Online ISSN: 2187-2988 Print ISSN: 0911-1794
特定非営利活動法人日本小児循環器学会 Japanese Society of Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery
Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery 38(2): 128-139 (2022)
doi:10.9794/jspccs.38.128

原著Original

ファロー四徴症修復術後患者の社会的自立状況と生活習慣の検討Social Independence and Lifestyles in Patients with Repaired Tetralogy of Fallot

1九州大学病院看護部Department of Nursing, Kyushu University Hospital ◇ Fukuoka, Japan

2広島大学大学院医系科学研究科周手術期・クリティカルケア開発学Department of Perioperative and Critical Care Management, Graduate School of Biomedical and Health Sciences, Hiroshima University ◇ Hiroshima, Japan

3福岡看護大学看護学部看護学科Faculty of Nursing, Department of Nursing, Fukuoka Nursing College ◇ Fukuoka, Japan

4第一薬科大学看護学部Faculty of Nursing, Daiichi University of Pharmacy ◇ Fukuoka, Japan

5九州大学大学院医学研究院循環器内科学Department of Cardiovascular Medicine, Kyushu University Graduate School of Medical Sciences ◇ Fukuoka, Japan

6九州大学大学院医学研究院小児科学Department of Pediatrics, Kyushu University Graduate School of Medical Sciences ◇ Fukuoka, Japan

7保健医療経営大学保健医療経営学部Department of Healthcare Management, College of Healthcare Management ◇ Fukuoka, Japan

8九州大学病院別府病院Department of Internal Medicine, Kyushu University Beppu Hospital ◇ Oita, Japan

9福岡歯科大学医科歯科総合病院健診センターHealth Care Center, Fukuoka Dental College Hospital ◇ Fukuoka, Japan

受付日:2021年3月15日Received: March 15, 2021
受理日:2022年4月9日Accepted: April 9, 2022
発行日:2022年5月1日Published: May 1, 2022
HTMLPDFEPUB3

背景:チアノーゼ性成人先天性心疾患の中で頻度の高いファロー四徴症において社会的自立や生活習慣を調査し保健指導の基盤を得ることを目的とした.

方法:186名に質問紙調査(病気や治療に関する理解や不安,社会的自立,生活習慣等)を行い,身体障害者手帳認定の有無で比較した.臨床情報は診療録より抽出した.

結果:有効回答者112名(男41名,平均28歳)の半数が親と同居し,学生を除いた93名の83%が就労していた.71%が病気に対する不安をもち,28%は睡眠満足度が低かった.職種では非認定群は専門職が多いが,認定群では事務職が多かった.認定群の医療へのアクセスは高かったが,就労内容や周囲の理解などに不安を持っており習慣飲酒,睡眠導入剤の使用も多い傾向がみられた.

結論:本対象者は比較的高い就労率で社会的自立度も高かったが,様々な不安を抱えており特に心疾患重症度の高い認定群は不安や睡眠障害に対する支援の必要性が示唆された.

Background: The purpose of this study was to look at the current state of the adult patients with tetralogy of Fallot, the most common cyanotic congenital heart disease, to encourage social independence and healthy lifestyles.

Methods: On 186 patients, a questionnaire survey (understanding and anxiety about their heart diseases, treatments, social independence, and lifestyles) was administered. These data were also compared between patients with and without physical disability certification (a certified group and a noncertified group). Clinical data were extracted from the medical records.

Results: After excluding the cases without meeting the inclusion criteria, 112 patients (41 males, mean age 28 years) were studied. Eighty-three percent of 93 patients after excluding 19 students, were employed (66% full-time employee), half of them lived with their parents, and 71% were concerned about their heart diseases. In terms of lifestyle, 28% were dissatisfied with the quality of their sleep. The noncertified group (n=59) was assigned more professional tasks, whereas the certified group (n=53) was assigned more office duties. The certified group had more regular outpatient clinic visits and dental consultations, but also had a greater experience to drink alcohol and take a sleeping pill.

Conclusion: The study patients had a relatively good job rate and a high level of social independence, despite having a variety of anxiety disorders. It was suggested that some supports for anxiety and sleep disorder issues be implemented especially in the certified group.

Key words: tetralogy of Fallot; social independence; lifestyles

はじめに

医療の進歩に伴い,先天性心疾患(Congenital Heart Disease, CHD)患者の多くが成人を迎えることができるようになった1).しかし,中等症以上のCHDでは術後遠隔期に遺残症や続発症をしばしば伴い加療を必要とする場合が少なくない.成人先天性心疾患(Adult Congenital Heart Disease, ACHD)患者が抱える医学的問題だけでなく教育,就職,結婚,妊娠・出産,遺伝,社会保障などの社会的問題に対して診療ガイドラインが作成され指針が打ち出されている2, 3).また,ACHD患者自身の社会的自立が重要なアウトカムとして認識されつつあるが,我が国での報告は未だ十分ではない.社会的自立という概念については様々な定義がなされており,先行研究では進学・就労状況,親との同居などが指標として用いられている4).ACHD患者の就労や学歴などに関する調査4, 5)も行われているが,ACHD患者の生活習慣や社会活動を行ううえでどのような不安や困難を感じているのかについて明らかにした報告は少ない.

また,出生直後からの闘病や日常生活での様々な経済的負担も大きく,先天性心疾患の重症度だけでなく身体障害者に認定されているか否かは,定期的受診頻度,就労などの社会的自立,結婚や育児などに対して多面的な影響があることが報告されている6–8).今回の調査への回答にも差異があるのではないかと考えられる.ただし,身体障害者認定は担当医の裁量も大きく影響するので必ずしも重症患者に付与されているとは限らないが,認定の有無は医学的重症度だけでない複合的要因も含まれるのでCHD患者の生活全般への影響が考えられる.

そこで本研究では,チアノーゼ性心疾患の中で最も頻度が高く,CHDの中で11.3%を占める9)ファロー四徴症(Tetralogy of Fallot, TOF)患者に着目して,臨床背景,病気や治療についての理解と不安内容,社会的自立状況,喫煙や飲酒,睡眠などの生活習慣について横断的調査を行い保健指導や患者教育を行うための基盤を得ること,社会的自立に影響すると思われる「心疾患重症度」と「社会保障制度の利用状況」を考慮して身体障害者手帳認定の有無によって検討を加えた.

方法

対象

2017年6月から2019年3月にかけて当院のACHD外来に移行あるいは受診した生産年齢人口に相当する18歳から65歳のTOF患者186名に対して外来の待ち時間に研究内容を理解した看護師により,調査目的・内容などの研究について説明を行ったあと,同意が得られた178名(回収率95.7%)から回答を得られた.対象者は自記式回答法により回答し,同行者がいる場合でも単独で記入するように依頼した.記入時に支援の必要な場合,回答を誘導しないように研究担当の看護師が説明した.178名中,TOFの中でより重症である心室中隔欠損を伴う肺動脈閉鎖症(53名),染色体異常を伴う者(6名),重度の精神発達遅滞(4名),未修復患者(2名),心臓移植を検討された重症患者(1名)の計66名を除外した112名(有効回答率62.9%)を最終的な分析対象者とした.なお,対象者の69名(61.6%)が前医療機関の移行期支援外来で患者教育を受講後に移行してきた.

調査内容

1)調査票の内容

自記式質問票を用いて,心疾患の理解(CHD病名,治療歴など),ニューヨーク心臓協会(New York Heart Association, NYHA)心機能分類を判定するための身体活動による自覚症状,診療科移行についての考え,病気や治療に対する不安内容(病状の悪化,合併症,遺伝,検査,再手術,治療時期,治療施設,副作用,服薬期間,薬量,医療費,利用可能な社会保障制度,身体障害者手帳認定の有無,生命保険の加入,就学,就労,結婚,妊娠・出産,育児,寿命)や相談相手について調査した.社会的自立状況では先行研究に基づいた就労状況,世帯状況,雇用形態,労働内容,学歴,社会保障制度の利用状況について調査した4, 5).社会生活上の不安・困難としては,病気による学生生活や社会生活(就労や就労継続など)上の不安・困難について調査した.生活習慣では飲酒歴,喫煙歴,定期的歯科受診状況,睡眠状況(睡眠導入剤使用,睡眠潜時,睡眠時間,睡眠満足度),身長,体重について調査した.なお,飲酒は,機会飲酒と週に3日以上,飲酒日1日あたり清酒換算で1合以上飲酒する習慣飲酒として調査したが,分析では,健康への悪影響が否定できない習慣飲酒を飲酒ありとした.

回答の様式は,調査内容に応じて具体的な数値や単語を記載してもらうもの,有り無しなどの2択回答,5段階尺度(全く同意できない,同意できない,どちらとも言えない,同意できる,非常に同意できるなど)から回答を選ぶリッカート尺度10)を用いて回答を得た.

病気や日常生活における不安・要望に関しては,自由記述で調査した.

2)診療録調査

調査内容は,臨床背景として,CHD病名,心臓手術歴,調査時年齢,修復術年齢,臨床経過を調査した.心疾患重症度を推定するための指標では,肺動脈関連再手術や心血管イベント(治療を要する不整脈や心不全等)の有無,血漿脳性ナトリウム利尿ペプチド(Brain Natriuretic Peptide, BNP)レベル,胸部X線検査(心胸郭比),心臓超音波検査,心臓カテーテル検査,遺残症・続発症について調査した.心疾患併存症と内服薬も調査した.臨床情報は,原則,質問紙調査実施日(以下,調査日)のものとしたが,血液検査,胸部X線検査や心臓超音波検査結果については,調査日から±1年以内のものも使用した.なお,遺残症・続発症は,心臓超音波検査,心臓カテーテル検査と手術記録に基づいた.

倫理的配慮

本研究は,九州大学医系地区部局臨床研究倫理審査委員会の許可を得て実施した(許可番号:2019-043).対象者には文書を用いて研究について説明し,同意書に署名を得て調査した.

統計解析

社会的自立に影響すると思われる「心疾患重症度」と「社会保障制度の利用状況」を考慮して,1, 3, 4級いずれかの身体障害者手帳認定の有無によって,身体障害者手帳認定群(以下,認定群)と身体障害者手帳非認定群(以下,非認定群)の2群に分けて検討した.Kolmogorov–Smirnov検定を行った後,連続変数はt-検定またはMann–Whitney U検定を行った.2値変数に関しては,χ2検定を行った.連続変数は正規性が確認できた場合は平均値±標準偏差で示し,カテゴリー変数は%で示した.臨床背景において,調査時年齢による交絡を補正するために,調査時年齢を調整因子としてPropensity Score Matching(Nearest Neighbor法,Caliper=0.20)を行った(SPSS v21.0, IBM Inc., Chicago, IL).質問紙調査項目の頻度については,単純記述統計を行った.両側検定にて,p<0.05を有意差あり,0.05≦p<0.10を有意傾向ありとした.

結果

今回の分析対象者112名のうち,身体障害者手帳認定を受けている認定群は53名(47.3%),非認定群は59名(52.7%)であった.なお,特定医療費受給,療育手帳,小児慢性特定疾病医療助成などの社会保障制度を利用している者が13名いたが,本研究では身体障害者手帳認定の有無のみで検討した.

診療録情報

1)臨床背景(Table 1)

対象者全体の平均年齢は28歳,男性は36.6%で,NYHA心機能分類ではClass I–IIが全体のおよそ90%を占めていた.心臓手術に関して,姑息術は23名に26回施行され,全ての対象者に心内修復術(Rastelli手術4名を含む)が施行されていた.肺動脈関連再手術(以下,再手術)は47名に計52回施行されていた.心血管イベントは20名(17.9%)に計25回みられ,内訳は,治療を要する不整脈が計18回,治療を要する心不全が計2回,その他が計5回(感染性心内膜炎2回,狭心症1回,脳膿瘍1回,一過性脳虚血発作1回)であった.薬物治療では約37%がなんらかの薬物治療を受けていた.

Table 1 Clinical characteristics of total TOF patients
All patients (N=112)PDC (−) (n=59)PDC (+) (n=53)p-value
Age
at this study, years (range: 18–55)28.3±8.425.6±5.931.3±9.6<0.001
at ICR, years (range: 0–22)2.4±3.02.1±2.52.8±3.40.095
Male, n (%)41 (36.6)21 (35.6)20 (37.7)0.846
NYHA functional classification
Class I–II, n (%)98(87.5)56 (94.9)42 (79.2)0.020
Class III–IV, n (%)14 (12.5)3 (5.1)11 (20.8)
Physical findings
Height, cm159.9±8.5160.2±9.0159.5±7.80.856
Weight, kg54.6±12.356.1±13.853.0±10.40.454
BMI, kg/m221.2±3.621.7±3.820.8±3.40.312
Cardiac operations
Palliative operation before ICR, n (%)23 (20.5)12 (20.3)11 (20.8)1.000
Rastelli procedure, n (%)4 (3.6)2 (3.4)2 (3.8)1.000
Reoperation for PA lesion, n (%)47 (42.0)11 (18.6)36 (67.9)<0.001
Cardiovascular events
Total patients with CVE, n (%)20 (17.9)2 (3.4)18 (34.0)<0.001
Frequency of CVE occurrence
1 time16 (14.3)2 (3.4)14 (26.4)<0.001
2 times3 (2.7)0 (0.0)3 (5.7)
3 times1 (0.9)0 (0.0)1 (1.9)
Types of CVE
Arrhythmia, times (%)18 (16.1)1 (1.7)17 (32.1)<0.001
Heart failure, times (%)2 (1.8)1 (1.7)1 (1.9)0.939
Others, times (%)5 (4.5)0 (0.0)5 (9.4)0.016
Device treatments
Permanent pacemaker implantation, n (%)4 (3.6)0 (0.0)4 (7.5)0.047
Medications
Total patients with medications, n (%)41 (36.6)14 (23.7)27 (50.9)0.003
ACE-I/ARB, n (%)20 (17.9)9 (15.3)11 (20.8)0.470
Anticoagulant/Antiplatelet drugs, n (%)17 (15.2)5 (8.5)12 (22.6)0.063
β-blockers, n (%)9 (8.0)1 (1.7)8 (15.1)0.013
Diuretics, n (%)9 (8.0)3 (5.1)6 (11.3)0.303
Others, n (%)6 (5.4)5 (9.4)1 (1.7)0.099
Laboratory data
BNP, pg/dL29.1±34.921.4±18.137.7±45.70.007
Chest X-ray (N=111)
CTR, %50.7±5.649.0±4.652.6±6.1<0.001
Physical disability certification (PDC) was considered to be the suitable criterion for comprehensive grouping because it reflects both disease severity and social life influencing factors. Data are expressed as number of patients (%) or mean±standard deviation. ACE-I, angiotensin converting enzyme inhibitor; ARB, angiotensin receptor blocker; BMI, body mass index; BNP, brain natriuretic peptide; CTR, cardiothoracic ratio; CVE, cardiovascular events; ICR, intra cardiac repair; NYHA, New York Heart Association; PA, pulmonary artery; PDC, physical disability certificate; TOF, Tetralogy of Fallot

認定群は非認定群に比べると,有意に年齢が高く(非認定群25.6±5.9 vs. 認定群31.3±9.6歳,p<0.001),NYHA class III–IVの患者が多かった(5.1 vs. 20.8%, p<0.05).再手術,心血管イベントの発症(主に不整脈)と薬物治療を受けている者も有意に多く,血漿BNPレベルや胸部X線検査における心胸郭比も有意に大きかった.

このように,認定群において心疾患重症度が有意に高かったが,その理由の一つとして認定群の調査時年齢が有意に高いことが交絡していないか検討するためにPropensity Score Matchingにより調査時年齢を調整して臨床背景を検討した(Table 2).調整後も認定群は有意にNYHA class III–IVの患者が多く(5.6 vs. 23.5%, p<0.05),再手術(19.4 vs. 73.5%, p<0.001)と心血管イベント(5.6 vs. 26.5%, p<0.05)や投薬が多く(19.4 vs. 50.0%, p<0.01),心胸郭比が大きかった(48.4±4.3 vs. 52.3±5.2%, p<0.001).

Table 2 Clinical characteristics adjusted the age by propensity score matching
All patients (N=70)PDC (−) (n=36)PDC (+) (n=34)p-value
Age
at this study, years (range: 18–42)26.7±5.627.6±6.525.7±4.30.364
at ICR, years (range: 0–10)2.2±2.52.9±2.91.6±1.80.051
Male, n (%)26 (37.1)13 (36.1)13 (38.2)0.854
NYHA functional classification
Class I–II, n (%)60 (85.7)34 (94.4)26 (76.5)0.032
Class III–IV, n (%)10 (14.3)2 (5.6)8 (23.5)
Physical findings
Height, cm159.4±8.4161.2±9.3157.5±7.10.068
Weight, kg54.5±11.858.0±13.850.7±7.80.022
BMI, kg/m221.3±3.322.2±3.920.4±2.40.074
Cardiac operations
Palliative operation before ICR, n (%)12 (17.1)6 (16.7)6 (17.6)0.913
Rastelli procedure, n (%)3 (4.3)1 (2.8)2 (5.9)0.522
Reoperation for PA lesion, n (%)32 (45.7)7 (19.4)25 (73.5)<0.001
Cardiovascular events
Total patients with CVE, n (%)11 (15.7)2 (5.6)9 (26.5)0.016
Frequency of CVE occurrence0.097
1 time8 (11.4)2 (5.6)6 (17.6)0.097
2 times2 (2.9)0 (0.0)2 (5.9)
3 times1 (1.4)0 (0.0)1 (2.9)
Types of CVE
Arrhythmia, times (%)11 (15.7)1 (2.8)10 (29.4)0.002
Heart failure, times (%)1 (1.4)1 (2.8)0 (0.0)0.328
Others, times (%)3 (4.3)0 (0.0)3 (8.8)0.068
Device treatments
Permanent pacemaker implantation, n (%)3 (4.3)0 (0.0)3 (8.8)0.068
Medications
Total patients with medications, n (%)24 (34.3)7 (19.4)17 (50.0)0.007
ACE-I/ARB, n (%)10 (14.3)3 (8.3)7 (20.6)0.143
Anticoagulant/Antiplatelet drugs, n (%)11 (15.7)4 (11.1)7 (20.6)0.276
β-blockers, n (%)4 (5.7)0 (0.0)4 (11.8)0.034
Diuretics, n (%)5 (7.1)2 (5.6)3 (8.8)0.596
Others, n (%)8 (11.4)2 (5.6)6 (17.6)0.112
Laboratory data
BNP, pg/dL26.1±24.124.1±21.328.2±26.90.391
Chest X-ray
CTR, %50.3±5.248.4±4.352.3±5.2<0.001
After adjusting the confounding factor: age, the certified group still showed severer cardiac state than that of non-certified group. Data are expressed as number of patients (%) or mean±standard deviation. ACE-I, angiotensin converting enzyme inhibitor; ARB, angiotensin receptor blocker; BMI, body mass index; BNP, brain natriuretic peptide; CTR, cardiothoracic ratio; CVE, cardiovascular events; ICR, intra cardiac repair; NYHA, New York Heart Association; PA, pulmonary artery; PDC, physical disability certificate; TOF, Tetralogy of Fallot

遺残症・続発症と合併症のいずれかを認めた者は,全体のうち80名(62.5%)であった.両群において,遺残症・続発症と合併症の有無に有意差はなかった.

併存症は,全体のうち14名(12.5%)に20件認め,肝機能障害7名,生活習慣病として糖尿病3名,高血圧症,腎機能障害,高尿酸血症と脂質異常症は各2名,睡眠時無呼吸症候群と不眠症は各1名であった.両群において併存症の有無に有意差はなかった.

このように年齢を調整しても認定群と非認定群で心疾患の重症度が異なる集団である可能性が示唆された.

質問紙調査票

1)病気や治療についての理解と不安

Table 3に示すように診療録から得られた診断名と本人の認識している心疾患名が合致したのは109名(97.3%)であった.誤認識した3名のうち2名はともに心房中隔欠損症に心室中隔欠損症を合併したものと認識,1名は心房中隔欠損症に肺動脈弁狭窄症を合併していると認識していた.

Table 3 Patients' knowledge and anxiety about the heart defects and its treatments
DenominatorAll patientsPDC (−)PDC (+)p-value
Heart defects
Correctly answer the name of heart defects, n (%)(N=112)109 (97.3)(n=59)57 (96.6)(n=53)52 (98.1)1.000
Age at recognizing the diagnoses, years (range: 0–26)(N=105)8.8±4.3(n=57)9.7±4.0(n=48)7.7±4.30.008
Treatments
Treatment contents (multiple answers)(N=112)(n=59)(n=53)
Surgery, n (%)109 (97.3)58 (98.3)51 (96.2)1.000
Follow up, n (%)44 (39.3)23 (39.0)21 (39.6)1.000
Medication, n (%)28 (25.0)13 (22.0)15 (28.3)0.512
Unavailable, n (%)1 (0.9)0 (0.0)1 (1.9)
Age at recognizing the treatments, years (range: 0–18)(N=102)6.7±3.2(n=55)7.3±3.0(n=47)6.1±3.50.038
Transition of outpatient clinic from pediatrics to adult cardiology(N=112)(n=59)(n=53)
Positive response for transition, n (%)97 (86.6)51 (86.4)46 (86.8)0.783
Negative response for transition, n (%)14 (12.5)8 (13.6)6 (11.3)
Unavailable, n (%)1 (0.9)0 (0.0)1 (1.9)
Anxiety regarding heart defects and its treatments(N=112)(n=59)(n=53)
Worried, n (%)79 (70.5)41 (69.5)38 (71.7)0.838
Top 5 anxiety factors (multiple answers)(N=79)(n=41)(n=38)
Worsening of medical condition, n (%)43 (54.4)21 (51.2)22 (57.9)0.653
Surgery, n (%)40 (50.6)18 (43.9)22 (57.9)0.263
Pregnancy/delivery, n (%)35 (44.3)20 (48.8)15 (39.5)0.498
Life span, n (%)33 (41.8)17 (41.5)16 (42.1)1.000
Marriage, n (%)21 (26.6)7 (17.1)14 (36.8)0.073
Age at beginning to feel anxiety, years (range: 4–42)(N=72)16.2±6.6(n=37)16.1±6.4(n=35)16.1±6.90.847
Existence of adviser(N=112)(n=59)(n=53)
Yes, n (%)100 (89.3)52 (88.1)48 (90.6)0.766
Top 5 advisers (multiple answers)(N=100)(n=52)(n=48)
Mother, n (%)86 (86.0)50 (96.2)36 (75.0)0.044
Father, n (%)47 (47.0)31 (59.6)16 (33.3)0.022
Spouse, n (%)26 (26.0)11 (21.2)15 (31.3)0.266
Friends, n (%)17 (17.0)8 (15.4)9 (18.8)0.793
Siblings, n (%)17 (17.0)6 (11.5)11 (22.9)0.186
Data are expressed as number of patients (%) or mean±standard deviation. PDC, physical disability certificate

すべての対象者に修復術が施行され109名(97.3%)で「手術を受けた」と認識していた.すべての対象者112名が調査時,定期的に循環器外来を受診していたが,「経過観察を受けている」と回答した者は44名(39.3%)であった.「薬物治療をしている」と回答した者は28名(25.0%)に対して,診療録調査では41名(36.6%)が投薬を受けていた.治療を受けたことを認識した年齢(以下,治療認識年齢)は病名認識年齢よりも若かった(6.7±3.2 vs. 8.8±4.3歳,p<0.001).

対象者は成人診療科に移行してきた患者であるが,成人診療科移行に否定的な者は14名(12.5%)で,診療科移行に否定的な理由は,「主治医のことをよく知らない」7名,「雰囲気が苦手」6名,「病気の説明がうまくできない」2名,「自分のことを理解してもらえない」1名,「その他」4名であった.

病気や治療に対して不安がある者は79名(70.5%)と多く,病気や日常生活における不安・要望に関する自由記述は13名から回答が得られた.そのうち,病気に関する内容としては「体力の低下」3名,「心疾患を持っていること」と「病状について詳しく知りたい」が各2名,再手術,不整脈,不眠や「同病者との情報交換の場が欲しい」は各1名であった.日常生活に関する内容としては,「運動制限」,「妊娠・出産」と「障害者雇用者に対する配慮がない」は,各1名,その他として,「家族の心労」と「入院費用やその際の連帯保証人」は,各1名であった.

認定群では,病名や治療の認識年齢は有意に若かった(それぞれ,非認定群9.7±4.0 vs. 認定群7.7±4.3歳,p<0.01, 7.3±3.0 vs. 6.1±3.5,p<0.05).治療内容,移行医療への反応,心疾患や治療に対する不安は両群で有意差はみられなかった.相談者としては非認定群に両親と答えたものが有意に多かった.

2)社会的自立状況

Table 4に示すように学生19名を除いた93名中,就労者は77名(82.8%),未就労者は16名(17.2%)であった.未就労である主な理由は,体調不良6名,主婦4名,妊娠・子育て2名,その他4名で,就労状況において有意な性差はなかった.就労者77名中,正規雇用は66%で,専門職と事務職が同等で約34%であった.就労者のなかで大学卒以上は39.0%であった.

Table 4 Social independence
DenominatorAll patientsPDC (−)PDC (+)p-value
Student, n (%)(N=112)19 (17.0)16 (27.1)3 (5.7)0.003
Employment states(N=93)(n=43)(n=50)
Employed, n (%)77 (82.8)34 (79.1)43 (86.0)0.419
Unemployed, n (%)16 (17.2)9 (20.9)7 (14.0)
Employment status†(N=77)(n=34)(n=43)
Regular employment, n (%)51 (66.2)23 (67.6)28 (65.1)0.816
Non-regular employment, n (%)26 (33.8)11 (32.4)15 (34.9)
Hours of work/week, hours(N=73)36.0±17.4(n=32)37.4±15.8(n=41)34.9±18.70.194
Type of works†(N=77)(n=34)(n=43)
Professional /technical work, n (%)26 (33.8)17 (50.0)9 (20.9)0.007
Office work, n (%)26 (33.8)6 (17.6)20 (46.5)0.008
Sales work, n (%)10 (13.0)5 (14.7)5 (11.6)0.690
Business work, n (%)6 (7.8)5 (14.7)1 (2.3)0.044
Management, n (%)4 (5.2)0 (0.0)4 (9.3)0.068
Transportation/cleaning/packing, n (%)2 (2.6)0 (0.0)2 (4.7)0.203
Others, n (%)3 (3.9)1 (2.9)2 (4.7)0.700
Educational background†(N=77)(n=34)(n=43)
<College, n (%)47 (61.0)21 (61.8)26 (60.5)0.908
≥College, n (%)30 (39.0)13 (38.2)17 (39.5)
Anxiety about employment or continuation of work(N=93)(n=43)(n=50)
Worried, n (%)56 (60.2)24 (55.8)32 (64.0)0.525
Not worried, n (%)37 (39.8)19 (44.2)18 (36.0)
Top 5 anxiety factors (multiple answers)(N=56)(n=24)(n=32)
Physical strength, n (%)32 (57.1)10 (41.7)22 (68.8)0.058
Understanding of people around for the disease, n (%)23 (41.1)5 (20.8)18 (56.3)0.013
Business content, n (%)13 (23.2)2 (8.3)11 (34.4)0.028
Working hours, n (%)11 (19.6)5 (20.8)6 (18.8)1.000
Relationships with superiors, n (%)9 (16.1)2 (8.3)7 (21.9)0.274
Existence of advisers(N=93)(n=43)(n=50)
Yes, n (%)66 (71.0)30 (69.8)36 (72.0)1.000
No, n (%)21 (22.6)10 (23.3)11 (22.0)
Unavailable, n (%)6 (6.5)3 (7.0)3 (6.0)
Lists of advisers(N=93)(n=43)(n=50)
Relative, n (%)25 (26.9)10 (23.3)15 (30.0)0.612
Others, n (%)30 (32.3)13 (30.2)17 (34.0)0.807
Both relative and others, n (%)10 (10.8)6 (14.0)4 (8.0)0.492
Unavailable, n (%)28 (30.1)14 (32.6)14 (28.0)
Resolution of the problems(N=93)(n=43)(n=50)
Not sure, n (%)36 (38.7)16 (37.2)20 (40.0)1.000
Resolved, n (%)30 (32.3)16 (37.2)14 (28.0)0.809
Not resolved, n (%)5 (5.4)1 (2.3)4 (8.0)0.378
Unavailable, n (%)22 (23.7)10 (23.3)12 (24.0)
Household states(N=112)(n=59)(n=53)
Living with parents, siblings, and/or grandparents, n (%)55 (49.1)32 (54.2)23 (43.4)0.264
Living alone, n (%)29 (25.9)14 (23.7)15 (28.3)0.667
Living with spouse (partner) and/or offspring, n (%)28 (25.0)13 (22.0)15 (28.3)0.515
Anxiety and difficulty in student life and social life
Having anxiety and difficulty, n (%)(N=112)49 (43.8)(n=59)21 (35.6)(n=53)28 (52.8)0.086
No anxiety and difficulty, n (%)63 (56.3)38 (64.4)25 (47.2)
Top 5 anxiety and difficulty factors (multiple answers)(N=49)(n=21)(n=28)
Exercise or physical restriction, n (%)34 (69.4)17 (81.0)17 (60.7)0.128
School event, n (%)25 (51.0)9 (42.9)16 (57.1)0.322
Understanding of people around for the disease, n (%)18 (36.7)7 (33.3)11 (39.3)0.669
Education and employment, n (%)9 (18.4)1 (4.8)8 (28.6)0.033
Compatibility of treatments and studies, n (%)4 (8.2)1 (4.8)3 (10.7)0.451
Existence of advisers(N=112)(n=59)(n=53)
Yes, n (%)82 (73.2)42 (71.2)40 (75.5)0.821
No, n (%)24 (21.4)13 (22.0)11 (20.8)
Unavailable, n (%)6 (5.4)4 (6.8)2 (3.8)
Top 5 advisers (multiple answers)(N=112)(n=59)(n=53)
Mother, n (%)71 (63.4)37 (62.7)34 (64.2)1.000
Father, n (%)29 (25.9)17 (28.8)12 (22.6)0.514
Friends, n (%)21 (18.8)12 (20.3)9 (17.0)0.633
Doctor, n (%)20 (17.9)11 (18.6)9 (17.0)0.808
Teacher, n (%)15 (13.4)6 (10.2)9 (17.0)0.407
Unavailable, n (%)6 (5.4)4 (6.8)2 (3.8)
†: Analyses of employment status and educational background were conducted in 77 patients under employments. Data are expressed as number of patients (%) or mean±standard deviation. PDC, physical disability certificate

学生を除いた93名における就労や就労継続に対する不安は56名(60.2%)が抱え,不安内容の内訳は,「体力」32名(57.1%),「病気に対する周囲の理解」23名(41.1%),「業務内容」13名(23.2%)が上位を占めていた.また,相談相手がいるのは約70%で,その内訳は,親族と他人がほぼ同等で約30%を占めていた.全体のうち不安内容を解決できたのは30名(32.3%)のみであった.

約半数が家族と同居しており,病気による学生生活や社会生活における不安・困難がある者は,全体のうち49名(43.8%)で,不安・困難な内容は,運動制限34名(69.4%),学校行事25名(51.0%),病気に対する周囲の理解18名(36.7%),進学・就労9名(18.4%)が上位を占め,これらに関する相談相手がいる者は全体のうち82名(73.2%)であった.

認定群では学生が非認定群より少なく,就労者が多いので両群における就労関係の比較では学生を除いた93名で比較した.認定群では,職種は事務職が有意に多く(非認定群17.6 vs. 認定群46.5%, p<0.01),専門的/技術職(50.0 vs. 20.9%, p<0.01)と営業職(14.7 vs. 2.3%, p<0.05)が有意に少なかった.就労者の学歴は両群において有意差はなかった.「体力」への不安は認定群に多い傾向があり(41.7 vs. 68.8%, p<0.10),「病気に対する周囲の理解」,「業務内容」への不安は認定群で有意に多かった(それぞれ,20.8 vs. 56.3%, p<0.05, 8.3 vs. 34.4%, p<0.05).また,学生生活や社会生活における不安・困難がある者は,認定群に多い傾向がみられた(35.6 vs. 52.8%, p<0.10). 「進学・就労」に関する不安は認定群で有意に多かった(4.8 vs. 28.6%, p<0.05).

3)生活習慣

Table 5に示すように,成人(未成年8人を除いた,20歳以上の104名)における飲酒と喫煙状況は,機会飲酒44名(42.3%),習慣飲酒5名(4.8%)で,男性で有意に多かった(男10.8 vs. 女1.5%, p<0.05).毎日喫煙7名(6.7%),時々喫煙1名であり,男性で有意に多かった(男18.9 vs. 女1.5%, p<0.01).平均約8か月程度の間隔で外来受診しており,約36%が定期的歯科受診もしていた.睡眠に関しては6.3%が睡眠導入剤を時に使用しており,睡眠時間は平均6.6時間で推奨される睡眠時間の範囲内(18~64歳;7~9時間)11)であった者は53名に対して,不足していたのは56名,超過していたのは3名であった.睡眠満足度が低い患者は27.7%にみられた.睡眠潜時に30分以上要する者は54名であった.

Table 5 Lifestyles and sleeping habits
DenominatorAll patientsPDC (−)PDC (+)p-value
Lifestyles
History of drinking in adult patients†, n (%)(N=104)5 (4.8)(n=54)0 (0.0)(n=50)5 (10.0)0.017
History of smoking in adult patients, n (%)(N=104)8 (7.7)(n=54)4 (7.4)(n=50)4 (8.0)0.910
Outpatient clinics visit intervals, months (range: 1–29)(N=112)8.1±4.8(n=59)9.2±4.7(n=53)6.8±4.60.006
Regular dental consultation, n (%)(N=110)40 (36.4)(n=57)15 (26.3)(n=53)25 (47.2)0.029
Consultation intervals, months (range: 1–12)(N=37)4.8±3.2(n=15)5.4±2.7(n=22)4.5±3.60.161
Sleeping habits(N=112)(n=59)(n=53)
Taking a sleeping pill, n (%)7 (6.3)1 (1.7)6 (11.3)0.051
Sleep latency(N=112)(n=59)(n=53)
Sleep latency, min (range: 3–120)24.8±19.824.1±17.625.7±22.10.974
≥30 min, n (%)54 (48.2)29 (53.7)25 (47.2)0.852
Sleep length(N=112)(n=59)(n=53)
Sleep length, hours (range: 3–10)6.6±1.36.7±1.16.5±1.50.432
Normal‡, n (%)53 (47.3)29 (49.2)24 (45.3)0.757
Short, n (%)56 (50.0)29 (49.2)27 (50.9)
Long, n (%)3 (2.7)1 (1.7)3 (2.7)
Sleep satisfaction(N=112)(n=59)(n=53)
Very good, n (%)11 (9.8)7 (11.9)4 (7.5)0.899
Fairly good, n (%)70 (62.5)36 (61.0)34 (64.2)
Fairly bad, n (%)29 (25.9)15 (25.4)14 (26.4)
Very bad, n (%)2 (1.8)1 (1.7)1 (1.9)
†: Only daily drinkers were considered to be drinkers, and occasional drinkers were analyzed as not drinking. ‡: The normal sleeping length was considered as 7–9 hours/day in those of 18–64 years. Data are expressed as number of patients (%) or mean±standard deviation. N=104 was only the patients with the ages ≥20 years. PDC, physical disability certificate

認定群で飲酒が有意に多く(非認定群0.0 vs. 認定群10.0%, p<0.05),喫煙は,両群において有意差はなかった.また,外来受診間隔は認定群で有意に短く(9.2±4.7 vs. 6.8±4.6か月,p<0.01),定期的に歯科を受診している者も認定群で有意に多かった(26.3 vs. 47.2%, p<0.05).睡眠時間や満足度では両群において有意差はなかったが,睡眠導入剤の使用は,認定群に多い傾向がみられた(1.7 vs. 11.3%, p<0.10).

考察

TOF修復術後患者において病気や治療についての理解と不安,社会的自立状況と生活習慣についてTOF患者全体の状況を明らかにするとともに身体障害者手帳認定の有無に分けても検討した.

身体障害者手帳認定の有無により2群に分けた根拠

心疾患重症度だけでなく経済的・社会生活上の影響因子も含めた群分けの基準として身体障害者手帳認定の有無を用いた.その有無により病気や治療についての理解や不安,社会的自立状況,生活習慣について調査し,両群にどのような差があるか検討し,保健指導や患者教育を行うための基盤を得ることを目的とした.手帳認定の有無は,医療費や就労など様々な社会生活に影響することは明らかであるが,医学的にも認定群で重症な集団であるか否かは確認する必要性があった.本対象において両群の単純統計では多くの点で認定群の医学的指標が重症である結果であったが,認定群は有意に年齢が高く病歴が長いために,そのことが交絡して心疾患重症度が進行していないか,調査時年齢を調整したPropensity Score Matchingを用いて検討した.Matching後のデータでも認定群のNYHA心機能分類が重症で心血管イベントが多かったことから認定群は心疾患重症度が高い集団だと考えられた.

病気や治療についての理解と不安

対象者の病名正答率と手術の把握状況は良好であったが,経過観察と薬物治療は,実際の治療状況と比べて相違がみられた.先行研究における病名の正答率は本研究より低いものが多く12),本研究対象者の高い正答率は,対象者の約60%が移行期支援外来で患者教育を受講後に移行してきたことも関与していると考えられ移行期教育が有用と考えられた.また,調査票の回答を多枝選択形式で提示したことで病名の認識が容易になった可能性も考えられる.治療認識年齢のほうが病名認識年齢より若かったのは外科手術などの侵襲的治療を体験したことの記憶のため多くの患者で実感されるが,心疾患病名を理解し記憶できる年齢は知的発達を遂げてからになると考えられる.

対象者は成人診療科に移行してきているが,その13%が成人医療への移行に否定的な考えを持っていた.その理由の多くは環境の変化に対する不安であった.移行期医療において円滑に移行できるシステムを構築することだけでなく,患者自身が自立して医療を継続する主体となるように啓発し不安を解消できるように支援することが必要である13).移行が円滑にいかない場合,治療から脱落し生活の質の低下や適切なセルフマネジメントが困難となる可能性がある.患者の自立を妨げる要因を明らかにし医療における責任の主体を患者本人へ移すよう支援することが必要と考えられた.

病気や治療に関連する不安がある者は両群とも多く,認定群は結婚に対する不安が多い傾向がみられた.認定群は心疾患重症度が高いことも結婚というライフイベントに対する不安が強かったと考える.若いACHDを対象とした調査では,将来の健康,手術痕,今後の再手術などの必要性が,約半数の患者へストレスを与えていた14).このような長期的ストレスを背景として心理的問題を生じることが多く,CHD患者のうつや,不安が報告されている15).心理的問題は心疾患の治療や社会適応に影響を及ぼすだけではなく予後にも影響することがあり16),ACHD患者の精神・心理的問題について確立したスクリーニング尺度を用いて定量的に評価し適切に対応することが望まれる.不安を感じ始める年齢が小児科から成人循環器に移行する時期とも一致しており,移行医療が円滑に行われ成人循環器医との間で信頼関係がすみやかに築けるように移行前教育も広めてゆく必要がある.

社会的自立状況

海外の報告では,ACHD患者の就労率は59~66%,未就労率は10~18%,大学卒以上の者は19~46%と報告されている17–19).我が国における一般男性の正規雇用率の国民標準値81%20)と比較した場合,本研究の男性TOF患者の正規雇用率は66%と低く,女性TOF患者の正規雇用率は一般女性と同等であった.身体障害者手帳認定を受けたACHD患者を対象とした報告では,就労率41%と報告されており様々な重症度のCHDを含んでいるためと考えられた21).TOF患者は本研究からもわかるように比較的就労率や正規雇用率は他の重症CHDに比べて高かったが,心疾患をもたない同世代と比べると低い状況であった.就労率は,その国の社会経済状況や家庭環境,心疾患重症度により影響を受けるが,多くの国で一般的に男性は正規雇用率が高く,女性は非正規雇用率が高い22)なかで,男性TOF患者の正規雇用率が低いことは,注意が必要と考える.

また,認定群で有意に専門的/技術的業務と営業職が少なく事務職が多いという現状があり,身体障害者手帳認定のない比較的軽症群は職業の選択肢が広いこと,重症群は身体的負担の少ない事務職を選択している可能性が示唆された.

生活習慣

平均年齢30歳のACHD患者を対象とした報告では,飲酒率は22%で喫煙率は18%であった23).我が国における2018年の生活習慣病のリスクを高める量を飲酒している一般成人の割合は男性15%,女性9%,喫煙率は男性29%,女性8%であった24).先行研究や一般成人と比べて,本研究対象者の習慣飲酒と喫煙は少なかったが,認定群に習慣飲酒が多いことは生活習慣病の観点からも注意が必要と考える.対象者の大半に入眠困難があり,認定群で睡眠導入剤の使用が多い傾向があることは,日本人の不眠への対処行動として最も多かったのが「アルコールを飲むこと」であり25),認定群の飲酒率の高さと関連している可能性も推測される.また,本研究ではうつや不安について正確な評価を行っていないが,認定群で,体力,病気に対する理解,業務内容,進学・就労の不安が強いことや,慢性疾患に絶えず対処するというストレスなどにより認定群で習慣飲酒が多かった可能性がある.

ACHD患者の予後の改善により,高血圧,糖尿病,肥満,慢性腎疾患,末梢動脈疾患などの心血管危険因子の有病率が増加しており26),基礎心疾患の悪化や心血管イベントを予防するために生活習慣による心合併症にも注意して飲酒や喫煙などに対する行動変容を促し支援していくことが今後の大きな課題と考える.

また,認定群において定期的循環器外来診療だけでなく歯科受診が多かったのは,診療費の負担が軽いことも一因として考えられる.心血管イベントの中で感染性心内膜炎は,口腔内衛生の悪化により菌血症が引き起こされることでも発症するとされている27).TOF術後例において,30年間にわたる長期観察期間中のその発症率は,1.3%と報告され28),発症率は高くはないが,罹病率,死亡率ともに高いため,定期的歯科受診も勧めていく必要がある.

CHD患者における睡眠障害に関する報告は未だみられないが,慢性心不全患者では76%に睡眠呼吸障害を合併すると報告されている29).さらに,入眠障害があると1.96倍,中途覚醒があると1.88倍に高血圧の発症リスクが高まるという報告がある30).対象者はまだ若いため高血圧症は少数であった.睡眠導入剤の使用も認定群で多い傾向がみられた.認定群は心疾患重症度が高く,体力,病気に対する周囲の理解,業務内容と進学・就労に対する不安をもつ者が多い傾向があることも睡眠導入剤の使用頻度に関与している可能性がある.睡眠障害については,定量的な方法を用いた更なる調査が必要である.

限界と課題

本研究の限界として,まず,解析の視点として複合的な身体障害者手帳の有無を用いた点である.医学的な観点からは先天性心疾患重症度による分類や性差を用いるなど,より単一な指標も考えられるが,社会・経済的要素を含む複合的な身体障害者手帳の有無を用いたことで単純な因果関係の議論ができない面もあった.また,心疾患が重症であるにもかかわらず身体障害者手帳を保持してない患者が少数含まれていた.しかし,身体障害者手帳の認定は,医療費の負担が軽減されるため医療へのアクセスを容易としACHD患者の医科歯科とも外来受診率が影響した結果が得られ,新たな切り口でTOF患者の医療の現状を把握できたと考えている.次に,対象から大きな心室中隔欠損を伴う肺動脈閉鎖症などの重症患者や知的障害を伴う患者は除外しており心機能が比較的安定したTOF患者の調査結果であることが挙げられる.また,移行期外来で自立支援教育を受けた患者を多く含む集団であること,単一施設の大学病院の外来通院患者の調査であることに留意する必要がある.社会的自立や生活習慣に関する調査においては非認定群に学生が多いことが影響している可能性もあるので,今後対象を増やすことにより,年齢や学生数がマッチングした集団で検討する必要がある.生活習慣については食生活,運動などの検討はできていない.今後は,TOF患者の社会的自立を妨げている要因や生活習慣に特化した詳細な検討が課題である.身体的・心理的・社会的問題を多面的に捉えて,支援策を具体的に検討することが必要である.

総括と結語

先天性心疾患患者において身体障害者手帳認定の有無は心疾患重症度の違いのみならず医療費や就労などの社会・経済的側面にも影響を及ぼすと考え,身体障害者認定の有無で臨床背景や不安,社会的自立状況,生活習慣について検討した.

両群とも心疾患に対する不安の強さや内容に有意差はなく移行期に不安を感じ始めていた.就労率や正規雇用率,就労上の不安頻度も両群で有意差はなかった.しかし,認定群では身体的負荷の少ない事務職が多く,社会生活上の不安内容では,結婚,体力(有意傾向),就労内容や周囲の理解に対して有意に不安が強かった.また,認定群のほうが歯科を含む定期的医療機関へのアクセスの頻度は高かったが,飲酒習慣や睡眠導入剤の使用が多い傾向がみられ,不安との関連が示唆された.医療機関との接触が少ない非認定群においては心疾患に対する不安の相談者として両親の役割が強く,家族への依存度が大きいと考えられた.

不安の軽減のためには移行期医療の円滑化を図るとともに看護師や臨床心理士などの多職種と主治医が連携した心身両面からの支援や行動変容を促す継続的な生活習慣の指導が必要と考えられた.適切な職場環境を作るためには医療者側の情報をもとに,障害者雇用制度や就労支援センターなどを利用して,医療と就労支援がより連携するシステムも必要である.非認定群に対しても社会的介入や第3者機関による支援により,家族の負担を軽減することも必要と考えられた.このような心疾患をもつ人々を差別なく受け入れてゆく社会の確立が必要である.

謝辞Acknowledgments

本研究の質問紙調査にご協力をいただきました対象者の方々と,九州大学病院循環器内科と小児科の医師に厚く御礼申し上げます.なお本研究は,科研費B; #18H03083, 日本医療開発研究機構による難病実用化事業助成金15ek0109123h0001, 16ek0109123h0002, 17ek0109123h0003の一環として行われた.

利益相反

日本小児循環器学会の定める利益相反に関する開示事項はありません.

著者の役割

新原と澤渡はデータの統計学的解析,新原と樗木晶子は研究プロトコールの作成,論文の構想,データ解釈,論文作成を行った.山﨑,姜,坂本,山村,永田,筒井,得能,樗木浩朗は論文のデータ解釈や批判的推敲に関与した.すべての著者が原稿の最終承認および研究結果の発表決定に関わった.

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24) 厚生労働省統計局:国民健康・栄養調査結果の概要.https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000584138.pdf(2021/6/12閲覧)

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28) Morris CD, Reller MD, Menashe VD: Thirty-year incidence of infective endocarditis after surgery for congenital heart defect. JAMA 1998; 279: 599–603

29) Oldenburg O, Lamp B, Faber L, et al: Sleep-disordered breathing in patients with symptomatic heart failure: A contemporary study of prevalence in and characteristics of 700 patients. Eur J Heart Fail 2007; 9: 251–257

30) Suka M, Yoshida K, Sugimori H: Persistent insomnia is a predictor of hypertension in Japanese male workers. J Occup Health 2003; 45: 344–350

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