Online ISSN: 2187-2988 Print ISSN: 0911-1794
特定非営利活動法人日本小児循環器学会 Japanese Society of Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery
Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery 38(2): 105-114 (2022)
doi:10.9794/jspccs.38.105

原著Original

成人先天性心疾患女性のリプロダクティブ・ヘルス向上にむけた妊娠出産に関する予備的調査Preliminary Study on Pregnancy and Childbirth to Improve the Reproductive Health of Women with Congenital Heart Disease

1福岡看護大学Fukuoka Nursing College ◇ Fukuoka, Japan

2福岡女学院看護大学Fukuoka Jo Gakuin Nursing University ◇ Fukuoka, Japan

3広島大学大学院医系科学研究科 周手術期・クリティカルケア開発学Department of Perioperative and Critical Care Management, Graduate School of Biomedical and Health Sciences, Hiroshima University ◇ Hiroshima, Japan

4東京大学病院看護部Department of Nursing, The University of Tokyo Hospital ◇ Tokyo, Japan

5九州大学大学院医学研究院循環器内科学Department of Cardiovascular Medicine, Kyushu University Graduate School of Medical Sciences ◇ Fukuoka, Japan

6九州大学大学院医学研究院小児科学Department of Pediatrics, Kyushu University Graduate School of Medical Sciences ◇ Fukuoka, Japan

7九州大学病院看護部Department of Nursing, Kyushu University Hospital ◇ Fukuoka, Japan

8福岡歯科大学医科歯科総合病院健診センターHealth Care Center, Fukuoka Dental College Hospital ◇ Fukuoka, Japan

受付日:2021年4月11日Received: April 11, 2021
受理日:2022年2月28日Accepted: February 28, 2022
発行日:2022年5月1日Published: May 1, 2022
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背景・目的:近年,先天性心疾患(CHD)患者の多くが成人を迎えることが可能となり,増加する成人CHD(ACHD)女性の結婚,妊娠・出産に関する認識を検討した.

方法: ACHD女性307名(20~49歳)へ心疾患と結婚・妊娠・出産に関する質問紙調査を行い,対象者を身体障害者手帳1級取得者と非取得者に分けて比較した.

結果:回答した取得者53名,非取得者36名の89名(有効回答率29.0%)を対象とした.既婚者は取得者に多く,結婚の希望は非取得者に多い傾向があり,両群共に80%が「妊娠・出産による心臓の負担」「妊娠前検査の必要性」を認識していた.取得者は,「治療薬の胎児への影響」「心疾患の胎児への遺伝」の認識が高かった.

結論:ACHD女性は,妊娠・出産による心臓への負担を認識していても,その願望は高く,看護職者や医師が連携して心疾患重症度に応じて妊娠可能性やリスクについて早期からの啓発や継続支援が必要である.

Background: The number of adult patients with congenital heart disease (CHD) who get married, become pregnant, and give birth is increasing with the improvement in their prognosis. We examined the hope and cognition of the marriages, pregnancies, and childbirth of women with CHD.

Methods: A questionnaire-based survey was conducted on 307 adult women with CHD (aged 20–49 years) regarding their heart diseases, marriages, pregnancies, and childbirth. We divided the subjects into two groups according to whether they had or had not acquired the first grade of the physical disability certificate.

Results: Responses were obtained from 89 participants (valid response rate: 29.0%), including 53 acquirers and 36 nonacquirers. The number of married people was significantly more frequent in the acquirer than in the nonacquirer group. In both groups, 80% were aware of the “Burden on the heart due to pregnancy” and “Necessity of prepregnancy examinations.” The acquirers were highly aware of “Influences of heart disease medications on the fetus” and “Inheritance of congenital heart disease by the fetus.”

Conclusions: Both groups reported high aspirations for marriage, pregnancy, and childbirth. They need to be supported and educated continuously for a safe pregnancy and childbirth by a multidisciplinary team.

Key words: adult congenital heart disease; reproductive health; pregnancy and childbirth

背景と目的

1960年代,先天性心疾患患者(congenital heart disease: CHD)は5万人程度しか成人を迎えることができなかったが,医療技術の進歩により,現在では50万人以上が成人を迎えることができている1, 2).しかし,成人を迎えたCHD患者(Adult CHD: ACHD)は,遺残症,続発症,合併症による再手術などの身体的問題,親への依存,疾患・治療・予後に関する興味関心が低いなどの心理的・精神的問題,結婚,妊娠・出産,遺伝の問題,就業や社会保障制度などの社会的問題を抱えている3–6).特に妊娠・出産は,母体の循環動態に大きな負荷を与えるため,一部のACHD女性にとってそのリスクは大きく,妊娠の中断だけでなく,母体の生命予後にも影響を与える可能性があると言われている7–9).このような状況下でもACHD女性の多くは,疾患の重症度に関係なく妊娠・出産に対する強い希望を抱いているという報告10–12)もあり,今後もリスクの高いACHD女性の妊娠・出産が増加する可能性がある.現在,小児診療科から成人診療科への移行のために多くの医療施設では,妊娠・出産に関する注意点などを含めた移行期教育が実施されており,システム化が進められつつある.しかし,診療科移行後のフォローアップ教育を実施している施設は少なく,結婚や妊娠・出産を検討する20~30代のACHD女性が,主治医以外に容易に相談できる環境は整っていない.そのため,受診する機会が少ない20代の軽症から中等症のCHD女性は,妊娠・出産・子育て中の疾患コントロールについての身体的・精神的な準備や社会的な環境を整えられていない状況のままで,妊娠・出産を迎えることも少なくはない.

ACHD女性の妊娠・出産に関するリプロダクティブ・ヘルス向上のためには,より多くのACHD女性の妊娠・出産への思いと認識を明らかにした研究は十分になされていない.ACHD女性の思いや認識を理解したうえで,妊娠・出産に関する支援・指導方法を検討することは,心疾患合併妊娠における医療者からの一方的ではない質の高いケアの提供に貢献できると考えている.

そこで本研究の目的は,妊娠経験のない妊孕性のあるACHD女性の心疾患の臨床的背景と結婚,妊娠・出産に関する認識を明らかにし,今後の支援への示唆を得ることとした.

方法

対象者

本研究では,日本成人先天性心疾患学会ホームページにてACHD診療情報掲載施設一覧に掲載されている医療施設の1つを調査対象施設とし,2009年から2016年に対象施設の循環器内科,小児科に通院しているACHD女性患者を調査対象とした.さらに,調査対象の適格基準は,①妊孕性のあるACHD女性患者であること,②CHDの診断を専門医より受けていること,③アンケートに回答可能な理解力があることである.除外基準は,①重度の精神疾患や知的障害によりアンケートへの回答が不可能であること,②心疾患以外に重篤な疾患に罹患していること,③妊娠に必要な臓器〈子宮・卵巣〉摘出術の既往,先天的な子宮欠損があること,④避妊手術を受けていること,⑤妊娠経験者であることとした.これらの基準に当てはまり調査時年齢が20歳から49歳であることを診療録にて確認し,307名のACHD女性を本研究の調査対象者とした.

研究デザインと調査期間

研究デザインは,診療録による臨床情報と連結可能な自記式質問紙票を用いた横断的実態調査である.対象者へ本研究の説明書,参加同意書,質問紙票を郵送し,質問紙票と参加同意書の回収をもって研究参加の同意とした.調査期間は,2015年11月から2016年2月である.

調査内容

調査内容は,①一般的な基本属性,②心疾患に関連した臨床的背景,③先行研究に基づいた社会的背景を含む基本属性,④結婚・妊娠・出産に関する思い,⑤妊娠・出産に関する認識の5分野5, 13–15)である.一般的な基本属性では,年齢,最終学歴,就業/就学形態,婚姻状況,家族構成,心疾患に関連した臨床背景では,CHD病名,手術歴,ニューヨーク心臓協会(New York Heart Association: NYHA)心機能分類,CHD治療薬の服薬状況,チアノーゼなどの心疾患に関連した症状の有無,心疾患の理解と現在の病状(病名・術式の確認),身体障害者手帳取得状況,社会的背景を含む基本属性では,現在の生活(同居者の有無,就業の有無)を尋ねた.結婚・妊娠・出産に関する思いでは,結婚願望について「結婚(婚約)している」「結婚したい」「結婚したくない」「わからない」,妊娠・出産願望について「妊娠・出産したい」「妊娠・出産したくない」「妊娠しない(できない)」「わからない」で尋ね,その他として自由記載欄を設けた.妊娠および出産に関する認識では,先行研究16, 17)やガイドライン14)に基づき妊娠および出産に関係のある内容を研究メンバーで協議し,『心疾患治療薬の胎児への影響』『心疾患の胎児への遺伝』『妊娠による心臓への負担』『妊娠・出産による心臓病への影響』『経口避妊薬(ピル)と心疾患治療薬の飲み合わせによる問題』『出産後1か月で体調は回復する』『妊娠前検査の必要性』の7項目について,「全く思わない」「あまり思わない」「そう思う」「大変そう思う」の4件法にて尋ねた.返送された質問紙票のID番号と診療録番号を連結し,診療録から疾患名,治療状況の調査も行った.

分析方法

各調査項目について,記述統計を行った.疾患重症度は,米国心臓病協会/米国心臓病学会の基準18)に基づいて,質問紙票の内容と診療録内の疾患名・治療状況から軽症・中等症・重症の3群に分類した.厚生労働省が示す身体障害者手帳1級取得の認定基準が「心臓の機能の障害により自己の身辺の日常生活活動が極度に制限されるもの」であり,「病気によってどの程度日常生活に影響を受けているのかが重要である」16)との報告もあることから,身体障害者手帳取得は患者にとっての疾患重症度の認識につながると考え,身体障害者手帳1級取得者(以後,取得者)と非取得者の2群に分けてリプロダクティブ・ヘルスに関連する項目を比較した.

Kolmogorov–Smirnov検定にて正規性の検定を行った後,群間の差を検定するために適宜Student-t検定,若しくはMann–Whitney U検定を行った.カテゴリカルデータに対してはFisher直接確率計算法を用いた.統計解析にはSPSS Statistics 24.0(IBM Inc., Chicago, IL)を使用し,両側検定にてp<0.05を有意差ありとした.

倫理面への配慮

本研究は,九州大学医系地区部局倫理審査委員会の承認を受けて行った(許可番号:27-204).対象者には文書を用いて研究について説明し,個人情報の漏洩には十分に注意して調査票は連結可能匿名化し,データはすべてIDを付与して個人が特定できないように配慮した.連結情報は,調査票とは異なるファイルとして保存し,厳重に管理した.

結果

質問紙票は,送付した307名のうち134名(回収率43.6%)から回収できたが,このうち妊娠経験者(29名),1級以外の身体障害者手帳取得者(9名),心疾患以外で重篤な疾患をもつ者(7名)を除いた89名(有効回答率29.0%)を本研究の分析対象とした.身体障害者手帳1級取得者はすべて心機能障害での手帳取得であった.

対象者の基本属性と心疾患に関連した臨床背景

身体障害者手帳1級取得者は53名(59.6%),非取得者が36名(40.4%)であった(Table 1).対象者の平均年齢は25.8±5.7歳で取得者(26.5±6.0歳)と非取得者(24.7±5.2歳)で有意差はなかった(p=0.15).最終学歴は,大学が最も多く,最終学歴の違いによる統計学的な有意差はなかった(p=0.29).雇用形態は,現在学生である15名を除いた74名で検定を行った.正規雇用35名(取得者42.9%,非取得者56.0%),非正規雇用27名(取得者38.8%,非取得者32.0%),無職11名(取得者16.3%,非取得者12.0%)であり,取得者,非取得者にかかわらず,正規雇用または非正規雇用にて就業している患者が多かった(p=0.675).婚姻状況は,既婚者11名(取得者18.9%,非取得者2.8%)で,取得者に既婚者が多かった(p=0.03).

Table 1 Clinical Characteristics
All (n=89)Physical Disability Certificatesp-value
acquires (n=53)non-acquires (n=36)
Age, year25.8±5.726.5±6.024.7±5.20.15
Educational background
university, N (%)31 (34.8)15 (28.3)16 (44.4)0.29
junior college, N (%)8 (9.0)5 (9.4)3 (8.3)
vocational school, N (%)18 (20.2)9 (17.0)9 (25.0)
senior high school, N (%)26 (29.2)18 (34.0)8 (22.2)
junior high school, N (%)3 (3.4)3 (5.7)0
special school, N (%)2 (2.2)2 (3.8)0
unknown, N (%)1 (1.1)1 (1.9)0
Employment74 (83.0)49 (92.3)25 (69.4)
full-time work, N (%)35 (47.3)21 (42.9)14 (56.0)0.675
part-time work, N (%)27 (36.5)19 (38.8)8 (32.0)
unemployed, N (%)11 (14.9)8 (16.3)3 (12.0)
unknown, N (%)1 (1.4)1 (2.0)0
Student15 (17.0)4 (7.7)11 (30.6)0.004
Marital status
married, N (%)11 (12.4)10 (18.9)1 (2.8)0.03
NYHA functional class
I, N (%)27 (30.3)12 (22.6)15 (41.7)0.17
II, N (%)55 (61.8)35 (66.0)20 (55.6)
III, N (%)3 (3.4)3 (5.7)0
IV, N (%)2 (2.2)2 (3.8)0
unknown, N (%)2 (2.2)1 (1.1)1 (2.8)
Symptoms
cyanosis, N (%)25 (28.1)22 (42.3)3 (8.8)0.001
Medication
oral medication, N (%)50 (56.2)43 (81.1)7 (19.4)<0.001
no medication, N (%)38 (42.7)10 (18.9)28 (77.8)
self-interruption, N (%)1 (1.1)01 (2.8)
NYHA, New York Heart Association

NYHA心機能分類では,class IIが全体の約60.0%を占め,次にclass Iが約30%を占めていた.取得者と非取得者に有意差はなかったが,取得者の70%以上がclass II以上であり,class III, IVは取得者のみに存在した(p=0.17).日常生活において四肢や口唇のチアノーゼを自覚している患者は,25名(28.1%)であり,取得者が有意に多かった(p=0.001).内服加療中の患者は50名(56.2%)で取得者が有意に多く(p<0.001),内服を自己中断している患者が非取得者に1名(1.1%)存在した.

対象者のCHD名をTable 2に示している.疾患の内訳は,軽症CHD患者が17名(取得者0名,非取得者17名),中等症CHD患者が26名(取得者13名,非取得者13名),重症CHD患者が46名(取得者40名,非取得者6名)であった.取得者で最も多い疾患は,三尖弁閉鎖症・単心室(20名),次にファロー四徴症(8名),肺動脈閉鎖症(8名),修正大血管転位症(5名),完全大血管転位症(4名)であった.非取得者では,心室中隔欠損症(8名),ファロー四徴症(7名)であり,取得者は非取得者より,複雑心疾患が多かった.

Table 2 Type of CHD*
Physical Disability Certificates
acquires (n=53)non-acquires (n=36)
Simple CHD
VSD08
Aortic valve disease03
Mitral valve disease02
ASD01
others03
Moderate complexity CHD
TOF87
AVSD20
Ebstein anomaly20
CoA/IAA14
TAPVR02
Great complexity CHD
TA/SV201
PA82
C-TGA50
D-TGA42
DORV21
Truncus arteriosus10
*American College of Cardiology criteria were used to assess the severity of CHD18). ASD, atrial septal defect; AVSD, atrioventricular septal defect; CoA, coarctation of aorta; C-TGA, corrected transposition of the great arteries; DORV, double outlet right ventricle; D-TGA, complete transposition of the great arteries; IAA, aortic arch interruption; PA, pulmonary atresia; SV, single ventricle; TA, tricuspid atresia; TAPVR, total anomalous pulmonary venous return; TOF, Tetralogy of Fallot; VSD, ventricular septal defect

結婚・妊娠および出産に関する思い

結婚に関して(Table 3A),15名(取得者24.5%,非取得者5.6%)はすでに結婚または婚約していた.結婚を希望しているACHD患者は65名(取得者64.2%,非取得者86.1%),結婚を希望しない患者は7名,わからないと答えている患者は2名であった.結婚・婚約しているまたは結婚を希望しているACHD患者は,取得者,非取得者の90%以上を占めていた(p=0.06).

Table 3 Hope for marriage and pregnancy/childbirth
A. Regarding marriage
Physical Disability Certificatesp-value
acquires (n=53)non-acquires (n=36)
I have married/engaged, n (%)13 (24.5)2 (5.6)0.06
I want to get married, n (%)34 (64.2)31 (86.1)
I don’t want to marry, n (%)4 (7.5)3 (8.3)
unknown, n (%)2 (3.8)0
B. Regarding pregnancy/childbirth
Physically Disabled Certificatesp-value
acquisition (n=53)non-acquisition (n=36)
I want to get pregnant/ give birth, n (%)37 (69.8)28 (77.8)0.33
I don't want to get pregnant/give birth, n (%)14 (26.4)7 (19.4)
I am prohibited from pregnancy, n (%)2 (3.8)0
unknown, n (%)01 (2.8)

妊娠および出産に関して(Table 3B),妊娠および出産を希望している患者が65名(取得者69.8%,非取得者77.8%)で最も多く,希望しない患者は21名であり,妊娠/出産を止められていると回答した患者は取得者に2名いたが,取得者と非取得者の間で有意差はなかった(p=0.33).

心疾患に関連した妊娠および出産に関する認識

妊娠および出産に関して胎児への影響や母体への影響,妊娠前に必要な行動をどのように捉えているのかを調査した(Table 4).その結果,心疾患治療薬が胎児に影響する可能性がある(「そう思う」「大変そう思う」)と回答した患者は67名で取得者が有意に多かった(p=0.008).ピルと心疾患治療薬は飲み合わせには問題がある(「そう思う」「大変そう思う」)と回答した患者は全体の29名で,取得者においては,肯定的回答と否定的回答が同等であったが,非取得者においては,問題があると捉えていた患者は少なかった(p=0.001).心疾患の胎児への遺伝については,取得者の32名(60.4%)が遺伝する可能性が高い(「そう思う」「大変そう思う」)と捉えていた(p=0.004).

Table 4 Questions about the effects of drugs or pregnancy on fetus and maternal
Physical Disability Certificatesp-value
acquires (n=53)non-acquires (n=36)
Influences of drugs for treating heart disease on the fetus is…
None, n (%)1 (1.9)2 (5.6)0.008
A little, n (%)4 (7.5)12 (33.3)
Quite a lot, n (%)19 (35.8)11 (30.6)
Very much, n (%)28 (52.8)9 (25.0)
No answer, n (%)1 (1.9)2 (5.6)
Interaction between contraceptives and heart disease medications are…
Not at all, n (%)5 (9.4)16 (44.4)0.001
A little, n (%)22 (41.5)9 (25.0)
Quite a lot, n (%)11 (20.8)6 (16.7)
Very much, n (%)11 (20.8)1 (2.8)
No answer, n (%)4 (7.5)4 (11.1)
Inheritance of congenital heart disease to the fetus is…
None, n (%)7 (13.2)5 (13.9)0.004
A little, n (%)14 (26.4)21 (58.3)
Quite a lot, n (%)24 (45.3)6 (16.7)
Very much, n (%)8 (15.1)2 (5.6)
No answer, n (%)02 (5.6)
Burden on the heart due to pregnancy is…
None, n (%)000.43
A little, n (%)3 (5.7)2 (5.6)
Quite a lot, n (%)19 (35.8)15 (41.7)
Very much, n (%)30 (56.6)16 (44.4)
No answer, n (%)1 (1.9)3 (8.3)
Deterioration of heart disease by pregnancy is…
None, n (%)5 (9.4)5 (13.9)0.07
A little, n (%)19 (35.8)19 (52.8)
Quite a lot, n (%)23 (43.4)7 (19.4)
Very much, n (%)6 (11.3)3 (8.3)
No answer, n (%)02(5.6)
Physical recovery in 1 month after delivery is…
None, n (%)13 (24.5)4 (11.1)0.5
A little, n (%)24 (45.3)17 (47.2)
Quite a lot, n (%)13 (24.5)11 (30.6)
Very much, n (%)2 (3.8)2 (5.6)
No answer, n (%)1 (1.9)2 (5.6)
Necessity of pre-pregnancy examinations are…
Not at all, n (%)1 (1.9)2 (5.6)0.54
A little, n (%)7 (13.2)2 (5.6)
Quite a lot, n (%)21 (39.6)13 (36.1)
Very much, n (%)23 (43.4)17 (47.2)
No answer, n (%)1 (1.9)2 (5.6)

ACHD患者の大多数(取得者92.4%,非取得者86.1%)は,手帳の取得に関わらず,妊娠および出産は心臓に負担をかける(「そう思う」「大変そう思う」)と認識しており,両者に差はなかった(p=0.43).さらに,妊娠および出産により心疾患が悪化する可能性がある(「そう思う」「大変そう思う」)と認識しているのは,取得者の29名(54.7%),非取得者の10名(27.7%)であり,取得者は非取得者より妊娠および出産が心機能に影響を与えると認識していた(p=0.07).出産後1か月で体調は回復すると認識している(「そう思う」「大変そう思う」)患者は28名(取得者28.3%,非取得者36.2%)であり,両者とも産後の体調回復についての認識に差はなかった(p=0.50).妊娠前検査の必要性は,74名(取得者83.0%,非取得者83.3%)が必要(「そう思う」「大変そう思う」)と考えており,両者に差はなかった(p=0.54).

考察

本研究では,妊娠・出産の経験がない妊娠可能年齢に達したACHD女性の「妊娠・出産に関する思いと認識」を単一施設にて調査し,以下のようなことが明らかになった.

心疾患に関連した臨床的背景

本研究の対象者は,重症度の高いCHDの受け入れが可能な大学病院の成人先天性心疾患外来に通院している患者であったこともあり,中等症以上のCHD患者が多く,NYHA心機能分類がclass II以上の患者が70%を占めていた.取得者は,非取得者より症状を自覚しており,疾患管理のために服薬を行っている患者が多かったため,自らの疾患と向き合う機会が多かったのではないかと考える.調査対象施設の特徴として段階的に移行期支援教育を行っているA小児専門病院からの診療移行患者が2014年時点で70%を占めていたため,心疾患の治療,予後,疾患管理方法などの教育を受けている集団であることが示唆された.

ACHD女性の妊娠・出産についての思いと必要な支援

本調査対象者においても,先行研究11, 12)と同様に疾患の重症度や心疾患に関連した症状の出現状況,身体障害者手帳取得の有無にかかわらず結婚・妊娠・出産の願望は高い結果であった.妊娠・出産は,Erikson EHの自己概念の生涯発達において発達課題の一部であることから疾患のない女性でも葛藤を抱くと言われている.疾患を抱えるACHD女性では,身体的・精神的側面においても妊娠・出産の決断に関する葛藤19)が,さらに大きいのではないかと考える.現在すすめられている移行期教育では,15歳前後で妊娠出産に関する説明を受けるため,そのリスクについて現実感の乏しい可能性があり,学童期の移行期教育だけでなく社会人になる時期の再教育が必要であることが示唆される.心疾患合併妊娠では,妊娠中から産褥期まで母子ともにリスクが高くなる20)ため,ガイドライン14)に基づいて疾患の重症度に応じた疾患管理をすることが必要であり,より安全な周産期管理を行うために計画妊娠が推奨されている7).それに加えて一部の心疾患においては,妊娠前に心機能などを把握するための妊娠前カウンセリング9)も推奨されており,それらの情報提供が必要である.そのため,ACHD女性に対して,妊娠・出産に関連した正しい情報を適切な時期に提供する必要があると考える.さらに,望まない妊娠を避けるための正しい避妊方法を指導していくことで,突然の妊娠による予期せぬ心機能の悪化を防ぐことができることを伝えていくことも,ACHD女性には必要な支援であると考える.また,現在出生児の17人に1人は生殖補助医療により出生している21)と報告されており,不妊治療を行う女性は増えている.心臓機能低下の徴候がある女性では,不妊治療を続けることで周産期心筋症リスクが高まる22)という報告もあるため,妊娠・出産に関する思いを傾聴しながら,不妊治療に関連した情報提供も必要である.

ACHD女性の心疾患合併妊娠に関する認識と必要な支援

「妊娠による心臓への負担」については,障害者手帳の有無にかかわらず90%以上が「負担をかける」と回答しており,「妊娠前検査の必要性」では,80%以上が「必要である」と回答していた.「産後1か月で体調は回復する」については,70%が「産後1か月で体調は回復しない」と回答していた.ACHD女性では,出産後母体の回復に6か月から1年程度必要といわれているため,安心で安全な周産期を過ごすためには母体の負担が最小限になるように,妊娠中から出産後のサポート環境を整えておくことも重要である.授乳に関しては,母乳栄養による母体への影響に関する報告23)などから,禁止するのではなく,病状や母親の希望も考慮しながら,検討していくことが大切である.妊娠・出産に関する基本的知識の教授を移行期教育にて行うとされているが,今回調査したような詳細な妊娠・出産,遺伝などに関して,結婚や妊娠・出産が現実化する成人期にも,医療現場からの声かけが必要であり,容易に情報を獲得できる環境やウェブサイトなどの整備が重要であると考える.

「心疾患の胎児への遺伝」については,取得者の60%が「遺伝の可能性がある」と認識しているのに対して,非取得者の多くは遺伝しないと捉えていた.心疾患の遺伝に関しては,CHDの親からCHD児が生まれる確率は,一般に比べて3~5倍と考えられている24).先天性心疾患の疫学調査25)では,2.2%で親子間発症が認められており,少ない親子間発症家系内の検討ではあるが親子間での疾患一致率は平均41%で,心房中隔欠損症(66.7%),動脈管開存症(66.7%),心室中隔欠損症(47.1%)と報告されている.本調査において非取得者の多くは「心疾患は遺伝しない」と認識しているため,軽症ACHD患者へ遺伝に関する正しい情報を提供していくことが重要であると考える.また,現在出生前診断を希望するケースも増えている26)ことから,妊娠・出産に関連する様々な情報提供は,それぞれの専門職で行っていくことが望まれる.その場合,「看護職者は患者にとって常に身近なケアの担い手であり,遺伝などの問題を持つ人の相談窓口となり支援を始めるきっかけになりやすい存在27)」との報告もあるため,多職種が連携できるようにコーディネーターとしての役割を担っていく必要がある.さらに,妊婦健診時の様子を観察しながら,妊娠中の心理状態の変化にも留意し,それぞれの職種と連携して,必要な支援内容だけでなく,支援の実施時期なども検討していくことが重要である.

「心疾患治療薬の胎児への影響」については,取得者の90%が「心疾患治療薬は胎児に影響を及ぼす」と回答しており,非取得者では50%が影響を及ぼすと考えていた.取得者では約80%が服薬していたが,非取得者では約20%しか服薬していなかったことから,薬の副作用の知識は患者自身の服薬経験も影響していることが考えられた.一部の心疾患関連薬は,使用時期によっては胎児の発育不全や胎児毒性を引き起こすものはある28)が,母体と胎児に対する有効性と危険性のバランスを考慮しながら,妊娠中も可能な限り使用している9, 14).ACHD女性が服薬治療を自己中断しないためにも「薬のメリット・デメリット」を正しく理解できるように専門家から情報提供を行っていく必要がある.また,薬剤に関する情報を正しく理解でき,正しく服薬が行えているかなどの外来でのフォローアップ教育も必要である.

妊娠・出産に関連するこれらのことを実施していくためには,先天性心疾患患者の診療科移行に関して医師だけでなく看護職を含めた多職種で連携していく必要がある.また,移行期教育だけではなく診療科移行後のフォローアップ教育の実施や患者の状態に応じて情報を獲得できる相談窓口の設置,患者教育の提供などを行っていくことが重要であると考える.

本研究の限界と今後の課題

本研究は,単施設での調査であることから,調査対象者に偏りが生じている可能性がある.今回患者の重症度分類の指標として用いた障害者手帳取得の有無は,手帳取得時の状態が反映されたものであって,現在の重症度と必ずしも一致していない可能性がある.また,障害者手帳取得者の多くは,病院の受診頻度が高い傾向にあるため,疾患などに関連した知識を獲得する機会が高かった可能性もある.さらに,今回の質問項目は先行研究に基づいて作成したが,疾患の個別性が高いACHD女性の妊娠・出産に対する特異な認識をとらえきれていない可能性があるため,アンケート調査だけでなくその内容をより具体的にとらえることができる面接法を用いた調査を行うことも必要である.今後具体的に支援内容を検討していくためには,ACHD女性が通院する複数施設で調査を行い,疾患重症度別で妊娠・出産に対する思いや認識を確認していく必要がある.

結論

本研究対象者において妊娠可能年齢にあるACHD女性は,疾患重症度にかかわらず,また「妊娠による心臓への負担」「心疾患の胎児への遺伝」など妊娠・出産による母児への影響についての認識が高い一方で,結婚・妊娠・出産の願望が高いことが明らかになった.また,ACHD女性の心疾患に関連した妊娠・出産に関する認識や知識は,身体障害者手帳取得者のほうが非取得者より高いことが明らかになった.近年,小児診療科から成人診療科へ系統的に移行できるように自立支援教育が実施されているが,妊娠可能年齢に達している女性の一部は,十分な教育支援を受けないまま,成人を迎えていることも考えられる.そのため,ACHD患者が必要に応じて情報にアクセスできる環境づくりも必要である.さらに,ACHD女性のリプロダクティブ・ヘルスの向上のためには,妊娠可能年齢に達したACHD女性にかかわる様々な医療職者が協力して必要な時期に適切な情報を提供できるようなシステムを構築することが重要であり,医師だけでなく看護職者も小児医療施設と成人医療施設と連携しながら,早期からの啓発活動や介入を行うことが必要である.そのために,移行期教育だけではなく診療科移行後のフォローアップ教育の実施や患者の状態に応じて情報を獲得できる相談窓口の設置,患者教育の提供などを行っていくことが重要である.

謝辞Acknowledgments

本研究のアンケートに回答していただきましたACHD患者の皆様,アンケート調査にご協力いただきました九州大学病院循環器科(トランジショナル)外来の方々に心から感謝申し上げます.なお,この研究は,日本医療研究開発機構より難病実用化事業補助金(助成金番号15ek0109123h0001, 16ek0109123h0002, 17ek0109123h0003)が付与されています.

利益相反

日本小児循環器学会の定める利益相反に関する開示事項はありません.

著者の役割

山﨑啓子は,論文の構想,データ収集や分析,論文執筆に関与した.樗木晶子は,論文の構想,データ収集や分析に関与し,論文執筆を直接指導した.井上彩香,澤渡浩之,吉本祐子,坂本一郎,山村健一郎,新原亮史,谷口初美は,論文のデータ収集やデータ解釈,批判的校閲に関与した.すべての著者が論文の最終承認および研究結果の発表決定に関わった.

Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery 38(2): 105-114 (2022)

Appendix アンケート調査

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