窒息死に至った重複大動脈弓を合併したPrader–Willi症候群の一例
1 東京北医療センター 小児科
2 榊原記念病院 小児循環器科
3 東京医科歯科大学病院 小児科
4 獨協医科大学埼玉医療センター 小児科
重複大動脈弓(double aortic arch: DAA)は血管輪を来す代表的な疾患である.一方Prader–Willi症候群(PWS)は先天異常症候群の一つで,特に新生児期から乳児期は筋緊張低下による哺乳障害や,時に呼吸障害を起こすことがある.これまでPWSにDAAを合併した症例報告はない.症例は他院でPWSと診断されフォローされていた.1歳6カ月時に吸気性喘鳴を認め当院の救急受診し,精査でDAAと診断した.軽度の吸気性喘鳴のみで酸素化不良や努力様呼吸は認めず待機手術の方針として退院したが,退院後17日目に自宅で食事中に誤嚥による窒息で死亡した.本症例ではPWSに伴う筋緊張低下や呼吸障害がDAAの診断を困難にし,さらに症状の増悪を惹起したと考えられた.筋緊張低下や嚥下障害のリスクの高い基礎疾患を有する症例に血管輪を合併した場合には,厳重な管理のもと速やかに治療を行うことが肝要である.
Key words: Prader–Willi syndrome; double aortic arch; critical airway obstruction
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重複大動脈弓(double aortic arch: DAA)は血管輪を来す代表的な疾患である.発生過程で原始大動脈弓の左右第4,第6弓,背側大動脈第8分節がいずれも退縮しない場合に生じる.食道と気管を取り囲むために新生児期・乳児期から喘鳴や嚥下障害を来すことが多い1).一方,Prader–Willi症候群(PWS)は肥満・低身長・精神遅滞・新生児期筋力低下を示す先天異常症候群である.特に新生児期から乳児期は筋緊張低下による哺乳障害や呼吸障害を起こすことがある2).今回我々は,1歳6カ月時にDAAによる血管輪と診断され,かつ手術待機中に自宅で死亡したPWS症例を経験したので報告する.
1歳6カ月,女児
吸気性喘鳴,咳嗽,痰
A病院で在胎38週1日,体重2,394 g,Apgar score 1分値5点,5分値6点で出生した.頻回の無呼吸を認め,筋緊張低下,哺乳障害があり1カ月間NICUに入院,経管栄養を確立して退院した.
B病院で特徴的顔貌と小さな手足などの臨床的特徴から精査され,DNAメチル化解析陽性,FISH法では欠失を認めず,非欠失PWSと診断された.その後C病院で経過をフォローされていた.生後5カ月で経管栄養は離脱した.1歳3カ月より成長ホルモン投与が開始された.1歳4カ月時にソーセージをつまらせてD病院で気管内挿管,人工呼吸管理を要した.抜管直後に吸気性喘鳴は認めたものの経時的に消失した.
定頸6カ月,座位10カ月,つかまり立ち1歳1カ月,独り立ち未獲得であった.
発熱,感冒症状を認め,近医を受診して感冒の診断となり対症療法を開始された.(インフルエンザ抗原迅速検査陰性,COVID-19抗原陰性).以後解熱傾向となったものの第4病日から呼吸苦を認め,同日当院へ救急搬送された(当院初診).吸気性喘鳴はあるものの努力呼吸や犬吠様咳嗽はなく,酸素化も良好であった.単純CT(Fig. 1)では,気道異物や縦隔病変も認めなかった.外来でのアドレナリン吸入とステロイド点滴で症状の緩和を認めたが,その後も吸気性喘鳴が持続したため,第7病日に精査加療目的に当院入院となった.
身長74.6 cm(−1.75SD),体重9.8 kg(−0.1SD),体温36.8°C,心拍数130/分,呼吸数28/分,SpO2 97%(room air),全身状態良好,咽頭発赤軽度あり,胸部聴診上stridor,rhonchiを聴取したが,努力呼吸は認めなかった.
胸部エックス線(Fig. 2)でCTR 48%,肺炎像や肺のうっ血像はなく,気管分岐部の不明瞭化を認めた.血液検査(Table 1)では炎症反応の上昇は軽微であった.また静脈血血液ガス分析でも大きな異常を認めなかった.
血算 | 生化 | ||||
---|---|---|---|---|---|
WBC | 9200/µL | TP | 7.1 g/dL | BUN | 10.4 mg/dL |
Neutro | 33% | Alb | 4.4 g/dL | UA | 2.6 mg/dL |
Lymph | 55% | CK | 29 U/L | Cre | 0.19 mg/dL |
RBC | 488×104/µL | LDH | 297 U/L | Na | 138 mmol/L |
Hb | 13.7 g/dL | AST | 26 U/L | K | 4.5 mmol/L |
Plt | 31.3×104/µL | ALT | 14 U/L | CRP | 0.958 mg/dL |
血液ガス分析(静脈血) | |||||
pH | 7.431 | ||||
pCO2 | 43.0 mmHg | ||||
HCO3- | 28.1 mmol/L | ||||
BE | 3.8 mmol/L | ||||
Lac | 1.9 mmol/L |
入院後もステロイドの投与,アドレナリン吸入を継続したものの吸気性喘鳴は残存した.入院2日目に心エコーを施行したところ右大動脈弓が疑われた.入院前に施行した単純CTでも血管輪による気管の狭窄が否定できなかったため,入院4日目に造影CT検査(Fig. 3A, B, C)を施行し,重複大動脈弓と診断した.造影CT上の%最狭部径(最狭部外径/最大気管外径×100)は44%であった.扁桃やアデノイドの肥大はなく,そのほかの上気道狭窄を来す異常は認めなかった.入院中は食事摂取時に喘鳴が増悪する様子があり,食形態を入院前の幼児食から離乳食後期へ変更し食事摂取中の喘鳴はやや改善した.入院後,児の呼吸状態は安定していたことから,重複大動脈弓の外科治療については外来で循環器専門病院へ紹介する方針となり,入院6日目に退院となった.
A.胸部造影CT(入院時).重複大動脈弓を認める,血管輪により食道・気管の狭窄あり.B.胸部造影CT(左右の大動脈弓,食道,気管のみ3D再構築,前方から).C.胸部造影CT(左右の大動脈弓,食道,気管のみ3D再構築,後方から).左右の大動脈弓に食道と気管が挟み込まれている.ほぼ同等の太さであったが,わずかに右大動脈弓が優位大動脈弓と考えられた.
退院後5日目の外来受診時,感冒の改善とともに吸気性喘鳴の軽減を認めた.しかし食後の喘鳴は持続しており,自ら後弓反張位をとることはあった.退院後9日目に循環器専門施設を受診し,早期の手術加療が計画された.その受診の際も呼吸障害の増悪などは認めなかった.退院後17日目に自宅で朝食のパンを摂取させたところ,むせこみとともに意識レベルが低下,母が窒息と判断して,吸引を施行するとパンが引けた状態になった.それにもかかわらず意識状態の改善なく,救急隊の指示で心臓マッサージを開始,救急隊到着時に心肺停止確認,救急搬送されたものの,そのまま心拍再開せずに永眠された.
今回,診断からわずか3週間で急変し,不幸な転機をたどってしまったPWSを基礎疾患にもつDAA症例を経験した.食事中の誤嚥による窒息であったため,DAAによる食道と気管の狭窄症状に加えてPWSの筋緊張低下による嚥下障害が病態に関与していたことが想定された.過去にPWSにDAAを合併した報告はなく,本症例の経過と病態への両者の関与について考察する.
PWSはインプリンティング異常症の一つであり,染色体15 q11-13領域の父性発現遺伝子の機能喪失に起因する.PWSの主症状は3徴候に大別されており,①身体的特徴(小さな手足・体幹部中心の肥満・色素低下など)②内分泌学的異常(低身長・肥満・糖尿病・性腺機能不全など)③精神・神経学的異常(筋緊張低下,知的障害,認知障害,不適応行動など)があげられる.出生時は重度筋力低下,筋緊張低下がみられ,いわゆるフロッピーインファントである.哺乳障害がみられ,ほとんどの児で経管栄養を要し,筋緊張低下から呼吸障害を来すこともある.乳幼児期には筋力低下,筋緊張低下は徐々に改善し頸定8カ月,独歩2~3歳頃とされる3).
一方,DAAは血管輪を来す代表的な疾患である.血管輪自体は1万出生に1~1.3人程度と言われるが,そのうちの31~58%程度はDAAとされる.DAAのうち24%程度は染色体異常を合併するといわれているが,多くは22q11.2欠失症候群に関連している.またDAAのうち20%程度は心室中隔欠損症,心房中隔欠損症,さらにはファロー四徴症や完全大血管転位などのその他の心血管奇形を合併するとされる.乳児期発症例では出生直後から喘鳴,咳嗽,呼吸困難などの呼吸器症状を呈し,頭部前屈や哺乳時に増悪する.重症例では啼泣や哺乳に伴ってdying spellと呼ばれる致死的な呼吸不全を来すこともある.DAAの手術は合併症や死亡のリスクが低く,また早期の手術により呼吸症状の改善が報告されており,入院を要するような明らかな呼吸器症状が出現した場合には速やかに手術を施行する方針が推奨されている4–7)
.斉藤らは造影CT上の%最狭部径(最狭部外径/最大気管外径×100)が50%台の症例では症状が増悪せず,%最狭部径が40%台の3例ではいずれも手術待機中に呼吸器症状と嚥下症状が悪化したと報告している8)
.本例の%最狭部径は44%であり,気道症状の進行が想定されたため,専門施設と連携の上でなるべく速やかな手術を計画した.呼吸器症状からは自宅管理が可能なレベルと考え退院としており,実際に外来受診時の症状も軽快傾向だったが,手術に到達する前に自宅で急変するに至った.
DAAでは乳児期の上気道狭窄症状や嚥下障害をきっかけに診断に至ることが多いが,本症例では新生児期から複数の施設で経過をみられていたにもかかわらず診断に至ったのは1歳6カ月時であった.診断が遅れた原因には本症例がPWSであったことが大きく関与していると考えられる.PWSでは前述のように呼吸器症状,筋緊張低下による嚥下障害,誤嚥などを認めることが珍しくない.このため,本症例で認められた症状もPWSに由来するものと判断され,それ以上の精査が行われず診断の遅れにつながったと考えられる.また,PWSに先天性心疾患の合併自体が少なくDAA合併の既報はなかった点も診断の遅れに関与した可能性がある.ただ,近年では原因遺伝子周辺の微細欠失により,コントロールに比してわずかに心血管奇形の発症率が高くなったという報告もされている9).少なくともPWSにおいて一般より合併心奇形が少ないということはないことを念頭におき,PWSに伴う可能性のある症状であっても原因精査について検討することが重要と考えられた.加えて,本症例ではPWSに伴う筋緊張低下により吸気性喘鳴が目立たなかった可能性も考えられる.本症例は%最狭部径が44%であるにもかかわらず,吸気性喘鳴を指摘されたのが,1歳4カ月時(ソーセージ誤飲時挿管された際の抜管後)であり,その後も感冒時に当院を受診するまでは特に目立つ症状がみられなかった.喘鳴は気道の狭窄部位を通過する気流速度が増加して乱流となり気道壁が振動することで生じ,乱流は気道の半径や気流速度に影響を受けることが知られている.実際に上気道狭窄を呈する代表疾患である喉頭軟化症においても,呼吸量の増大から気流速度の増大が起こる生後1~2週前後で症状が増悪・顕在化するとされている10, 11)
.本症例においては,筋緊張低下があることで乳児期には気流速度が増加するほどの十分な陰圧がかからず,それにより喘鳴が目立たなかった可能性が考えられた.
ここからDAAと診断した後の本症例の管理について考察する.PWS症例では気道疾患の有無によらず若年死亡が多いことも知られている.AlfaroらによるPWS104例の死亡例の報告では,死亡時年齢の中央値は30歳と若年であり,さらに18歳未満の死亡例のうち7割は2歳までに死亡していた.特に軽症のウィルス性の呼吸器感染から急激に呼吸状態が悪化して死亡している例が多く,背景には筋緊張低下に伴う呼吸筋低下により排痰できないことが推定されていた12).本症例はもともと窒息のリスクがある基礎疾患にDAAが加わった病態であり,よりリスクの高い症例として厳格な管理を行うべき症例だったと考えられた.
DAAでは気道症状への対応だけでなく,消化器症状やその管理も重要である.DAAは乳児期発症の重症例から成人期発症の軽症例まで臨床像が幅広いが,呼吸器症状が目立たない症例では食道圧迫に伴う嚥下困難感などの消化器症状により発見されることも多い13, 14)
.乳児期では一般的に食道圧迫に伴う症状よりも気道圧迫による症状が強いが,食道圧迫による消化器症状として嘔吐,哺乳困難,口腔内分泌物増加を時に認める.また,離乳食開始などの食形態の変化に伴って症状が顕在化することも報告されている15)
.乳児期DAAの嚥下機能を評価した報告は極めて少ないが,本症例はそもそも窒息リスクの高いPWSを基礎疾患に持っており,過去に誤嚥のエピソードがあったことも踏まえると,待機的な手術を行うのであればDAAの診断後に嚥下評価を行い摂食についての介入を行うべきだったと考えられた.また自宅管理にあたっては単に離乳食後期というだけではなく,きめ細かい食形態への配慮および家族が十分に理解できているかの確認も必要であった.
本症例の経過を通じて,基礎疾患を有する症例では種々の要因によりDAAをはじめとした血管輪の診断が見逃されやすいこと,かつ基礎疾患のない症例に比して急変のリスクが高いことを強く認識させられた.基礎疾患を有する症例のDAA/血管輪の早期診断のためには,仮に基礎疾患に伴う症状と考えられる場合でも一度は血管輪を含めた原因病変の検索を行っておくこと,筋緊張を背景に持つ疾患では吸気時喘鳴が目立たない可能性があることも念頭に早めの精査を心掛けることが重要と考えられた.そのうえで,DAAを発見した際には通常よりも急変リスクが高いことを念頭に,より慎重な病態評価と厳格な管理のもと速やかに治療を行うことが肝要と考えられた.
筋緊張低下や嚥下障害を伴う基礎疾患を有する症例の気道症状をみた場合,症状のみでは気道病変を過小評価する可能性があることや背景にある血管輪などの病変を見逃しやすいことを念頭に慎重な原因検索を行う必要がある.またDAAなどの重症な血管輪を合併した場合には,厳重な管理のもと診断がつき次第速やかに治療を行うことが肝要である.
本論文について開示すべき利益相反(COI)はない.
担当医,論文著者:倉信 大
論文指導:宮井健太郎,石井 卓,細川 奨
診療代表者:村上信行
診療協力者:宮田理英,清原鋼二,吉敷香菜子
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