傍膜様部心室中隔欠損症の生後1か月時点での標準12誘導心電図による予後予測
富山県立中央病院小児科
目的:perimembranous VSD症例の生後1か月時点における標準12誘導心電図による予後予測の有用性を明らかにすること.
対象と方法:生後1か月時点で標準12誘導心電図が施行され,1歳時に経過観察を受けたperimembranous VSD 44例を対象として,自然閉鎖群(C群)14例,未閉鎖群(U群)17例,手術群(O群)13例の3群に分類し,心電図所見を比較検討した.また,O群対非O群(C群+ U群),C群対非C群(O群+ U群)により手術および自然閉鎖の予測因子も検討した.
結果:結果は(C群vs. U群vs. O群,p値)と記載する.3群の比較ではO群でV1の陽性T波(0% vs. 11.8% vs. 84.6%,p<0.001)が有意に多く,V5のR波が有意に高かった(1.81 (0.72–2.88) mV vs. 2.07 (0.90–3.77) mV vs. 2.34 (1.55–3.85) mV, p=0.027).O群と非O群の比較ではV1の陽性T波が有意に多く(84.6% vs. 6.5%,p<0.001),V1のR波は有意に高かった(1.64 (0.60–4.73) mV vs. 1.21 (0.29–2.62) mV, p=0.015).一方,非C群とC群の比較ではV1の陽性T波が有意に少なく(0% vs. 43.3%,p=0.003),V5のR波(1.81 (0.72–2.88) mV vs. 2.13 (0.90–3.85) mV, p=0.025)とS波(0.61 (0.35–1.55) mV vs. 0.99 (0.26–2.98) mV, p=0.036)は有意に低かった.
結論:perimembranous VSD症例の生後1か月時点における標準12誘導心電図は予後予測に有用であることが示唆された.
Key words: ventricular septal defect; 12 lead electrocardiogram; infant
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心室中隔欠損症で最も頻度の高い傍膜様部欠損(perimembranous ventricular septal defect:以下pmVSD)は23%が乳児期に自然閉鎖し,一方で12%が心不全症状をきたし手術を要する1).自然閉鎖や手術に関連する因子は,欠損孔の大きさ,部位,年齢,肺血管抵抗とされている.手術を要する症例では短絡血流により左房・左室拡大,肺高血圧を認め,それに伴い心電図所見も変化するが生後早期の心電図所見とその予後の関連を検討した報告はない.
pmVSD症例における1歳時の手術介入,自然閉鎖の有無などの予後を予想することにおいて,1か月時の標準12誘導心電図所見が有用であるか明らかにする.
2009年7月から2018年7月に当院で生後1か月に標準12誘導心電図が施行され,1歳時に転帰を確認したpmVSDを対象とした.肺高血圧をきたしうる21trisomyなどの染色体異常の症例は除外した.対象は44例であり,自然閉鎖群(以下C群)14例,未閉鎖群(以下U群)17例,手術群(以下O群)13例の3群に分類し心電図所見を後方視的に解析した.患者背景として,男女比,出生体重,在胎週数,心電図施行日齢を比較した.また心電図所見に関しては左室肥大,右室肥大の評価のため生後1か月時点での標準12誘導心電図からII誘導のP波幅(ms),V5の中隔Q波(mV),QRS軸(°),V1のR波(mV),V5のR波(mV),V5のS波(mV),V6のR波(mV),V6のS波(mV)を計測し,V1のT波の陽性もしくは陰性も比較検討した.それぞれ3群間で比較したのち,手術予測因子の検討のためO群対非O群(C群+U群)で,自然閉鎖予測因子の検討のためC群対非C群(O群+U群)で心電図所見を比較検討した.
統計解析には統計ソフトIBM SPSS Statisticsを用いた.数値は中央値および範囲で示した.3群間での比較ではTukey-Kramer法の多重比較を行い,2群間の比較ではMann–WhitneyのU検定を行った.頻度の比較ではPearsonのχ2検定を行った.p値0.05で有意とした.
今回の研究は富山県立中央病院の倫理委員会の審査承認を得て行った.
Table 1にC群,U群,O群の3群での患者背景の比較結果を示した.3群の比較した結果を(C群vs. U群vs. O群,p値)で記載する.男女比,出生体重,在胎週数,心電図施行日齢に有意差は認めなかった.手術群での手術月齢の中央値は4(2–11)であった(Table 1).Table 2に3群での心電図所見の比較を示す.心電図所見の比較では,V5のR波高(1.81(0.72–2.88)mV vs. 2.07(0.90–3.77)mV vs. 2.34(1.55–3.85)mV,p=0.027)とV1の陽性T波(0% vs. 11.8% vs. 84.6%,p<0.001)で有意差を認めたが,IIのP波幅,V5の中隔Q波,V1のR波高,V6のR波高は3群間で有意差を認めなかった(Table 2).QRS軸も3群間では統計学的な有意差を認めていないが,−180–0°の症例に自然閉鎖例はなく−90–0°の5症例のうち4症例が手術群であった(Fig. 1).
C | U | O | p value | |
---|---|---|---|---|
N | 14 | 17 | 13 | — |
Male | 6 (42.9%) | 4 (23.5%) | 8 (61.5%) | 0.109 |
Birth weight (g) | 3016 (2565–3665) | 3087 (2250–3832) | 2795 (1590–3648) | 0.100 |
Gestational age (week) | 39.1 (37.6–41.2) | 39.3 (37.5–41.0) | 39.1 (36.3–41.2) | 0.370 |
Age of ECG (day) | 33.5 (28–39) | 30 (20–35) | 34 (23–45) | 0.056 |
Age of operation (month) | — | — | 4 (2–11) | — |
C: naturally closed group, U: unclosed group, O: operation group |
C | U | O | p value | |
---|---|---|---|---|
P wave in II (ms) | 65 (54–75) | 65 (41–101) | 61 (52–93) | 0.977 |
Q wave in V5 (mV) | 0.119 (0–0.708) | 0.213 (0–0.543) | 0.250 (0.111–0.527) | 0.316 |
QRS axis (°) | 70.5 (23–154) | 85 (−165–173) | 73 (−96–129) | 0.352 |
R wave in V1 (mV) | 1.14 (0.74–2.58) | 1.23 (0.29–2.62) | 1.64 (0.60–4.73) | 0.055 |
R wave in V5 (mV) | 1.81 (0.72–2.88) | 2.07 (0.90–3.77) | 2.34 (1.55–3.85) | 0.027 |
S wave in V5 (mV) | 0.61 (0.35–1.55) | 0.98 (0.38–1.97) | 1.06 (0.26–2.98) | 0.114 |
R wave in V6 (mV) | 1.21 (0.46–2.44) | 1.34 (0.57–2.35) | 1.45 (0.67–2.72) | 0.427 |
S wave in V6 (mV) | 0.25 (0.11–0.60) | 0.53 (0–1.64) | 0.29 (0–2.08) | 0.234 |
Positive T wave in V1 | 0 (0%) | 2 (11.8%) | 11 (84.6%) | <0.001 |
C: naturally closed group, U: unclosed group, O: operation group |
Although there was no significant difference in the QRS axis between the 3 groups, there was no naturally closure case between −180° to 0°, and 4 out of 5 cases between −90° to 0° were in operative group.
Table 3に次に手術予測因子同定のため,O群と非O群で比較した結果を示す.O群で有意にV1の陽性T波(84.6% vs. 6.5%,p<0.001)の頻度が高く,V1のR波が有意に高値であった(1.64(0.60–4.73)mV vs. 1.21(0.29–2.62)mV,p=0.015)がV5のR波高に有意差を認めなかった(2.34(1.55–3.85)mV vs. 1.84(0.72–3.77)mV,p=0.052)(Table 3).次にTable 4に自然閉鎖予測因子同定のため,C群と非C群で比較した結果を示す.C群でV5のR波(1.81(0.72–2.88)mV vs. 2.13(0.90–3.85)mV,p=0.025)とV5のS波(0.61(0.35–1.55)mV vs. 0.99(0.26–2.98)mV,p=0.036)が有意に低値であり,V1の陽性T波の頻度も有意に低かった(0% vs. 43.3%,p=0.003)(Table 4).
O | C + U | p value | |
---|---|---|---|
P wave in II (ms) | 61 (52–93) | 65 (41–101) | 0.883 |
Q wave in V5 (mV) | 0.25 (0.111–0.527) | 0.20 (0–0.708) | 0.102 |
QRS axis (°) | 73 (−96–129) | 82 (−165–173) | 0.354 |
R wave in V1 (mV) | 1.64 (0.60–4.73) | 1.21 (0.29–2.62) | 0.015 |
R wave in V5 (mV) | 2.34 (1.55–3.85) | 1.84 (0.72–3.77) | 0.052 |
S wave in V5 (mV) | 1.06 (0.26–2.98) | 0.81 (0.35–1.97) | 0.286 |
R wave in V6 (mV) | 1.45 (0.67–2.72) | 1.31 (0.46–2.44) | 0.433 |
S wave in V6 (mV) | 0.29 (0–2.08) | 0.34 (0–1.64) | 0.316 |
Positive T wave in V1 | 11 (84.6%) | 2 (6.5%) | <0.001 |
O: operation group, C: naturally closed group, U: unclosed group |
C | U + O | p value | |
---|---|---|---|
P wave in II (ms) | 65 (54–75) | 65 (41–101) | 0.927 |
Q wave in V5 (mV) | 0.119 (0–0.708) | 0.235 (0–0.543) | 0.106 |
QRS axis (°) | 70.5 (23–154) | 84.5 (−165–173) | 0.830 |
R wave in V1 (mV) | 1.14 (0.74–2.58) | 1.47 (0.29–4.73) | 0.208 |
R wave in V5 (mV) | 1.81 (0.72–2.88) | 2.13 (0.90–3.85) | 0.025 |
S wave in V5 (mV) | 0.61 (0.35–1.55) | 0.99 (0.26–2.98) | 0.036 |
R wave in V6 (mV) | 1.21 (0.46–2.44) | 1.36 (0.57–2.72) | 0.162 |
S wave in V6 (mV) | 0.25 (0.11–0.60) | 0.45 (0–2.08) | 0.186 |
Positive T wave in V1 | 0 (0%) | 13 (43.3%) | 0.003 |
C: naturally closed group, U: unclosed group, O: operation group |
pmVSDの症例における生後1か月の時点で施行した標準12誘導心電図と1歳の時点での予後との関連を解析した今回の検討では,O群でV1のR波が有意に高く,V1の陽性T波が有意に多かった.一方でC群ではV5のR波とS波が有意に低く,V1の陽性T波が有意に少なかった.生後1か月時点での標準12誘導心電図は1歳時点での予後予測に有用であることが示唆された.
正常新生児において右室優位の循環動態が出生後より徐々に左室優位に変化していくことに伴う心電図変化にも考慮する必要がある.正常新生児は生後早期に生理的に右室肥大を呈しているため,QRS軸は生後1–4週では97–131°であるのに対し生後4–12週では78–87°になると報告2, 3)
されており,今回の検討においては3群間でQRS軸に有意差はなくいずれも正常新生児の報告と同等であった.生後早期は右軸偏位や左軸偏位の定義は困難であるため今回の検討では軸偏位の分類での比較検討は行ってはいないが,C群では左軸偏位傾向の症例は認めなかったことに対し,U群とO群では左軸偏位傾向の症例を認めたことから,左軸偏位傾向が予後に影響する可能性が示唆された.VSDでは6–10%で左軸偏位を呈すると報告されている4, 5).その原因として心内膜症型VSDであること6)や左室肥大をきたしていること4)などが報告されており,これらの要因により左軸偏位傾向の症例では自然閉鎖しなかった可能性が考えられた.
V1のR波高は3群の比較でO群がC群とU群よりも有意に高かったことから,手術適応症例では肺高血圧が持続している状態であることが推測された.一方でO群でもV1のR波高が自然閉鎖群と同等の症例も含まれている.中等大の欠損孔を有するVSDでは短絡血流が軽度制限されていることから出生後に右室圧が低下する.そのような症例では生後1か月時点でV1のR波高が正常となっているが,欠損孔が閉鎖傾向とならなければ徐々に左心系の容量負荷をきたし手術適応となりうるため,中等大の欠損孔を有するVSD症例も含まれていたことが考えられる.
V1の陽性T波を認めた13例中11例(84.6%)がO群であり,V1の陽性T波も手術予測因子であることが示唆された.V1のT波は,出生直後は陽性であるが生後48時間以内に陰性となる.V5, V6のT波は出生後まもなくから陽性であり,幼児期以降左側のV4から順に陽転化する.正常児における胸部誘導のT波の陽性率を調べた検討ではV1のT波の陽性率は3–5歳で1–2%と報告されている7)
.小児期におけるV1のT波の陽転化は肺高血圧による右室肥大を示す所見であり,それを認めるVSD症例は欠損孔が大きく肺血管抵抗の低下に伴い高肺血流となりうることを考慮すべきである.
VSDにおける自然閉鎖については,muscular typeやperimembranous typeで自然閉鎖しやすいこと,perimembranous typeでは欠損孔が小さい症例やventricular septal aneurysmを有する症例で自然閉鎖しやすいことが報告されている8)
.今回の生後1か月時点での心電図所見における検討ではC群で有意にV5のR波とS波が低かった.V1の陽性T波はO群で有意に多かった一方でC群では1例も認めなかったため,V1の陽性T波は生後1年までの自然閉鎖を否定する所見でもあると考えられた.V5のS波に関して本邦で報告されている正常値9)と比較すると,本研究では非C群は大きいがC群では正常値と同等の結果であった.また,V5のR波高に関しても同様に本邦からの報告9)と比較すると,非C群のみではなくC群でも大きい結果であった.これらから自然閉鎖する症例でも少なからず左室肥大を呈している可能性が示唆された.非C群でもV5のR波,S波が正常範囲内の症例を認めるが,前述のように中等大の欠損孔の症例では経過とともに出現する両心負荷所見を生後1か月時点では検出できない可能性が考えられた.
今回の検討の限界として,標準12誘導心電図は胸腔内における心臓の偏位などにより容易に所見の変化が起こりうるため,特異度は高い一方で感度は十分に高いとはいえない検査であることがあげられる.また,後方視的検討であることがあげられるが,恣意的な解析を避けるため心電図所見の計測は予後をマスクした状態で行った.対象が少数であることもあげられ,予後予測因子の同定には対象人数を増やした研究が必要と思われた.
pmVSDにおいて,生後1か月時点における標準12誘導心電図検査は生後1歳時点での予後予測に有用であることが示唆された.
すべての著者は,本研究に関連し開示すべき利益相反はない.
中川亮:研究の着想と企画,プロトコール作成,実施,データ集計,統計学的解析,データ解釈,論文原稿作成,知的内容の考察
藤田修平:データ内容の確認,知的内容における批評的な推敲
佐藤啓:データ内容の確認,知的内容における批評的な推敲
畑崎喜芳:出版原稿の最終承認
1) Mehta AV, Chidambaram B: Ventricular septal defect in the first year of life. Am J Cardiol 1992; 70: 364–366
2) Rijnbeek PR, Witsenburg M, Schrama E, et al: New normal limits for the paediatric electrocardiogram. Eur Heart J 2001; 22: 702–711
3) Uygur O, Aydogdu A: Normal electrocardiogram values of healthy children. Turk Pediatri Ars 2019; 54: 93–104
4) Backman H: Influence of structural and functional features of ventricular septal defect on frontal plane QRS axis of the electrocardiogram. Br Heart J 1972; 34: 274–283
5) Shaw NJ, Godman MJ, Hayes A, et al: Superior QRS axis in ventricular septal defect. Br Heart J 1989; 62: 281–283
6) Henry NN, Jack LT, James WD, et al: Isolated ventricular septal defect of the persistent common atrioventricular canal type. Circulation 1961; 23: 685–696
7) 大国真彦:小児心電図の正常値.医学書院,1985, p106
8) 八木宏子,藤田修平,谷内裕輔:新生児・乳児期早期に診断された心室中隔欠損の心臓超音波検査を用いた予後予測.小児科臨床2016; 69: 1369–1375
9) 大国真彦:小児心電図の判読.心臓1970; 2: 11–16
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