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特定非営利活動法人日本小児循環器学会 Japanese Society of Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery
Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery 37(1): 42-43 (2021)
doi:10.9794/jspccs.37.42

Editorial CommentEditorial Comment

心外膜リードによる心絞扼如何にして防ぐかCardiac Strangulation Following Epicardial Pacemaker Implantation: How to Prevent It

兵庫県立こども病院心臓血管外科Department of Cardiovascular Surgery, Kobe Children’s Hospital ◇ Kobe, Japan

発行日:2021年4月1日Published: April 1, 2021
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白水論文は,近年問題視されている心外膜リードによる心絞扼の症例が,平時は無症状で心筋虚血所見がなくとも心臓カテーテル検査を契機に心停止にまで至ったことから,本疾患の早期診断と外科的解除の重要性を述べた症例報告である1)

心外膜リードによる心絞扼については1988年以降症例報告として散見される程度であったが2),2015年のCarrerasらの報告に前後して特に問題視されるようになった3).彼らが2013年にMedtronic社に調査を依頼した時点では,1981年から2012年までに100,900本の心外膜リードが使用され,心絞扼の報告は僅か8例(0.016%)であったのに対し,ブリティッシュコロンビア小児病院での発生率は2.3%(2/84)と大きく乖離を認めた.更に2018年のMahらによるボストン小児病院での造影CT,冠状動脈造影を用いたスクリーニングでは心外膜リードによる冠状動脈圧迫の頻度は5.5%(8/145)と更に高く4),無症状を含めればより多くの患者が潜在していること,今回のようなclassic pattern以外にも心絞扼,冠状動脈圧迫を起こし得ることが報告された.近年では心絞扼に対する意識の高まりも反映し,2020年だけでも4例の心外膜リードによる心絞扼が報告されている5–8)

本邦においては,2012年のHealth Canadaからの注意喚起を受け9),医薬品医療機器総合機構(Pharmaceuticals and Medical Devices Agency: PMDA)から日本胸部外科学会,日本心臓血管外科学会,日本不整脈学会に情報提供が行われ,2013年4月に3学会合同で心外膜リードによる心絞扼に関する注意喚起が行われた10).そこでは心外膜リードによる心絞扼回避のために,余剰なリードでたわみを設ける際には可能な限り心表面を避けることが推奨されている10)

白水らの報告症例は注意喚起前の手術症例であり1),術直後および術翌日の胸部X線画像を見ると,術翌日には心外膜リードが心基部を取り巻くような配置に移動し,ジェネレーター周囲のリードは短縮している.ペースメーカ移植術時に心嚢内でのループとなり,心拍動の影響を受けリードが心嚢内に引き込まれたものと推察される.

小児に対する心外膜リードを用いたペースメーカ移植は,正中アプローチや側開胸アプローチ,電極の位置と固定する方向に応じてリード配置を決定する必要があり,心絞扼の完全な予測は困難と思われる.しかしながら,特に乳幼児では成長に伴って心絞扼が進行しやすいため,リード配置には特に注意が必要で,これまでの報告からは以下の対策と配慮が必要と考えられる.

  1. 心外膜リードは先端の電極近くで心嚢外に出し,特に初回手術例では心嚢内でのループ作成はできる限り回避する.横隔膜面でのループ作成も電極が遠いと心絞扼を来し得る4)
  2. 心外膜リードのループ部分と心臓との間に心膜を介在できない場合はePTFEシート(ゴアテックス心膜シート)を介在させるなど予防策を講ずる8)
  3. 心拡大を有する症例では心前面のリード自体が胸骨に挟まれ,冠状動脈圧迫を来すことがある4)

白水論文を契機として,小児心外膜リード使用症例の非侵襲的スクリーニングが進み,心絞扼による致死的心事故回避に繋がることを期待する.

注記:本稿は,次の論文のEditorial Commentである. 白水優光,ほか:心臓カテーテル検査中に想定外の心筋虚血から心停止に陥った心外膜リードによる心絞扼の1例.日小児循環器会誌2021; 37 35–41

引用文献References

1) 白水優光,石川友一,倉岡彩子,ほか:心臓カテーテル検査中に想定外の心筋虚血から心停止に陥った心外膜リードによる心絞扼の1例.日小児循環器会誌2021; 37: 35–41

2) Brenner JI, Gaines S, Cordier J, et al: Cardiac strangulation: Two-dimensional echo recognition of a rare complication of epicardial pacemaker therapy. Am J Cardiol 1988; 61: 654–656

3) Carreras EM, Duncan WJ, Djurdjev O, et al: Cardiac strangulation following epicardial pacemaker implantation: A rare pediatric complication. J Thorac Cardiovasc Surg 2015; 149: 522–527

4) Mah DY, Prakash A, Porras D, et al: Coronary artery compression from epicardial leads: More common than we think. Heart Rhythm 2018; 15: 1439–1447

5) Muneuchi J, Doi H, Watanabe M, et al: Sub-clinical myocardial ischaemia due to cardiac strangulation by an epicardial pacemaker lead. Cardiol Young 2020; 30: 1335–1336

6) Breatnach CR, Snow A, Nölke L, et al: Cardiac strangulation causing refractory cardiac arrest during elective pacemaker revision: A cautionary tale. Cardiol Young 2020; 30: 1535–1537

7) Morrison ML, Karayiannis S, Speggiorin S, et al: Cardiac strangulation after epicardial pacing: The importance of non-specific symptoms and a low index of suspicion. Cardiol Young 2020; 19: 1–4

8) Miyagi C, Ochiai Y, Ando Y, et al: A case of cardiac strangulation following epicardial pacemaker implantation. Gen Thorac Cardiovasc Surg 2020; 68: 1499–1502

9) Health Canada: Rare risk of cardiac strangulation in children with epicardial pacemaker leads. https://www.healthycanadians.gc.ca/recall-alert-rappel-avis/hc-sc/2012/15067a-eng.php (Accessed on 3 December 2020)

10) 日本心臓血管外科学会.小児の心外膜リードによる心絞扼に関する注意喚起.https://plaza.umin.ac.jp/~jscvs/info/20140418syouni/ (Accessed on 3 December 2020)

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