,易感染性に加え,早期の開心術の成績不良が挙げられる.近年,早産低出生体重児に対する開心手術の成績は改善しつつあるが,それでもなお合併症発症率と死亡率は依然として高い水準にある6, 7).特に在胎週数が37週未満,または出生体重が2,500 g未満の場合,正期産児や正常出生体重児と比較して,手術後6カ月での合併症発症リスクは2倍,死亡リスクは6倍に達する8).このような状況を踏まえると,佐藤らの施設のように開心術を修正35週以降に行う戦略は,予後改善のために妥当であると考えられる.先天性心疾患を合併した早産低出生体重児の死亡率を減少させるためには,(1)早期の開心術を回避し,薬剤や人工呼吸器を用いた全身的サポートによって体重増加や成熟を待機する,(2)待機が不可能な場合には,血行動態を一時的に改善し,臓器への二次的損傷を回避することを目的とした緩和的処置を施す,という戦略に基づいた治療方針の決定が重要である.
心臓カテーテル治療技術の進歩,およびカテーテル機器の小型化を中心とした改良により,先天性心疾患を合併した早産低出生体重児に対するカテーテル治療の重要性は増している.具体的には,心房中隔裂開術(BAS)や心房中隔拡大術,大動脈弁形成術(BAV),肺動脈弁形成術(BPV),大動脈縮窄症へのバルーン治療,動脈管へのステント治療などが行われることが多く,これらは救命処置として,また緩和処置として実施される.2,500 g未満の低体重児に対する心臓カテーテル治療の成功率は83.8~95.6%と高い一方で9, 10),合併症発症率は26~63%と高いことが報告されている7, 11–14).主な合併症としては不整脈,血管損傷,出血,低体温,呼吸抑制があり,重篤な合併症も11~18%に上るとされる13, 15, 16).
早産低出生体重児へ心臓カテーテル治療を実施する際には,多くの注意点を考慮しなければならない.まず,低体重児の非常に小さな体格と細い血管からいかにアプローチするかは,治療を合併症なく完遂する上で極めて重要な課題である.当然ながら血管留置用シースは,可能な限り小径のものが血管合併症を防ぐために重要である.例えば,佐藤らが使用したMerit Prelude Idealシースや,テルモのGlidesheath Slenderは,シースの厚みが薄く,血管損傷リスクを軽減しながら治療選択肢を広げることができる.また,最近では3 Frのシースや3 Frシース対応のカテーテル,バルーンを用いることで,さらに血管合併症を抑制できる.一般的に低体重児でアプローチ血管として使用されるものは,大腿動脈/静脈,頸動脈/静脈,臍帯動脈/静脈がある.頸動脈では穿刺と外科的カットダウンによるシース留置が選択される.臍帯動脈/静脈は生後早期ならではの血管アクセス方法であり,4–5 Frのシースは安全に留置できる.ただし静脈管や臍帯血管が閉鎖する前に行う必要があり,通常生後3日を超えると臍帯静脈の使用は難しくなる9).また,低体重児におけるカテーテル操作は,その小さな血管や小さな心臓により大きく制限される.脆弱な血管壁や心筋にかかる力を最小限に抑え,弁を通過する際には損傷リスクに最大限の注意を払わなければならない.低体重児へのアプローチ方法の決定においては,(1)可能な限り小径のシースを使用し,(2)治療目標の位置や,挿入角度などを入念にシミュレーションすることが,合併症を防ぎ治療を成功させるための鍵となる.佐藤論文の症例では,下心臓型TAPVCの門脈から静脈管にかけての狭窄であり,治療部位や挿入角度を考慮し頚静脈アプローチが選択された.
また,低体重児に使用するバルーンやステントなどのデバイス選択については,できるだけ適応シース径が小さいものが望ましい.さらに,治療部位の形態やアプローチによっては,追従性の高いものや柔軟性のあるデバイスが適している.ステントについては,バルーン拡張型,自己拡張型,冠動脈用薬剤溶出性のものがあり,対象血管のサイズ,形態,アプローチに基づいて最適なものを選択する必要がある.また,治療による短期的な効果だけでなく,再狭窄などの問題やその対処法も事前に考慮すべきである.
早産低出生体重児にカテーテル治療を行う際には,このような技術的な考慮事項に加え,低体温の防止や不安定な呼吸循環の管理が極めて重要である.低体重児は体温調節機能が未熟であり,低体温は循環不全や呼吸障害を容易に悪化させるため,治療中の体温管理には細心の注意を払わなければならない.さらに,カテーテル治療が長時間に及ぶ場合,状態を安定させることが難しくなるため,治療は可能な限り短時間で行うことが求められる.このため,医師のみならず,看護師,臨床検査技師,放射線技師など多職種が連携し,迅速かつ効率的に治療を進めることが不可欠である.各職種が緊密に協力することで,治療の成功率が向上し,合併症のリスクを最小限に抑えることが可能となる.このようなチームアプローチは,早産低出生体重児のような高リスク患者に対するカテーテル治療において,特に重要である.
このように,早産低出生体重児へのカテーテル治療を検討・実施するに当たっては,非常に高度な専門知識と技術が必要で,経験豊富な医療チームや適切な設備が整っている医療機関で行うことが求められる.さらに複雑な心疾患に対するカテーテル治療においては確立した治療方法は存在せず,症例ごとに治療方法を熟考する必要があり,本論文でその経験を共有することは非常に意義があると考えらえる.先天性心疾患を合併した早産低出生体重児に今後カテーテル治療が果たしていく役割は大きいと思われるが,重大な合併症を生じるリスクを忘れてはならない.病状の重篤さや緊急度,代替治療法の有無,リスクとベネフィットの比較を十分に検討しカテーテル治療の適応を判断するべきあることは言うまでもなく,家族の意向や価値観を尊重した治療方法の選択も重要である.
注記:本稿は,次の論文のEditorial Commentである.
佐藤大二郎,金 成海,石垣瑞彦,ほか:早産極低出生体重児の肺静脈閉塞を伴う下心臓型総肺静脈還流異常に対するカテーテル治療.日小児循環器会誌2024; 40: 204–211
1) 佐藤大二郎,金 成海,石垣瑞彦,ほか:早産極低出生体重児の肺静脈閉塞を伴う下心臓型総肺静脈還流異常に対するカテーテル治療.日小児循環器会誌2024; 40: 204–211
2) Rosenthal GL, Wilson PD, Permutt T, et al: Birth weight and cardiovascular malformations: A population-based study. The Baltimore-Washington Infant Study. Am J Epidemiol 1991; 133: 1273–1281
3) Tanner K, Sabrine N, Wren C: Cardiovascular malformations among preterm infants. Pediatrics 2005; 116: e833–e838
4) Laas E, Lelong N, Thieulin AC, et al: EPICARD Study Group: Preterm birth and congenital heart defects: A population-based study. Pediatrics 2012; 130: e829–e837
5) Costello JM, Polito A, Brown DW, et al: Birth before 39 weeks’ gestation is associated with worse outcomes in neonates with heart disease. Pediatrics 2010; 126: 277–284
6) Ades AM, Dominguez TE, Nicolson SC, et al: Morbidity and mortality after surgery for congenital cardiac disease in the infant born with low weight. Cardiol Young 2010; 20: 8–17
7) Cheng HH, Almodovar MC, Laussen PC, et al: Outcomes and risk factors for mortality in premature neonates with critical congenital heart disease. Pediatr Cardiol 2011; 32: 1139–1146
8) Alarcon Manchego P, Cheung M, Zannino D, et al: Audit of cardiac surgery outcomes for low birth weight and premature infants. Semin Thorac Cardiovasc Surg 2018; 30: 71–78
9) Varan B, Tokel N, Yakut K, et al: The results of interventional catheterization in infants weighing under 2,000 g. Turk Gogus Kalp Damar Cerrahisi Derg 2019; 27: 304–313
10) Mostefa-Kara M, Villemain O, Szézépanski I, et al: Cardiac catheterisation in infants weighing less than 2500 grams. Cardiol Young 2019; 29: 689–694
11) Simpson JM, Moore P, Teitel DF: Cardiac catheterization of low birth weight infants. Am J Cardiol 2001; 87: 1372–1377
12) McMahon CJ, Price JF, Salerno JC, et al: Cardiac catheterisation in infants weighing less than 2500 grams. Cardiol Young 2003; 13: 117–122
13) Karagöz T, Akın A, Aykan HH, et al: Interventional cardiac catheterization in infants weighing less than 2500 g. Turk J Pediatr 2015; 57: 136–140
14) Rhodes JF, Asnes JD, Blaufox AD, et al: Impact of low body weight on frequency of pediatric cardiac catheterization complications. Am J Cardiol 2000; 86: 1275–1278, A9
15) Kobayashi D, Sallaam S, Aggarwal S, et al: Catheterization-based intervention in low birth weight infants less than 2.5 kg with acute and long-term outcome. Catheter Cardiovasc Interv 2013; 82: 802–810
16) Sutton N, Lock JE, Geggel RL: Cardiac catheterization in infants weighing less than 1,500 grams. Catheter Cardiovasc Interv 2006; 68: 948–956
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