大動脈縮窄に対する小児期subclavian flap法修復術後の大動脈瘤:成人期の再手術2例
1 兵庫県立尼崎総合医療センター心臓血管外科
2 兵庫県立尼崎総合医療センター小児循環器内科
大動脈縮窄(coarctation of the aorta: CoA)に対するパッチ形成術後の合併症として大動脈瘤の頻度は多いが,鎖骨下動脈フラップ(subclavian flap aortoplasty: SCF)法術後の大動脈瘤の報告は少ない.CoAに対するSCF法術後の成人期にCoA修復部の大動脈瘤に対する再手術を2例経験した.症例1は,26歳男性で,3歳時にCoAに対してSCF法での修復術を施行した.経過観察中にSCF部の遠位に紡錘状の大動脈瘤を認めた.胸骨正中切開,超低体温循環停止,逆行性脳灌流下に人工血管置換術を行った.瘤はSCF部自体で,中膜嚢胞壊死を認めた.術後15年,再発はなく経過良好である.症例2は,34歳女性で,6歳時にCoAに対してSCF法での修復術を施行した.経過観察中にSCF部の遠位小弯側に嚢状の大動脈瘤を認めた.左側開胸,下半身部分体外循環下に,人工血管置換術を行った.瘤は動脈管組織と思われた.術後14年,再発はなく経過良好である.SCF法術後の大動脈瘤は注意すべき合併症であり,観察の継続が必要である.
Key words: coarctation of the aorta; subclavian flap aortoplasty; adult congenital heart disease; aortic aneurysm; reoperation
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1966年にWaldhausenが報告1)した鎖骨下動脈フラップ(subclavian flap aortoplasty: SCF)法は,大動脈縮窄(coarctation of the aorta: CoA)に対する有茎自己組織のみを使用した再建法で,新生児乳児例や峡部低形成を伴った症例に対して,成長を期待する術式として,Elliottが1987年に拡大大動脈弓再建術(Extended aortic arch anastomosis: EAAA法)を報告2)するまで,CoAの主たる術式として広く行われてきた.CoA術後は,再狭窄だけでなく,真性瘤や仮性瘤も重大な遠隔期合併症である.特にパッチ形成では術後大動脈瘤の頻度が多いと報告されている3, 4)
一方,SCF法における再建部の大動脈瘤は文献上12例の報告があるにすぎない5–12)
.今回,simple CoAに対して幼児期にSCF法による修復術を行った症例で,成人期にCoA修復部の大動脈瘤に対する再手術を2例経験したので報告する.
26歳,男性
3歳時(1982年)にsimple CoA(上下肢の収縮期血圧差18 mmHg)に対して,当院で単純遮断下にSCF法による修復術を施行した.動脈管索は離断したが,CoA部の肥厚内膜は放置した.術後,上下肢の血圧差は消失し,術後の大動脈造影では,動脈瘤様の形態は認めなかった.以降,当院外来で経過観察しており,上下肢の血圧差や高血圧のエピソードはなく経過していた.1年毎の胸部X線写真で経時的に上縦隔の拡大を認め,術23年後に施行した造影CT検査で左総頸動脈の遠位に大動脈瘤を認めた.
左総頸動脈の遠位に最大短径60 mmの紡錘状大動脈瘤を認めた.他の合併病変は認めなかった.
AAo, ascending aorta; An, aneurysm; BA, brachial artery; LCCA, left common carotid artery; LPA, left pulmonary artery
大動脈瘤は左総頸動脈直後の遠位から拡大していることから,中枢側の遮断は困難と判断した.またSCF法術後の肺との癒着を懸念し,遠位弓部大動脈瘤に準じて胸骨正中切開でアプローチした.動脈瘤はSCF部自体の拡大であった.肺の癒着は軽度であった.上行大動脈送血,上下大静脈脱血で人工心肺を確立した.心停止後,超低体温循環停止(20°C),逆行性脳灌流として,大動脈瘤を切除し,同部位の人工血管置換(Hemashield® 26 mm 1分枝付き,Boston Scientific Japan)を行った.末梢,中枢の順に,それぞれフェルト帯で外周を補強し4-0ポリプロピレン糸の連続縫合で吻合した.末梢側吻合後に下半身送血を再開し,中枢吻合後に復温を開始,復温完了後に人工心肺を容易に離脱した.手術時間,人工心肺時間,心停止時間,循環停止・逆行性脳灌流時間は,それぞれ527分,233分,83分,80分であった.
嚢胞性中膜壊死を認めた.
術後一過性に嗄声を認めたが,1年で自然軽快した.術後のCT(Fig. 1B)では大動脈瘤の残存はなかった.現在術後15年,内服薬なしに血圧は問題なく,動脈瘤の再発もなく経過良好である.
34歳,女性
6歳時(1979年)にsimple CoA(上下肢の収縮期血圧差53 mmHg)に対して,当院で肺動脈脱血,右大腿動脈送血による部分体外循環下にSCF法による修復術を施行した.動脈管索は離断せず,肥厚内膜は切除しなかった.術直後,上下肢の血圧差は15 mmHgに減少し,術後血管造影の詳細は不明であるが動脈瘤に関する記載はない.以降,当院外来で経過観察しており,上下肢の血圧差も経時的に消失していた.血圧はやや高めではあったが,降圧剤の内服は行わずに経過観察していた.1年毎の胸部X線写真で経時的に上縦隔の拡大を認め,術28年後の造影CT検査で,SCF部の遠位小弯側に嚢状瘤を認めた.今後の拡大が予想されることや,挙児希望があり,妊娠出産に伴う大動脈瘤の拡大や破裂のリスクを考慮し,再手術の方針とした.
SCF部の遠位小弯側に限局する嚢状瘤(最大短径45 mm)を認めた.他の合併病変は認めなかった.
An, aneurysm; DAo, descending aorta; IC, intercostal artery; Lig, ligamentum arteriosus
大動脈瘤がSCF部の遠位であり,中枢側の遮断吻合は容易であると判断し,左側開胸でアプローチした.前回手術で使用した第4肋間を避けて第5肋間で開胸した.左大腿静脈脱血,瘤より末梢の下行大動脈から送血,下半身の部分体外循環,常温下で手術を行った.大動脈瘤前面は肺と一部軽度の癒着を認めた.これは大動脈遮断後に剥離した.大動脈瘤は動脈管と一致する部位に存在した.肋間動脈を1本結紮離断した.大動脈瘤を切除し,人工血管置換(Gelweave® 20 mmストレート,Vascutek Limited)を行った.中枢,末梢の順にそれぞれフェルト帯で外周を補強し4-0ポリプロピレン糸の連続縫合で吻合した.手術時間,体外循環時間,大動脈遮断時間はそれぞれ271分,42分,40分であった.
筋層は保たれていたが全層が菲薄化していた.
術後一過性に嗄声を認めたが,1年で自然軽快した.術直後のCT(Fig. 4B)で大動脈瘤の残存はなかった.妊娠出産を経て,現在術後14年,アテノロール25 mgの内服のみで血圧管理を行い,動脈瘤の再発なく経過良好である.
小児期のCoAに対する外科的修復術として,縮窄部切除と直接吻合,パッチ形成,SCF法が1980年代から1990年代前半までの主な術式であった.新生児や乳児では,大動脈弓低形成を合併することが多く,剥離により下行大動脈が十分に可動することから,1990年代以降はElliottが報告したEAAA法2)が主流となっている.SCF法は,有茎自己組織のみで完結し,成長が期待できる術式として考案された1).しかし,左腕の発育不全の報告13)や,縮窄部組織を除去しないため,再狭窄率は直接吻合と同程度であるとの報告14)もあることから,最近では低体重児など限定的な症例のみで使用され,CoAに対する主な術式ではなくなっている.当院では,1979年にSCF法を導入し,この年に3例,1980年代に27例,1990年代に18例施行してきた.2004年以降は一貫してEAAA法を行っている.自験2例は,手術が1979年および1982年と,EAAA法が報告される以前の症例であった.同時期に新生児期および乳児期早期にもSCF法を行っていたが,特に心室中隔欠損や複雑心奇形合併例の治療成績が非常に悪かったことや,他地域からの紹介例が多かったことなどから,当院での経過観察例は16例にとどまる.本報告の2例と同時期にSCF法を行って現在まで経過観察できているのは,4歳時にsimple CoAに対して行った1例のみで,術後42年の現在,大動脈瘤を認めていない.
CoA術後の大動脈瘤は,真性瘤,仮性瘤のいずれも,一般成人に見られる大動脈瘤と同様に無症状で進行し,破裂した場合は致死的となる点において重篤な合併症である15).パッチ形成術後に発生する頻度が高く,真性瘤はパッチと対側の大動脈壁に瘤を形成したものが多い3, 4)
.一方でSCF術後はこれまで12例の症例報告を認める(Table 1)5–12)
.Mellgrenらの豚での研究16)では,SCF部は中膜が肥厚することにより強度が増し,大動脈壁として機能していると報告されているが,内膜も同様に肥厚し,大動脈内腔から中膜への栄養供給が阻害されることも同時に指摘されており,このため中膜は肥厚したにもかかわらず脆弱であり,このSCFの性質が瘤形成に寄与している可能性も考えられる.またMcGiffinらは,SCF法の場合,人工物のパッチに比べてSCF部が柔軟なため,より強い圧ストレスが生じる可能性があるとも述べている.SCF法で瘤形成しにくい理由として,SCF部のサイズが小さいことを挙げており,パッチ形成と同様にSCF部が大きくなった場合には,圧ストレスが増加し,瘤形成しやすい可能性を指摘している.症例1は,SCF部の瘤で,病理組織で中膜嚢胞性壊死が見られており,SCF部の中膜が上述の機序により脆弱であったことや,SCF部のサイズが大きく,多大な圧ストレスを受けた可能性などが瘤形成の原因として考えられる.一方,症例2はSCF部ではなく,対側の動脈壁に残る動脈管組織に生じた動脈瘤であった.Jonasは,正常な大動脈では,動脈管組織は大動脈壁の全周に対してわずかしか入り込んでいないが,大動脈縮窄では,動脈管組織が大動脈壁の全周に対して多く入り込んでいると述べている17).動脈管組織は中膜の弾性線維を欠くため,弾力性は欠如し脆弱である17)ために,動脈管は憩室として残存したり,動脈管動脈瘤を生じやすいとされている18).症例2はこれらの機序により瘤を形成したと考えられる.
Authors (year) | Age at SCF | Period from SCF to diagnosis of aneurysm | Form of aneurysm | Site of aneurysm | Operation |
---|---|---|---|---|---|
Martin et al.5) (1988) | 12 days | 4.5 years | Not reported | Not reported | None |
15 months | 2 years | Fusiform | Not reported | None | |
6 weeks | 2 years | Fusiform | Not reported | None | |
Berri et al.6) (1993) | 2 years | 7 years | Not reported | SCF | Ascending-descending aortic bypass |
Kino et al.7) (1996) | 2 years | 12 years | Fusiform | Not reported | Graft replacement |
Nguyen et al.8) (1999) | 7 years | 12 years | Fusiform | SCF | Graft replacement |
Scholz et al.9) (2001) | 10 days | 10 years | Fusiform | SCF | None |
Kang et al.10) (2004) | Not reported | Not reported | Not reported | Not reported | Graft replacement |
Not reported | Not reported | Not reported | Not reported | Graft replacement | |
Theodore et al.11) (2005) | 3 years | 18 years | Saccular | SCF | Patch repair (died) |
Soynov et al.12) (2018) | Until 96 days (reversed SCF) | 6 months | Fusiform | SCF | None |
Until 96 days (reversed SCF) | 6 months | Fusiform | SCF | None | |
Case 1 | 3 years | 23 years | Fusiform | SCF | Graft replacement |
Case 2 | 6 years | 28 years | Saccular | Ductus arteriosus | Graft replacement |
一般に胸部大動脈瘤に対する手術適応は最大短径60 mm以上とされている.症例1は,60 mmに到達しており,手術適応と考えられる.症例2は挙児希望があり,嚢状瘤でもあるため手術適応とした.SCF法術後の大動脈瘤に対する再手術のアプローチとしては,左開胸の報告が多い4, 8, 10)
が,胸骨正中切開の報告19)や,癒着剥離に難渋したなどの理由で両方を併用した報告7, 11)
もある.CoAに対する初回の手術方法や,合併病変がある場合にはその対応も考慮する必要がある.今回の2例は,介入すべき合併病変は認めなかった.若年であることから血管内治療は選択せず,手術を選択した.症例1は遠位弓部大動脈瘤と同様であることから胸骨正中切開を,症例2は中枢側の遮断吻合が可能な距離があること,症例1の経験から肺の癒着が軽度と予想されたため左側開胸を選択した.
自験2例は3歳,6歳と乳児期以降にSCF法を行っているが,これまでの報告例(Table 1)には乳児期にSCF法を行った症例も存在する.動脈瘤の診断も最短で6か月からみられており,形態や部位も様々である.SCF法術後は,症例数は少ないものの,動脈瘤形成も合併症の一つであり,再手術を要した2例の経験を踏まえ,新生児例を含めて術早期から定期的に経胸壁心エコーとCTでの注意深い観察が必要と思われる.
CoAに対するSCF法術後に大動脈瘤を形成することがあり,遠隔期を含めて注意深い経過観察が必要である.
本論文について開示すべき利益相反(COI)はない.
前田登史は,論文の構想,データ収集に関与し,論文の執筆を行った.藤原慶一は,論文の構想に関与し,論文執筆の指導を行った.吉澤康祐,森おと姫,坂﨑尚徳は,批判的校閲に関与した.
本論文の要旨は,第22回日本成人先天性心疾患学会総会・学術集会で発表した.
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