Online ISSN: 2187-2988 Print ISSN: 0911-1794
特定非営利活動法人日本小児循環器学会 Japanese Society of Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery
Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery 38(2): 103-104 (2022)
doi:10.9794/jspccs.38.103

Editorial CommentEditorial Comment

現代の川崎病における弁膜症の意義日常の気づきや疑問を臨床研究にValvular Lesions of Kawasaki Disease in the Current Era: Fill the Knowledge Gaps with Clinical Research!

1福岡市立こども病院循環器集中治療科Department of Cardiovascular Intensive Care, Fukuoka Children’s Hospital ◇ Fukuoka, Japan

2九州大学病院ハートセンター成人先天性心疾患外来Adult Congenital Heart Disease Clinic, Kyushu University Hospital ◇ Fukuoka, Japan

発行日:2022年5月1日Published: May 1, 2022
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川崎病の心合併症として有名なのはやはり冠動脈病変であり,弁膜症は言わば脇役と言っても過言ではない.そのようななか,「急性期に大動脈弁閉鎖不全症が出現した場合は,その後の冠動脈拡張のリスクが高く要注意である」というわかりやすく有用な知見を見いだしたのが,今回の阿久澤論文である1)

川崎病急性期における弁膜炎や弁膜症については古くから報告がある.特に僧帽弁閉鎖不全,大動脈弁閉鎖不全に関するものが多いが,なかには三尖弁閉鎖不全症に関するものも存在する2).乳幼児特発性僧帽弁腱索断裂の11%に川崎病の既往があることも報告されており3),今も決して無視はできない病態と言える.しかしながら,診断や治療の進歩に伴い,現代の川崎病の急性期において弁膜症が血行動態的に問題となることは極めて少ない.実際に阿久澤論文における弁膜症の参考文献も1980年代のものが多い.このような背景のなか,「冠動脈拡張をきたす症例の多くに大動脈弁閉鎖不全が認められる傾向があった」という日常診療の気づきから,この研究はスタートしている.冠動脈病変合併の危険因子や予測スコアについては,これまでにも国内外から多くの報告がなされているが4, 5),そのなかでも阿久澤論文の大動脈弁閉鎖不全の出現という所見は特にシンプルでわかりやすく,現場に役立ち得るものと言えるだろう.

また,冠動脈拡張と関連がみられたエコー所見について,そのエコー所見の出現と冠動脈拡張の出現の時間的な関係をきちんと調べたことも,有用な結論に辿り着いた一因と言える.あらゆる臨床研究において,ある因子と結果に関連がみられた場合に,それが単なる関連なのか,因果関係があるのかは,科学的真実に辿り着くために極めて重要である.実際に査読をしていても,関連がみられただけであるにもかかわらず,因果関係を結論づけている“overstating”な論文をしばしば目にする.この点を考えるにあたり非常に参考になるツールに,“Bradford Hill基準”がある6).①Strength(強固性),②Consistency(一致性),③Specificity(特異性),④Temporality(時間性),⑤Biologic gradient(生物学的用量関係),⑥Plausibility(説得性),⑦Coherence(整合性),⑧Experimental evidence(実験的証拠),⑨Analogy(類似性)の9つの視点で因果関係を検討するのがよいとされるが,そのなかでも④Temporalityはデータさえ得られれば前後関係は明白であり,特に参考になる所見と言える.川崎病においては,これまでにも慢性期において冠動脈拡張例に大動脈弁閉鎖不全を合併する症例が多くみられるとの報告はあったが,このTemporalityがあきらかでなかった.阿久澤論文ではこの点に初めて着目しており,全く同じテーマでも時代や場所などのセッティングや検討方法が違えば,新たに有用な知見が得られることを示す好例と考える.もちろん,軽度の大動脈弁閉鎖不全が冠動脈拡張の直接の原因になることは理論上考えにくいので,厳密には両者に因果関係があるとは言えないかもしれない.その点についても,過去の剖検例などの報告から,川崎病で強い炎症を生じる冠動脈起始部や大動脈基部に近接した大動脈弁には炎症が波及しやすく,そのため大動脈弁閉鎖不全が冠動脈拡張に先行した可能性があると,⑥Plausibilityの観点からも考察している.一方で,LVDd拡大所見(LVDd≧105%)も冠動脈拡張と関連がみられたが,その多くがIVIG投与後の増加であったこともTemporalityの観点からきちんと検討しており,LVDd拡大はおそらくIVIGの容量負荷に伴うものであろうと結論づけている.

このように阿久澤論文は臨床現場でのシンプルな気づき・疑問点を臨床研究の形に昇華した好例と言える.ひょっとすると,この論文を読んだどこかの医師が大動脈弁閉鎖不全出現後に特に注意して冠動脈をみることによって,後遺症に苦しむ川崎病患者を一人でも減らすことにつながるかもしれない.ただ,比較的少数での後方視的検討であり,エビデンスレベルは決して高いとは言えない.再現性や他集団への一般化の可能性については,今後の課題であろう.小児循環器・川崎病に関しても,現在の優れた治療成績は先人の行った多くの臨床研究に立脚している.適切な研究計画と真摯で的確な結果の解釈の積み重ねが,今後の小児医学・医療を1ミリずつでも進歩させていくと信じて,多くの臨床家が後に続くことに期待したい.

注記:本稿は,次の論文のEditorial Commentである.阿久澤大智,ほか:川崎病急性期における冠動脈拡張と大動脈弁閉鎖不全,心嚢液貯留,および左室拡張末期径の関係.日小児循環器会誌2022; 38: 94–102

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