小児心臓外科医のトレーニングThe Road to Pediatric Cardiovascular Surgeon
京都府立医科大学小児医療センター 小児心臓血管外科Department of Pediatric Cardiovascular Surgery, Children’s Research Hospital, Kyoto Prefectural University of Medicine ◇ Kyoto, Japan
京都府立医科大学小児医療センター 小児心臓血管外科Department of Pediatric Cardiovascular Surgery, Children’s Research Hospital, Kyoto Prefectural University of Medicine ◇ Kyoto, Japan
© 2021 特定非営利活動法人日本小児循環器学会© 2021 Japanese Society of Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery
小児心臓外科は,外科の中でも修練に時間を要し,求められるものが非常に多い領域です.臨床修練とともに学問的なバックボーンは必須であり,学会参加,発表,論文執筆などによる学問的修練は前提として非常に重要です.
先天性心疾患の外科治療では,流体力学的に最良の血流動態を示すように病的心を全く別の形態に創り変えねばなりません.単なる二次元ではなく三次元の作業になります.そのため他の外科領域に比べて術者の技術力,立体構築力が問われることになります.どのように切開し,吻合するかという手術計画に際して,現在では3D-CT,心臓モデルなど多くの情報が得られるようになってきました.近い将来にはバーチャル技術によって術者が考えなくてもAIで手術方針(切開線や縫合線の指示など)が示されるようになるかもしれません.しかし,どのような補助手段が発達したとしても,それ利用した手術を実践できる技術力を備えておくことは必要であると考えます.
アナログ的にはなりますが,私が若手の頃に行ってきたトレーニングを紹介します.刺繍用の木枠に布を張って,その木枠を色々な角度で固定をして縫合の練習を行いました(図1).この布には図2に示すようなグリッドを描いて,刺入点(図2, a–a′線上のIN点)から刺出点(図2, b–b′線上のOUT点)に縫います.図2では,①②は順手,③④は逆手による縫合になります.まず,正確にIN点からOUT点に縫えるようにして,次に時間を決めてスピードを上げて,かつ正確に縫うようにしました.縫合針は必ず面に対して垂直に刺入することを心がけました.これを色々な角度で練習をすることにより,実際の心臓を縫合する際に,どの面ではどの縫い方(順手なのか逆手なのか)を瞬時に判断できるようになります.
また図3に示すように円上の刺入点(図3左,外円上のIN点)から中心点に向かって刺出点(図3左,内円上のOUT点)に縫う練習を行いました.AからBの範囲は逆手になり,それ以外の範囲は順手での縫合が可能です.この練習はVSD閉鎖,弁置換での縫合練習になります.さらに,円周上に刺入点(図3右,IN点)から刺出点(図3右,OUT点)を縫う練習はタバコ縫合の基本的な練習となります.これもどの範囲で順手,逆手を使い分けるかを体得するのに有用であると思います.Konno手術を開発された今野草二先生は持針器を使って実際に刺繍を行う練習をされていたようです1).
このような基本手技の練習を行いながら,さらに心臓モデルを作って縫合練習を行いました.心臓標本を参考にして,粘土で心臓モデルを作成してシミュレーションを行いました(図4).現在は,CT情報を用いて心臓手術シミュレーションモデル(クロスメディカル社https://www.xcardio.com/standard/surgery/)を作成しましたので,それを利用して練習が可能です.実際の手術経験(執刀数)も経験として重要ですが,執刀前にどれぐらいトレーニングができており,質の高い手術を行えるかということがより重要です.
小児心臓外科領域では今野先生のKonno手術,二階堂先生のNikaidoh手術,川島先生のKawashima手術など日本人が開発した素晴らしい手術があります.これら先人が切り開かれた手術法や各施設の上級外科医の手術などをまず手本として取り入れていただきたいと思います.はじめは模倣で良いと思いますが,それに囚われず先人の業績を尊重しつつも新しいものを開発する,さらに上を目指すという気概を持ってもらいたいと思います.
1) 今野草二:心臓外科の手術教育.胸部外科1972; 25: 294–295
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