植込み型心臓モニタとウェアラブルデバイスImplantable Cardiac Monitors and Wearable Devices in the Diagnosis of Syncope
大阪市立総合医療センター 小児不整脈科Division of Pediatric Electrophysiology, Osaka City General Hospital ◇ Osaka, Japan
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失神は一般人口での生涯発生率が30~40%あり,日常診療では比較的よく遭遇する症状である.心原性失神は小児では頻度が低いが,ほかの原因のものより生命予後が悪いため,反復性の失神や一過性意識障害の原因を確定することは重要である1).心原性失神ひいては心臓突然死をきたす疾患は,成人では虚血性心疾患が多い.一方,若年者では先天的冠動脈異常および遺伝性不整脈(先天性QT延長症候群・Brugada症候群・カテコラミン誘発多形性心室頻拍など)の頻度が高い.遺伝性不整脈とすでに診断がついている患者に一過性意識障害を見た場合,てんかんの合併や治療に用いた薬物の副作用(β遮断薬による低血圧や低血糖など)にも注意する.
皮下植込み型心臓モニタ(insertable cardiac monitor: ICM)は,原因不明の再発性失神患者において,長期間のリズムモニタリングを行うことを可能とした.技術が進歩し,機器の小型化・植込みの容易化・リズム診断の精度向上・電池の長寿命化・遠隔モニタリングが実現している.ICMで記録される心電図は,設定した条件での自動的検出,または患者が記録したイベント時のものである.ICMの適応については,2015年欧州心臓病学会(ESC)の『心室性不整脈患者と心臓突然死予防に関するガイドライン』では,「失神などの症状が散発的で不整脈との関連が疑われるものの,従来の診断法では症状と不整脈の関連が確立できないもの」に推奨されていた.2016年ESCの『心房細動の管理に関するガイドライン』では,「脳卒中患者における無症候性心房細動診断」にも推奨されるようになり,さらにエビデンスが蓄積して,2018年ECSの『失神の管理と治療に関するガイドライン』では,「突然死の低リスクだが(植込み型除細動器の一次予防適応にあてはまらない)原因不明の再発性失神を示す,心筋症や遺伝性不整脈」,「てんかんが疑われるが治療が効果的でないもの」,「反射性失神が疑われるが頻度が多いか重度のエピソードを示すもの」,「原因不明の転倒」,などにも推奨されるようになった2).
日本で現在使用可能なICMをTable 1,Fig. 1に示す2, 3).デバイスの大きさ・電池寿命・心電図波形・遠隔モニタリングの方法は各社で異なる.ICMの植込み抜去手技は比較的容易であり,局所麻酔による外来手術も可能だが,われわれの施設では数日の入院期間をとり,遠隔モニタリングの指導なども併せて行っている.
メーカー | Medtronic(米国) | Abbott(米国) | Biotronik(ドイツ) |
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商品名 | Reveal LINQ | CONFIRM Rx | BioMonitor III |
サイズ(mm)長さ×幅×厚さ | 45×7×4 | 49×9.4×3.1 | 88×15×6.5 |
電池寿命(年) | 3 | 2 | 4 |
遠隔モニタリングの方法 | ベッドサイドの送信機 | ベッドサイドの送信機 | ベッドサイドの送信機 |
個人のスマートフォン | |||
記録する心電波形 | V波 | V波 | A波とV波 |
撮像可能なMRI (T) | 1.5, 3.0 | 1.5 | 1.5, 3.0 |
心電図ストレージ量(分) | 60 | 60 | 60 |
薬事承認 | 平成26年3月 | 平成30年3月 | 令和1年9月 |
近年は,より非侵襲的なウェアラブルデバイスの開発が盛んである.米国不整脈学会は,2020年の業界向け電子機器見本市であるCESで,主宰するConsumer Technology Associationとの共同ポジションペーパーを発表した.ここではウェアラブルデバイスの使用によって疾病の早期診断や管理向上に多くの良い結果が得られており,このトレンドを原則的に支持することを明確にしている4).本邦でもApple Watchで取得したデータを使用した「家庭用心電プログラム」「家庭用心拍プログラム」を,2020年9月に医薬品医療機器総合機構が異例のスピードで医療機器承認し,2021年1月から心電図測定アプリが使用可能となったことは記憶に新しい5).現時点でApple Watchは,常時モニタリングではなく患者起動で取得された心電図を解析し,洞調律または心房細動に分類してユーザーに通知すること,取得した心電図情報をスマートフォンに転送して他者に送信することを可能としている6).
心疾患以外では,てんかん患者を主な対象として,心拍数・皮膚伝導反応・体温・身体加速度・異常筋収縮などの情報からてんかん発作を検知する,各種のウェアラブルデバイスが,欧米を中心に使用可能となってきている7).今後デジタルヘルスの分野がさらに進歩し,多様なウェアラブルデバイスが使用可能となれば,不整脈患者やてんかん患者の診療の質が向上するだけでなく,失神患者においても低侵襲な早期診断が可能となるであろう.
注記:本稿は,次の論文のEditorial Commentである. 乃木田正俊,ほか:心原性失神とてんかんの鑑別に植込み型心電図モニタが有用であった1女児例.日小児循環器会誌2021; 37: 312–317
1) 乃木田正俊,福永英生,池野 充,ほか:心原性失神とてんかんの鑑別に植込み型心電図モニタが有用であった1女児例.日小児循環器会誌2021; 37: 312–317
2) Sakhi R, Theuns DAMJ, Szili-Torok T, et al: Insertable cardiac monitors: Current indications and devices. Expert Rev Med Devices 2019; 16: 45–55
3) Sohns C, Khalaph M, Bergau L, et al: Smart and simple: Current role of implantables and wearables in daily practice. Herzschrittmacherther Elektrophysiol 2020; 31: 265–272
4) Marrouche NF, Rhew D, Akoum N, et al: Guidance for Wearable Health Solutions. Congress Contribution: CES, Las Vegas 2020
5) 厚生労働省:「家庭用心電計プログラム」及び「家庭用心拍数モニタプログラム」の適正使用について.https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2021/01/academyinfo20210129.pdf
6) 木村雄弘:医師として知っておくべきApple Watchと心房細動.日本医事新報2022; 5095: 28–35
7) 宮島美穂:てんかん臨床の窓から—ウェアラブルてんかんモニタリングシステム—.Epilepsy 2020; 14(1): 40–42
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