両大血管右室起始症におけるVSD拡大と心内ReroutingのコツVSD Enlargement and Intraventricular Rerouting for Double Outlet Right Ventricle
千葉県こども病院 心臓血管外科Department of Cardiovascular Surgery, Chiba Children’s Hospital ◇ Chiba, Japan
千葉県こども病院 心臓血管外科Department of Cardiovascular Surgery, Chiba Children’s Hospital ◇ Chiba, Japan
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両大血管右室起始(DORV)の定義には変遷があるが,現在STS databaseでは両大血管が主に(predominantly)右心室から起始する心室大血管関係と定義されている.また登録上,房室関係が正位であって両心室の大きさが正常に近い(二心室修復の対象となる)ものとされている.「predominantly」の基準は「50% rule」である.Databaseという性格上明確な定義だが,実際は「spectrum」と称される多様性に富んだ疾患群であり1),対応する手術術式も多い.
心内Rerouting(Intraventricular rerouting: IVR)は二心室修復術として魅力的であるが,術後の左室流出路/大動脈弁下狭窄が生活のQualityを左右する.
DORVの二心室修復にこだわってきた経験から,VSD拡大とIVRに関してその適応と手術のコツについて述べたい.
両半月弁ともに僧帽弁との線維性結合をもたないDORVで,VSD=primary interventricular foramen(pIVF)の横径(前後径)が正常大動脈弁輪径以下である場合
両半月弁ともに僧帽弁との線維性結合をもたない(=両側円錐Bilateral conusを持つ,=200%右室起始の)DORVでは,心室間交通VSD=pIVFであり左室唯一の出口となるため,心内修復を行う際には狭小(正常大動脈弁輪径以下)であれば,拡大が必要である.
私が心臓外科を志したころは,DORVは肺動脈弁だけでなく大動脈弁も左室から離れており僧帽弁との線維性結合がないものと教えられ,そこがファロー四徴症との鑑別点であり,当時手術成績が良好であったファロー四徴症と区別して学会で議論されていた2).大動脈弁と僧帽弁の線維性結合があるファロー四徴症で大動脈弁が50%以上右心室に騎乗している場合も,DORVに分類するとDORVの手術成績が良くなるためフェアーでないと言われていた.ところが,TGA型のDORVに関しては事情が違って,False Taussig-Bing anomaly(False T-B)は後方大血管である肺動脈と僧帽弁との線維性結合があるが,TGAではなくDORVに分類されていた.おそらくOriginal T-BとFalse T-Bとの手術成績に大きな差がなかったためと考えられる.そういった社会的事情が背景にある時代と異なり,現在のDORVの定義は明快で,術式に関しても一方の大血管の半月弁が僧帽弁と線維性結合をもち左室に騎乗している場合は,必然的にその下に左室の出口であるVSDがあるため,修復術として左室からその大血管にReroutingすればよく,その大血管が肺動脈の場合や弁/弁下狭窄があれば,動脈/Truncalスィッチ或いはRossを行えばよい.大血管が騎乗しているので通常VSD横径は半月弁径相当あり,術後左室流出路狭窄の原因となることは稀である(騎乗の強いファロー四徴症と同様).ところが両大血管半月弁ともに僧帽弁と線維性結合がなく完全に右室から起始している場合は,VSD=pIVFの位置,大きさ,半月弁の高さ(半月弁下の筋性円錐Subaortic/subpulmonary conusの発達程度)によってIVRの選択枝が多彩で,またDKSやTruncal switchを行っても,VSDが狭小であれば拡大が必要となる.またsecondary interventricular foramenの上縁であるinfundibular septumの切除は左室出口の拡大にはならない.
今回の執筆のお話を頂いたときに,引退を控えて若い先生方に何を残せるのか,内容に迷いました.私の年代は,黎明期が終り小児循環器治療発展期の目撃者であり,救命できなかった患児が救えるようになった一方,「ムンテラ」から「IC」,医療安全体制の確立など,様々な変化を経験しました.その経験は貴重なものであり,偉大な先人たちの教えや自他の失敗から学んだこと,今だから話せることもあります.しかし今の若い先生方はその教訓のエッセンスを常識として学んでおり,面白い昔話ではあっても今後に生かせる話とすることは私には難しいと思い,結果としてこのような狭い分野の話になってしまいました.補助手段の進歩によって外科医の技術が生かせる時代となった今,少しでも若い先生方の参考になれば幸いです.
1) 黒沢博身,今井康晴,高梨吉則:両大血管右室起始症の再考察Transpositionの発生とconotruncal criss-crossの概念を中心として.胸部外科1985; 38: 774–784
2) 川島康生:両大血管右室起始症の定義と分類.日胸部外科会誌1981; 29: 967–971
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