Online ISSN: 2187-2988 Print ISSN: 0911-1794
特定非営利活動法人日本小児循環器学会 Japanese Society of Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery
Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery 40(1): 1-2 (2024)
doi:10.9794/jspccs.40.1

巻頭言Preface

看護師の仕事Nursing Work

東京情報大学Tokyo University of Information Sciences ◇ Chiba, Japan

発行日:2024年2月29日Published: February 29, 2024
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ナイチンゲールのクリミア戦争での仕事から,看護師は「白衣の天使」と呼ばれるようになった.天使とは「患者に優しく寄り添う」イメージと言われるが,看護学においてフローレンス・ナイチンゲールは,統計データなど根拠に基づいた看護の実践者であり,「看護覚え書」を記述した理論家であって,優しさを強調してはいない.看護学校や看護大学に入学する学生の志望動機に本人や家族が入院した際の看護師が優しかったから,という内容もよくある.しかし多くの看護師は自分が優しい「天使」とは思っていないだろう.世間一般に,看護師は優しく世話をしてくれるというイメージだけがあり,どんな思考で何をするかは知られていないと,自分が看護師という職業についてからずっと感じてきた.「全ての患者に優しく親切に」すべきと認識しているが,そうできない,またはそれは適切でないと思う場面はしばしばあり,看護師はそういった感情を何かの形で落ち着かせている.看護は,このような様々な感情の管理を要する「感情労働」であるとも言われている1)

COVID-19パンデミックの際には「エッセンシャルワーカー」のひとつとして看護師は,マスメディアや身近な人から医師らとともに「大変な仕事」として深く感謝され,その仕事内容がたびたび取り上げられた.また,患者さんが看護師に求めていることは,「適格なケアや処置」38.97%「話しかけ易さ」36.54%「迅速な対応」19.54%と報告(『ナース専科』2022)されている.つまり適切なケアや処置,相談や日々の会話のしやすさが求められている.パンデミックの中で自らの感染の不安や風評被害を抱えながらも,ケアや処置をテキパキとこなす医師や看護師の姿は日本中が不安に包まれるなかで,希望の一つだったと思う.

看護師不足は長く課題だが,日本国内の看護師数は152万人(2022年),人口1,000人あたりの看護師数は12.1人で世界第7位である.第1位はフィンランド18.92人,米国は9位で11.98人となっている.病院数をみると,日本は8,205と第1位の多さであり第2位の米国6,129を大きく引き離し,人口1,000人当たりの病床数も12.62と第2位である.国内の看護師の約2/3はこれらの病院に勤務するが,近年クリニックや訪問看護ステーション,地域包括支援センター,福祉施設,特別支援学校など地域で働く看護師が増えてきた.国民皆保険で受診しやすく病院数も多い日本で,地域で働く看護師も増加し,一般の人が患者または家族として看護師に接する頻度は少なくないと推察される.しかし「看護師の仕事」は実際看護師以外の人にどのように捉えられているのだろうか.

保健師助産師看護師法による看護業務は,「傷病者や褥婦への診療の補助と療養上の世話」である.この業務を行う看護師になるための日本の看護師養成基礎教育課程は大きく分けると,3年課程としての4年制大学,3年制短大,専門学校,准看護師が進学する2年課程,5年制の衛生看護科および進学課程の5種類ある.教育課程の卒業要件や設備などは文部科学省の設置基準により決まっているが,看護師国家試験受験資格を得るには,保健師助産師看護師養成所指定規則という省令に定められた教育内容と単位数が必要となる.医療と社会,環境の変化により,臨床看護師に求められる能力は高度化複雑化している.看護学も学際的学問として発展した.このように多くの教育課程があり,時代や勤務する組織により教育内容や経験が異なるなかで,同じ国家資格の看護師であり同じ組織で勤務し同年代であっても,役割認識や実践,看護観は様々だと感じる.さらに1995年から日本看護協会認定の専門看護師,認定看護師制度ができ,現在,特定行為研修修了した特定認定看護師,日本看護系大学協議会または日本診療看護師教育大学院協議会認定の診療看護師(NP)をはじめ,学会等が認定する専門領域の資格を取得し,スペシャリストまたは高度実践看護師としてチーム医療に参加する看護師も増加しており,看護師の多様性は広がっている.

看護師は,基礎教育において問題解決思考である「看護過程」という思考と活動,患者・利用者・家族との相互関係の中で,信頼を得て看護実践を行うために必要な,看護理論,知識,技術,態度を学ぶ.情報収集,解釈,問題の予測・確認・明確化,計画立案,実施,評価をするなかで,対象の「個別性」と「多様性」は,私が看護学生であったかなり昔の看護教育において既にkey wordであり,これらはどの看護師養成基礎教育課程でも共通である.また「臨床判断」「臨床推論」のプロセスも看護師に必要な思考として扱われるようになった.看護師は,身体面・心理面・社会面から包括的に対象を捉え,対象の特徴にあった必要な実践を思考し,それを誰がどのように行うかを考える.

今,看護師国家試験の直前となり,看護学生は「人生の今までの中で一番勉強している」と話す.私もこの時期大学受験よりも勉強した.テキパキと処置をこなし,患者さんやご家族に信頼される看護師を目指して,毎年多くの新人看護師が誕生する.「看護師の仕事」を多くの人に知っていただき,同じ医療チームの一員として育てていただきたい.

引用文献References

1) 三井さよ:看護職における感情労働.大原社会問題研究所雑誌2006; 567: 14–26

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