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特定非営利活動法人日本小児循環器学会 Japanese Society of Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery
Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery 37(2): 78-87 (2021)
doi:10.9794/jspccs.37.78

ReviewReview

先天性気管狭窄症を合併した先天性心疾患とその周術期管理Clinical Features and Perioperative Management of Congenital Tracheal Stenosis in Patients with Congenital Heart Diseases

兵庫県立こども病院小児集中治療科Department of Pediatric Critical Care Medicine, Hyogo Prefectural Kobe Children’s Hospital ◇ Hyogo, Japan

発行日:2021年8月1日Published: August 1, 2021
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先天性気管狭窄症(CTS)は完全気管輪を伴った気管内腔の狭小化により重篤な呼吸障害を来し得る難治性の疾患である.スライド気管形成術の普及によりその治療成績は著しく向上したが,窒息などの急変対応,手術手技や周術期管理,術後フォローアップの難しさから,国内でCTSの管理や治療に取り組んでいる施設は限られている.一方,先天性心疾患(CHD)において呼吸と循環は相互に密接に関連しているため,気道病変の合併は病態をより複雑かつ重症化させ,診療や治療に難渋することが多い.CTSは稀な疾患であるがCHDの合併は比較的多く,小児循環器診療に携わる医療従事者にとってCTSに関する理解を深めることは重要である.本稿ではCTSについて概説し,CHD合併に焦点を当てながら外科的治療を含めた周術期管理の要点をまとめ,施設間ネットワークやチーム医療によるCTS管理の普及と発展を期待する.

Congenital tracheal stenosis (CTS), characterized by the narrowing of the tracheal tract due to complete tracheal rings of the cartilage, is a rare but potentially life-threatening disease that often leads to severe respiratory failure in children. CTS is often found in conjunction with congenital heart diseases (CHD). Although slide tracheoplasty has demonstrated huge improvement in clinical outcomes of treating CTS and has recently emerged as the dominant surgical technique, some hospitals in Japan are still challenged by the amount of work required to manage and treat CTS cases. Generally, CTS in patients with CHD makes the condition more complex and severe due to the sensitive and crucial link between the pulmonary and systemic circulations, such as cardiopulmonary interaction. Therefore, acquiring sufficient knowledge on CTS is highly essential for the attending medical staff in pediatric cardiology. This article reviews and summarizes the clinical presentation and perioperative management of CTS, emphasizing its association with the CHD.

Key words: congenital tracheal stenosis; congenital heart disease; slide tracheoplasty; perioperative management; cardiopulmonary interaction

はじめに

私たち小児循環器診療に携わる医療従事者にとって,呼吸症状を認める先天性心疾患(congenital heart disease; CHD)に遭遇することは珍しくないが,その症状が先天性気管狭窄症(congenital tracheal stenosis; CTS)に由来することは稀である.しかし,CHDを有する小児において,CTS合併は吸気性喘鳴や呼吸困難を呈するに留まらず,心疾患に起因するチアノーゼや心不全症状にも影響を及ぼし,双方の病態をより複雑かつ重症化させ,その周術期管理に苦慮することが多い.本稿ではCHD合併に焦点を当てて,CTSの病態や臨床症状,診断方法などについて概説し,外科的治療を含めた周術期管理の要点を解説する.

概論

CTSは気管軟骨の形成異常のために生じる疾患で,狭窄部の気管には膜様部がなく気管壁の全周を軟骨が取り囲み,完全気管軟骨輪(complete tracheal ring)が存在する.その発生頻度は,64,500人に1人1)(10万人あたり1.55人),喉頭気管狭窄症患者の0.3~1%2)と言われているが,診断法の進歩や疾患に対する認識から発生頻度はもう少し多いものと推察される.一般的にCTSは狭窄の形態によって全長型,漏斗型,限局型の3つに分類される3)が,兵庫県立こども病院(以下,当院)では,これらに分節型や分岐部型,片肺型を加えた6つをCTSの基本病型(Fig. 1)としている4).これらの分類は外科的治療の術式選択や周術期の気管チューブ管理をする際に重要となる.CTSは肺動脈スリングを含むCHDを合併することが多く,CTS患者の約6割5),36.4~77.8%6)にCHDを合併すると報告されている.1997年から2019年までに当院で気管形成術を施したCTS患児132例中,CHDを合併した92例(69.7%)の心疾患の内訳をTable 1に提示する.その他にCTSでは片肺無形成・低形成7, 8)や直腸肛門奇形9, 10)などの合併奇形を有することもある.

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Fig. 1 Types of congenital tracheal stenosis4)

1. Generalized type, 2. funnel type, 3. segmental type, 4. localized type without carina involvement, 5. localized type involving the carina, 6. single-lung type.

Table 1 Summary of associated cardiovascular anomalies in 92 patients who underwent simultaneous repair of congenital tracheal stenosis and cardiovascular disease at Kobe Children’s Hospital from 1997 to 2019
Cardiovascular anomaliesn
Pulmonary artery sling58 (63.0)
Ventricular septal defect19 (20.7)
Atrial septal defect13 (14.1)
Patent ductus arteriosus10 (10.9)
Double outlet right ventricle5 (5.4)
Tetralogy of Fallot5 (5.4)
Coarctation of the aorta4 (4.3)
Total anomalous pulmonary venous connection4 (4.3)
Pulmonary stenosis3 (3.3)
Atrioventricular septal defect2 (2.2)
Single ventricle2 (2.2)
Pulmonary atresia with ventricular septal defect1 (1.1)
Aortopulmonary window1 (1.1)
Data are presented as number (%).

臨床症状

CTSは気管狭窄の程度に応じて呼吸症状を呈し,新生児期から重篤な症状を認める場合もあるが,一般的には体重が増加し始める生後1~2か月頃から喘鳴,チアノーゼ発作などの症状を認めることが多い.普段は軽度の喘鳴のみであっても,上気道感染を契機に呼吸困難が出現することがあり,急速に進行して窒息に至ることもあるので注意を要する.喘鳴は呼気性が主体で,喘息や細気管支炎として経過観察されていることもある.また,呼吸困難のために気管挿管された後に抜管困難となって発見されることもある.CTSでは合併奇形が多いため,他疾患(特にCHD)の検査や治療に際して全身麻酔下で気管挿管が試みられ,適切なサイズの気管チューブが挿入できずに気づかれることも多い.なお,CHDを有する小児(以下,CHD児)においてCTSの臨床症状は,心疾患に起因するチアノーゼや心不全症状と類似しているため診断や治療介入が遅れたり,双方の症状が相互に影響するために換気不全が血行動態の悪化を招いたり,循環不全が呼吸状態を増悪させたりして重症化することがある.

診断方法

胸部単純X線写真(Fig. 2)による気管空気像から狭まった気管透亮像としてCTSの推定はできる場合もあるが,診断は造影CT,気管支ファイバースコピーまたは硬性気管支鏡で行う.造影CT(Fig. 3)では3次元画像(3D-CT)が有用で,気管・気管支の形態を確認して狭窄部の気管径や狭窄範囲,気管気管支などの気管支分岐異常の有無を評価する.また心大血管の形態や走行異常(肺動脈スリングなど)の有無,気管との位置関係を確認する.気管挿管中の撮像では挿管部の気管の正確な評価ができないため,挿管チューブの外形や挿管時の挿入抵抗から推定する.気管支ファイバースコピーや硬性気管支鏡では,気管狭窄部の完全気管軟骨輪の存在を確認して診断を確定する.気管狭窄起始部の位置や狭窄範囲,できれば末梢気管・気管支の状態を観察するが,気管支鏡の侵襲により気管粘膜浮腫を引き起こして狭窄症状の増悪を伴いやすい.またCHD児では,全身麻酔下での気管支鏡検査中の換気不全は循環不全を引き起こすリスクも高い.したがって,検査そのものを無理のない範囲で可及的かつ慎重に実施する必要があり,場合によっては病変部の頭側端の確認のみに留めることもある.

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Fig. 2 Chest X-ray showing tracheal stenosis (arrow)

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Fig. 3 Preoperative three-dimensional computed tomographic angiography

(A) Posterior view of congenital tracheal stenosis (CTS) with right tracheal bronchus and pulmonary sling, and (B) its volume rendering image depicting trachea. (C) Volume rendering image of CTS visualizing trachea and lungs into the body, and (D) its virtual bronchoscopy.

保存的治療

気管狭窄の程度が軽度で呼吸症状が軽微な場合は,去痰剤や気管支拡張薬を適宜投与しながら経過観察することが可能である.上気道感染を契機に呼吸症状の増悪を認めた場合には,早期にボスミン吸入やステロイド吸入を考慮する.CHD児では,呼吸症状の悪化に伴って心不全症状が増悪したり,心不全症状の悪化に伴って呼吸症状が増悪したりすることがある.カテコラミンや利尿薬などを使用して,浮腫軽減を主体とした心不全治療に取り組み,早期に気道粘膜の腫脹を軽減させることが重要である.呼吸症状が悪化して換気不全や酸素化不良を生じ,気道確保や換気補助が必要になれば気管挿管を行う.通常,CTSでは狭窄部を越えて気管チューブを挿入することができないため,狭窄部手前までの挿管となる.このためチューブ先端位置の保持や有効な換気補助を行うために筋弛緩薬を用いた深鎮静での管理が必要となることがある.

窒息への緊急対処法

CTSでは確保すべき気道が狭窄しているため普通には気管挿管できず,また気管切開による緊急気道確保も有効となり得ない.窒息により生命を脅かすような換気不全に陥った場合には,救命のため緊急的に狭窄部に対する気管バルーン拡張術11)やBy-force挿管12, 13)Fig. 4)を施行したり,体外式膜型人工肺(ECMO)14, 15)を実施したりすることになる.By-force挿管ではガイドワイヤー下に気管チューブを力づくで気管狭窄部を超えて挿入するが,狭窄部の気管の穿破や破裂などの致命的な続発症を引き起こすリスクが高いことを心得ておく必要がある.CHD児においては,窒息による換気不全と同時に循環不全を来しやすく,緊急ECMOの導入時期を逸しないことが大切である.

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Fig. 4 Balloon tracheoplasty and By-force endotracheal intubation

(A) A guidewire is inserted into the stenosed trachea. (B) Intraluminal balloon dilation of the stenosis is performed using a balloon catheter over the guidewire. (C), (D) A endotracheal tube is passed throughout the stenosed trachea over the guidewire or the deflated balloon catheter13).

外科的治療

CTSの手術は,気管狭窄の範囲が気管全長の1/3までの限局型では狭窄部を環状に切除し端々吻合することが可能である16)Fig. 5).それ以上に及ぶ長い気管狭窄に対しては,切除端々吻合では吻合部に緊張がかかり再狭窄の危険性が高くなるため,気管形成術が行われる2, 17).また,たとえ限局型であっても新生児や乳児期早期の手術で切除端々吻合を行うと吻合径が小さくなる場合には気管形成術が選択される18).かつての気管形成術では狭窄部の気管前壁を縦切開し,切開部に心膜や肋軟骨などの自家グラフトを縫着して内腔を拡大する方法19, 20)が行われていたが,術後に肉芽形成や再狭窄を来しやすく,近年ではスライド気管形成術(slide tracheoplasty)16, 21, 22)が標準術式となっている.

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Fig. 5 Tracheal resection and primary end-to-end anastomosis for the short-segment congenital tracheal stenosis16)

1. 手術適応

CTSの手術適応は,術前の気管狭窄の形態評価を踏まえて手術のリスクと気管の成長を考慮したうえで,気管狭窄による臨床症状を最も重視して総合的に判断する.喘鳴や呼吸困難,繰り返す上気道感染などにより患児のQOLが著しく低下している場合や,人工呼吸器からの離脱が見込めない場合など,保存的治療で改善が得られなければ待機的な手術の適応となる.ただし安定した換気が得られない場合や,重篤な換気不全で気管バルーン拡張術やBy-force挿管,緊急ECMO導入となった場合には,可及的速やかに手術を実施することが望ましい.CHD児においては,CTSの手術適応にCHD合併が影響を与えることは少ない.ただし,CTS手術適応の境界領域症例では,CHD修復時の体外循環や手術侵襲に伴うCTS症状の増悪が十分に想定される場合や,大動脈再建術などのような気管近傍の手術操作に伴い二期的にCTS修復術を後日行う場合の手技的困難が明らかに想定される場合には,手術適応を拡大してCHD/CTS同時手術を選択する場合もある.

2. スライド気管形成術4, 23)(Fig. 6)

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Fig. 6 Slide tracheoplasty technique

(A) Stenotic segment of the trachea is divided transversely in its midpoint. The upper stenotic segment is incised vertically posteriorly and the lower segment is incised anteriorly for the full length of stenosis. (B) Right-angled corners produced by these divisions are trimmed above and below. (C) The two ends are slid together after placement of running sutures around the entire oblique circumference of the tracheoplasty. (D) The tracheal circumference is doubled, resulting in quadrupled cross-sectional area16).

手術は全身麻酔下仰臥位,頸部伸展位で行う.頸部襟状切開を加えた胸骨正中切開で縦隔に到達し,ECMOまたは人工心肺装置による体外循環24, 25)(通常は上行大動脈送血,右心房脱血)を確立する.気管狭窄部を全長にわたって露出した後に,気管狭窄部の中央やや尾側で気管を離断し,上部気管後壁と下部気管前壁の気管軟骨輪をそれぞれ膜様部が確認できるまで縦切開する.上部気管と下部気管をスライドさせるように引き寄せて吸収糸を用いて結節縫合で側々吻合する.これによって気管長は狭窄部分のおよそ半分に短縮するが,気管周径はほぼ2倍になる.気管分岐部まで狭窄が及ぶ症例では,下部気管前面の切開を左右主気管支まで逆Y字に延長して気管形成を行う.気管形成部を経鼻挿管チューブでステントし,換気が十分に得られれば体外循環を離脱する.術後の気管軟化予防として,必要に応じて自己心膜プレジェット付き非吸収糸を用いて気管形成部前面を大動脈壁後面に固定した後に大動脈吊り上げ術を行うこともある.

3. CHD/CTS同時手術

CHD児が手術適応のあるCTSを合併した場合,原則的には同時手術による一期的修復を検討する26).CHD修復とCTS修復を別々に二期的修復すると,低酸素血症や心不全,換気不全などの残存病変によって周術期管理に難渋することが多く,感染,縫合不全などの合併症や死亡率のリスクが高くなると考えられている27, 28).ただし,新生児や早期乳児,低体重児や早産児,複雑CHDや長時間の体外循環時間症例などでは,同時手術に伴う合併症リスクが高くなるため二期的手術も考慮する26, 27, 29, 30).術前評価ではCTS手術適応外の症例であっても,CHD修復時の体外循環の影響で気道粘膜浮腫による気管狭窄の増悪を認めることがあり,体外循環離脱前に気管支ファイバースコピーを行い,引き続き気管形成術を実施する場合もある.CHD/CTS同時手術では,気道分泌物による術野汚染や縦隔洞炎を懸念して,CHD修復を先行させてから気管形成術を施行する.CHD修復において人工パッチや人工血管などの異物は原則使用せず,やむなく使用する場合は自己心膜で被覆するなどして心血管表面や縦隔内に異物が露出しないように工夫する27).CHD/CTS同時手術の体外循環に関しては通常人工心肺装置を用い,体外循環終了直後には術後浮腫の軽減や炎症性活性物質の除去を目的としたmodified ultrafiltrationを施行する.ただし,人工心肺装置を用いた体外循環に伴う出血傾向(特に気道出血や肺出血)を軽減するために,近年当院ではCHD修復後に上行大動脈送血および右心房脱血によるECMOに載せ替えて,活性化凝固時間を200~240秒でコントロールしながら気管形成術を実施する取り組みを行っている31).なお,気管形成術後に十分な換気が得られず体外循環から離脱し得ない場合には,気管形成部に問題がなければECMO装着15, 32, 33)のまま手術を終了して術後管理に臨む.

術後管理

CTS修復術の術後管理については,手術そのものが国内でも限られた施設でしか実施されていないため,未だ画一的な方法が確立されているわけではない34–38).鎮静深度と抜管時期に関して,福本38)は術後1週間筋弛緩薬を使用した深鎮静で管理し術後約2週間で抜管すると報告した.また,筋弛緩薬の使用期間を術後数日間とする報告34)や,術後10日から2週間で抜管するという報告39)もある.Fig. 7にボストン小児病院から報告されたCTS術後管理プロトコール(手術から抜管まで)16)を示す.当院では,福本の報告38)のように術後1週間の筋弛緩薬使用と術後2週間での抜管を以前行っていたが40),筋弛緩薬使用と強制換気主体の人工呼吸管理による呼吸筋や横隔膜の委縮41, 42)を懸念し,気管形成部の安静を考慮して,術後3日間の筋弛緩薬使用と術後1週間での抜管を現在実施している.以下に,現在当院で取り組んでいる気管形成術後の一般的な術後管理を紹介する.

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Fig. 7 Postoperative management of patients with CTS in Boston Children’s Hospital55)

CICU, cardiac intensive care unit; CTS, congenital tracheal stenosis; DLB, direct laryngoscopy & bronchoscopy; NG, nasogastric; POD, post-operative day.

1. 気道・呼吸

気管吻合部に緊張がかからないように頸部を軽く前屈させた仰臥位で体位保持する.連日必要に応じてベッドサイドで気管支ファイバーによる気管内腔の観察を行い,挿管チューブが気管形成部をステントし,先端が吻合部を越えて適切に留置されていることを確認する.体位変換は背板を用いた体軸体交とし,気管の形態や吻合部の状態によっては気管吸引チューブの挿入長を制限する.筋弛緩薬使用下では完全調節による人工呼吸管理とするが,体外循環などの手術侵襲による気道粘膜浮腫の増悪や,肺出血や術野血液の流れ込みによる血液貯留,気道分泌物の増加などで気道抵抗の上昇や末梢気道の狭窄・閉塞が起こりやすい.このため,高い気道内圧や呼気終末気道内陽圧(PEEP)を要したり,auto-PEEPを配慮した吸気・呼気時間の確保や呼吸回数の設定が必要になったりする.気道分泌物は原則,閉鎖式気管吸引を行うが,筋弛緩薬使用下では咳嗽もなく有効な吸引ができず換気状態の改善が得られないこともあり,体軸体交による体位ドレナージを励行し,必要に応じて開放式気管吸引や用手的排痰補助,気管支ファイバースコープを用いた吸痰を行う.ただし,用手換気による開放式気管吸引の際には肺胞虚脱による酸素飽和度の低下や,過換気過膨張によるauto-PEEPの上昇によって循環不全を引き起こす場合があるので注意を要する.術後の気道粘膜浮腫の軽減や気管内肉芽の形成予防を目的として,ステロイド吸入療法(ブデソニド吸入)を施行することが多い43).筋弛緩薬終了後は同調式間欠的強制換気(SIMV)モードとし,酸素化や換気状態を評価しながら持続自発換気(CPAP)モードでの,自発呼吸テスト(Spontaneous breathing trial: SBT)を経て術後7日目の抜管を目指す.CTS修復術の術後人工呼吸管理においても,突然の酸素飽和度の低下や換気不全といった急変時には,DOPE(Displacement, Obstruction, Pneumothorax and Equipment failure)44)アプローチによる基本的な原因検索を迅速に行い適切に対応することが肝要である.

2. 循環

CTS修復術後においては,体外循環を含む手術侵襲に伴う気道粘膜浮腫を軽減し換気状態を改善させるための循環管理が必要となる.体循環血液量の確保は重要であるが過剰な補液や輸血を控え,速やかにフロセミドの持続投与を開始して,できるだけ早期に利尿を促して術中からの水分出納が負で管理できるように除水を図ることが重要である.小児においては手術侵襲に伴う生体炎症反応によって毛細血管の透過性亢進(capillary leakage)が起こりやすいため,これを念頭において心拍出量を規定する因子(心収縮能,前負荷,後負荷,心拍数)や末梢循環指標(四肢末梢の温かさやCapillary refill timeなど)を評価して,適切な体循環血液量を維持しながら尿量を確保していくことになる.術後3日間は筋弛緩薬を使用した深鎮静での管理のために血圧が低い傾向になるが,循環を維持し利尿を保つための至適な体血圧や中心静脈圧を見極めて,必要ならばカテコラミンやカルシウム製剤を適宜使用しながら利尿を促していく.CHD修復術との同時手術においては,開心術後の低心拍出量症候群(low output syndrome; LOS)状態の中でCTS修復術後の呼吸管理を行うため,循環と呼吸の相互作用45)によって水分出納を負で管理することが難しく,気道粘膜浮腫の改善に時間を要することが多い.各CHDの病態や術式に応じた術後急性期循環管理を行う中で,CTS修復術後の呼吸管理に留意しながら,体温管理や人工呼吸管理,鎮静鎮痛コントロールなどで心筋酸素消費を減らし,血管作動薬の使用や肺体血流比の制御,心拍数・リズムコントロールなどで心筋酸素供給を増やして,酸素需給バランス45)を整えていくことが肝要である.

3. 神経

術後3日間は筋弛緩薬を使用した深鎮静での管理とし,通常,ミダゾラム,フェンタニル,ベクロニウム(またはロクロニウム)を使用する.鎮痛目的のアセトアミノフェンも術後3日間は定時投与する.術後4日目に筋弛緩薬を終了し,その後は激しい首振りや体動がないような鎮静レベルで管理する.安静を保つために,適宜デクスメデトミジンや内服鎮静薬(フェノバルビタール,ジアゼパム,抑肝散など)を併用する.筋弛緩薬終了後はState Behavioral Scale46, 47)(SBS)-2の鎮静レベルで安静を保持するが,徐々に覚醒を促して適度な鎮静レベルを保ちながら術後7日目の抜管に備える.

4. 栄養・消化管

筋弛緩薬を使用した深鎮静での管理であっても,心血管作動薬や人工呼吸管理などによって呼吸状態および循環動態がある程度安定していれば,術翌日以降で可能な限り早期に経腸栄養を開始する48, 49).患児の年齢や体重,個々の病態に合わせて適切な栄養剤を選択し,腸蠕動音や腹部所見,胃残量や排便を確認しながら無理なく投与する.術後のストレス性潰瘍に対する予防薬としてヒスタミンH2受容体拮抗薬あるいはプロトンポンプ阻害薬を術後1週間投与する.

5. 感染・炎症

原則的にはセファゾリン30 mg/kg/doseを術後1週間1日3回投与する.熱型や血液炎症反応(WBC, CRP),創部などを日々観察フォローするが,CTS修復術後は発熱やCRP上昇が遷延しやすく,評価に苦慮することが多い.ただし感染症が少しでも疑わしければ,各種細菌培養検査(血液,喀痰,尿,膿など)を提出し,検査結果を踏まえた抗菌薬の変更やその後の対応を検討する.なお,縦隔洞炎が強く疑われる場合は胸部造影CT検査を速やかに実施し,胸骨離開の有無を確認し,前縦隔内や胸骨後面にびまん性の吸収値上昇や液体貯留,嚢胞性変化がないかを確認する.

合併症・予後

CTSの主な術後合併症として,形成吻合部の縫合不全や気管内肉芽,吻合部狭窄,気管・気管支軟化,縦隔洞炎,敗血症,反回神経麻痺や横隔神経麻痺などがある30, 34, 50–52).CTSに対する気管形成術の治療成績は,従来行われていた自家グラフト(肋軟骨や心膜)を用いた気管形成術では生存率61–76%であったが17, 19),スライド気管形成術の普及により生存率は88~95%17, 51–56)にまで顕著に改善した.当院におけるCTS修復術の1年生存率は90.0%であった4).CHDを合併したCTS修復術に関する治療成績の報告は少ないが,20症例以上を対象とした文献26, 29, 57–59)をまとめるとCHD/CTS同時手術の生存率は83.2%であった(Table 2).当院では2009年にOkamotoら26)が報告したCHD/CTS同時手術の生存率は85.1%であったが,2010年以降の10年間に実施したCHD/CTS同時手術53症例の生存率は96.2%であり,手術手技や周術期管理の向上によって飛躍的に改善した.CTS修復術の予後を規定する危険因子としては,早産児,新生児,低体重,片肺無形成60),気管支軟化・狭窄,術前人工呼吸管理や術前ECMO,長時間の体外循環時間などが挙げられており4, 26, 29, 51, 52, 54),CHDを合併したCTS修復術ではさらに複雑心奇形29, 59, 61)が危険因子に加わる.

Table 2 Published results of simultaneous surgical repair of both congenital tracheal stenosis and congenital heart diseases
AuthorYearNo. of patientsNo. of survivals (%)
Okamoto et al26)20093227 (85.1)
Mainwaring et al59)20122119 (90.5)
Xue et al57)20154336 (83.6)
Wang et al58)20162422 (91.7)
Ramaswamy et al29)20204130 (73.3)
Total161134 (83.2)

施設間ネットワーク

当院で実施したCHD/CTS同時手術53症例のうち,兵庫県外からの医療施設からの紹介依頼で精査加療を行った症例は48例(90.6%)であった.紹介元施設の所在地は北海道から沖縄にわたり,48例中8例(16.7%)は呼吸不全に伴う救急搬送で,12例(25.0%)は航空医療搬送用ヘリコプターによる転院搬送であった.本邦では小児の気道手術に取り組み院内体制整備が整っている施設はまだ少なく,現状ではこれらの施設を基幹施設とした医療施設間の連携や後方支援が重要であると考える.迅速かつ効率的な情報共有や安全な施設間搬送を可能にしたCTS施設間ネットワークの構築が今後望まれる.

おわりに

CTSはひとたび呼吸症状が増悪すると急速に症状が進行し,窒息,低酸素脳症,心停止を引き起こすリスクが高く,救命のためには緊急かつ迅速な対応が常に要求される.したがって私たちはCTSの日常的なリスクを十分に理解し,症状急変時に備えた物品等の準備や体制整備といったリスクマネジメントが極めて重要となってくる.CHDを有する小児におけるCTSの合併は,確かに呼吸と循環双方の病態によって症状をより複雑かつ重症化させるリスクがあるものの,手術を含めた周術期管理の向上によって生命予後は改善しつつある.患児それぞれの気管狭窄や心奇形,年齢や全身状態などの危険因子に応じた治療戦略を綿密に立て,小児循環器科や小児心臓外科に留まらず,小児外科,集中治療科,小児呼吸器科,麻酔科,看護師,臨床工学技士などを交えた情報共有と密接な連携を行うことで,さらなる救命率の向上や予後の改善を目指す.本邦ではまだ限られた施設のみで取り組んでいる高度医療ではあるが,施設間のネットワークを構築していきながら,チーム医療による周術期管理の普及と発展を期待する.

謝辞Acknowledgments

当院におけるCTS症例のデータ提供および論文の知的内容に関わる批判的校閲にご協力いただいた当院小児外科 森田圭一先生に深謝申し上げます.

利益相反

日本小児循環器学会の定める利益相反に関する開示項目はありません.

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