後進へ伝えたいことMessage to Next Generation
兵庫県立こども病院心臓血管外科Department of Cardiovascular Surgery, Kobe Children’s Hospital ◇ Hyogo, Japan
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独立した術者としての経歴は2000年に現富山大学第一外科に赴任した,43歳の時から始まります.それまではFontan手術,TOFは必ず部長の指導の下に執刀しており,動脈スイッチや総肺静脈還流異常などの新生児開心術,房室中隔欠損,僧帽弁形成,さらにNorwood, Aspleniaの開心姑息術などは,初めての経験でした.この時に考えたことをいくつかまとめました.
過去に第1,第2助手として見てきた方法を,できるだけ真似て,まず,術前に手術のイメージを再現する.比較的,容易に再現できれば,初めての手術でもほぼ自信をもってできます.逆に,容易にイメージが描けない場合は,文献やビデオを参考にし,また,他施設の経験豊富な先生方からアドバイスを頂きました.
a. DKS吻合 DKS吻合は当初,上行大動脈をドアオープンにして,肺動脈断端と吻合する方法が行われていました.大動脈が前方の症例に対するDKSの第1助手をしていた時,大動脈の後方を切開するイメージが描けませんでした.この際,両血管を離断すれば,視野も良く,前後での側々吻合の後,大動脈遠位端を後方に吻合,前方にパッチを補填することを思いつき,術者に提言,採用されました.これは,新しい方法だと喜び勇んで文献を調べると,既に報告済みでした.この術式は,その後,どのタイプにも応用できる,最も一般的な術式となりました.とても悔しい思いをしましたが,勉強不足と反省し,以後,症例報告やHow toを熱心に読むようにしました.助手の時代に,術者の立場を想定して手術を俯瞰してみると色々なアイデアが浮かんできます.
b. Slide PA plasty1), PA translocation2) 分岐角度が比較的急な左PAのパッチ形成は,屈曲した形態になることが多く,悩ましいものでした.右のBTシャント後に左開胸でPA形成する機会があり,弓部形成と同じイメージで,slide plastyを行いました.正中アプローチでも応用し,その後,補填物を用いない形成として,PA本幹を用いたPA形成(PA translocation)へと進みました.EAAも当初,側開胸での報告であり,似通った視野で行ったことが既存術式の応用につながったと思います.
c. 大動脈弁弁尖延長 メルボルン時代に学んだ,大動脈の弁尖延長は,2001年頃,まだ国内では誰も導入していませんでしたが比較的模倣しやすく,数例に行いました.ただ,成績は思うほど芳しくなく,2尖弁3)や1弁のみの形成例でしか,10年以上の再手術回避がありません.Rossまでの姑息術だと教えられましたが,安易に模倣しても,理論的な裏打ちがないと良好な成績は挙げられないことを再認識しました.
d. Sutureless法 TAPVRを後方アプローチで修復する方法は,毎回,心房切開が難しく,縫合軸が合っていないためか,術後PVOを経験し,何とかやさしい方法はないかと模索していました.そのなかで,肺静脈切開部を周囲の心膜に縫合すれば,多少,心房切開の軸がずれても,心膜に縫合すれば,縫合部の捻じれが回避できるのではと想像していました.しかし,縫合が二重となり,心膜と縫合した肺静脈吻合の肉芽形成がないとは言えず,実行に移すことはありませんでした.そんな折,Toronto groupからprimary sutureless法が報告され,剥離に注意すれば,心膜と肺静脈吻合は不要であることを知りました.論文とは異なり,肺静脈の分枝には切り込まず,従来の切開で,周囲の心膜には数針で固定しただけでしたが,1,600 gのAspleniaの症例に応用しました4).自分の描いていた方法が,他施設の報告で,より簡略化できることを知り,最初の導入はかなり,自信をもって臨めました.また,その後,肺静脈切開部と心膜を縫合する術式は,部分肺静脈還流異常例で報告され,当院でも肺静脈が左胸腔内を走行する例に応用しました.肺静脈切開部と心膜の縫合も肉芽形成に至らないことが確認され,さらに応用範囲が広がりました.
e. Modified single patch メルボルンでこの術式を知り,帰国前にG. Nunn先生を訪問,LVOTOの心配がないことを聞き,2001年に富山で初めて導入しました.最初,A型の浅いVSDに行いましたが,腱索を外してパッチを挿入する煩雑さがなく,とても容易でした.術後の心エコーでも,ほぼ正常の形態に近く,これは普及する術式と確信しました.しかし,深いVSDに対するLVOTOの懸念は残り,過去の2パッチ症例を含めて,適応を明らかにするため,scoop indexを指標として,今も症例数を増して,妥当性を検討しています.
パッチ補填による弓部形成Norwood手術を始めたときは,R. Mee先生の下行大動脈と肺動脈基部を各々切り込み,側々吻合する,異物を用いない形成方法で縮窄の予防を行っていました.ところが,両側PA banding後の例で,いつも通り側々吻合しようとすると,新生児と異なり,吻合部にとても緊張がかかり,これは無理だと判断,やむなくグルタールアルデヒド処理した自己心膜を補填しました.術後のCTでも形態は良く,その後は新生児,乳児を問わず,全例に応用しました5).術前から計画した術式ではありませんが,DKS吻合の基部側の2連孔に加え,パッチで連結した下行大動脈を含めた3連孔に,弓部とPAの余剰壁のflapを被覆することをイメージすると,とても縫合しやすくなりました.困った時は,不安や焦りから「とりあえず何かしなければ」とアレコレ手を加えてしまい,余計に物事が複雑になってしまいがちです.少し時間をおいて,遠目から眺めたりしてみると,意外な解決策が見つかるものです.
術後の気管支軟化が危惧されるIAAやCoAの一部に多用している,肺動脈パッチによる弓部再建も,Norwoodでの経験から,導入には抵抗はありませんでした6).また,上行大動脈が2 mm以下の低形成例では,なるべく基部のsinusまで切り込むようにしていましたが,冠動脈損傷を経験したため,スタッフのアイデアで,肺動脈基部に対面する切り込みは浅めにして,その対側をsinusまで切開,自己心膜パッチを補填しました.最近,ボストンでも同様の術式で成績が向上したとの報告を知り,問題点は何処でも同じで,しかも似通った発想で解決を図るものだと,改めて認識しました.スタッフ全員が術式や治療戦略を評価,常に問題点を改善しようと意識することで,素晴らしいアイデアが生まれるものです.
私が知っているチームリーダー達は,研修医で第2助手,第1助手の時代から,治療戦略,手術方法,手技など,術者と同じ立場で考え,イメージトレーニングを繰り返しています.必然的に優れた助手にもなり,研究活動,学会発表,論文執筆でアピールすれば,自ずと術者の機会が与えられます.周囲との連携,コミュニケーションが取れることも必須です.
最後に 温故知新,他流を知る 手術のアイデアは,既存の文献や他施設,他科の手術に多くのヒントがあります.
1) Oshima Y, Doi Y, Shimazu C, et al: Left pulmonary arterioplasty: Extended end-to-end anastomosis. Ann Thorac Surg 2005; 79: 1795–1796
2) Yoshida M, Oshima Y, Shimazu C, et al: Main pulmonary artery translocation for left pulmonary stenosis. J Thorac Cardiovasc Surg 2007; 133: 1100–1101
3) Oshima Y, Koto K, Shimazu C, et al: Cusp extension technique for bicuspid aortic valve in turner-like stigmata. Asian Cardiovasc Thorac Ann 2004; 12: 266–269
4) Oshima Y, Yoshida M, Maruo A, et al: Modified primary sutureless repair of total anomalous pulmonary venous connection in heterotaxy. Ann Thorac Surg 2009; 88: 1348–1350
5) Hasegawa T, Oshima Y, Maruo A, et al: Aortic arch geometry after the Norwood procedure: The value of arch angle augmentation. J Thorac Cardiovasc Surg 2015; 150: 358–366
6) Hasegawa S, Matsushima S, Matsuhisa H et al: Selective lesser curvature augmentation with geometric study for repair of aortic arch obstruction. Ann Thorac Surg 2021; 112: 1523–1531
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