小児期・青年期の慢性心不全緩和ケアの現状と課題Status and Issues of Pediatric Palliative Care for Patients with Chronic Heart Failure in Our Hospital
大阪母子医療センター小児循環器科Department of Pediatric Cardiology, Osaka Women’s and Children’s Hospital ◇ Osaka, Japan
大阪母子医療センター小児循環器科Department of Pediatric Cardiology, Osaka Women’s and Children’s Hospital ◇ Osaka, Japan
背景:先天性心疾患は,成人期に心不全で死亡する患者が増加している.慢性心不全の緩和ケアが重要視されてきているが,若年での心不全緩和ケアの報告は少ない.
方法:2000年から2020年に当院で死亡した10歳以上の小児心疾患患者のうち心不全死の7症例を対象とした.心不全死の頻度,患者の背景,終末期症状,各薬物使用状況,人工呼吸器の使用,多職種カンファレンス,本人告知,心理士介入について後方視的に検討した.
結果:心不全での死亡時年齢は中央値15歳(10~24歳).多職種カンファレンスは2例(29%),本人告知は1例であった.鎮静薬は5例(71%)で使用されていたが,経口挿管患者以外のオピオイド使用は0%であった.呼吸困難はほぼ全例で認めた.
結論:心不全のコントロールだけでなく,疼痛や精神的な症状に対する緩和ケアを行うために,多職種連携を行った緩和医療体制の確立が必要である.
Background: With the improved outcomes of congenital heart diseases, the number of patients dying from heart failure in adulthood is increasing. Palliative care for chronic heart failure is becoming increasingly important, but only few studies have reported on pediatric palliative care for patients with heart failure.
Methods: Pediatric cardiac patients aged >10 years who died between 2000 and 2020 were included. The characteristics of the patients who died from heart failure, including their clinical symptoms, medications, ventilators, multi-professional conferences, informed consent, psychologist intervention, and chest compressions, were studied retrospectively.
Results: Seven patients died from heart failure, which was the most common cause of death. The median age at the time of death from heart failure was 15 years (range, 10–24 years). Multi-professional palliative conferences were held for two cases (29%), and informed consent was provided for one case. Sedation drugs were used in five patients (71%), but opioids were not used in any of the cases except for the orally intubated patients. Dyspnea was present in almost all the patients.
Conclusion: Palliative care for patients with pediatric heart failure is still developing, and a multi-professional palliative care team and system must be established.
Key words: palliative care; pediatric; heart failure; end of life; congenital
© 2021 特定非営利活動法人日本小児循環器学会© 2021 Japanese Society of Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery
緩和ケア(palliative care)は,World Health Organization(WHO)で提唱された「生命を脅かす疾患に対して,痛みやその他の身体的・心理社会的・スピリチュアルな問題を早期に抽出・評価し,苦痛を予防し和らげることで,患者とその家族のQuality Of Life(QOL)を向上させるアプローチ方法」である1).緩和ケアは多職種チームによってなされ,死別後の家族の精神的苦痛もケアの対象とすることを特徴とする.本邦の緩和ケアは2006年にがん対策基本法が定められたことにより,がん患者を中心に発展してきた2).しかし近年,慢性心不全による死亡患者数が増加し続けており,慢性心不全患者への緩和ケアの重要性が再認識されている3).先天性心疾患患者においても,年々成人到達例が増加しており4),2015年にドイツから発表された全国データベースでは5),成人先天性心疾患における死亡原因は2009年以前まではSudden Cardiac Deathが最多であったが,2009年以降は心不全死が最も多い死因となっている.心不全緩和ケアの体制として2010年に日本循環器学会から「循環器疾患における末期医療に関する提言」が上梓され6),保険診療においても2018年4月から慢性心不全患者に関しても緩和ケア診療加算が算定可能となった.しかし,小児心不全に対する緩和ケアについては,明確なガイドラインや指針はなく本邦からの報告も認めない.今回は,当院における思春期・成人期に心不全で死亡した患者の緩和ケアの現状と今後の課題について検討した.
2000年1月から2020年12月までの21年間,大阪母子医療センターでフォローアップされており,10歳を超えて死亡した21症例(Fig. 1)のうち慢性心不全で死亡した7症例を対象とした.心不全が死亡原因であった患者の死亡時期,死亡年齢,診断名,性別,染色体/遺伝子疾患の有無,最終手術,New York Heart Association Functional Classification(NYHA)分類,死亡場所,1年間の入院回数,最終入院期間,心不全末期での臨床症状,鎮静薬/オピオイドの使用,カテコラミンの使用,利尿剤の使用,多職種(医師と看護師以外の職種)で実施された緩和医療カンファレンスの有無,本人への終末期である病状の告知有無(informed consent),心理士介入の有無,胸骨圧迫の有無,人工呼吸器の使用有無について,診療録を用いて後方視的に検討した.本研究は大阪母子医療センター倫理委員会の承認を得ている(倫理委員会承認番号:1414).
心不全で死亡した対象となる7例(女性2人)の患者概要をTable 1に示す.死亡時の年齢は中央値15歳(10~24歳)であった.心疾患は,心筋症が2例,単心室症例が3例,二心室症例が2例であった.染色体/遺伝子疾患が確認された症例は3例認めた.NYHA分類はIVが最も多く,5例(71%)であった.NYHA分類がIIIであったCase 2は大動脈弁狭窄による虚血性心不全死であり,経過が比較的急激であった.死亡場所は集中治療室が1例(14%),循環器病棟が6例(86%)であった.年間の入院回数は中央値2回(1~7回),最終入院期間の中央値は36日(11~114日)であった.コントロール困難であった病状末期時の臨床症状をFig. 2に示す.多呼吸は7例(100%)に伴い,NYHA分類がIVの症例では,全例で起坐呼吸を認めた.浮腫は6例(86%),倦怠感は7例(100%)で認めた.疼痛は5例(71%)であり,前胸部や背部痛などがありロキソプロフェンで対応を行っていた.食欲不振は6例(86%),掻痒感は3例(43%)であった.不眠は5例(71%)であった.心不全患者の薬物治療と多職種の関わりの内訳をTable 2に示す.心不全そのものに対する治療として人工呼吸器を装着した症例は3例(43%)で,うち1例は気管切開が既に施行されていた.薬物治療は,鎮痛/鎮静薬の使用を行った症例は5例(71%)であった.鎮静薬については,midazolam(ミダゾラム®),triclofos sodium(トリクロリールシロップ®),hydroxyzine pamoate(アタラックス-P注射液®)が使用されていた.オピオイドの使用症例は経口挿管管理を行った2例(29%)のみでfentanylが使用されていた.morphineの使用症例は認めなかった.オピオイドの使用について議論をされた症例は1例存在した.薬剤投与については,カテコラミン使用6例(86%),利尿剤使用7例(100%)で実施されており,抗アレルギー以外の睡眠薬投与は1例(14%)のみであった.カテコラミンは虚血性心不全で死亡した大動脈弁狭窄の1症例を除き全例で使用されていた.緩和医療カンファレンスを行った症例は,2例(29%)あり,実施時期は各々死亡する10日前,12日前で心不全終末期のタイミングであった.2016年以降で,医師・看護師以外の職種での緩和カンファレンスが開かれていた.本人への病状告知については24歳の1例(14%)のみ実施された.本人へ病状説明が行われなかった理由としては,低年齢であるためや,ご両親の意向や意識障害があることがあげられていたが,診療録に記載されていない症例もあり定かではなかった.心理士介入は2例(29%),胸骨圧迫は2例(29%)で実施された.胸骨圧迫を行った理由については2例ともご両親の希望であった.1例は虚血性心不全で死亡した大動脈弁狭窄の症例で,比較的急峻な経過をたどった症例であった.もう1例はご両親の強い意向があり,胸骨圧迫が複数回実施されていた.
No | Year of death | Age (year) | Diagnosis | Genetic disorder | Operation | NYHA | Location of death | Number of hospitalization (/year) | Length of last hospitalization(days) |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1 | 2001 | 21 | ToF/MAPCA | — | — | IV | C-ward | 1 | 47 |
2 | 2004 | 16 | DCM | — | — | IV | C-ward | 3 | 36 |
3 | 2007 | 12 | DORV | 22q11.2 deletion | PAB, BDG | III | PICU | 2 | 114 |
4 | 2007 | 10 | DCM | Becker dystrophy | — | IV | C-ward | 2 | 40 |
5 | 2016 | 24 | DORV, MS, PA | — | BDG | IV | C-ward | 7 | 36 |
6 | 2018 | 10 | vAS | Myhre syndrome | — | III | C-ward | 1 | 11 |
7 | 2019 | 15 | Left iso, SRV | — | BDG EC-TCPC | IV | C-ward | 2 | 35 |
BDG, bidirectional Glenn; C-ward, cardiac-ward; DCM, dilated cardiomyopathy; DORV, double outlet right ventricle; EC-TCPC, extracardiac total cavopulmonary connection; Left iso, left isomerism; MAPCA, major aortopulmonary collateral arteries; MS, mitral valve stenosis; PA, pulmonary atresia; PAB, pulmonary artery banding; PICU, pediatric intensive care unit; SRV, single right ventricle; ToF, tetralogy of Fallot; vAS, aortic valve stenosis. |
No | Multi occupational discussion | IC | Clin Psychol | CPR | Respirator | Drug | |||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
Sedation | Opioid | CA | Diuretics | ||||||
1 | − | − | − | − | − | + | − | + | + |
2 | − | − | − | − | − | − | − | + | + |
3 | − | − | − | + | + | + | + | + | + |
4 | − | − | − | − | + | + | + | + | + |
5 | + | + | + | − | − | + | − | + | + |
6 | − | − | − | + | − | − | − | − | + |
7 | + | − | + | − | + | + | − | + | + |
2/7 (29%) | 1/7 (14%) | 2/7 (29%) | 2/7 (29%) | 3/7 (43%) | 5/7 (71%) | 2/7 (29%) | 6/7 (86%) | 7/7 (100%) | |
CA, catecholamine; Clin Psychol, clinical psychologist; CPR, cardio pulmonary resuscitation; IC, informed consent. |
今回の結果では,当院での先天性心疾患における10歳以上での心不全症例に対しては,利尿剤やカテコラミン投与など心不全コントロールにつながる薬剤投与はほぼ全例で実施されていたが,身体的緩和ケアとして非経口挿管患者で持続鎮静・鎮痛を行った症例は1/5例(20%)と少なく,心不全に対する緩和ケアの多職種カンファレンスを行ったものも2例(29%)と少なかった.特に,本人への病状告知を行った症例は1例(14%)と少ない結果であった.心不全緩和ケアの特徴と実施時期,心不全緩和ケアチーム,心不全緩和ケアの評価方法,小児患者への病状告知の問題点,ACPについて以下に考察する.
慢性心不全はがんと異なり,比較的ゆるやかに身体機能が低下する一方で,急速に病態が変化することがあるため,予後予測が難しい.予後予測の困難が,慢性心不全の緩和ケアの導入時期や治療の中断や差し控えの時期決定が難しい原因となっている7).慢性心不全の緩和医療はがん緩和医療と異なり,治療が最後まで継続されることで苦痛の緩和にもつながるため,一般的には最後まで治療が継続される7).心不全患者の呼吸困難や苦痛を取り除くためには,オピオイドの使用が有用である8).2018年に本邦から出された成人慢性心不全緩和ケアの報告9)では,慢性心不全の終末期では苦痛緩和のため87%の患者にモルヒネの投与が実施されていた.小児の緩和ケアについてはがんや神経疾患の患者が対象とされることが多く,心不全の緩和ケアはあまり実施されていない現状がある10).今回の検討においても,非挿管患者のオピオイドの使用は0件であった.オピオイドの使用について議論をされた症例は1例存在したが,心不全終末期にオピオイドを使用することは一般的でないという認識と,呼吸抑制や血圧低下のデメリットを考え使用は行われていなかった.Leeらの報告では11),小児心疾患で死亡した患者(n=136)において,緩和ケアについての議論は死亡するまでに54%の患者しか行われておらず,議論の開始時期も死亡1週間以内に初めて行われていたものが57%であった.また終末期の鎮静薬についても56%の使用に留まっていた.これらの原因としては,小児循環器に携わる医療スタッフが緩和医療への移行に慣れていないこと,また積極的治療を最後まで希望されるご両親の意向が背景にあることが影響していると述べている.自施設においても,心不全のコントロールにつながるものはできていたが,精神的な症状に対する緩和ケアやオピオイドの使用,本人の告知状況などが不十分であった.心不全緩和ケアチームの体制を作り,身体的苦痛の評価と緩和を積極的に行っていくとともに,緩和ケア治療が必要な心不全症例を抽出し議論していくことが重要である.
慢性心不全緩和ケアの導入時期については,以前は心不全の増悪・緩解を繰り返す循環器末期状態(end-stage)からの開始が推奨されていた6).しかし2017年に日本循環器学会から上梓された「急性・慢性心不全診療ガイドライン」では,緩和ケアは心不全が症候性となった段階(心不全ステージ分類C)から開始し,より早期に導入すべきと推奨している.緩和ケア(palliative care)と終末期ケア(terminal care)は同義ではないことも明記された12, 13).また慢性心不全患者の緩和ケアを行う場合は,診療加算が可能となった.心不全に対して適切な治療が実施されているにもかかわらず,頻回又は持続的に点滴薬物療法を必要とする状態や,年2回以上の急変時の心不全入院が必要である場合,医学的に終末期だと判断される場合が加算対象となっている.しかし実際は,診療加算を根拠に緩和ケアを始めるのではなく,ガイドラインなどを参考に本人の心不全症状が出現しているタイミングで,適切な心不全治療が実施されているかを振り返るとともに,適切な緩和ケアが実施されているかも同時に議論すべきであると考える.
緩和ケアは,身体的苦痛,精神的苦痛,スピリチュアルペイン,社会的苦痛を早期に評価し,QOLを改善するアプローチ方法であるが,多職種の視点で議論が行われる必要があり,医師,看護師,薬剤師,臨床心理士,理学療法士,管理栄養士,医療ソーシャルワーカー,臨床工学技士などの緩和ケアチームで構成される.日本ホスピス緩和ケア協会が,厚生労働省の基準を満たした緩和チームが存在する施設を公表しているが,2020年11月の時点では4施設の子ども病院で認定されている14).諸外国では小児慢性心不全の緩和ケアについては,循環器内科医が院内の緩和ケア専門医にコンサルトを行い実施されているようである15).当院では血液腫瘍科と精神科を主体とした独自の緩和ケアチームが存在するが,心不全患者に対して緩和ケアカンファレンスは定例化して行っていなかった.慢性心不全の緩和チームでは,①循環器を専門とし緩和ケアに造詣が深い医師,②緩和ケアを専門とする医師,③精神科を専門とし緩和ケアに造詣が深い医師の3人が揃っていることが理想的とされるが,少なくとも緩和ケア専門医へ相談できる環境調整が大切となる16).当院においては,2021年からは小児循環器科医が,既に設立されている院内緩和チームに参加し連携をとることで,心不全患者に対しても緩和カンファレンスが必要な症例を抽出し,多職種緩和カンファレンスを定例化し行っている.死別後の家族ケアについても,現在は有志での病棟看護師が独自に手紙連絡や電話連絡を行っていたが,実施状況については記載がなく把握ができていなかった.死別後の家族ケアも系統立てて実施するとともに,当院医療スタッフを対象に院内での心不全緩和ケア勉強会を行っていく予定である.
緩和ケアを評価する代表的ツールとして,STAS(Support Team Assessment Schedule)やIPOS(Integrated Palliative care Outcome Scale)などがある.STASは,1986年にイギリスで開発された,患者・家族への緩和ケアの成果を評価するツールであり,STAS-Japanとして日本語版が存在する.主要ケアスタッフが,身体症状や患者の精神状況,ご家族の不安や病識などを9項目で評価し,チームケアが機能的に活動できているかを確認するツールである.IPOSはSTASと異なり,評価者が医療者だけでなく患者自身による自己評価も可能であり,慢性心不全の患者評価にも有用である17, 18).STASやIPOSは全世界で用いられており,評価をスコアリングすることで,緩和ケアの基本的なアセスメント教育にもなり,緩和ケアを振り返ることでより質の高いケアへ繋がるとされる19, 20).STASやIPOSは特定の疾患をターゲットにしない緩和ケアの包括的尺度であるが,慢性心不全患者に用いるために開発された質問表も存在する.Minnesota Living with Heart Failure Questionnaire21),Quality of Life in Severe Heart Failure Questionnaire22)などが慢性心不全患者に対する代表的な質問ツールであり,心肺運動負荷試験により運動生理学的指標との関連をみることで妥当性を評価している.しかしこれらは項目数が多く包括的尺度と併用する場合には回答する患者の負担が大きいことが問題となる23).小児心不全の緩和ケアを実施する上で,QOLのスコアリング評価を取り入れたほうがよりよい判断が可能になると思われるが,どの評価尺度を用いるかは議論の余地がある.
文部科学省・厚生労働省が制定した「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」では,未成年者であっても,中学校等の課程を修了している又は16歳以上の未成年者で十分な判断能力を有すると判断される場合は,代諾者ではなく当該研究対象者からInformed consentを得ることが求められている24).一方ACPは,年齢や病期にかかわらず,患者の価値観や人生の目標,医療に関する希望を理解し,患者・家族と医療従事者が共有できるよう自発的に話し合うプロセスを指す25).小児におけるACPの問題点として,自分で意思決定できない幼少時は代理意思決定者である両親との話し合いが中心となることである.ご家族が非現実的な期待をもっている場合や医療者が十分なACPのトレーニングを受けていないことなども障壁になりえるとされる26).思春期年齢の場合においても,重症である予後を思春期に告知することが,本人の生きる希望を失ってしまうことに繋がるのではないかという医療者側の不安もあり,本人への病状告知やACPが実施されにくいという現状がある27).米国の国立がんセンターにおいて28),思春期から若年成人(16~28歳)のがん患者を対象にACPを希望するかどうかアンケート調査を行った報告があり,結果,96%の患者がACPを希望していた.一方,思春期がんに対するACPは,内科医と比べて小児科医のACP実施率は低いとされており,小児科医はACPに慣れていないことが要因とされている29).ACPを実施することで,患者本人だけでなく,重大な選択を迫られたご両親のストレス,不安,抑うつも軽減されるほか,医療従事者の道徳的苦痛も軽減することが知られており,より患者本人とご家族の視点に立った緩和ケアや終末期ケアを提供することが可能となるため,適正なタイミングで行われたACPは非常に有用である30, 31).Els Troostら32)は,先天性心疾患患者に対してのACPは16歳から始めることを推奨している.今回の検討では,保護者と本人への病状告知について議論したものは2例(29%)であり,これは既知の報告と比べて同程度に少なかった11).また検討時期については各々死亡する14日以内と終末期に近い状態であった.本人への病状説明を検討したが実施されなかった1例については,年齢が15歳であることもあり,ご家族の希望もあり実施しなかった.本人に実際に病状説明を行った症例は24歳の1例のみであり,ご家族に確認した後に本人へ病状説明を行った.持続鎮静についてはご両親の抵抗感があり,希望されなかったため実施されていなかった.本人への病状説明後に本人から持続鎮静の希望があり,midazolamの持続投与を開始した.本人の苦痛軽減につながったが,少なくとも終末期よりも早期でのACPが重要と考えられた.本人へ死が近いことを伝える説明やACPの適正なタイミングについては一定の見解はないが,患者本人が16歳以上となり十分な判断能力を有していると考えられる場合,もしくは慢性心不全が進行していると判断した時点では少なくとも,終末期に入る前に本人への説明内容をどうするかACP実施タイミングについてどうするかを多職種チームで議論を行っておくべきだと考える.ご両親に説明を行い意向確認し,ご両親に対してのケアを行うことも非常に重要であるが,実際に苦しんでいるのは患者本人であることも忘れず,患者自身の希望も十分くみ取れるようにアプローチを行う必要がある.
本研究は単施設でのカルテ記載を用いた後方視的研究であり,カルテ記載以外の症状や病状告知についての情報が十分に描出できていない可能性がある.今後は,病状と緩和ケアの進行状況をテンプレートでカルテ記載を行い情報漏れがないように緩和ケア記録を行う予定である.
当院での小児心不全の緩和ケアは,心不全のコントロールにつながる治療はできていたが,疼痛や精神的な症状に対する緩和ケアや,オピオイドの使用,本人の告知状況やACPは不十分であった.今後は身体的苦痛の評価と緩和を積極的に行い,心不全緩和ケアチームの体制を作り,緩和ケア治療が必要な症例を抽出し議論していくことが重要と考える.
全ての著者は日本小児循環器学会の定める利益相反に関する開示事項はない.
森雅啓は筆頭著者として論文を執筆した.青木寿明は論文執筆における直接的な指導を行った.藤埼拓也,橋本和久,松尾久実代,浅田大,石井陽一郎,高橋邦彦,萱谷太は論文の重要な知的内容に関わる批判的校閲に関与した.
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