小児心臓移植待機患児に対するリハビリテーションの今後The Future Perspectives of Rehabilitation for Children on the Pediatric Heart Transplant Waiting List
国立循環器病研究センター小児循環器内科The Department of Pediatric Cardiology, National Cerebral and Cardiovascular Center ◇ Osaka, Japan
国立循環器病研究センター小児循環器内科The Department of Pediatric Cardiology, National Cerebral and Cardiovascular Center ◇ Osaka, Japan
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2010年臓器移植法案の改正によって,事実上本邦における小児心臓移植医療の幕開けが訪れたと感じる.なんとか日本人を日本人が救える準備ができてきた一方で,まだまだこどもたちが心臓移植に到達するまでの待機期間は長いのが現実である.我々の施設で国内心臓移植を受けた患児の待機期間の中央値は28か月(5~44か月)であり,多くの症例で補助人工心臓が装着されたなかでの待機生活になる.今回の天尾論文1)においても,約2年にわたる院内待機期間,心臓移植術後までのリハビリテーションの重要性,患児の状態に応じた対応の困難がメッセージと受け取れる.このような長い待機生活を余儀なくされる学童児たちが,心臓移植術を終え集団生活に復帰していく際に大きな妨げとなるのは①発達の凸凹と,②身体機能の未熟性である.長期にわたる入院生活は,患児にとって同年代の児童とのかかわりが極端に減少し,一方で大人とのやり取りが多くなる.
大人(病院スタッフ)との折衝においては,最終的に大人がある程度折れる形となり,患児にとってはself-control,すなわち我慢することから遠ざかってしまう.さらに,家族も児のおかれた状況から,与えること(物欲を満たす)を患児へのポジティブなアクションと感じやすくなってしまいがちである.もちろん,フィジカルな面での不安や,家族と過ごす時間の減少といった入院生活での環境面もあいまって,認知機能の成熟に非常に重要な4~12歳にこのような環境にさらされれば,発達凸凹が多かれ少なかれ発現してしまうと考えられる.小児心臓移植医療に携わってきた経験上,このような認知機能の成熟をサポートするようなプログラムが必要であると痛感する.しかし,こういったプログラムに現時点では保険診療点数はつかず,人的資源の投入も難しいのが現状である.認知機能を刺激するために,現行の医療で実現可能と考えられるものとして,リハビリテーションの応用があると考えている.例えば,白線の上を歩きながらスプーンにのせたピンポン玉を落とさないで歩くといったエクササイズに集中力を加えるようなトレーニングなども,小児の術後リハビリテーションの一環として認知されることを願いたい.体を動かすことや,ベッドから離れた環境での活動はちょっとした気分転換であり,患児たちの精神衛生においてもよい影響をもたらす.対外式補助人工心臓装着児の現行の診療報酬上(心大血管リハビリテーション料)の算定上限日数が150日(3か月)であり,実際の臨床現場の問題との間に大きなギャップが生じており,時代にあわせた医療行政の変革も必要となってきている.
次に,長期にわたる体外式補助人工心臓(Berlin Heart EXCOR)装着児においては,歩行運動をするにも30分のバッテリー駆動可能時間内に限られ,施設によって制限は異なるが,医療者(医師,看護師もしくは臨床工学技士)の付き添いが必要となる.当然,1日の行動範囲の多くは自室内に制限されるため,筋力も相当低下する.心臓移植待機の年齢にもよるが,心臓移植後の身体活動の再開の経過をみると,多くの児で経験不足から転倒時に受け身が取れず,顔面から受傷することも少なくない.歩き方も膝を上げて踵着地ができず,極端な前傾姿勢を保ちながら足を広げてすり足で進んでいくような歩き方になる.こういった体の使い方の指導,そのための筋力アップを含めた術後の機能回復プログラムも非常に重要な要素となり,集団生活復帰への大きなカギだと思われる.整形外科領域や,神経内科領域のリハビリテーションとは異なる視点からの介入が必要であり,今後の医療に欠かせない分野である.
注記:本稿は,次の論文のEditorial Commentである. 天尾理恵,ほか:拡張型心筋症に対し体外設置型補助人工心臓を装着し,心臓移植に至った男児のリハビリテーション.日小児循環器会誌2023; 39: 236–243
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