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特定非営利活動法人日本小児循環器学会 Japanese Society of Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery
Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery 38(4): 265-267 (2022)
doi:10.9794/jspccs.38.265

How To Do ItHow To Do It

3Dプリンタによる臨床課題解決の具体的事例:PIカテーテル固定の工夫A Proposal for Solving Clinical Problems with a 3D Printer: Ingenious Idea Regarding Fixation of PI Catheter

京都府立医科大学大学院医学研究科小児科学Department of Pediatrics, Graduate School of Medical Science, Kyoto Prefectural University of Medicine ◇ Kyoto, Japan

受付日:2022年7月13日Received: July 13, 2022
受理日:2022年10月27日Accepted: October 27, 2022
発行日:2022年12月1日Published: December 1, 2022
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Key words: 3D printer; clinical problems; PI catheter

はじめに

3Dプリンタは複雑な形状のモデルを短時間かつ高精度で出力が可能であり,医療の分野においても活用が進んでいる.超軟質精密心臓レプリカによる手術シミュレーションや医学教育1)に代表されるように,3Dプリンティングの技術は小児循環器領域においても強力なツールの1つとなった.近年では安価で小型な3Dプリンタも多く登場しており,日常診療での課題解決においても強力なツールとなりうる.われわれは,当科におけるPIカテーテル(以下PI)の固定に関する実務上の課題に対して,3Dプリンタを用いて対処することを検討し,効果的に対策できたので知見を紹介する.

PIは小児循環器領域において,高カロリー輸液のみならず,プロスタグランディン製剤や心不全治療薬等を長期に渡り確実に中心静脈へ投与するための必須デバイスである.一方でその構造上の細さゆえ,体内外で屈曲し薬剤の入りむらが生じ循環変動を来しうる.当科では,Argyle™ PIカテーテルキットIIを使用しており,付属のピールオフ可能な留置針で確保できなかった場合には,一般の静脈穿刺カニューラ(当院ではジェルコ®プラス24G(以下ジェルコ))を用いて留置し,PIルアー部とジェルコとの嵌合部をサージカルテープで固定している.しかし,同部位の接続は体動などで緩みやすく,緩んだPIルアー部は無理に押し込むと外筒内でカテーテルが屈曲し(Fig. 1A),輸液の閉塞の原因2)となるため,外筒ごと引き抜かざるをえなくなり,その際に先端位置が浅くなる事が経験された.一般留置針を用いた場合の嵌合部の固定方法については長年試行錯誤したが解決には至らず,本事象の解決に3Dプリンタを活用し固定キャップを作成することにした.

Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery 38(4): 265-267 (2022)

Fig. 1 問題点と解決へのプロセス

A:嵌合部でのPI屈曲の様子(矢印).嵌合部が緩んだ後,再度はめ込もうとすると外筒内で屈曲することがある.B:キャップ設計の様子とCGレンダリング画像.C:3Dプリンタ(SLA-LCD方式)での実際の出力物.D:当科の固定方法(左上腕).刺入部周辺はループによる「遊び」を設けている.従来はPIルアー部とジェルコが外れないようにテープで固定していた.いずれも実際には包帯で全周を覆う.E:FDM方式とSLA方式の概要.

方法

われわれは3D CADソフトウェアであるAutodesk Fusion 360™を用いて,PIルアー部とジェルコとの嵌合部分を,PI確保後にはめ込み式で固定可能なキャップをデザインした(Fig. 1B).PIルアー部とジェルコを嵌合した状態を鋳型として採寸し,オフセットを約0.2 mm確保した半ドーム上の構造をベースに,ジェルコ先端とPIルアー部尾側を通す隙間を確保してPI確保後にはめ込むことができる形状とした.3Dモデルを基に,光造形式3DプリンタであるELEGOO社のMars 2 ProでUVレジンを用いてモデルを出力し(Fig. 1C),学内医療安全・未承認医療機器審査会承認のもと装着した.本デザインではパーツは1点だけで,キャップに嵌合部を押し込むだけであり,いずれの主治医も特段の習熟は要さず,キャップが患者と直接触れることはない.当科での従来の固定方法である,嵌合部をテープ固定した群(T群)と,キャップで固定した群(C群)(Fig. 1D)とでPI留置日齢,留置時体重,留置期間,有害事象発生件数を前方視的に検討した.T群は2020年12月~2021年2月,C群は2021年3月~2021年6月を観察期間とした.当院では担当看護師が1日最低1回嵌合部に緩みがないかをチェックしており,嵌合部の緩みを発見した場合と,シリンジポンプ閉塞アラームの原因が嵌合部にあった場合を有害事象と定義した.統計量は留置時体重は平均値±標準偏差で,その他の項目は中央値(四分位範囲)で表記し,統計解析は留置日齢・期間に対しMann–WhitneyのU検定を,留置時体重に対しWelchのt検定を,延べ観察回数における有害事象発生率に対しχ2検定を用い,有意水準は0.05とした.

結果

観察期間内のPI使用数はT群:15本,C群:16本であった.留置日齢はT群:110(83.0–131.5)日,C群:129(23.3–263.5)日齢(p=0.78),留置時体重はT群:4.13±1.41 kg, C群:5.31±2.64 kg(p=0.16),留置期間はT群:36(17–55.5)日,C群:46(27.5–55.3)日(p=0.33)であった.有害事象件数/延べ観察回数(ルーチンチェック+閉塞アラーム対応数)はT群:14/590(554+36)件,C群:0/818(771+47)件(p<0.001)であった.T群での事象発生までの日数は30.5日(21.5–33.3日)で,13件は嵌合内の屈曲を解除するためループ内のPIを引き抜いて再固定し,1件は先端位置の変化のため再確保を要した.一度嵌合部が緩むと,テープで再固定しても繰り返し緩みやすい傾向が見られた.なお,当院ではUS Centers for Disease Control and Preventionによるカテーテル関連感染予防ガイドライン3)に準じ,中心静脈カテーテルの留置期間による一律の定期交換基準は設けていない.カテーテル関連血流感染はC群において無脾症候群の乳児1例で81日目に認めた.全例において抜去困難症例は認めなかった.その後の10か月間で66件に対してキャップを装着し,現在までに嵌合部の緩み・キャップの破損・キャップに起因する皮膚トラブルなどの事象は1件も発生していない.

考察

近年,3Dプリンタは急速に低価格化が進み,熱積層式(FDM)と光造形式(SLA)の2種類(Fig. 1E)に関しては導入も容易となった.

FDM方式はフィラメントと呼ばれる紐状の樹脂を高熱で溶解し,樹脂を押し出しながらXY方向に造形し,Z方向へ1層ずつ積層していく方式である.樹脂にはABS樹脂やPLA樹脂,弾性を備えたTPU樹脂などが一般的だが,機種によっては強度の高いカーボンファイバーや実験材料で用いられることが多いポリプロピレン樹脂など様々使用可能である.樹脂を押し出すノズル径は0.4 mmのタイプが多く,XY方向の解像度は樹脂の押し出し量とノズル径に左右され,Z方向は各層150~500 µm程度の厚みとなる.1層1層が厚く,非常に細かな造形は苦手である.強度は主に材料に左右されるが,1層ずつ熱で溶かしたフィラメントを積み上げるため,Z方向の層間結合力はXY方向より一般的に弱い.そのため,Z方向に力が加わるようなデザインは避けるか,出力方向の工夫が必要である.

SLA方式は紫外線レーザーを紫外線硬化レジンに照射して樹脂を硬化させて造形する方式で,目的の領域に紫外線を照射するために液晶ディスプレイ(LCD)を活用したものが普及している.LCDに1層ずつマスク画像を表示させ,目的の造形に必要な部分にのみ紫外線を照射し,Z方向へ積層することで目的の形状を造形する.紫外線硬化レジンにはアクリル系やポリウレタン系樹脂やABS樹脂に物理特性を似せた樹脂や弾性樹脂など,さまざまな種類が利用可能である.SLA-LCD方式ではXY方向の解像度はLCD解像度と各層の紫外線照射時間に左右され,Z方向は各層10~100 µmの厚みとなる.LCDは高精細な2K, 4Kディスプレイが使用され,全体的な解像度はSLA方式の方が高くなる場合が多い.造形時間はSLA方式ではZ方向の高さに依存するため同じモデルを複数同時に出力しても造形所要時間は1つだけの場合と同じで,多数造形する場合の利点となる.後処理として,余剰なレジンをアルコールで洗浄し,紫外線で二次硬化させる必要がありFDM方式よりも手間がかかる.

いずれの方式でも3Dモデルを高精度に製作可能であるが,中空の形状は造形が苦手であったり,プリンタや材料ごとの特性,造形する形状等に合わせた複数の印刷パラメータを経験的に調整・最適化する必要があったりするため,満足のいく精度で印刷できるようになるまでには若干の慣れが必要で試行錯誤を要する.造形精度や解像度は機種や造形設定,材料,モデルの形状によるが,既報ではFDM, SLA方式両者においても,<1 mm以内の精度で出力が可能4, 5)であるとされる.しかし,経験的には<200 µm以内とより高精度であることが多い.3Dモデルは汎用的な形式で保存されるため,公開されているモデルを自身で印刷することが可能であるが,形状を修正したり,3Dモデルを自前で用意したりするためには,3D CADの知識がある程度必要である.今回作成したモデルは,PIとジェルコをドーム状に覆うシンプルな形状であり,両方式どちらで出力しても使用に際しての差はなかった.形状については,後に看護サイドからの要望で,当科での固定方法に即した角度付きの土台を設けており,このような要望に応じた微調整が容易にできることの利点は大きい.

3Dプリンタは簡便にアイデアを具現化することができ,実臨床から医学教育,患者説明まで活用の幅は広く,今後も導入が進むものと期待される.いずれの方式・材料を用いても,出力物は通常のプラスチック製品と同様に素手で触れることが可能であるが,医療現場で患者との接触があるような使用方法の場合には,ISO 10993に適合した材料を選択することもできる4).また,使用方法や強度に関しても十分検討した上での活用が望ましい.今回は従来テープで固定していた部分を強度のあるプラスチックで置き換えたものだけではあるが,医療機器同士を繋ぐ未承認医療機器として,学内医療安全・未承認医療機器審査会と使用方法や有害事象の把握方法など事前に検討した上で装着した.

このように3Dプリンタは発想を自由な形状へと具現化することができ,日常診療・業務を強力にサポートしてくれるツールとして,今後の小児医療への活用も期待したいところである.

謝辞Acknowledgments

キャップ装着に関してフィードバックをいただいた京都府立医科大学小児科の遠藤康裕先生・喜多優介先生・こども西病棟及びPICUの看護スタッフに深謝いたします.

利益相反

本論文について,開示すべき利益相反(COI)はない.

著者の役割

竹下直樹はキャップ設計,作成,データ集積,統計学的解析,論文原稿作成を行った.

池田和幸,家原知子は論文作成の過程において主著者を指導し,統計学的解析,論文内容の批判的校閲において貢献した.

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