米国での小児心臓外科育成システムPediatric CV Surgeon Training System in the United States
東京女子医科大学 心臓血管外科Department of Cardiovascular Surgery, Tokyo Women’s Medical University ◇ Tokyo, Japan
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米国での小児心臓血管外科医の育成制度は,ABTS(American Board of Thoracic Surgery)やACGME(Accreditation Council for Graduate Medical Education)で定められています1).
育成方法としては各国と同様で,小児心臓血管外科希望者は諸施設のトレーニングプログラムを見学,口コミなどで判断し希望するプログラムに応募.施設(プログラム)側が応募者を選定,採用者をレジデント/フェローとして雇用,各施設で各々の方法でトレーニングを行い,外科医を育てると言う方法です.ABTSやACGMEはプログラムの認定,監査などを行い,トレーニングの質の担保に努めます.また専門医(board certification)試験を行い認定することにより,外科医の質を担保するようにしています.制度設計は日本と少し異なっており,まず米国では医学部が4年制の大学を卒業した後に入学するGraduate school(大学院:4年制)となっています.また,専門医も外科専門医,胸部外科専門医,小児心臓血管外科専門医と3階建ての構造になっています.各専門医を取得するためのトレーニングプログラムがレジデンシープログラム(習慣的に小児心臓血管外科だけはフェローシッププログラムと呼ばれています)となり,小児心臓血管外科医になるためには,一般外科プログラム→胸部外科プログラム→小児心臓血管外科プログラムと修練を積んでいくことになります.プログラム期間が各専門医取得に必要な修練期間に合わせてあり,プログラム期間が終了したら専門医試験の合否は関係なしにプログラム卒業です.またキャリアアップのために,プログラムの間にラボに入って研究をする人もいます.
米国の特徴としては,レジデント側は一生懸命修練することが求められており,模試による評価やプログラムごとの評価があり,レジデントが人格的/手技的に不適と思われた場合は研修中止や専門医試験受験資格を与えないことも(まれですが)あります.プログラム側もレジデントを一人前に育成する義務があり,体系的な講義を行ったり,専門医試験に必要な手術件数を割り振ったり,就業時間を管理したりする必要があり,これらを満たさないとプログラム自体が閉鎖されることもあります.またプログラム/指導医側もレジデントにより評価され(指導医の昇進などに利用されます),フィードバックがかかります.またプログラムによっては定められたレジデント/フェロー人数以上に人手が欲しい場合もあり(正規レジデントの勤務時間はACGMEにより80時間/週までと決められています:80時間ルール),その場合は専門医を取る必要が無いフェロー(いわば非正規トレーニング)を追加雇用することになります.必然的に追加フェローには米国外からの人間やレジデンシー卒業後に雇用先が見つからない人が多いです.また米国での小児心臓血管外科専門医制度が開始から10年程しか経っていないこともあり,専門医の取得は推奨されてはいるものの必須ではありません.よって今のところは専門医がなくてもスタッフ外科医(attending surgeon)に採用された方も少なくありませんが,今後は動向が変わってくるかもしれません.
各々の専門医の取得条件を見てみると,胸部外科専門医の場合は一般外科専門医を取得していること(トレーニング期間は一般的には5年),最低2年間の胸部外科トレーニングを認定プログラムで受けていること(最近は一般外科と胸部外科を6年間で統合したプログラムもあります),下記に示す手術経験があること,さらに筆記および口頭試験にプログラム卒業から7年以内に合格することとなっています.
小児心臓血管外科専門医の場合は一般外科専門医,胸部外科専門医を取得していること,最低1年間の小児心臓血管外科トレーニングを認定プログラムで受けていること,下記に示す手術経験があること,さらに筆記および口頭試験に合格することとなっています2).
以上のように自分の属する施設の指導医から実地に手技指導を受けるという点は世界共通だと思われますが,米国の制度設計は日本と異なり入り口が狭く(専門医試験を受けるのに必須のトレーニング人数の定員が決まっている),トレーニングも短期間に濃く行い(講義や評価項目などが決められている,必須症例数が日本より多く複雑心奇形も含まれている,トレーニング期間も決められている),専門医試験が3段階あり難易度も高い,卒業後は自力で就職口を探す,などが特徴です.もちろん小児心臓血管外科という特殊性から,最初の就職口は自分が過去にトレーニングを受けた施設だったり,知り合いから紹介してもらったりすることが多いですし,就職後も最初のうちは(期間は施設によって異なるでしょうが)上級外科医と一緒に手術をすることが多いです.しかし基本的には就職してスタッフ外科医(attending surgeon)となったら一人前として認められ,自分の患者は次世代のレジデントと一緒に自分で治療するのが基本となります.すぐにベテラン外科医と比べられる厳しい世界になりますが,これらは日本と米国の社会構造や一般常識の違いと思ってもよいと思います.
海外留学は生活面での苦労が多いですが,若手の先生方が自分の世界を広げるための助けになると個人的には思います2, 3).
1) American Board of Thoracic Surgery, Congenital Cardiac Surgery Subspecialtyホームページ.https://www.abts.org/ABTS/Congenital/CHS_Home_Page.aspx
2) 廣瀬 仁:米国での研修はメリットかデメリットか?—心臓外科フェローシップの経験から—.日血外会誌2011; 20: 829–834
3) 新川武史:一人前になるために.京府医大誌2011; 120: 605–611
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