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特定非営利活動法人日本小児循環器学会 Japanese Society of Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery
Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery 40(2): 113-120 (2024)
doi:10.9794/jspccs.40.113

ReviewReview

小児・先天性心疾患のデバイス治療Current Cardiac Implantable Electronic Device Therapy for Children and Congenital Heart Disease

北海道大学 小児科Department of Pediatrics, Faculty of Medicine and Graduate School of Medicine, Hokkaido University ◇ Hokkaido, Japan

発行日:2024年5月31日Published: May 31, 2024
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体格制限のある小児や,特有の心臓構造を持つ先天性心疾患ではリードや植込み法の選択のみならず,その自然歴を勘案したデバイス治療が重要である.また,新しい機能,ペーシングデバイスも登場しており,同領域での植込み数の増加が予想される.本稿では,小児・先天性心疾患のデバイス治療の最近の知見について述べる.

In children with size limitations and congenital heart disease with unique cardiac structures, selection of the lead and implantation method and provision of device therapy that considers the natural history are both important. New functional and pacing devices are emerging, and the number of implantations for these condition is expected to increase. This paper described recent clinical findings on device therapy for pediatric and congenital heart disease.

Key words: pacemaker; cardiac resynchronization therapy; implantable cardioverter defibrillator; child and adolescence; congenital heart disease

はじめに

小児に対する植込み型ペーシング機器(cardiovascular implantable electronic device: CIED)治療では,体格と心血管の解剖が重要である.経胸壁心外膜リードを用いることが多いが,経静脈心内膜リードとの違いを十分理解して選択する必要がある.また,一般成人と異なるペーシングリード位置,植込み方法の工夫を要する.

近年,先天性心疾患(congenital heart disease: CHD)の予後は改善してきている.CHDは伝導障害や,心房および心室頻拍などの不整脈イベントをきたしやすく,CIED植込み数も増加傾向にある.ペーシングデバイス治療は日々進歩しており,CHD領域においても新しい手技や機器への対応が必要になっている.

これらの小児・CHDに対するCIED治療については本学会雑誌に素晴らしい総説が多数掲載されている1–5).そのため本稿では筆者が最近受けた質問の中から,これまであまり述べられてこなかった以下のクリニカルクエスチョン(CQ)を考察する形式で,小児・CHDに対するCIED治療について,古くからの疑問から最新の知見まで考察していきたい.

ペースメーカ

CQ1:適応評価に心臓電気生理検査は必要か?

ペースメーカ治療目的は徐脈性不整脈への対応である.ペースメーカ治療適応を正確に評価する検査はなんであろうか.非侵襲的には安静時12誘導心電図,Holter心電図,運動負荷心電図,薬物負荷心電図などが,侵襲的には,植込み型長時間心電図記録計,心臓電気生理検査(electrophysiology study: EPS)が挙げられる.最も侵襲的な心臓EPSは徐脈性不整脈に対して洞結節,房室結節,ヒス束,脚枝−プルキンエ系がそれぞれどのように機能を保っているかを詳細に知ることができる検査である.しかしながら,実際に本検査を施行しなくてもほとんど全ての徐脈性不整脈へのペースメーカ治療適応を判定可能である.本邦の不整脈非薬物治療ガイドライン6)で示されている小児および先天性心疾患患者のペースメーカ植込みの推奨(Table 1)によれば,ペースメーカ植込み対象となるのは症候性あるいは心機能低下例であり,例外は乳児の先天性房室ブロック,先天性心疾患の高度洞徐脈,そして高度/完全房室ブロックである.EPSを行わなくとも上記の評価は可能である.

Table 1 小児および先天性心疾患患者のペースメーカ植込みの推奨(文献6)より改変)
推奨クラス
I・症候性徐脈,心機能不全,低心拍出を伴う高度もしくは完全房室ブロック
・年齢に不相応な徐脈に伴う徐脈頻脈症候群を含む症候性洞機能不全(徐脈の定義は年齢と期待心拍数により異なる)
(抗不整脈薬による洞機能不全も含む)
・幅広いQRSの補充収縮,心室期外収縮,心機能不全,QTc延長を伴う先天性完全房室ブロック
・乳児の先天性完全房室ブロックで,心室レートが55拍/分未満のもの
先天性心疾患があり,心室レートが70拍/分未満のもの
・心疾患術後回復する見込みのない高度もしくは完全房室ブロック
IIa・先天性完全房室ブロックで,1歳を過ぎても平均心拍数が40拍/分以下,もしくは3秒以上の心停止を伴うもの
・複雑先天性心疾患にともなう洞徐脈で,安静時心拍数が40拍/分以下,もしくは3秒以上の心停止を伴うもの
・先天性心疾患に伴う洞徐脈もしくは房室同期不全により血行動態が悪化するもの
・先天性心疾患術後の一過性完全房室ブロックがあり,脚ブロックを認め,原因不明の失神を伴うもの
IIb・先天性心疾患術後の一過性完全房室ブロックで2枝ブロックを伴うもの
・無症状で,年齢相応の心拍数であり,QRSの延長がなく,心機能の正常な先天性完全房室ブロック
III・無症状の先天性心疾患術後の一過性房室ブロックで,正常房室伝導に戻ったもの
・第1度房室ブロック合併の有無に関わらず先天性心疾患術後の2枝ブロックで,完全房室ブロックの既往のないもの
・無症状のウェンケバッハ型第2度房室ブロック
・無症状の洞徐脈で,RR間隔が3秒未満,かつ最低心拍数が40拍/分以上のもの
・心内短絡がある場合の心内膜リードの植え込み(ただし,血行動態,抗凝固療法の導入,シャント閉鎖の有無,心内膜リードの代わりとなるリードアクセスを個々に検討し,決定すること
洞結節機能不全

自発的に有症候となるかどうかが最も重要であるため,EPSよりもHolter心電図,運動負荷心電図,植込み型長時間心電図記録計の特異度が高い.EPSは洞結節回復時間を測定するなどにより,洞結節機能不全の存在を証明するには有用だが,その機能不全が症状の原因なのか評価することには役立たない.

唯一,EPSが役立つのは洞徐脈へのペースメーカ植込み決定患者において潜在性房室ブロックの有無を確認して心室リードの必要性を検討することである.

房室結節機能不全

同様に自発的に有症候となるかどうかが最も重要であるため,EPSよりもHolter心電図,運動負荷心電図,植込み型長時間心電図記録計の特異度が高い.古くから房室ブロックは1度から3度に分類され,そのうち2度のWenckebach (Mobitz I)型は良性で治療を要さず,Mobitz II型は危険である,と認識される.しかしながら,純粋なMobitz II型をみることは珍しく,Mobitz II型らしき所見を持つ例のHolterではWenckebach型も混在していて悩ましいことが多い.重要なのはその房室結節機能不全が房室結節性なのか結節下性なのかという点であり,Table 2を参考にEPSを行わなくとも運動負荷,薬物負荷で判断可能である.

Table 2-1 房室ブロックの分類とペースメーカ植込み適応
恒久的ペースメーカを植え込むべきか?
房室結節ブロック遠位(結節下)ブロック
第1度房室ブロックいいえいいえ
第2度房室ブロックいいえはい
第3度房室ブロックいいえはい
Table 2-2 房室結節機能評価法
鑑別方法房室結節結節下
運動やイソプロテレノール改善伝導比が低下する可能性
アトロピン改善伝導比が低下する可能性
迷走神経手技増悪不変
Β遮断薬増悪不変

洞結節・房室結節には自律神経枝が豊富に分布するが,ヒス束以下には分布が少ない.そのため日常生活上で機能不全を惹起する状況においても,洞結節・房室結節には自律神経のバックアップが入るが,ヒス束以下にはそれが入らないことを理解するとわかりやすい.

CQ2:周術期に使用されることがあるDVIモードとは?

国際ペースメーカーNBGコードの最初の3文字は

  • 1文字目=刺激電極の位置(A:心房 V:心室 D:両方)
  • 2文字目=感知電極の位置(A:心房 V:心室 D:両方)
  • 3文字目=自己心拍を感知した際の応答(T:同期型 I:抑制型 D:両方)

であり,DVIモードは心房心室を順次刺激するが,自己の心室波を感知した場合には抑制する機能を有するモードである.周術期に洞機能不全と房室伝導障害を合併している例に対して用いる.このような例ではVVIモードではなく生理的ペーシングを行いたいが,DDDモードでは術後の心房性頻脈性不整脈を誘発しやすく,心房レート次第では心室ペーシングが追従してしまうリスクを伴う.また,術後早期の心機能低下が存在する状況では,確実な心室レートを保ちたい一方で,極力wide QRSとなる心室ペーシングを控えたいため,DOOモードではなくDVIモードが使用される.

CQ3:リード抜去時代における経静脈リード植込みに必要な体格は?

近年,リードの損傷や感染を管理するために経皮的なリード抜去やシステム全抜去が行われることが多くなってきている.小児やCHDにおけるリード抜去の手技的成功と安全性は,様々なツール(レーザー,メカニカルシース,回転シースなど)を用いたいくつかの報告で示されている7–10).CHD領域においても90%以上でリードの完全抜去に成功しているが,レーザーシステムの使用や併用例が48~52%,大腿静脈アプローチを要することが8~16%程度に報告され,複雑なリード抜去手技になる傾向がある.合併症は4~17%程度にみられ,リード抜去によって特に傷害を受けやすいと思われる肺動脈弁下房室弁(三尖弁)損傷の合併症が比較的多い(3~16%).

これまで小児に対する経静脈リード植込みについては下記のような認識が一般的であった.「小児は大人のミニチュアではない」とはよく言われることであるが,全くそのとおりで体格と成長という側面からも同様なことが言える.Fig. 1のように年少児の成長では主に胴体が伸び,年長児の成長では手足が伸びる.胴体が伸びる年少児では身長が10 cm伸びると心臓長径が約3 cm伸びるのに対し,年長児では1.5 cm程度の伸びにとどまる.二次性徴以後であれば体格成長による影響は少ないため,この時期以降であればより安全に経静脈リード留置を行うことが可能であろう.

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Fig. 1 (A)胸部単純写真上の心臓長径:心臓長径=大動脈弓上縁から心臓下端までの距離.(B)成長による体型の変化:主に胴体が伸びる年少児では身長が10 cm伸びると心臓長径が約3 cm伸びるのに対し,手足が伸びる年長児では1.5 cm程度の伸びにとどまる.

今後の経皮的リード抜去時代においては,体格の小さな小児例においても,体格成長後のリード抜去を前提に,より低体格時からの経静脈リード留置の可能性が広がることになる11–15).経静脈リードは感度・閾値・耐久性においていずれも心外膜リードよりも優れていることが証明されており,リード抜去は待望の技術である16, 17).ただし,小児期からリード抜去を反復した場合の合併症(静脈損傷,静脈閉塞,三尖弁損傷など)については報告がないため,現時点ではデータの蓄積を待ち,ペースメーカを必要とした原因疾患の自然歴から予想されるリード抜去回数を考慮した計画立案の必要がある18)

小児領域においてもリード抜去手技が発展することを願うが,そこには大きな課題が残っている.日本不整脈心電学会によって2019年に改訂された「リード抜去手術に関するステートメント」によると,施設要件としては循環器専門医または小児循環器専門医の常勤医1名以上,かつ心臓血管外科専門医の常勤医1名以上を必要とし,緊急時に開胸手術などの迅速な対応が得られる体制構築と術者のトレーニングプログラム推奨要件を満たすだけでなく,ICD認定施設であることが求められる.このICD施設認定基準には年間の開心術症例数や心臓電気生理検査数などが含まれており,特に循環器内科医が不在のこども病院などでは,コンスタントに不整脈診療を行う小児循環器医がいなければ条件を満たすことが困難である.

CQ4:遠隔監視モニタリング時代のデバイスチェック外来の意義は?

遠隔監視モニタリングと自動装置安全警告により,フォローアップが非常に容易になった.定期的な胸部X線検査および造影CT検査は,冠動脈圧迫,心筋絞扼19),脱落,断線などのリードに関連した問題の発見に有用である.心エコー検査は,心室ペーシングの割合が高い患者における心室機能のモニタリングや,三尖弁に影響を及ぼす心内膜リード関連の障害を同定するのに有用である.施設によってはICD付きデバイスのみに遠隔監視モニタリングを適用している場合もあるため,患者来院を要するデバイスチェック外来間隔を一律に決定することは難しいが,少なくとも年に1回程度の胸部X線写真と心エコーを行い,上記のデバイス関連合併症の疑いがある場合には造影CT撮像を考慮しつつ,より頻回な確認が必要となる.

CQ5:CHDに対するAATPの効果は?

AATPの有効性を示した論文(MINERVASTUDY)20)以降,CHD関連のAATPの効果の報告が散見されるようになった.比較的新しいKramerらの報告では,91例のCHD患者におけるAATPは,電気ショックの有意な減少と関連していた(p<0.01).全体として,心房内リエントリー頻拍の72%がAATPにより正常に停止した.同報告ではL-loopの修正大血管転位症患者でATP成功率が他のコホートより低かった(p<0.01)としている21).比較的良好な結果を示す報告がなされているが,過去の論文では一定の設定法は明記されていない.現時点ではまずあらかじめ臨床的に問題となっている頻拍の心房周期に合わせて治療開始心房レートのみ変更したノミナルのMinerva設定で開始し,必要に応じて個別に設定変更を行う.特にFontan手術後の心房頻拍は仮にカテーテルアブレーションで治療が完了していても,経年的に再燃する可能性が高いため,ペースメーカを必要とする徐脈性不整脈が存在する例(このような例で心房頻拍出現率も高い)やFontan変換手術を予定している例では積極的導入が考慮される.ただし,AATP以外にペースメーカ植込み理由がない例において植込みを推奨するエビデンスは存在しない.また,AATPの注意点としてペーシング治療によって心房頻拍が心房細動に変化したり,ペーシング中の血圧低下によって心室性不整脈が誘発される可能性がある.そのため,成功率が低い例に漫然とAATP設定を続けることや少なくとも一次予防としてのAATP設定を控えることが重要である.

心臓再同期療法(CRT)

CQ6:経静脈リード植込みが可能な体格は?

経静脈CRTリード植込みでは3本のリード(右房,右室,左室)が左鎖骨下静脈に植込まれる.左鎖骨下静脈径は成人で11~12 mmとされ,3本のリードを通すとそれのみで6%狭窄になる.体重30 kgでは20%狭窄,45 kgでようやく10%狭窄となる.さらに,左室リードが植え込まれる冠静脈径についても冠灌流が十分に保持されなければならない22).以上より,3本のリード留置は成人相当の体格まで成長後に行うべきである23)

CHDを除く小児へのCRTは拡張型心筋症(DCM)に対する適応が想定されるが,小児DCMそのものがCRT non-responderの独立した危険因子と報告されている24).これは小児DCMと成人DCMのetiologyの違いを示していると思われ,小児DCMでは,背景に代謝疾患を持つ場合も比較的多く,左室機能低下でも典型的な左脚ブロックが1/3のみでQRS時間延長例も少ないとされる25).これらの例では機械的非同期と電気的非同期が異なっていると考えられている.そのため定型的な経静脈リードによるペーシング部位では対応が困難であり,症例ごとにペーシング部位を十分検討すべきである.ペースメーカ誘発性心筋症患者ではCRTの反応性がよく,必要となる時期も比較的体格が得られてからのことが多いため,経静脈リードの良い適応になる.

CQ7:CHD(体心室左室,右室,単心室)に対するCRTの長期成績は?

心室心室間非同期あるいは体心室内非同期なのか,電気的非同期あるいは機械的非同期なのか,CRTを行うとしてもペーシング部位をどのように設定したのか26–28),レスポンダーの定義はQRS幅の短縮,心収縮性の改善,BNP低下あるいはNYHAクラスの改善なのか,適応条件も評価方法も定まっていない.そのため,比較的規模の大きな報告であっても鵜呑みにはできない29–32)

体心室左室例

ファロー四徴症が代表例であり報告も比較的多い.しかしそれでも左室機能障害を有する患者における再同期化が左室容積の減少および左室収縮機能の改善に関連することを示唆する小規模なケースシリーズに限られている33).予備的データでは,再同期療法が右室機能障害,右脚ブロック例において,病的右室心筋リモデリングを抑制させることにより,右室機能を改善する可能性が示唆されている34–36).現時点でCRTは,左室機能障害を合併している患者には良い適応である.PACES/HRSコンセンサス・ステートメントも,ペースメーカを必要とする左室駆出率35%以下の患者で,40%以上の心室ペーシングが予想される場合,CRTの植え込みをクラスIIaに推奨している37)

体心室右室例

近年の最も大規模な報告では,Jacquemartらが,CHD 85症例を体心室右室31症例と体心室左室49症例を比較検討して報告している38).CRT後のQRS時間の変化はほぼ同等(体心室左室35 ms vs 体心室右室46 ms)であった.CRTレスポンダーを駆出率10%以上の改善あるいはNYHAクラス1つ以上の改善と定義すると,6カ月,12カ月,24カ月後において体心室左室66.7%, 64.3%, 69.6%,体心室右室82.6%, 80.0%, 77.8%がレスポンダーであり,両群に差がなかった.体心室右室循環では三尖弁閉鎖不全の改善も重要な評価項目になりうるが,明確な報告はない.

単心室例

主要な心室が左室なのか右室なのか,刺激伝導系のバリエーションも多い疾患群である.電気的非同期と機械的非同期の相関がないことも多く,リード位置の検討,植込み後のペーシング条件の設定を個々の例で検討する以外にないため,まとまった報告はない.

以上のように体心室左室例に加えて体心室右室例でもCRTの良好な成績が得られてきており,今後ますます症例数が増えてくることが予想される.一方で,単心室例は症例ごとに個別に適応と評価を考えていかざるをえないのが現状である.

CQ8:CHDに対する刺激伝導系(ヒス束,左脚領域)ペーシングの可能性は?

長期的なリード管理を要する非CHD小児例においては,リード抜去時の損傷の可能性を考えて刺激伝導系ペーシングは避けるべき,と筆者は考えている.一方,CHD症例については,現状では適応基準は存在しないものの,高頻度に心室ペーシングを要する房室ブロック例で冠静脈の先天的あるいは後天的(手術操作による)解剖学的制約から通常のCRT留置が困難な場合や,ペーシング部位の設定が困難なCRT適応例に考慮される.安定したペーシング閾値,QRS幅縮,NYHA/症状の改善などの短期成績の報告は増えつつある39–41).注意すべき例は先天的な刺激伝導解剖異常,外科的修復の影響でリード留置に支障をきたす場合,至適ペーシング部位決定が困難な結節下ブロックである場合である.

植込み型除細動器(ICD)

CQ9:CPVTへはICD植込みは勧められないのか?

本邦および海外のガイドラインではCPVT診断例については,適切な薬物治療または左星状神経節切除術を行っているにもかかわらず心肺停止,再発する失神,多形性心室頻拍もしくは二方向性心室頻拍を認める症例に限ってICD植込みがClass Iとされている6).しかし小児においても心停止蘇生後の患者に対しては二次予防としてのICD植込みが推奨されているため,心停止蘇生後の患者に対してICD植込み後にCPVTと診断されることもある.未診断の小児心停止蘇生後患者で明らかな器質的疾患や心電図の異常を認めない場合にはCPVTを念頭に負荷試験や遺伝子検査などを行い,CPVTと診断された場合,すぐにはICD植込みを行わず,まずは運動制限や薬物療法での管理を行うことが予後の向上につながる.適切な治療が行われていても致死性心室性不整脈が生じ続けるCPVTに対しては,ICD植込みを考慮せざるを得ない場合がある.経過の中で心房性不整脈が多発する例では植込み後に不適切作動を生じやすいため,カテーテルアブレーションにより極力心房性不整脈を治療したうえで,S-ICDではなく心房性不整脈を検知できるように心房リードを含む経静脈ICD植込みを行うことが考慮される.

CQ10:CHD術後ICD植込み患者の運動制限は?

CHD患者では心臓突然死(sudden cardiac death: SCD)の10%程度が運動中に起こっているとされ,歴史的に身体活動が制限されてきた.しかしながら,運動による心筋保護効果や運動により分泌される男性ホルモンの有益性がSCDのリスクをはるかに上回ると報告されている42).運動カウンセリングを成功させるためには,個々の患者にとってどのような運動希望があって,どの程度の強度なのかを話し合い,そのうえで「共有された意思決定」を行うことが重要である.ガイドラインでは,ICDを装着したCHD患者は非競技的かつ非接触的なスポーツにのみ参加することが推奨されている43)

CQ11:CHD例へのS-ICDの可能性は?

2016年2月から本邦でも使用可能となったS-ICDは複雑なバスキュラーアクセス問題を抱えるCHD患者がその開発のきっかけとなった.その後,S-ICDは80 Jでの除細動成功率に関して,経静脈ICDと同程度に有効なシステムへと進化し,CHDの有無にかかわらず同程度の成功率(100対98.5%)を示した44).最近の無作為化試験では,S-ICDは機器関連の合併症や不適切なショックに関して経静脈ICDに劣らないことが判明した45).S-ICDは,バスキュラーアクセスに制限のある患者,過去に経静脈デバイスに感染したことのある患者,心臓内シャントのある患者,および/または肺動脈下心室がない患者(Fontan循環など)にとって,魅力的な選択肢である.皮下リードは胸骨傍腔に沿って,心尖の同側に配置することができる.経静脈ICDに伴う合併症を回避できる一方で,徐脈や頻脈に対するペーシングができないことが主な欠点とされてきた.しかしながら,経静脈ICDによる単形性心室頻拍に対する抗頻拍ペーシングによって持続性心室性不整脈を誘発する可能性が指摘される一方で,近年のS-ICDではTwave機能やスマートパスによる検知機能の向上によりself-terminated VTへの作動が回避され,実際には経静脈ICDよりもむだなショックを回避できているのでは,という考え方が近年のトレンドである.そのため循環器内科領域では虚血心などで電気的障害心筋部位が存在することがわかっている場合,リエントリー性の心室頻拍の可能性が高くなるため抗頻拍ペーシングがあった方が良いように思われてはいるが,実際にはS-ICDを植え込むことが多くなってきている.

ただし,S-ICDはまだ比較的新しい技術であり,CHD患者における使用経験は限られている45, 46).表面心電図によるスクリーニングでは,CHD患者の40%がS-ICDの不適格者であることが明らかになったが,その主な原因は広範な束枝ブロックであった47)

このように,S-ICDはスクリーニング後も適応があり,自然歴からして将来的にもペーシングの適応がないと予想されるCHD患者や,血管開存性を保ちたい若年者に有用な選択肢となる.さらに,今後は胸骨下にICD本体を留置して経静脈ICDの欠点を補いつつもペーシングが可能なextravascular ICDの普及や,S-ICDと心外膜ペーシングやリードレスペーシングを組み合わせたハイブリッドシステムが一定の条件を満たせば実現可能であり,それによって臨床応用の可能性が広がる.

CQ12:CHD術後例へのICD一次予防をどのように考えるか?

CHD患者におけるSCDは優先順位の高い問題である.重要なことは,SCDは一元的な診断ではなく,多様な原因や誘因を持つ多次元的な事象であり,病理学,病態生理学,表現型,警告徴候,蘇生法,予防法など,多角的なアプローチが必要である.ICDの適切な候補を選択するためのリスクスコアも登場している.とはいえ,多くのイベントはショックリズムによるものではなく,他の原因による死亡リスクも同等か,それ以上に高いため,不整脈による死亡リスクが最も高い患者を効果的に同定することは難しい.重要なことは,高齢化CHD患者では心不全の有病率が増加していることと,ICDに関連する合併症がCHD患者において顕著に高いことである48)

現時点で有用性が高いとされているリスク層別化は,ファロー四徴症のようにリエントリー性心室頻拍を有する患者へのEPSによる心室頻拍誘発試験である.持続性心室頻拍が誘発されることは平均6.5年の追跡期間中に臨床的心室頻拍やSCDのリスクが5倍近く高くなることと関連しており,中等度リスクの患者層別化に最も有用である.

各種ガイドライン(PACES/HRS 2014, ACC/AHA 2017, ESC2021)でも,ファロー四徴症については一次予防ICDをクラスIIaで推奨している.ガイドラインで下記の5つのリスク因子が挙げられている(左室機能障害,非持続性心室頻拍既往,QRS時間180 msec以上,広範な右室瘢痕の存在,EPSにおける持続性心室頻拍誘発).しかしながら,リスク層別化の分野は進歩を続けており,一次予防ICDを正当化する臨床的リスク因子は時間の経過とともに変化しうる.

おわりに

雑多なCQにこたえてきたが,近年のデバイス治療の進歩は著しく,毎年のように循環器内科領域から新たなエビデンスが生まれている.個々の例でテーラーメード的に思案するしかない小児・CHD例に対してこれらのエビデンスをどのように応用できるか,というセンスを磨き続けることが大切である.

利益相反

本稿について利益相反に関する事項はありません.

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