4D flow MRIと外科手術戦略
1 名古屋市立大学 心臓血管外科
2 株式会社Cardio Flow Design
心臓MRIはfull volumeで心臓の拍動を3次元的に追跡が可能であり,特に位相コントラスト法での血流計測は複雑な解剖においても心血管内腔の血流を計測可能である.心電同期シネ位相コントラスト法3方向をfull volumeで適用した4D flow MRIでは血行動態と心機能を同時に評価できる.特に超音波カラードプラの到達しにくい大血管や右心系では大きな力を発揮する.先天性心疾患の外科手術においては,左右心室機能および駆出率,体肺循環血行動態について心血管内腔での異常加速血流の部位や程度,血管分枝流量,弁逆流量を3次元的に定量評価することで,どこの部位にどう介入するべきかを明確にできることが4D flow MRIの利点の一つである.血流解析にはシミュレーションによる可視化方法もあり,コンピュータ・グラフィックスと重ね合わせることにより手術設計支援が可能である,これは術後血行動態を予測できるが,実計測に基づく4D flow MRIとの照合が有益となる.
Key words: congenital heart surgery; blood flow imaging; 4D flow MRI; computational fluid dynamics simulation; extra-anatomical reconstruction
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心臓MRIは心臓超音波検査と同様に放射線被ばくがなく造影剤も不要な非侵襲的画像診断検査であり,3次元で心臓をfull volumeでスキャンできることは複雑な解剖を有する先天性心疾患では大きな利点である.心臓の役割は赤血球に結合した酸素を全身の細胞に供給することであるため,血液の流れ,すなわち『血流』をみることは先天性心疾患に限らず心疾患の治療において必要不可欠な検査であると言える.循環器診療の現場において心エコーはB modeで心臓の形態や構造の観察や計測,壁運動などの解析に加え,カラードプラを用いて弁逆流や異常加速血流の診断において有用な診断法である.超音波と比較すると,心臓MRIにおいても形態評価に加え,位相コントラスト法(phase contrast MRI)を用いて,心エコーと同様に血流を評価することが可能である1, 2)
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位相コントラスト法は傾斜磁場を反転させた際に発生するプロトンの歳差運動の位相差がプロトンイオン,すなわち水分子の運動速度に比例することを原理とした画像スキャン方法で,空間観測点でのプロトンイオン歳差運動位相差が速度情報となる.このことを循環器医にとってより身近な超音波での血流計測と比較して説明する.超音波カラードプラ同様,速度情報が計測断面でマッピングされるのと同じであるが,位相コントラスト画像ではその速度場は赤青ではなく白黒である(Fig. 1上段).超音波カラードプラがドプラの原理に基づき,超音波の入反射波の複素位相変位を血流速度としてとらえるのと似ていて,MRI位相コントラスト法でも定められた速度上限を360°(2π)の複素位相に割り当てるため,超音波カラードプラ同様に位相コントラストMRIでも折れ返し現象が発生する.一般に超音波カラードプラでの速度上限をNyquist limitと呼ぶのに対して,位相コントラストMRIでの速度上限をVenc(velocity encoding)と呼び,スキャンパラメータを調整することにより5 m/s程度の血流速度まで上げることができ,かなり高い速度レンジを細かい分解能をMRI装置側で設定することが可能である1, 3)
.時間空間分解能に関しては心エコーのB modeやパルスドプラが高い時間分解能を有するのに対して,位相コントラストMRIはせいぜい20~40 Hz程度の血流速度分解能しかなく,また空間分解能は現行の装置では1~2 mm程度であり,voxel解像度やframe rateは装置側の設定によりある程度細かくすることは可能ではあるが,そのぶんだけ撮像時間が長くなるという欠点がある.
上段:通常のCine MRI (SSFP: steady state free procession法)での心臓MRIの計測と,MRI位相コントラスト法.位相コントラスト法では傾斜磁場方向(in plane 2方向やthrough-plane方向,前後(AP), 上下(FH), 左右(RL)方向など)での血流速度分布を計測. 中段:4D flow MRIでの血流解析.血流速度ベクトル表示や3D流線表示などが可能である.また,任意の断面について断面通過流量を計測することが可能である.例えばFallot四徴症心内修復後成人期の肺動脈弁疾患などでは主肺動脈の通過流量から弁逆流量を定量評価することが可能である. 下段:4D flow MRIによる心機能評価,定量評価.4D flow MRIは通常のcine MRIと重ね合わせることにより心機能も同時に評価することが可能である.先天性心疾患修復後の成人期などでは右室の容積や駆出率の3次元的な定量が治療方針決定に極めて重要な意義を有することもまれではない.
位相コントラスト法MRIでは通常断面内血流速度計測としてin-plane2方向の血流速度計測と断面に直行する断面通過速度計測としてthrough-plane方向の血流計測が可能である.例えば大動脈と肺動脈を短軸で切る断面を設定して大動脈と主肺動脈をthrough-planeとして計測すると,心内短絡疾患などでの体肺血流量比などを求めることができることが知られている3, 4)
.また大動脈弁や肺動脈弁の逆流量をこのようにして心拍出量と同時に計測することも可能である4, 5)
.しかし計測したい血管を見つけるごとに断面を選定して計測していると撮像時間が増える欠点があり,in-plane2方向とthrough-planeの3直行方向での位相コントラスト法による血流計測を心臓全体でfull volumeで行ったものを3D time-resolved cine phase contrast MRIと呼び,4D flow MRIと呼ばれる1, 5)
.心臓の形態や位置にかかわらず多断層矢状断などで心臓のfull volumeを位相コントラスト法でスキャンすれば4D flow MRIを撮ることができる.この方法は超音波カラードプラとは異なり,3次元的であるだけでなく,空間的に等方に計測が可能であり(Cartesian座標系),速度計測としても傾斜磁場を前後,左右,上下(AP, RL, FH方向)にかけて計測すれば3方向の血流が計測可能である(Fig. 1中段).このため血流を必要な断面を取得してその計測断面内のベクトルで表示したり,あるいは3次元的に流線で表示したりする血流解析が可能である.位相コントラストMRIはS/N比(signal to noise ratio)が一般に低く,画像が鮮明ではないという問題があるが,もしこれらの同一断面でのSSFP(steady state free procession)でのcine MRIをスキャンし,4次元座標の合わせこみから心血管内腔を抽出すと造影剤を用いなくても十分に心拍動が追跡できる4, 5)
.この方法により,いかなる複雑な解剖であっても腎機機能障害を気にすることなく,心機能と血行動態を同時に評価することが可能である(Fig. 1下段).
複雑な解剖をしている先天性心疾患では,上述のようにcine MRIモードと4D flow MRIを重ね合わせることにより心室容積および駆出率,弁逆流量,逆流率,分枝流量,心血管内腔での加速血流の部位と程度が系統的に把握できることは極めて意義が大きい(Fig. 1下段).例えば近年,Fallot四徴症心内修復後の遠隔期肺動脈弁逆流などの問題が成人先天性心疾患(ACHD: adult congenital heart disease)ではしばしば問題になっているが,もちろん4D flow MRIは心エコーでは容易ではない右心容積の3次元的な定量や肺動脈弁の逆流を定量的に評価することが可能であるが,加えて高度な加速血流の部位や乱流音発生部位などが同定でき,心負荷を軽減するためにどのような治療を行うべきか方針が明瞭になる点が大きな利点である3, 6)
.例えば筆者らは先天性心疾患修復後の肺動脈弁疾患において収縮期狭窄血流のもたらす右室後負荷と拡張期逆流血流のもたらす右室前負荷を統合した指標としてのエネルギー損失が手術前後で軽減することを示してきた3, 6)
.近年の報告では,特に拡張期でのエネルギー損失は右心機能と大きなかかわりがあることが示されている7).
エネルギー損失等の血行動態の指標も重要ではあるが,血流の様相から血行動態がシステマティックに把握できることも重要である.例えばFig. 2はFig. 1で表示した高度肺動脈弁逆流を有するFallot四徴症1弁付きパッチでの修復後の30代女性の血流であるが,収縮期血流はやや拡大した右室から右肺動脈への流線が途絶し,同部位の2Dでの断面では狭小な肺動脈に高度な加速血流が存在していることがわかる.この症例では肺動脈弁を生体弁に置換しただけでは右室負荷が十二分に軽減されない可能性があり,狭窄のある右肺動脈を十分広げる必要がある.太い上行大動脈に圧排された右肺動脈を広げるためには上行大動脈をいったん離断し,右肺動脈をリング付き人工血管で再建し,右室流出路を弁付き人工血管で再建したのちに上行大動脈を再建した.このような手術によって右肺動脈が拡大すると同時に十分な血流が得られている様相が見て取れる(Fig. 2下段).このように4D flow MRIは術前の血行動態評価,術後の血行動態評価をまるで超音波カラードプラが自由自在に心血管内のいかなる解剖においても届くかのように検査できる強みがある.また,例えばFig. 3は10代後半の肺動脈閉鎖心室中隔欠損症(Fallot四徴症肺動脈閉鎖)におけるRastelli手術後の高度導管狭窄例であるが,心臓カテーテル上は導管での引き抜き圧較差が発生しており,弁付き導管交換の適応となった.術前の4D flow MRIでは右室流出路に異常筋束が発達し,これが流出路加速血流の始まりであることがわかり,弁付き導管交換の際に異常筋束を十分切除する必要性がよく理解できる.実際に術中所見でも異常筋束は発達しており,これを十分開放することで,例えば将来弁付き導管の弁機能不全を来した際にインターベンションでの経カテーテル肺動脈弁置換術が可能になるなど,将来の治療の選択肢を考えるうえで重要な情報を得られることがわかる.
上段:Fig. 1と同一症例でFallot四徴症一弁付きパッチでの修復後の30代女性の収縮期3Dでの流線.高度な肺動脈弁逆流に加えて右肺動脈の流線が高度に加速したうえで途絶していることがわかる.極めて強いbranchのPSであり,画像上も上行大動脈背側に狭小な右肺動脈を認める. 中段:術中所見.上行大動脈はいったん離断し,狭小な右肺動脈を末梢で離断.リング付き人工血管で右肺動脈を再建し,生体弁を挿入した人工血管で右室流出路再建,上行大動脈を人工血管で延長. 下段:術後4D flow MRI.良好に収縮した右室から流量の多い肺動脈血流が得られていると同時に流線は右肺動脈末梢まで繋がり,右肺動脈は大きく拡大していることがわかる.
上段:Fallot四徴症肺動脈閉鎖に対してRastelli型の修復手術を行った遠隔期10代後半の女性の収縮期右室内血流.Rastelli導管の肺動脈弁位での狭窄に加えて右室内の太い異常筋束が存在し加速血流の発生源となっていることがわかる. 中段:術中所見.前回のRastelli導管を外すと右室流出路には太い異常筋束が存在し,これを切除し,新たな弁付き導管を右冠動脈の圧排に留意し少しトルクをかけて左側へなだらかなカーブを描くようにして再建. 下段:術後4D flow MRI所見.右室内異常筋束は消失し,高度な加速血流はほとんどなくなだらかな血流が得られていることがわかる.
先天性心疾患では解剖が複雑なだけでなく,短絡疾患での体肺血流量の定量評価や,弁機能の評価,心室機能評価,右室流出路や左室流出路の血流が合理的かどうか,末梢側の大動脈や肺動脈の血流が十分であるかどうかなど,多様な血行動態の問題があり,これらを十二分に検討できることが4D flow MRIの強みである.
4D flow MRIは上述のように計測による血行動態の診断モダリティであるが,一方で血流解析は上述のように治療のプランニングという側面が強く,特に外科医療の現場では診断に加えて治療の設計が重要で,解剖に変異が多い先天性心疾患ではその側面がかなり強い.血流解析には4D flow MRIや超音波VFM(vector flow mapping)のように診断機器での計測情報に付加的に解析を追加して行う方法もあれば,コンピュータを用いた数値流体力学シミュレーション(CFD: computational fluid dynamics)のように計算に基づき血流をシミュレーションする方法もある.シミュレーションは計算として行うため時間空間分解能などの精度はコンピュータメモリの限界まで高めることが可能であるという利点がある一方,可視化される血流はあくまで計算結果であり計測ではないため血流は計算の仮定に依存するため,生理学的に妥当な仮定を設定し,かつ実測としっかりと検証する必要があるという限界もある8–10)
.しかし例えば血管の断端に反射波を組み込むなどの計算過程を行った場合8, 10)
,実際に4D flow MRIで計測された血流と比較しても十分現実的な血流速度分布を計算上得られることや9, 10)
,カテーテル上での計測圧波形と比較しても十分生理学的な波形が計算上得られること8)が示される.一方でこのようなCFDシミュレーションはシミュレーションであるがために例えば手術などの際に仮想的に血管吻合の形態を想定して手術後の血流動態を予測する5, 10)
ことも可能である(Fig. 4).これらを術前CTなどと重ね合わせることにより,心血管構造だけでなく,周囲の気管や骨格などとの解剖学的位置関係から十分に成立する術式であるかどうかは外科手術では極めて重要であり,現実的な術式の中でより安定な血行動態を得られるように手術を設計することができると筆者らは考えている.Fig. 4は心室中隔欠損症閉鎖後,未治療大動脈縮窄症の10代女性であるが,4D flow MRIにより縮窄部位の血流の加速,およびその後方での流れの剥離を伴う血流を認め,ドブタミン負荷で顕著な圧較差を発生したため,動脈管組織の迷入を疑わせる縮窄部位の完全切除および人工血管での遠位弓部再建を行ったが,その際人工血管サイズや左鎖骨下動脈の再建を分枝付き人工血管で非解剖学的に再建することをシミュレーションで設計したものである.術後のCTからこのような設計が有益な疾患が存在することがわかる.
A: 心室中隔欠損閉鎖後未治療大動脈縮窄症の10代後半の大動脈血流の4D flow MRI.縮窄部位で加速血流を発生し,その後方で流れの剥離を伴う渦流を形成し狭窄後拡張の要因となっている.ドブタミン負荷で顕著な圧較差を発生したため手術となった.B: CG技術に基づく手術設計支援とCFDシミュレーションに基づく術後血流動態予測.術前CTに基づき気管との解剖学的位置関係や胸腔内スペース,鎖骨下動脈の分枝部などを検討し,術後大動脈形状を設計し,シミュレーションを施行.C: 術中所見.遠位大動脈弓をフェルトで補強し20 mm一分枝つき人工血管で遠位弓部下行大動脈を再建,動脈管組織はすべて切除.左鎖骨下動脈は分枝から再建した.D: 術後造影CTのvolume rendering画像.
4D flow MRIは非侵襲的に血行動態と心室機能を左右両心室で,体肺循環で系統的に検証できる診断モダリティであり,複雑な解剖を有する先天性心疾患やその修復後遠隔期の心機能の問題を系統的にアセスメントできる新しい血流解析ツールである.心室容積・駆出率・加速血流の存在部位と程度,血管分枝流量,弁逆流量などを3次元的に定量評価できることは先天性心疾患の病態のアセスメントに新たな視点をもたらすものである.血流解析には4D flow MRIを代表とする計測に基づく血流動態可視化方法のほかにもCFDシミュレーションなどによる計算技術に基づく血流可視化方法もあり,これはコンピュータ・グラフィックス(CG)技術と組み合わせることで手術加療後の血流動態を予測することが可能となり,外科手術を設計支援する新たなツールとなりうる.
筆者は株式会社Cardio Flow Designの創設者で株主である.
本研究はAMED医工連携事業化推進事業,KAKEN基盤研究(B)の支援でなされた.
1) Itatani K (ed): Advances in Hemodynamic Research. Nova Science Publisher, 2015
2) 板谷慶一,宮地 鑑:【技術講座:血流を診る】超音波VFM(Vector Flow Mapping) 検査と技術2013; 41: 1126–1132
3) 宮崎翔平,板谷慶一,宮地 鑑:【技術講座:血流を診る】MRI血流解析方法の基本 検査と技術2013; 41: 1218–1223
4) Nakaji K, Itatani K, Tamaki N, et al: Assessment of biventricular hemodynamics and energy dynamics using lumen-tracking 4D flow MRI without contrast medium. J Cardiol 2021; 78: 79–87
5) Itatani K, Sekine T, Yamagishi M, et al: Hemodynamic parameters for cardiovascular system in 4D flow MRI: Mathematical definition and clinical applications. Magn Reson Med Sci 2022; 21: 380–399
6) Itatani K: When the blood flow becomes bright. Intraventricular flow patterns: From normality to pathology. Eur Heart J 2014; 35: 747–752
7) Shiina Y, Nagao M, Itatani K, et al: 4D flow MRI-derived energy loss and RV workload in adults with tetralogy of Fallot. J Cardiol 2024; 83: 382–389
8) Goto S, Nakamura M, Itatani K, et al: Synchronization of the flow and pressure waves obtained with non-simultaneous multipoint measurements. Int Heart J 2016; 57: 449–455
9) Itatani K, Miyazaki S, Furusawa T, et al: New imaging tools in cardiovascular medicine: Computational fluid dynamics and 4D flow MRI. Gen Thorac Cardiovasc Surg 2017; 65: 611–621
10) Miyazaki S, Itatani K, Furusawa T, et al: Validation of numerical simulation methods in aortic arch using 4D Flow MRI. Heart Vessels 2017; 32: 1032–1044
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