Online ISSN: 2187-2988 Print ISSN: 0911-1794
特定非営利活動法人日本小児循環器学会 Japanese Society of Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery
Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery 40(3): 163-174 (2024)
doi:10.9794/jspccs.40.163

ReviewReview

急性期循環管理の基本原理循環器集中治療のすゝめPrinciples of Cardiac Critical Care: Shall we “CCU”?

1宮城県立こども病院 集中治療科Miyagi Children’s Hospital, Department of Critical Care ◇ Miyagi, Japan

2東京都立小児総合医療センター 集中治療科Tokyo Metropolitan Children’s Medical Center, Department of Critical Care ◇ Tokyo, Japan

3JCHO中京病院 集中治療科JCHO Chukyo Hospital, Department of Critical Care ◇ Aichi, Japan

発行日:2024年8月1日Published: August 1, 2024
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小児集中治療室(pediatric intensive care unit: PICU)では,様々な心疾患患者が治療を必要としている.その血行動態や解剖,心機能は千差万別であり,同じ患者は存在しない.重症心疾患の集中治療において,何をすべきか,路頭に迷うことがあるかもしれないが,困った時こそ循環生理の基本概念に立ち返るとよい.普遍的な知識だけで全てが狙い通りの経過になるわけではないが,せめて「生理学的に正しい」循環管理を目指して欲しい.そこで,本稿では循環管理の基本原理について述べ,循環器集中治療の面白さを伝えたいと思う.

Patients with various heart diseases require treatment in the pediatric intensive care unit. However, hemodynamics, anatomy, and cardiac function vary widely. It is crucial to understand the basic concepts of circulatory physiology for perioperatively managing patients with severe heart failure or complex heart disease setting. Although this knowledge alone will not ensure a positive outcome, aiming for “physiologically correct” circulatory management is recommended. A cardiac care unit would provide the expertise needed for management.

Key words: cardiac critical care; pressure-volume loop; oxygen delivery; oxygen consumption; low cardiac output syndrome

はじめに

小児集中治療室(pediatric intensive care unit: PICU)で診療する心疾患患者の解剖や血行動態などのバリエーションは豊富であり,個々の症例に対し,テーラーメイドな管理が求められる.血行動態などを無視した“ルーチン管理”に落とし込むことは,決して褒められたものではなく,「このような経過になる」「手術はうまくいっている」などの思い込みは判断の遅れを招き,最悪患者の死亡に繋がる.そのような“型にはめ込む”管理では,複雑症例に対応できない.重症患者だからこそ,生理学に基づき,ベストな治療を患者毎に導き出す必要がある.循環器集中治療に関する総説のどれもが「酸素需給バランスの適正化」が循環管理の肝だと記す1–4).本稿では更に深掘りし,「酸素需給バランスとは何か」「いかに酸素需給バランスを適正化するか」を,ミクロな視点からマクロな視点へと移して論じる.

ミクロな視点から考える“循環生理”

細胞内代謝(組織細胞内での酸素の利用oxygen use)(Fig. 1)

生命活動のエネルギー源は,アデノシン三リン酸(adenosine triphosphate: ATP)であり,解糖系からTCA回路・電子伝達系への流れで,1分子のブドウ糖(C6H12O6)から,36分子のATPを合成する.特にミトコンドリア(mitochondria: Mt)内でのHの酸化過程でATPが産生される(酸化的リン酸化). (式1) 2 H + +1/2 O 2 +3ADP H 2 O+3ATP との反応がMtで生じるが,ここに酸素が欠かせない.このATPがアデノシン二リン酸(adenosine diphosphate: ADP)へ変換される際に,約7 kcal(≒29300 J)のエネルギーを産生する5)

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Fig. 1 ATP production within cells

ATP is not produced in the TCA cycle. FADH2 and NADH are used in the electron transport chain to extract electrons and accumulate them in the mitochondrial intermembrane space. When it flows instantaneously into the matrix, ATP is produced. ATP, adenosine triphosphate; FAD, flavin adenine dinucleotide; FADH2, Reduced flavin adenine dinucleotide; NAD, nicotinamide adenine dinucleotide; NADH, Reduced nicotinamide adenine dinucleotide; TCA, Tricarboxylic Acid

心筋細胞には筋原繊維の束が無数に存在し,基本単位である筋節(sarcomere)の中にアクチンとミオシンの2種類のフィラメントがある.両者はクロスブリッジで結ばれ,それが動くことで心収縮が生じる.ミオシン頭部を動かすのに,ATPが必要で,1回のクロスブリッジサイクルに1分子のATPが消費される.心筋は絶え間なく収縮と弛緩を繰り返しているため,膨大なATPが必要となる.また心筋必要エネルギーの60~70%の栄養素を脂肪酸のβ酸化に依存し6),その過程でカルニチンが必要であり,遊離カルニチン20 µmol/L未満は補充が必要である.不全心ではより必要エネルギーが増えるため,心筋細胞への酸素供給・栄養補給に関する意識が欠かせない.

循環管理の目的は,酸素を供給し,膨大なATPを産生し続けることと言い換えられる.

酸素解離曲線(oxygen dissociation curve: ODC)

ODCは,酸素分圧と酸素飽和度の関係を示すS字曲線であり,縦軸にヘモグロビン(Hb)と結合している動脈血酸素飽和度(SaO2)を,横軸に動脈血酸素分圧(PaO2)を示す(Fig. 2A).このODCは,運動やCO2増加,アシドーシス進行,体温上昇,2,3-DPG(2,3-diphosphoglycerate)増加によって,右方偏位する(Bohr効果).これは細胞内の酸素需要が高い状況で,酸素分圧の低い末梢組織に,より酸素を切り離しやすくなる防御機構となっている.チアノーゼ性心疾患では右方偏位が強く,SpO2が低い状態でも,末梢組織へ酸素を効率よく受け渡す.ODCの偏位を意識すると,目標SaO2を想定しやすい.

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Fig. 2 ODC (oxygen dissociation curve) and oxygen cascade

(A) The red dotted line is the ODC when shifted to the right and the green dotted line is the ODC when shifted to the left. ② is the point which indicates the oxygen partial pressure in the capillaries. ③ is P50 which indicates the oxygen partial pressure at SaO2=50%. (B) is the diagram of oxygen cascade.

酸素瀑布(oxygen cascade)

大気から酸素を摂取し,Mtの電子伝達系まで運搬する経路に酸素分圧の低下を示したものを酸素瀑布(oxygen cascade)と呼ぶ.Fig. 2Bは健常者が大気から酸素を取り込み,100 mmHgの酸素分圧の動脈血が細胞間質に酸素を受け渡し,最終的にMtへ酸素を送り込む様子を示す.細胞間質の酸素分圧は5~40 mmHgと幅があるが7),これは組織内の酸素分圧は不均一なため8),組織深部での酸素分圧に余裕を持たせているからである.最終過程の酸化的リン酸化(式1)が行われるMt内酸素分圧はたった1 mmHgで十分とされている.このoxygen cascadeを理解していると,吸入酸素濃度だけでなく様々なレベルで如何に介入して酸素分圧を上げるかを考えることができる.高濃度酸素には酸素毒性や吸収性無気肺,体血管収縮作用など多くの弊害もあり,適切な酸素投与を意識したい.

酸素含有量(CaO2

ここまでは酸素分圧の観点で考えてきたが,酸素は主に血液中のHbによって運搬されるため,血液中に含まれる量,酸素含有量(CaO2)を考える必要がある.これは血液100 mL(1 dL)内に含まれる酸素量で示され,以下の式で求められる. (式2) Ca O 2 (ml/dL)=1.34×Hb(g/dL)×Sa O 2 +0.003(ml/dL)×Pa O 2 (mmHg) CaO2を増やすためにはSaO2(酸素飽和度),Hb, PaO2(酸素分圧)を増加させればよいとわかる.Hb=7 g/dL, SaO2=97%(PaO2=100 mmHg)の患者Aと,Hb=14 g/dL, SaO2=90%(PaO2=60 mmHg)の患者Bを考えてみると,患者AにおけるCaO2は約9.5 mL/dL,患者BにおけるCaO2は約17 mL/dLである.SaO2は低いがHbが高い患者Bのほうが酸素含有量は多いのである.

酸素運搬量(oxygen delivery: ḊO2

ある瞬間を考えた時には,ODCや酸素瀑布の原理に基づいて,毛細血管内酸素濃度を維持することがMtへの酸素運搬に重要である.しかし血液は常に動いており,毛細血管内酸素飽和度を維持するためには,Hbに乗せて酸素を運搬し続けなくてはいけない.そのような循環“動態”を解釈するために時間の概念を加える必要がある.これが1分間に末梢組織に運搬される酸素量を示す酸素運搬量(ḊO2)であり,酸素含有量(CaO2)と心拍出量(cardiac output: CO)の積で表される. (式3-1) D ˙ O 2 (ml/min)=Ca O 2 (ml/dL)×CO(L/min)×10 これに式2を合わせると,以下のようになる. (式3-2) D ˙ O 2 (ml/min)=( 1.34×Hb×Sa O 2 +0.003×Pa O 2 )×CO×10 0.003×PaO2は非常に小さく,式3-2は以下のように簡略化できる. (式3-3) D ˙ O 2 =1.34×Hb×Sa O 2 ×CO×10 COは1回拍出量(stroke volume: SV)と心拍数(heart rate: HR)の積であり,式3-3は以下のように変換できる. (式3-4) D ˙ O 2 =1.34×Hb×Sa O 2 ×SV×HR×10 SaO2が低くても,ḊO2はSVやHR,Hbの増加によって代償できるが,個々のパラメーターには至適な範囲があり,無限に大きくできるわけはない.これについては後述する.

圧容量曲線(Pressure-Volume loop: PV loop)

SVは,拡張末期容量(end diastolic volume: EDV)と収縮末期容量(end systolic volume: ESV)の差である(SV=EDV−ESV).このSVを他のパラメータとともに把握するツールとして,PV loopがある(Fig. 3A).拡張末期①→収縮早期②→収縮末期③→拡張早期④と変化させることで,loopが完成し,その横幅が,SVになる.ここで輸液などにより前負荷を変化させて様々なPV loopを作り,それらの複数の①をつなぐと,拡張能を示す曲線(end-diastolic pressure-volume relationship: EDPVR)が現れる.複数の③を繋いだ線が,収縮能を反映し,EmaxやESPVR(end-systolic pressure-volume relationship)と呼ばれる.さらに拡張末期容量(⑤)と③を結んだ線の傾きは後負荷(Ea)を表す.いかにSVを増やすかをこのPV loop上で考えてみると,Emaxを上げてEaを小さくすればよいことがわかる.ここでEDVを更に大きくすれば,SVをより大きくできるはずだが,それが最善の策だろうか?

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Fig. 3 Concept of PV loop

(A) ⑤ is the point that connects ① and ② and intersects with the horizontal axis indicating EDV. The area surrounded by the red line represents the potential energy (PE) and the area within the loop (the area surrounded by the green line) represents stroke work (SW). As PVA correlates with cardiac oxygen consumption, reducing PVA leads to cardioprotection. (C) SV① indicates the PV loop in steady state. SV② is a PV loop in heart failure. Emax has decreased and EDV has shifted significantly to the right. SV is smaller and blood pressure is lower. The SW/PVA ratio is assumed to change only slightly. EDP, end diastolic pressure; EDV, end diastolic volume; ESP, end systolic pressure; ESV, end systolic volume; SV, stroke volume; SW, stroke work (cardiac work); VA-ECMO, veno-arterial extracorporeal membrane oxygenation

このPV loopは,心筋酸素消費量も間接的に示す.Fig. 3Aにおける赤枠内(potential energy: PE)と緑枠内(stroke work: SW)の和を圧容量面積(pressure-volume area: PVA)と呼び,これは心筋酸素消費と比例する(Fig. 3B9).SW/PVA比は,心臓の仕事効率を示す.例えば,Fig. 3Cにおける不全心のPV loopでは,SW/PVA比が小さく,非効率な心拍出と言える.Fig. 3CにおけるSV③はsevere ASのPV loopである.後負荷が著しく高いので,ESPが高く,SVの幅は狭い.SW/PVA比が小さく,またPVAも大きいので,酸素消費が多く,かつその効率が悪いことがわかる.また,VA-ECMO(veno-arterial extracorporeal membrane oxygenation)患者でもPV loopやPVAを考えることも可能である(Fig. 3C SV④)10).急性心筋炎患者に対してVA-ECMOを導入した直後を考えるとわかりやすい.脈圧が一桁で,血圧は高いが心臓は大きい状態で,PVAが大きく,心筋酸素消費が多い.この状態では十分なcardiac restとは言えず,LV unloading(LV ventなど)をして心筋酸素消費を小さくしなくてはいけない.近年,成人などで用いられるImpella+VA-ECMOは,PVAを小さくし,心筋酸素消費を抑える11)

さて,生理学における前負荷の正確な定義は,「拡張末期における壁応力」である.Laplaceの法則(Fig. 4)では,中空の球体における壁張力(T)と内圧(P),球体の半径(r)の関係は (式4-1) P=2T/r と表される.壁張力(T)は,wall stress(S)と壁厚(w)の積であるが,このSこそが心筋への負荷であり,式4-1は以下に変換できる. (式4-2) S=P×r/2 w つまりwall stressは内圧と半径に比例し,壁厚に反比例する.心不全で心臓が拡張した状態では,半径が増大して,圧発生の効率は低下する.これはPV loopがFig. 3Cのように変化することを意味し,またSW/PVA比が小さくて効率が悪く,心負荷が大きいことと合致する.この状態で健常な心臓と同じ圧を発生させるためには,より高い壁張力を必要として酸素消費が増える.心不全で心臓が拡大している場合,利尿剤投与によって心室内圧の上昇効率を改善する12)のはこのためである.闇雲にEDVを増やすのではなく,心筋酸素需要や効率とのバランスを考慮することが重要である.

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Fig. 4 Laplace’s law

Consider a situation where the radius (r) increases from (A) to (B) (r①→r②). Considering the case where the same pressure (P) is generated, the wall stress increases because the curvature decreases. Conversely, if the wall stress remains the same even though the radius increases, the generated internal pressure (P) will decrease.

静脈還流(venous return: VR)について

ここまで心拍出(≒心臓から送り出される血流)に着目して,循環を概観した.しかし,全血液量の約60~70%は静脈系にプールされ13),循環血液量の変化に対応している.ここから静脈還流(VR)にも目を向けてみる.

VRは循環に寄与している血液量=stressed volume(Vs)とそれ以外の血液量=unstressed volume(Vu)に分けて考える(Fig. 5).VsとVuの和を総血液量(total volume: Vt)と呼び,Vsは静脈圧に寄与しVtの20~30%を占める.Vuは血液のリザーバーであり,交感神経賦活化により,VuからVsへのシフトをする代償機構を持つ.大量出血時には内因性カテコラミンによりVuからVsへシフトし,循環血液量を保つ.

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Fig. 5 “Stressed volume (Vs)” and “unstressed volume (Vu)”

(A) When blood is pumped into collapsed blood vessels, the intravascular pressure does not increase until a certain point. The amount of blood up to this point is called Vu and that beyond the point is called Vs. (B) The difference between the intravascular pressure and right atrial pressure due to Vs is the driving force for venous return. Additionally, the vena cava is present as resistance. Vs increases when vasoconstrictors are administered. RA, right atrium

VRにおける重要な概念として,GuytonのVR曲線がある(Fig. 6A14, 15).横軸に右房圧,縦軸にVRを置き,VR=0になったときの圧を,平均体血管充満圧(mean systemic filling pressure: Pmsf)と定義する.これはFig. 6Aの赤丸で示される.Pmsfは循環停止下の血管内圧が一定になった時の圧で,通常は7~8 mmHg程である.血管コンプライアンス(C)は血管内圧変化ΔPに対する血管内容量変化(Vt−Vu=Vs)であり,Vu分は圧変化に寄与しないので,C=Vs/ΔPが成り立つ.Pra=0 mmHgからの変化は,ΔP=Pmsfと代用でき,Pmsf=Vs/Cとなる.血管が収縮するとVuからVsへシフトし,またCも低下するので,Pmsfは増加する.ここで静脈圧と心拍出量の関係を示す,Frank–Starlingの法則によるCO曲線を見てみると,VR曲線と同じ変数を扱っていることに気づく16).よって,これら2つの曲線を同一平面上に記載すると,Guytonの平衡図となる.この交点(Fig. 6Aにおける星印)を循環平衡と呼び,実際の心拍出量を示す.様々な病態や,薬剤の使用で,このGuytonの平衡図は様々な変化を示す14, 15).Noradrenalin使用によりGuytonの平衡図が変化をするのかをFig. 6Bに提示する.血管収縮作用と心収縮亢進作用により,なぜCOが増えるのかがわかる.restrictive RV physiologyを呈する術後症例にNoradrenalinを投与し,VuからVsにshiftさせることが有効であったと思われる実例をFig. 7に示す.同様にFontan手術周術期やfailed Fontan患者の循環不全に対して,Vs(≒循環血液量)の増加を企図してNoradrenalinを使用することは生理学的に理にかなう.また心機能が低下すれば,右房圧が上昇し,前負荷が増加することもVR曲線の変化からわかる.PV loopにおいて,Emax低下時に輸液負荷をしていないにもかかわらず,loop全体が右方へ偏位することと一致する(Fig. 3CにおけるSV①→SV②の変化).

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Fig. 6 Physiology of venous return

(A) ① indicates normal condition. VR is the value obtained by dividing (Pmsf-Pra) by Rv (venous return resistance) (VR=(Pmsf-Pra)/Rv). The slope of the VR curve is slope=1/Rv from the relationship ΔV/ΔP=VR/(Pmsf-Pra). Considering this, as Rv increases, the slope of the VR curve decreases (change in ⑤) and conversely, as Rv decreases, the slope of the VR curve increases (change in ④). Furthermore, the VR curve moves horizontally as Pmsf increases or decreases. If Pmsf is increased, the VR curve will move upward (change ②) and if Pmsf is decreased, the VR curve will move downward (change ③). An increase in Pmsf is caused by fluid or sympathetic stimulation. (B) Rv increases and changes from A to B. Furthermore, Vs and Pmsf increase and Pmsf shifts from B to C. Due to β effect, cardiac contraction is accelerated and changes from C to D. Thus, administration of Noradrenaline increases CO and venous pressure (A→D).VR, venous return; CO, cardiac output

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Fig. 7 Vital Chart of a 6-month-old boy after Ross-Konno surgery

Due to the low RV volume and residual bilateral pulmonary artery stenosis, high CVP and high-dose inotropes were required to maintain the SBP. While maintaining CVP at 10–13 mmHg, SBP was 60 mmHg, and the water balance remained positive every day. Maintaining the fluid control is difficult. Therefore, I started Noradrenaline from POD3 (①). It started at 0.05γ and gradually increased (②). After starting Noradrenaline, CVP gradually decreased and the SBP increased. The amount of fluid administered could gradually be reduced and consequently, the amount of urine increased. CVP, central venous pressure; POD, post operative days; RV, right ventricle; SBP, systolic blood pressure

酸素消費量(oxygen consumption: V̇O2

ここで視点を変えて,実際に細胞がどれほどの酸素を必要としているのか,考えてみたい.Mt内酸素分圧は1 mmHgで十分だが直接モニタリングできない.それを評価するためにはどれだけの酸素を心臓から送り込む必要があるのかを知る必要があるが,これは末梢組織で酸素をどれだけ消費したのか,を評価することが最適である.これが酸素消費量(oxygen consumption: V̇O2)であり,以下のように計算される. (式5-1) V ˙ O 2 =CO×( Ca O 2 Cv O 2 ) となる.CvO2は混合静脈血酸素含有量であり,ベッドサイドではSVC血で代用できる.SvO2を混合静脈血酸素飽和度として,式5-1は以下のように変換できる. (式5-2) V ˙ O 2 =CO×1.34×Hb×( Sa O 2 Sv O 2 )(ml/min) このV̇O2は安静時から運動時にかけて大きく変化する7).そのV̇O2の増加に対して,換気量とCOの増加で対応するが,換気量の増加に対するCOの増加の影響は少なく17),COを増やすことは容易ではない.V̇O2は痙攣・シバリング・発熱・交感神経興奮・カテコラミン投与などで増大する18)ので,これらの増大因子を減ずることが急性期には重要である.

V̇O2=ḊO2で十分か

では,ḊO2はV̇O2とイコールになる程度に維持されれば十分だろうか?まず,供給された酸素の内,どれくらいが消費されたのかを示す酸素抽出量(oxygen extraction ratio: O2ER)について知る必要がある.O2ERは以下の式で求められる. (式6) O 2 ER= V ˙ O 2 / D ˙ O 2 酸素供給(ḊO2)に対して,末梢で酸素をどれくらい消費したのか(V̇O2),の割合を示し,通常は20~25%程度である.これは健常者において,SvO2が75%ほどが正常値であることと同義である.安静時のV̇O2は大きく変化しないなかで,ḊO2を減らしていくと,Fig. 8のような変化を辿る19).平時はある程度までḊO2が減っても,V̇O2は維持されるが,臨界点=critical ḊO2を超えると,V̇O2も減少し始める.O2ERが代償されるのは40~60%ほどまでであり,ḊO2は最低でもV̇O2の2倍以上は維持しないといけない.また,病態によっては,V̇O2がḊO2に比例するように変化するcritical ḊO2の位置は変化する18, 20).特に敗血症性ショックの患者では,ḊO2が正常域にあると思われても,V̇O2が増減する可能性が指摘されており21),critical ḊO2を推定するには,SvO2の変化・推移を追うことが有用である.チアノーゼ性心疾患ではODCが右方偏位して,O2ERの代償機転が働き,SvO2が50~60%でも乳酸アシドーシスには進行しにくい.SaO2が70%前後でも,乳酸アシドーシスにならないlow flowのBTシャント患者を考えれば,納得だろう.

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Fig. 8 Relationship between V̇O2 and ḊO2

When ḊO2 falls below “critical ḊO2,” V̇O2 follows a downward trend. In short, if ḊO2 is lower than this value, oxygen delivery fails. However, changes occur in patients who are critically ill, as indicated by the red dotted lines. Even if ḊO2 is higher than normal, V̇O2 becomes dependent on ḊO2 and the critical ḊO2 increases.

ミクロ循環(microcirculation)

末梢組織への酸素の拡散・抽出の場として,ミクロ循環という概念がある22).径100 µm未満の細動脈・毛細血管・細静脈から構成され,それらは血管抵抗を規定する「抵抗血管」である小動脈や細動脈より細い18).敗血症などの重症患者ではこのミクロ循環を対象にした研究が多く存在し,循環器集中治療の現場でも近年注目されている.新生児の開心術後に心臓は過収縮なほどよく動いているにもかかわらず,末梢循環が悪く乳酸値が下がらないことをしばしば経験するが,この病態はミクロ循環の概念で説明可能である.

ミクロ循環は,diffusive component(毛細血管密度capillary density)とconvective component(流量flow)の2つの概念で構成される.安静時には全ての毛細血管が開存しているわけではなく,終末細動脈の収縮・弛緩で調整され,酸素需要が増加した時に毛細血管への血流が増加する(毛細血管密度の変化).また,毛細血管における血液流量の低下は,末梢組織への酸素供給の減少に直結する.Poiseuilleの法則で考えると,毛細血管血流量(F)は以下のようになる(r:毛細血管径,ΔP:駆動圧,L:毛細血管長,η:血液粘度). (式7) F=π r 4 ΔP / 8Lη 毛細血管径や長さを変化させることは難しいが,臨床医が容易にコントロールできるのは,毛細血管にかかる駆動圧と血液粘度である.駆動圧は,体血圧と静脈圧の差で規定され,血液粘度は,主にHb値で考えることができる.

このようなミクロ循環をターゲットとした様々な治療方法(β刺激薬23)や血管拡張薬24),輸液25)など)が模索されているが,いずれも現時点での推奨レベルは高くない.

Perfusionと潅流圧について

ミクロ循環は,組織潅流(perfusion)と同義であり,末梢細胞へ酸素を送り込む原動力である.その血流量はPoiseuilleの法則(式7)に基づくが,ミクロ循環を構成する毛細血管は5~100 µmほどで,r4は小さくなるため,perfusionはほぼΔPに規定される.このΔPは体血圧と静脈圧の差であり,perfusionには体血圧維持が必須である.最低限の体血圧(critical closing pressure: Pcc)は,臓器ごとに異なるが,平均体血圧は,新生児で35~45 mmHg,乳児で40~45 mmHg,幼児で45~55 mmHg,学童で50~65 mmHgを目安とする26).臨床ではこれらの数値を目安にCOを保ちつつ,血管収縮/拡張薬での調整をすることになる.perfusionの判断には尿量のモニタリングが簡便であり,最低でも0.5 mL/kg/hの尿量を維持したい.

治療効果判定としての乳酸

循環評価の一つとして,乳酸(Lactate: Lac)を用いることが多い.嫌気的解糖の亢進で増えると思われているが,実際にはかなり複雑で,「体内におけるLacの産生と代謝・排泄のバランス」によって決まる.頻繁に遭遇するLac上昇の原因としては,ショック・低灌流・重度低酸素・β2受容体刺激・シアンなどがある.しかし,低酸素血症が単独でLacを上昇させるには,PaO2<35 mmHg(SaO2 67%ほど)と言われており27),極端なチアノーゼ以外では低潅流など他の原因を探る必要がある.また代謝・排泄には肝臓と腎臓が関与しており,臓器障害の結果を見ていることもある.

“循環生理”に基づく循環管理

ここまでの循環生理の知識を,臨床の現場に落とし込んでみたい.我々が扱う疾患は,単純な二心室疾患ばかりではないが,可能な限り普遍的な話を進めていく.

低心拍出症候群(low cardiac output syndrome: LCOS)について

LCOSの明確な定義は定まっていない28)ものの,「心臓のポンプ機能の低下による酸素供給量の低下・組織低酸素」というのが一般的な定義である.これに対応するため「ḊO2/V̇O2>2とperfusionを維持し続けながら,心筋のwall stressを可能な限り減らすこと」が本稿を踏まえたLCOS管理の肝となる.

まずḊO2をいかに増やすかを考えると,式3-3からHb・SaO2・SV・HRを増やせばよいことがわかる.このなかでもSVを増やすことが重要であり,PV loopで考えるとEmaxを上げ,Eaを下げることが有効である.EDVを大きくすることもSV増加には寄与するが,同時にPVAも大きくなり心筋酸素消費を増やすため注意が必要である.また拡張能が低下している症例では,EDPVRが急峻になっており,EDVを増やすとEDPが想定以上に上昇する.左房圧上昇,肺鬱血の進行から肺出血を来すこともあるため,EDVを増やす介入は適応・輸液投与量を慎重に判断しなくてはいけない.ḊO2をいかに増やすかを意識するがあまり極端に高いHb値を時に見かけるが,粘性が高くなるためミクロ循環の血流量を考えると,デメリットが大きい.また,HRを上げることはḊO2を増やすことに直結するが,不全心では早い心拍数に心機能が追従せず,SVが低下してSV×HRの積がむしろ小さくなる場合もある.僧帽弁狭窄でもHRが早すぎると,拡張時間を確保できずSVが小さくなる.逆に,拡張末期容積が小さい症例では,HRを早くすることで小さいSVを補うことも必要になる.このように至適なHRは症例ごと,状況ごとに異なる.またatrial kickは心房から心室への血流の20~30%に影響するため29),HRだけでなく心房-心室連関を意識することも重要である.

次に,V̇O2をいかに減らすかという観点から,体温・鎮静鎮痛・人工呼吸・栄養などを考える.人の体温は1°C上昇するごとに,酸素消費量が13%増加するため30),適度な体温管理はLCOS治療として有用である31).鎮静・鎮痛管理も酸素消費量を抑えるため,同様にLCOS治療に有用である.人工呼吸管理に関しては,心不全患者では呼吸仕事量が増加し全酸素消費量の10~20%を占めており,人工呼吸管理によりV̇O2を減少させることができる.さらに陽圧換気により胸腔内圧が上昇して,心室後負荷を減ずる効果もある.これはHFNCでもその効果が時に認められる.また,栄養管理,腸管血流・腸管でのV̇O2への配慮も欠かせない.ミルク注入後などにSVR低下から血圧低下や低酸素血症を来すこともあり,必要に応じて絶食に切り替え,中心静脈栄養も考慮する.忘れがちだがadrenaline投与でも組織のV̇O2が上昇する32).CO維持を意識するあまりに,過剰なadrenaline投与によって酸素需給バランスを崩していないだろうか? 過剰なadrenalineを減量することで,Lacが低下することも時に経験する.

LCOSは治療と並行して,その原因を考える必要がある.PICUで主に扱うのは周術期のLCOSだが,それ以外の急性LCOSでは治療しうる疾患や特異的治療方法が存在する疾患が隠れている場合がある33)ため,原因検索も重要である.

単心室循環について(Fig. 9)

単心室疾患(チアノーゼ性心疾患)であっても,基本概念は同じである.大きく異なるのは,体血流(systemic blood flow: Qs)と肺血流(pulmonary blood flow: Qp)のバランスで,血行動態が大きく変わることであり,低いSaO2で,酸素需給バランスを維持する必要がある.これが単心室診療の肝であり,以下に詳細を紐解く34)

Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery 40(3): 163-174 (2024)

Fig. 9 Overview of single ventricle circulation

This figure shows a blood flow model of a patient with a Blalock–Taussig shunt. This indicates oxygen content and blood flow (modified from Reference 34).

まず,体循環で考えると,酸素供給と酸素消費の差は,体静脈血酸素含有量(CsvO2)とQsの積に等しくなる. (式8-1) Ca O 2 ×QsCV O 2 =Csv O 2 ×Qs また肺循環で考えると,肺へ送られた血液に,酸素が取り込まれて,肺静脈血になるので,以下の式が成り立つ. (式8-2) Ca O 2 ×Qp+SV O 2 =Cpv O 2 ×Qp さらに, (式8-3) CO=Qp+Qs でもあり,安静時には酸素摂取と酸素消費は同じになるので, (式8-4) SV O 2 =CV O 2 もまた成り立つ.式8-1~8-4までを合わせてCaO2×Qs(=ḊO2)を考えると, (式8-5) D ˙ O 2 =Ca O 2 ×Qs= 1 1+ Qp Qs ×CO× C pv O 2 1 Qp Qs ×CV O 2   となり,ḊO2はQp/QsとCO, CVO2, CpvO2の変数によって規定されることがわかる.Qp/QsとCVO2は小さいほうが,COとCpvO2は大きいほうがḊO2を増やす,という直感的に当たり前だと感じることが論理的に示される.

BarneaらはḊO2を最大化するために,どうすべきかとシュミレーションして,Fig. 10のような結果を示した34).これによると,Qp/Qs<1のときにḊO2は最大化するが,COが多ければQp/Qsはより小さくてもよい.つまり最大ḊO2を獲得するにはQpは少ないほうがよい.しかし,SaO2が低くなりすぎても,好気性代謝を維持できなくなる可能性があるので注意が必要である.

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Fig. 10 ḊO2 simulation by Barnea et al34)

(A) ḊO2 becomes maximum when Qp/Qs<1 and CO is constant. Moreover, the higher the SpvO2, the lower the Qp/Qs. (B) When the oxygen consumption and pulmonary venous oxygen saturation are held constant and Qp/Qs<1, ḊO2 reaches its maximum. The greater the amount of CO, the lower the Qp/Qs. (modified from Reference 34). CO, cardiac output; Qp, pulmonary blood flow; Qs, systemic blood flow

Qp/Qsは体血管抵抗(systemic resistance: Rs)と肺血管抵抗(pulmonary resistance: Rp)のバランスで変化する.Rpを上げるにはCO2↑やアシドーシス,低酸素換気療法(窒素(N2)),Rpを下げるには酸素や一酸化窒素(NO)の吸入,CO2↓,肺血管拡張薬などが有効である35).特にRpを変化させる医療ガス(NOやN2)の使用方法は熟知しておくべきである.N2に関しては,低酸素によるQp/Qsの低下が生じれば心負荷軽減になるが,同時にCaO2の低下により,酸素需給バランスを安定化させられない可能性ある36).さらには,DobutamineはRsを低下させると言われているが,Qp/Qsを増加させて,ḊO2を減少させる報告もある37).臨床現場ではRsのコントロールが有効なことのほうが多く,Rpのみにこだわるのではなく体血管拡張/収縮薬を有効に使いたい.

実際には多くのパラメータが複雑に絡み合ってSaO2やQp/Qsが変化する.房室弁逆流や心収縮力,心拍数によりḊO2も変化する.心内でのミキシング具合によっては,非効率な血流になることもある.複雑な症例では目先のSaO2や血圧などだけで判断しがちだが,LacやSvO2・尿量の経時変化が重要である.生理学的に正しい治療・介入をしていれば「この後良くなるはず」と静観することもできる.また,肺血流過多への意識が強すぎるあまり,体血流が十分かどうか,の意識が弱くなっていないだろうか? 単心室循環においてもḊO2が十分か,の視点が重要である.時に意図して肺血流を多めにする治療戦略になることもあるが,その場合には高肺血流を許容しつつ,ḊO2が十分かどうか,心筋酸素消費やwall stressは許容されうるかを考えてほしい.

小児循環器集中治療の課題

上記のような循環生理を踏まえた治療でも,狙い通りの経過を辿ることは少ない.生理学・生化学などの普遍的な知識だけでは解決しきれない問題・課題が多く残されている.以下,特に重要と考えられる課題について論じる.

まずは,高度医療の結果として生じる合併症である.神経発達,脳合併症,乳糜胸,壊死性腸炎(necrotizing enterocolitis: NEC),反回神経麻痺,横隔神経麻痺,縦隔炎などの感染症が代表的である.特に急性期の合併症である乳糜胸やNEC,脳合併症は予後に大きく影響するが,その解決策や治療方法は定まっておらず,今後の課題である.生命予後だけでなく,合併症を減らして子供のQOLをよりよいものにしてこそ,集中治療の成功と言える.

もう一つの課題は,エビデンス不足である.この領域の治療では,カテコラミンの選択や至適酸素濃度,至適Hb値,Ca投与など,医師個人や施設の好みの影響を大きく受ける項目が多く,時に職人技のような治療方法や,その真意がわからない治療をみかける.疫学データが不足している領域も多く,今後日本からも発信していきたい.

教育体制も懸案事項である.原稿執筆時点で日本国内で小児循環器集中治療に関して,欧米のような教育プログラムがある施設38)は皆無である.循環器集中治療を専門とするPICU医がいる施設で徒弟制度的に学ぶしかないのが現状であり,教育プログラムの確立および教育可能施設の集約化が必要である.

結論

集中治療室における循環管理の概略について論じた.小児循環器集中治療は応用問題の連続で,同じ症例は存在しない.全患者において,細胞生理まで踏み込み,ḊO2が十分かを徹底的に考えてほしい.

昨今,様々な分野で“less is more ”,「より少ないもので最大効果のために,最小限の要素だけに絞り込む」という考え方が広がっている39).過剰な医療,根拠のない職人技のような全身管理ではなく,循環生理に基づいた誰でも実践できる循環管理(≒最低限の要素)が求められている.シンプルかつ普遍的な考え方で,複雑症例に対峙してほしい.今行っている循環管理は果たして「生理学的に正しい」と自信を持って言えるだろうか? 本総説がその一助になれば幸いである.

利益相反

開示すべき利益相反状態はありません.

著者役割

田邊雄大:論文の構想,文献集積に関与し,論文を執筆した.

大崎真樹:論文指導を行い,最終的な投稿の決定を行った.

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