Online ISSN: 2187-2988 Print ISSN: 0911-1794
特定非営利活動法人日本小児循環器学会 Japanese Society of Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery
Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery 40(1): 17-26 (2024)
doi:10.9794/jspccs.40.17

ReviewReview

ACHDのカテーテル治療現在まで,そして未来へCatheter Intervention for Adult Congenital Heart Disease: Present and Toward the Future

1東京女子医科大学 循環器内科Department of Cardiology, Tokyo Women’s Medical University ◇ Tokyo, Japan

2東京女子医科大学 循環器小児科・成人先天性心疾患科Department of Pediatric Cardiology and Adult Congenital Cardiology, Tokyo Women’s Medical University ◇ Tokyo, Japan

発行日:2024年2月29日Published: February 29, 2024
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成人先天性心疾患に対するカテーテル治療は急速に進歩している.成人先天性心疾患診療の必要性が叫ばれて久しく,カテーテル治療も成人例の治療数が増加傾向となっている.先天性心疾患患者には,成人期に発見されて治療が必要になった患者も存在するが,幼少期の外科手術後に再治療が必要となった患者も多い.成人先天性心疾患診療において,エビデンスが確立された薬物治療が十分に存在せず,多くが構造的異常によるため,外科手術を含めた侵襲的介入が主な治療法となる.再治療においては,再度の開胸手術を回避するべくカテーテル治療が望まれる例が多く存在し,重要な治療選択肢になると考えておりここに寄稿する.本稿では,主に成人期に行われるカテーテル治療に関して,これまでに日本で多くの経験数があるものから,近年治療がスタートした経カテーテル肺動脈弁留置術について,また上位静脈洞型心房中隔欠損症に対するカテーテル治療など筆者が実際に海外で経験し,今後日本に導入が期待される治療まで幅広く紹介する.

Catheterization for adult congenital heart disease (ACHD) is rapidly progressing. In Japan, the number of ACHD patients has far outpaced that of pediatric patients, and the need for catheterization for ACHD is growing. In particular, catheterization is a useful tool for long-term postoperative structural problems for which effective medical therapy is limited. It can lower the risk of repeat open heart surgery while also providing minimally invasive treatment. This paper discusses catheterization procedures that are well-established in Japan, such as ASD closure and PDA closure, as well as those that are likely to be introduced in Japan in the future, such as transcatheter correction of superior sinus venosus atrial septal defects.

Key words: adult congenital heart disease; atrial septal defect; transcatheter pulmonary valve implantation; stent implantation

はじめに

成人先天性心疾患(adult congenital heart disease: ACHD)患者数の増加とACHD診療の重要性が叫ばれて久しい.多くの患者が成人期に達し,術後30~40年以上を経過してきている現在,修復術後の症例の中には遺残症や続発症に対する再評価を要する例が少なくなく,一部の症例は再手術を含めた侵襲的治療を要する.このようなACHD診療においては,薬物治療の十分なエビデンスが確立されにくいなか,再開胸手術困難や手術リスクの高さから,カテーテル治療が強く望まれる場面に多く遭遇する.一方,成人期に発見されたACHD患者群も,カテーテル治療では,高年齢の要素にとらわれすぎずに治療選択が取れる利点がある.カテーテル治療は,近年急速な発展を遂げており,以前は年齢や身体的,精神的な合併症などから開胸手術を躊躇されていた症例に対しても低侵襲にアプローチが可能になっている.さらに一部の治療は外科治療に先んじて第一選択の治療方法となっており,今後もカテーテル治療が発展,拡大していくことは想像に難くない.本稿では,日本において十分に実績のある,心房中隔欠損症や動脈管開存症の治療から,近年スタートした治療,今後日本での導入が期待される治療まで幅広く紹介する.

二次孔型心房中隔欠損閉鎖術—肺高血圧症と高齢者での注意点—

心房中隔欠損症(atrial septal defect: ASD)はACHDの約35~40%を占める最も頻度の高い疾患である.成人期まで無症候であることが多く,成人期に発見されることも多い.有意なシャント量,右心負荷を伴うASDは20歳代までは未治療でも自然予後は良好だが,40歳代を過ぎると心不全死が増加し生存率は急激に低下する1, 2).よって多くの症例でASD閉鎖の利点があり3),現在は二次孔欠損型で解剖学的に適合すればカテーテル治療が標準治療となっている.わが国では,2005年に最初の経カテーテル閉鎖栓としてAmplatzer septal occluder(アボットメディカルジャパン合同外社)が認可され,カテーテル治療が開始された.現在では国内の治療認可施設が85施設(2021年)と拡大し,もともと日本先天性心疾患インターベンション学会(JCIC=旧JPIC)認定施設から治療が開始されたが,日本心血管インターベンション治療学会(CVIT)認定の成人循環器施設が増加しほぼ同数になっている.

治療デバイスも,2016年にFigulla Flex II(日本ライフライン社)が二つ目の閉鎖栓として認可され,2021年からは三つ目としてGORE CARDIOFORM ASD occluder(GCA)(日本ゴア合同会社)が認可された.

現在の閉鎖栓の日本でのサイズ展開から,欠損孔径6 mmから38 mmまでの治療が可能となっている.欠損孔は約60%が大動脈近傍に位置しており,多くの例で大動脈辺縁(rim)が5 mm未満の辺縁欠損(不十分)例にあたる.大動脈辺縁が欠損していても閉鎖適応不能とはならず,閉鎖が可能である場合が多い.さらに,後下方辺縁欠損に対する治療成功例の報告もなされており,辺縁の欠損している部位が欠損孔全周の30度未満であれば治療可能との報告もある4).依然として,大動脈辺縁完全欠損例(bald aorta例)や,一次中隔と二次中隔の付着位置が離れた例(malalignment例)は心侵食のリスクと考えられており5),慎重なデバイス選択,留置が必要である.2021年から導入されたGCAは,ワイヤーフレームタイプの閉鎖栓で,比較的柔らかい構造の閉鎖栓であり,海外での使用において,これまでに心侵食の報告がない利点がある6).他デバイスと留置の構造が異なり,留置難渋例や不能例があるなど課題は残るが,今後の本邦での経験の蓄積が期待される.

成人例では,若年例に比較し肺高血圧の合併率が高い.20歳未満で中等度以上の肺高血圧を呈する例は1%未満と稀だが,40歳以上となると頻度の上昇を認め,早期の閉鎖が推奨される.閉鎖の基準は肺血管抵抗5wood単位以下で肺体血流比(Qp/Qs)>1.5とされ,5wood単位以上の高度肺高血圧となった例はそのままでは閉鎖禁忌(class III)となるため,現在は肺血管標的治療薬を投与し,肺血管抵抗を低下させたうえで閉鎖を行うTreat & Repair療法が行われている7).評価においては,カテーテル検査のQp/Qsはサンプル採取部位による誤差があり,正確に評価できない可能性があり,心臓MRIによるQp/Qsの算出をスタンダードとする向きもある.またMRIでは右心機能も評価が可能であり,右心収縮能が保たれる例はより安全に閉鎖可能である8)

75歳を超える高齢者に対しても,カテーテル治療により自覚症状が改善した報告9)があり,本治療が比較的安全性が高いことを考えると,高齢という理由のみで閉鎖術を躊躇するものではない.しかし,高齢者,特に左室拡張障害が強い例では閉鎖後の急性の左室容量負荷による心不全発症の危険性があり注意が必要である.予測因子として,サイジングバルーンを用いた閉鎖試験による左室拡張末期圧の上昇を報告している文献も散見されるが十分に証明されていない10).心不全合併例では,術前に適切な体液量のコントロールが必要であると考えられる.ほかにも高齢者ではPlatypnea-Orthodeoxia症候群と言われる,臥位では無症候であるが,座位,立位では右左シャントによる低酸素血症を生じる特殊な病態が存在し,高齢者の寝たきりの要因になることから,適切な診断と閉鎖治療が肝要である.心房間シャント疾患に大動脈手術後や大動脈拡大,亀背などが合併することがPlatypnea-Orthodeoxia症候群の要因として考えられており,立位での低酸素を認める場合,心房間シャント性疾患の可能性を鑑別する必要がある11)

上位静脈洞型心房中隔欠損症+部分肺静脈還流異常症に対するカテーテル治療—欧米からの最新トピックス—

日本における心房中隔欠損症のカテーテル治療は二次孔欠損のみが対象となっているが,現在欧米を中心に上位静脈洞型心房中隔欠損症(sinus venosus ASD: SV-ASD)+部分肺静脈還流異常症に対する上大静脈カバードステント留置による修復術が行われている12).CTから作成した3Dプリントやバーチャルモデルでステント留置により還流異常肺静脈から左房へのルートが作成できる例が対象となる(Fig. 1).実際の手技は,経食道心エコーと透視をガイドに大腿静脈,内頚静脈アプローチで上大静脈にCPステント(NuMED Inc.)などのカバードステントを留置する(Fig. 2a).カバードステント留置によりSV-ASDを閉鎖し,ステント後方に還流異常肺静脈から左房へのルートを作成する.ステントの脱落やステント留置による肺静脈の圧排が問題となる.これまでの報告は少数例に限られるが,上大静脈との接地面が2 cmを切ると脱落のリスクがあり,8 cmを超える長いカバードステントが望まれるためカスタムメイドで作成されている.また6 cmの通常のステント(6 cm CPステント)の場合には,さらに上部にアンカーのためのステント留置が必要である場合がある(Fig. 2b–d).また,肺静脈の圧排に対しては,バルーンサイズ中の肺静脈圧のモニタリングと,造影による形態評価を行い,圧排リスクのある例は肺静脈をバルーン拡張して保護しつつステントを留置する手技が行われている.術後の造影CT検査では,カバードステントの後方に左房への再還流ルートが確認できる(Fig. 3).現在,本治療が世界のトピックとなっており,本治療により適したステントの開発が進められている.

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Fig. 1 3Dプリントモデルとバーチャルステンティングモデル

LA, left atrium; RA, right atrium; RMPV, right middle pulmonary vein; RUPV, right upper pulmonary vein; SVC, superior vena cava

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Fig. 2 留置手技(自験例Evelina London Children’s Hospital*)

(a)7 cm Covered CP stent(カスタムメイド)をSVCに留置.(b), (c)アンカリングのため上部に3.9 cm bare CP stentを留置.(d) 下部を拡張して壁に圧着してシャントを閉鎖した.*日本では未承認

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Fig. 3 術後CT画像

動脈管開存閉鎖術—成人例に特徴的な所見と注意点—

成人例の動脈管開存(patent ductus arteriosus: PDA)は無症状のため放置されていた例や成人期に初めて発見された例など稀ではない.当院での最近10年のPDA閉鎖147例では,32例(22%)が成人例であり,多くの症例が心不全症状を有していた.また成人例は肺高血圧合併例が多く,約40%に合併していた.現在日本においては,Amplatzer Duct Occluder(ADO)I, ADO II, ADO Piccolo(アボットメディカルジャパン合同会社)が動脈管留置に適応となっている.また,動脈管の形態に応じて適応外使用であるが,Amplatzer Vascular Plug(AVP)II, AVP IV(アボットメディカルジャパン合同会社)などが閉鎖に用いられる.

乳幼児期のPDAはKrichenko分類A型(円錐状)が多いが,成人では長いPDA長で分類CやE型の紡錘状の形態を有する症例が増加する.また特に高齢者では,約半数に石灰化病変を伴い(Fig. 4),動脈瘤を呈する症例も経験する.小児例と比較して経胸壁心エコー検査や血管造影での形態評価が困難な例が多く,石灰化の分布や量の評価も含めた造影CTの3次元構築像が治療において有用である.手技においては,小児例と比較して加齢による大動脈の延長によりPDAは大動脈弓部から肺動脈天井に入ることやPDA径に比して肺動脈径が非常に大きいことから,肺動脈側からのワイヤー通過が困難な例が多いため,大動脈側からPDA内にワイヤーを通過させることが多い.さらにADO1を留置する際には肺動脈側でスネアリングしてAVループを作成,最終的に肺動脈側より順行性にアプローチする方法がしばしば用いられる.また石灰化例が多いことから残存シャントが残りやすく,術後の溶血に注意が必要である.また動脈硬化や石灰化を誘因とする大動脈解離の症例が報告されており,慎重なワイヤー操作およびデバイス留置が必要である.

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Fig. 4 石灰化を伴ったPDA

成人例では多く経験する

経カテーテル肺動脈弁留置術—2つのステント弁と治療適応,実際の治療方法—

経カテーテル肺動脈弁留置術(transcatheter pulmonary valve implantation: TPVI)はファロー四徴症を中心とした右室流出路狭窄を有する症例の術後の肺動脈弁閉鎖不全症,また導管置換術後,外科生体弁置換術後の狭窄,閉鎖不全に対するカテーテル治療である.欧米では2000年代から治療が行われており,本邦でも近年遂に導入となった.

ファロー四徴症を中心とした右室流出路形成術後の症例,特に弁輪切開を伴う術式では術後比較的早期から肺動脈弁閉鎖不全症を発症し,術後20~30年を経て心不全状態になることから,半数程度に再治療介入が必要とされる13).しかし,外科生体弁置換術を早期に行うことで,その後の繰り返す再開胸のサイクルに入ってしまうため,治療を先延ばしにしてしまう傾向があった.また右心系は末期心不全になるまで症状が出にくいため,重症肺動脈弁閉鎖不全症があっても放置されてしまう例が多い.カテーテル治療はそのような例に対して,適切な治療時期に低侵襲での治療介入を行うことができ,右心機能の維持や突然死の予防に寄与する可能性がある14).以下適応の異なる2種類のステント弁に関して概略する.

SAPIEN 3(日本エドワーズライフサイエンス株式会社)(Fig. 5)

もともと経カテーテル大動脈弁留置術(transcatheter aortic valve implantation: TAVI)用の弁として開発された.欧米では,2010年代から肺動脈弁位への留置が承認されており,当初の適応は導管に対してだったが,近年では自己組織温存例に対しても多くの留置が行われてきた.日本においては2020年に革新的医療機器条件付早期承認制度を利用して,PMDAの承認を得ている.適応としては,導管置換術後(Rastelli術後)または外科生体弁置換術後の中等度以上の狭窄(圧較差≧35 mmHg)または中等度以上の肺動脈弁閉鎖不全症とされる.また適応は外科手術の施行が困難な症例とされ,心機能低下や過去の胸骨正中切開術が3回以上,45歳以上,肝腎機能障害の合併などが適応項目として挙げられている.さらに適応の導管素材に関しても規定を有し,特に日本で留置の多いePTFE導管に関しては,承認理由となった元の米国での研究データ(COMPASSION Multicenter Clinical Trial)15)で留置症例数が不十分として適応外となっている.また外科生体弁内留置に関しても,外巻き弁など一部の弁は適応外となっている.

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Fig. 5 SAPIEN 3(日本エドワーズライフサイエンス株式会社より提供)

SAPIEN3は,バルーン拡張型ステント弁で,コバルトクロム合金のステント内にウシ心嚢膜弁が縫い付けられており,サイズ展開は20 mmから29 mmまでの4規格となっている.デリバリーシステムは14Fのエクスパンダブルシースを用いる.導管内または生体弁内にSAPIEN3を進め,バルーン拡張により留置する.SAPIEN3はTAVIにおいて最も多くの実績があり,またTPVIにおいても,melody transcatheter pulmonary valve(TPV)(Medtronic Inc.日本未承認)に次いで多くの留置症例数を有する弁である16).強いラディアルフォースを有し石灰化狭窄病変に対しても拡張可能で,ステントフラクチャーも少ないとされる.海外では,導管への留置時は石灰化に起因する右室流出路損傷に備えてカバードステントを前もって留置したうえでSAPIEN3を留置することが多い.日本においては肺動脈弁位に留置可能なカバードステントが存在せず,また石灰化を拡張できる大口径の高耐圧バルーンも承認されていないため,石灰化を伴う導管置換術後の症例に対する治療は困難な状況になっている.また前述のとおり,ePTFE導管は適応外となっており,そもそも適応症例が限られる.

2023年9月現在国内承認は4施設に限られ,2022年の外科生体弁内への1例目の留置から現在までに2例の治療が行われている.今後SAPIEN3 TPVIの日本における発展のために,承認施設や適応となる導管素材の拡大や,カバードステント,高耐圧バルーンの承認が待たれる.

Harmony TPV(日本メドトロニック株式会社)(Fig. 6)

Harmony TPVは肺動脈弁専用の自己拡張型ステント弁である.適応はファロー四徴症を中心とする右室流出路狭窄に対するパッチ拡大術などの自己組織を温存した右室流出路形成術後の遠隔期肺動脈弁閉鎖不全症である.右室流出路の再建方法やパッチの素材は問わないが,背面など一部に自己組織が温存されていることが条件で,人工導管による再建例は対象外である.また,弁形成術のみの例や経カテーテルバルーン拡張術後の肺動脈弁閉鎖不全症も治療適応となる.重症肺動脈弁逆流は心臓MRIでの逆流率30%以上で症状を伴うもの,または無症候でも右室拡大や右心収縮能,運動耐容能の低下を認めるものとされている.外科手術との治療選択に関しては,外科的リスクが高く,外科手術が最善でない症例とされているが,最終的には各施設のハートチームカンファレンスで,外科手術とカテーテル治療の最善解を導くこととなる.Harmony TPVは自己拡張性のナイチノールフレームで,ブタ心嚢膜弁が縫着されている.フレームは比較的柔らかく,狭窄を拡張するようなラディアルフォースがない代わりに右室流出路の破裂や背部の冠動脈圧排のリスクが極めて少ない17).また様々な形態を有する右室流出路に適合可能である.サイズ展開はHarmony TPV 22 mmと25 mmの2サイズでぞれぞれのサイズはステント中央部,弁の収納部の大きさとなっており,右室流出路側のサイズとしては23 mmから48 mmまで適応可能で,実際の治療適合性に関しては心電図同期CTをもとにしたFit analysis(日本メドトロニック株式会社)により判断する(Fig. 7a). 25Fのデリバリーシースで右または左肺動脈までHarmony TPVを持ち込み,アンシースによりデバイスを展開,留置する比較的シンプルな構造となっている.左右肺動脈分岐付近からステント弁を展開し,計6つあるジグ(Row 1–6)を順次展開して留置を行う(Fig. 7). 2023年3月の国内1症例目の治療から,2023年9月現在,国内の治療数が100例を超えて施行されている.実施可能施設も24施設となっており,今後の本治療の拡大が期待される.現在,世界的にはカテーテル治療が第一選択となっている風潮であるが,日本での方向性を考えていく必要性がある.加えて,まだ不明なHarmony TPVの長期耐久性,また弁機能不全時のカテーテル弁の再留置に関する日本での承認が今後の課題である.海外ではカテーテル弁の再留置に関する報告が認められ18),またほかの自己拡張型弁であるが,留置後10年に達する例も存在しており,成績の報告が待たれる.

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Fig. 6 Harmony TPV(日本メドトロニック株式会社より提供)

Harmony TPV 25

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Fig. 7 Harmony TPV留置(自験例)

(a)Fit analysis reportより抜粋.左右の肺動脈形態,主肺動脈の形とステントの十分なオーバーサイズを示すランディングゾーンなどを確認する.(b–d)Row 1–6の展開像.肺動脈造影を行い,予定留置位置を確認しつつ展開する.(e)コイルローディングシステムの離脱.Harmony弁の留置となる.(f)最終造影で良好な弁機能を確認.

末梢肺動脈狭窄—ステント使用不能の現状—

末梢肺動脈狭窄に対するバルーン拡張は小児領域でより多く施行されており詳細は割愛するが,現在我々が抱える問題点について言及する.これまで成人の肺動脈に対して国内で唯一使用可能なPALMAZ large(P1808, P3008)ステント(コーディスジャパン合同会社)が2023年7月をもって生産中止となっている.現在国内で肺動脈に留置可能なステントが存在しない状態となり,バルーン拡張が無効な症例に対するカテーテル的な選択肢がない.海外ではCPステント(NuMED Inc.)をはじめとして,複数のステント選択肢が存在しており,本邦でもCPステント導入を目的として医師主導治験が終了しており,現在小児循環器学会,日本先天性心疾患インターベンション学会から早期承認に関する要望を国に対して提出している状況である.

大動脈縮窄に対するステント留置術

単純型大動脈縮窄症では狭窄度によっては幼少期に診断されず,成人期まで無症候で経過し,比較的若年からの難治性高血圧として漫然と降圧剤が投与されることがある.結果として高血圧に伴う心・脳血管障害といった重篤な合併症を発症してから発見されることもある.そのため若年の難治性高血圧では必ず鑑別に挙げるべき疾患である.通常四肢血圧の測定により鑑別が可能で,造影CTやMRIで確定診断される.また幼少期に手術やカテーテル治療が施行され,再狭窄を生じた例も治療対象となる.適応は圧較差20 mmHg以上であるが,側副血行路の発達により圧較差が十分に病態を反映しない場合があり,心機能低下を伴う例などは同様に治療適応とする.開胸手術も適応となるが,成人例においては特に側副血行路の発達による出血リスクが高く,カテーテル治療が望まれる.治療法は成人に関しては基本的にステント留置となるが,日本には適応となるステントが存在せず,胆管留置が適応となるPALMAZ XL(P4010)ステント(コーディスジャパン合同会社)が適応外で使用されてきた.前述のようにPALMAZステントは生産中止となっており,今後の治療に関しては,新たなステントの承認を待つことになる.治療はステントを乗せたバルーンの拡張によるステント留置で手技は単純なものになるが,大腿動脈から最低11Fの大口径シースを挿入するため,血管合併症に注意が必要である.また縮窄部の拡張に際して大動脈解離や破裂の報告があり,海外ではカバードステントの留置が主流となっている.治療後は,1/3の症例の高血圧が改善し降圧剤が不要となるが,1/3から2/3の例は高血圧が残存し,引き続き合併症への対策が必要であるとされる19, 20)

その他のカテーテル治療—自験例からの症例報告—

ACHDカテーテル治療は前述したものに加えて,先天性心疾患の多様性により,カテーテル手技も多岐にわたる.当院,また私の留学先であったEvelina London Children’s Hospitalで経験したACHDカテーテル治療の症例に関して報告する.

症例1は40歳代男性.診断は完全大血管転位症で生後7か月時にセニング手術が施行された.小児期からバッフルリークを指摘されていたが無症状のため経過観察されていた(Fig. 8a). 10年前から心不全入院歴があり,当時から肺高血圧を指摘されていた.肺血管標的治療薬3系統が導入され,バッフルリークによる左右シャントによりQp/Qs 2.3, PVRI 3.7wood単位·m2であった.また,体心室右室収縮能40%と低下を認めているが,三尖弁逆流は軽度であった.左室の拡大を認めており閉鎖適応と考え,開心パッチ閉鎖術を行った.術直後は経過良好であったが,1週間時の心エコーフォローでパッチ閉鎖部の左上方1/3が外れた状態であった(Fig. 8b).同部位に対して慎重にバルーンサイズ(Stop Flow)を行い,16.5 mmであったためAmplatzer Septal Occluder 18 mmの留置を行い閉鎖に成功した(Fig. 8c).

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Fig. 8 完全大血管転位症,セニング術後のバッフルリークに対するカテーテル閉鎖(自験例)

(a)術前経胸壁心エコー,造影CT: 下大静脈血流路近傍に4×3 cm大のバッフルリークあり.開心パッチ閉鎖が行われた(0.4 mm Gore-Texパッチ縫着).(b)術後経胸壁心エコー,経食道心エコー:残存リーク.3Dエコーでは,左側1/3の離開を確認.(c)カテーテル時の経食道心エコー,カテーテル画像:リーク部をバールーンサイズし,Amplatzer Septal Occluder 18 mmを留置して閉鎖.LA, left atrium; RA, right atrium; TTE: transthoracic echocardiogram

症例2は20歳代男性.外傷時に施行された造影CTで偶発的に部分肺静脈還流異常症,シミター症候群と診断された.3DCTでは,下大静脈に還流する右下肺静脈(シミター静脈)を認めるが,還流直前に,Uターンする形で分岐する血管を認め,蛇行して左房に還流しており,二重還流型(シミター亜型)と診断された(Fig. 9a).シミター静脈の閉鎖により左房への正常な還流ルートのみに修正できると考え,シミター静脈に対してAmplatzer muscular VSD occluder 18 mm(Abbott Medical日本未承認)を留置して修復に成功した(Fig. 9c).

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Fig. 9 シミター亜型の部分肺静脈潅流異常症に対するカテーテル治療(自験例Evelina London Children’s Hospital*)

(a)下大静脈(IVC)に還流する右下肺静脈(シミター静脈)を認める.IVC還流直前に,Uターンする形で分岐する血管を認め,蛇行して左房に還流している.(b)バルーンテスト閉鎖で肺静脈血の左房への還流を確認.(c)Amplatzer muscular VSD occluder 18 mmをシミター静脈に留置して経カテーテル修復に成功した.IVC, inferior vena cava; LA, left atrium; VSD, ventricular septal defect. *日本では未承認

まとめ—今後への期待—

カテーテル治療は近年20年で想像を超えるスピードで進化,拡大している.先天性心疾患分野の患者さんは多くが幼少期に開胸手術を経験しており,再開胸のリスクから,カテーテル治療の恩恵が非常に大きい.また成人循環器内科領域では,構造的心疾患(Structural Heart Disease)のカテーテル治療が発展しており,TAVIによる大動脈弁治療を始めとして,僧帽弁,三尖弁へのカテーテル的治療介入が進んでいる.先天性心疾患でも,修正大血管転位症の重症三尖弁閉鎖不全に対する,経カテーテル僧帽弁(三尖弁)修復術(MitraClip, TriClipアボットメディカルジャパン合同会社)や,現在国際共同治験中の僧帽弁置換術(Intrepid Transcatheter Mitral Valve日本メドトロニック株式会社)による治療が期待される.また,経カテーテル三尖弁置換術(EVOQUE Tricuspid Valve日本エドワーズライフサイエンス株式会社)の国際共同治験も進行しており,重症右心不全を合併したEbstein病など,手術リスクから介入を躊躇される例はカテーテル治療の低侵襲の利点を享受する日も訪れるであろう.今後もカテーテル治療デバイスは新たに開発され,進化していくものと考えられる.これまで治療不能とされた患者さんに新たな治療選択肢が生まれることを祈念して本稿の結びとさせていただく.

謝辞Acknowledgments

Sir Shakeel A QureshiをはじめとしたEvelina London Children’s Hospital catheter lab teamより画像を提供いただいた.深謝申し上げる.

利益相反

共同演者のうち,小暮智仁は日本メドトロニック株式会社より,山口純一はアボットメディカルジャパン合同会社,日本エドワーズライフサイエンス株式会社より報酬を得ている.

筆者の役割

小暮は総説の原稿作成,推敲を行った.朝貝,稲井,山口は原稿の批判的校閲および改訂を行った.

引用文献References

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