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特定非営利活動法人日本小児循環器学会 Japanese Society of Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery
Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery 37(2): 144-150 (2021)
doi:10.9794/jspccs.37.144

症例報告Case Report

複数の突然死を有するカテコラミン誘発多形性心室頻拍の一家系A Large Family Report of Catecholaminergic Polymorphic Ventricular Tachycardia with Sudden Cardiac Death

1船橋市立医療センター小児科Department of Pediatrics, Funabashi Municipal Medical Center ◇ Chiba, Japan

2君津中央病院小児科Department of Pediatrics, Kimitsu Chuo Hospital ◇ Chiba, Japan

3国立循環器病研究センター不整脈科・臨床検査部Department of Cardiovascular Medicine, National Cerebral and Cardiovascular Center ◇ Osaka, Japan

受付日:2020年7月2日Received: July 2, 2020
受理日:2021年3月7日Accepted: March 7, 2021
発行日:2021年8月1日Published: August 1, 2021
HTMLPDFEPUB3

カテコラミン誘発多形性心室頻拍(CPVT)は,若年期に失神,心停止を起こす致死性遺伝性不整脈の一つであり,10年生存率が60%程度と予後の悪い疾患である.患者の50~60%に心筋リアノジン受容体遺伝子(RYR2)変異が認められるが,多くが弧発例で国内の家族内発症は非常に少ない.今回,34歳女性を発端者とする,若年での複数の家族内突然死歴のあるCPVTの一家系を報告する.遺伝子検査を施行し,発端者とその妹2人,息子,姪にRYR2の新規の病的バリアント(F4087L)を認めた.発端者とその妹らはβ遮断薬やフレカイニドの内服と植込み型除細動器(ICD)を植込み,ICDにより心室細動は停止している.また,β遮断薬にフレカイニド内服を追加し,不整脈を抑制できている児もいる.早期の診断により,患者のみならず幼児を含む無症状患者にも,突然死の一次予防としての治療や医療介入が可能と考える.

Catecholaminergic polymorphic ventricular tachycardia (CPVT), one of the inherited fatal arrhythmic syndromes, is usually diagnosed as bi-directional ventricular tachycardia during exercise. CPVT often causes faintness and/or cardiac arrest in younger adults resulting in a poor prognosis, with 60% ten-year survival. Although 50–60% of CPVT is caused by the mutation in the cardiac ryanodine receptor gene (RYR2), most are sporadic and familial cases are rare. Here we report familial CPVT cases of a 34-year-old woman (proband) and her two sisters. All of them had been implanted with a cardioverter defibrillator (ICD) due to syncope or resuscitated after ventricular fibrillation (VF). Additionally, five of her family members died in their thirties. The genetic study identified a novel pathogenic variant, F4087L, in the RYR2 gene in the proband, her sisters, and proband’s son and niece. Even after ICD implantation, defibrillator shocks were needed to cope with VF in the proband and her sisters. However, additional pharmacological therapies such as beta-blockers, flecainide, and Ca channel blockers could suppress the recurrence of syncope or VF in all patients. These findings suggest that early clinical and genetic diagnosis for CPVT may provide appropriate pharmacological and non-pharmacological therapies to patients and their asymptomatic family members, including infants, for primary prevention of sudden death.

Key words: catecholaminergic polymorphic ventricular tachycardia; ryanodine receptor gene; implantable cardioverter defibrillator; familial; Flecainide

はじめに

カテコラミン誘発多形性心室頻拍(Catecholaminergic Polymorphic Ventricular Tachycardia: CPVT)は,失神,心停止を起こす致死性遺伝性不整脈の一つである.安静時心電図では異常を認めず,運動や情動の変化,カテコラミンの投与により多形性心室期外収縮(Polymorphic Premature Ventricular Contraction: PVC),二方向性あるいは多形性の心室頻拍(Ventricular Tachycardia: VT)が誘発され,心室細動(Ventricular Fibrillation: VF)に移行する.CPVTは誘発される不整脈により診断されるが,発端者もしくはその家族にCPVTに関連する遺伝子変異を認める場合も診断される1).よって遺伝子診断は,不確定な症例では確定診断につながる重要な検査となる.

本症例では,複数の若年突然死を認める濃厚な家族歴があり,また発端者と生存している家族には臨床所見(失神,VT/VF)に一致して新たな心筋リアノジン受容体遺伝子(RYR2)異常が同定された.これほどの大規模な家族内集簇のCPVTの国内報告はこれまでない.本報告では,発端者とその兄弟姉妹,息子や無症状の姪の診断にまで至った経緯と,今回新たに同定されたRYR2の遺伝子変異や今後の治療的介入について,若干の考察を加えて報告する.

症例

患者(発端者:症例III-2)は34歳女性.16歳の時,体育のランニング中に失神し救急搬送された.Holter心電図で多形性/二方向性VTを認め(Fig. 1A),運動負荷試験で多形性PVCを呈し,循環器内科でCPVTと診断された.運動は禁止し,アテノロール内服を開始した.第1子妊娠中の20歳時に植込み型除細動器(Implantable Cardioverter Defibrillator: ICD)植込み術を施行した.ICD植込み後暫くはVTの出現もなく経過していたが,産後数か月してVTやVFの出現があり,育児負担が増えるにつれ不整脈の出現頻度は増し,過去10年間でVT/VFに対し抗頻拍ペーシング(Antitachycardia Pacing: ATP)8回,除細動2回が施行されたが,約2年前にVTに対するATPが行われて以後ICDの作動はない.

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Fig. 1 The Holter ECG (Upper: CC5, Lower: NASA, 10 mm/mV, 25 mm/s)

(A) Proband (Case III-2): before initiating the administration of antiarrhythmic drugs. Asymptomatic polymorphic ventricular tachycardia and bi-directional ventricular tachycardia were recorded. (B) Proband’s son (Case IV-1): about 1hour after forgetting to take β-blocker. Asymptomatic polymorphic ventricular tachycardia and bi-directional ventricular tachycardia were recorded.

家族歴

同胞5人のうち,長弟は12歳,末弟は13歳で突然死している(Fig. 2).また母親(症例II-2)は35歳の時にゴミ捨て時に,母方祖母(症例I-2)は30歳の時に入浴中に,母方叔母(症例II-3)は詳細不明だが30歳代の時に突然死している.

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Fig. 2 The pedigree of the proband’s family

Filled symbols represent affected (syncope, ventricular tachyarrhythmias) patients; arrow, the proband; open symbols, unaffected or unknown individuals; with an asterisk, individuals who were genetically tested, and with a slash, deceased individuals. +: RYR2-F4087L variant positive, −: variant negative. ICD, implanted with a cardioverter defibrillator.

症例III-4(長妹)

32歳女性.14歳の時,学校でスピーチ中に失神しVFが確認され,除細動器を使用して蘇生した.姉の受診歴から同内科に紹介受診した.トレッドミル運動負荷試験や心臓電気生理学的検査(Electrophysiological Study: EPS)で診断に至った.学校生活管理指導表B禁で管理(運動禁止)された.ICD植込みは拒否し,アテノロール内服で治療していたが,23歳時に通勤中に再度失神し,EPS時にVerapamilで多形性PVCが減少したことからVerapamil内服が追加となった.次弟の死亡もあり,同年ICD植込み術を施行した.その後2年間でICD作動は1回でありVerapamilは中止された.最近は怠薬が多く,以降9年間で7回のVT/VFに対してATPや除細動で治療されている.

症例III-5(長弟)

12歳の時,自転車乗車中に突然死した.学校心臓検診では,QT延長症候群を含む心電図異常の指摘はなかった.病理解剖は未施行である.

症例III-7(末妹)

27歳女性.11歳の時,縄跳び中に失神し発症した.当科での管理となり,運動制限(B禁)や日常生活でのストレスを回避するよう指導し,プロプラノロール内服を開始した.17歳時に次弟の死亡を契機にICD植込み術を施行した.VFに対しICD作動がありVerapamilが追加されたが,その後もVFに対する適切作動を認めたためβ遮断薬をアテノロールに変更した.怠薬が多く,2年間で9回(ATP6回,除細動3回)のICD作動があり(Fig. 3),Verapamilをフレカイニドに変更した.妊娠中はフレカイニドを中止したが,現在アテノロールとフレカイニドで管理し,VTは減少しICD作動は年1回のみとなった.

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Fig. 3 The appropriate shock for ventricular fibrillation (top EGM RVtip to RVring, bottom EGM Can to RVcoil)

Rapid polymorphic ventricular tachycardia deteriorating into ventricular fibrillation, then the shock was appropriate.

症例III-8(末弟)

無症状であったが,トレッドミル運動負荷試験で多形性PVCを認め,CPVTの診断でプロプラノロール内服を開始した.怠薬があり,13歳の時に自宅で睡眠中に突然死した.

症例IV-1(長男)

現在13歳.精神発達遅滞があり特別支援学級に通学中.7歳の時,学校のプールでの準備運動中に失神した.Holter心電図では不整脈の出現はなく,トレッドミル運動負荷試験では最大心拍数187回/分まで心拍の上昇を確認したが,単発のPVC含め不整脈の出現はなかった.確定診断には至らなかったが,家族歴があることからプロプラノロール(1 mg/kg/日 分3)内服を開始した.同時に運動は制限した(特別支援学級で運動強度が強くないことから学校生活管理指導表はD禁だが,走るものや運動会等の競技はその都度確認して行うこととした).治療開始1週間後に施行したトレッドミル運動負荷試験(Bruce法)では不整脈は出現しなかった.投薬開始2年後に施行したHolter心電図で,プロプラノロールを内服し忘れた1時間後の駅での階段昇降時に自覚症状のない多形性VT(Fig. 1B)を認め,内服後に心電図所見が正常化したことが記録された.プロプラノロールは有効と判断したが,β遮断薬投与下でも再発するVTの可能性を考慮し,内服指導を行った上でフレカイニド(3.4 mg/kg/日,97 mg/m2 分2)を追加した.その後の遺伝子検査で母親らと同一の遺伝子変異(後述)を認め,確定診断に至った.以降,失神もなく不整脈は確認されていない.

症例IV-5(姪:長妹の子)

現在5歳.無症状.2歳時に遺伝子検査を行い,母親らと同一の遺伝子変異を認めCPVTと確定診断された.以降,息が弾むほどの運動は禁止し可能な限り興奮させないよう指導した.これまで施行したHolter心電図では,十分な心拍数増加を確認でき,かつ単独のPVCを含め不整脈はなかった.発症年齢の多くは5歳以降で乳幼児例は少なく,リアノジン受容体は乳児期には未発達であること2),また家庭環境から怠薬で定期的な内服が困難と判断し,これまでは無投薬で経過観察されてきた.今後は,PVCの出現ないしは小学校入学前を目処に,β遮断薬とフレカイニド併用による内服を開始予定である.

症例IV-2, 4

失神歴もなく,遺伝子検査を行ったがCPVTに関連する遺伝子変異は認めなかった.

症例IV-3, 6

生後まもなく無症状であり,遺伝子検査は今後行っていく予定である.

遺伝子解析

CPVTの臨床診断が確定している発端者と妹2人(症例III-2, 4, 7)と,失神の既往のある発端者の長男(症例IV-1)を含む子供4人(症例IV-1, 2, 4, 5)の計7人(Fig. 2*)に同意を得て,遺伝子検査を施行した.遺伝子検査は国立循環器病研究センター臨床検査部においてサンガー法で実施し,RYR2解析を行った.

その結果,失神など有症状患者4名(症例III-2, 4, 7, IV-1)と無症状の1名(症例IV-5)においてRYR2に新規の病的バリアント(変異)(exon90 c.12261 C>G p.Phe4087Leu)を認めた(Fig. 4A).

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Fig. 4 Results of RYR2 gene analysis

(A) Sequence analysis of RYR2 mutations from the proband, her sisters, and proband’s son and niece. There is a C→G substitution at nucleotide 12261 in exon 90, converting phenylalanine to leucine at codon 4087. (B) Schema of the RYR2 protein. Clusters with frequent mutations are depicted with their location along RYR2 amino acid sequence. The variant, which is related to CPVT is concentrated in the three places called Hot spot. SR, sarcoplasmic reticulum.

考察

CPVTは1978年Coumelらにより4人の小児例が初めて報告され,1995年Leenhardらにより小児21人の症例が報告された3).多くは40歳以下に発症し,発症年齢は10歳前後にピークをもつ.Sumitomoらは10年生存率を60%程度と報告しており,予後は良いとは言えない4).2001年にRYR2が原因遺伝子として初めて報告され,以降CASQ2, CALM1, TRDNといった遺伝子変異が報告されている5, 6).CPVT患者の約50~60%に遺伝子変異があり,その半数以上をRYR2変異が占める(Table 16)RYR2異常によるCPVTは常染色体顕性遺伝形式をとるが,多くが孤発例であり1),濃厚な突然死の家族歴を有する例は多くない7).若年発症のCPVTで家族発症は6%のみで,94%は孤立発症だった1)と報告されている.

Table 1 Subtypes of catecholaminergic polymorphic ventricular tachycardia
subtypesJuvenile typeAdult type
CPVT 1CPVT 2CPVT 3CPVT 4CPVT 5
Incidence50–60%1%≪1%≪1%≪1%30%
InheritanceADARARADsporadicsporadic
Onset of10 years7 years10 years4 years2, 26 years>20 years(40 years)
Chromosome1q431p13.17p22-p1414q32.116q22.31
geneRYR2CASQ2CALM1TRDRYR2 30%
Sudden death10%42%75%18%25%0%
Modified from Ref. 4.
AD, autosomal dominant; AR, autosomal recessive; RYR2, Ryanodine Receptor 2; CASQ2, Calsequestrin 2; CALM1, Calmodulin 1; TRD, Triadin-1.

CPVTの有病率はおよそ1万人に1人とされているが1),安静時心電図は正常で心臓の構造異常もないことから,未発症患者を検診などの心電図検査で見つけることは難しく,正確な有病率は不明である.したがって運動やストレス時の失神例,PVC多発例などCPVTを疑う場合や家族のスクリーニングには,遺伝子解析がその診断に有用である.

今回解析した遺伝子RYR2は,exonの数が100近くに及ぶ巨大な遺伝子である.そのなかでCPVTに関係するといわれるバリアントはおよそ3つのホットスポットと呼ばれる場所に集中している8).本バリアントによって置換されるPhe4087はそのなかで3つ目のクラスターのほぼ中央に位置し(Fig. 4B),非常に強い機能異常を呈するものと推定される.

本家系においては,未発症の幼児例を除くと,遺伝子変異の浸透率は100%であった.RYR2の病的変異の平均浸透率についての記載は過去にない.PrioriらはCPVTの発端者30人についてRYR2変異を検索し,変異のあった14家系親族についてもRYR2変異の検索を施行した8).発端者以外の親族に変異を認めたのは4家系のみで,残りの10家系については孤発例だった.遺伝子変異を持つ親族の年齢は不明で,若年突然死例で遺伝子検索できなかった症例も含まれており,浸透率についての言及はされていない.本家系においても未発症の幼児例が含まれており,今後発症する可能性は十分にある.変異の有無や部位により予後が異なると考えられ,予後予測が可能となれば,今後のリスク評価につながるだろうと考える.また,VT発症には性差はないとされているが,RYR2変異の保有者は男性に多く,運動誘発性心室性不整脈発症が早く突然死のリスクが高い(相対リスク4.2倍)との指摘がある8).本家系においても男性2人は10歳代で死亡している.CPVTの診断に至った場合は,まず遺伝子解析を行うことが重要であり,RYR2変異が確認された場合は,親族内の特に男性ではより幼少からの介入が必要かもしれない.

治療は,運動制限や精神的ストレス回避などの生活制限に加え,不整脈予防のための薬物治療が推奨される.薬物治療の第一選択はβ遮断薬であるが,十分な効果がない症例に対しては,フレカイニド追加が考慮される1).2009年WatanabeらはCPVTに対するフレカイニドの有用性を報告した9).以後CPVT患者へのフレカイニドに関するエビデンスが多数認められている.Rostonらは,226人のCPVT患者でβ遮断薬内服中にフレカイニドを追加した患者の53%で症状が消失し,またフレカイニド単独でも40%で心室性不整脈の発症が抑えられたと報告した10).van der Werfらは適切な用量のフレカイニドを追加することで,運動誘発性心室性不整脈の発症を減少させ,また不整脈抑制効果は用量依存性であったと報告した11).また,Padfieldらは,RYR2異常のある患者8人にフレカイニド単独療法を行い,平均37.1か月の観察期間中の致死性不整脈の出現を抑制したと報告したように,フレカイニド単独療法についての臨床研究も増えてきている12, 13)

しかし,Kawataらが34例のRYR2異常を有するCPVT患者において,薬物治療開始後平均7.4年の追跡期間で7例(20.6%)に致死性不整脈を認めたことを報告した14)ように,適切な薬物治療を行っても十分な効果が得られない場合もあり,その場合はICD植込みの適応となる.ICDは致死的頻脈性不整脈による心臓突然死を予防し,生命予後を改善するもっとも有効かつ確立された治療法であり,CPVT患者への二次予防として薬物治療と併用したICDが推奨されている15)

一方,CPVT患者のICD植込みに関しては,小児では不適切作動が多いことや,リードと本体の一生涯の植込みや再植込みなどの問題も残されている1).また,除細動による苦痛が交感神経系を興奮させ,むしろ危険な多形性VTの多発状態(Electrical Storm: ES)を惹起し16, 17)死亡に至る危険性があるということや,除細動による心筋障害のデメリットもあり,ICDの頻回作動や不適切作動を避ける必要がある.頻回作動を避けるために,非持続性VTや血行動態に破綻がない持続時間の長いVTに対しては,ショック作動を避けるための工夫が必要である.過去には,β遮断薬内服とICDで治療している患者に適切な除細動を施行したが救命できなかった報告がされている.Pizzaleらの症例はDual-chamber ICD植込み後で,出現した発作性心房細動に対して不適切に作動しESとなり死亡した14).Mohamedらの症例は,RYR2変異のあるCPVT患者のVFに対して除細動を行った結果,ESとなり計6回の除細動を行ったにもかかわらず死亡している18).さらに,CPVT患者へのICDによる除細動はVFに対して有効だが,VTの停止やペーシングとしての有効率は低いとも報告されている17, 19).最近報告されたCPVT患者に対するICDの国際レジストリ(n=136)では,79例のICDを植込んだCPVT患者において平均5年の追跡期間で,ICD適切作動は37例(47%)だが不適切作動は19例(25%)で,さらにデバイス関連の合併症も22例(29%)に認めた.予後については非ICD例(n=57)で突然死は皆無だったのに対しICD例で3例が突然死したことから,CPVT患者に対するICDの是非については慎重に判断すべきとしている19).したがって,CPVTでは必ずしもICDを第一選択とせず,β遮断薬やフレカイニドなどによる薬物管理を十分に行うことが,治療予後において最も重要であるといえる.

本家系においては,発端者とその妹ら(症例III-2,4,7)は薬物治療(β遮断薬と症例III-7はフレカイニド併用)のみではVT/VFの出現を繰り返したためICD植込み術を施行した.ATPや除細動でVT/VFの停止を複数回確認している.CPVT患者へのICD植込みの長期予後に関して明確な記載はないが,本家系ではICD植込み後10~14年経過し,不適切作動はなく経過している.小児患者へのICD植込みについては問題点も多いが,高校生以上になってからの挿入であることが支障なかった理由の一つと考える.CPVT患者へのICD適応については慎重にすべきではあるが,濃厚な突然死家族歴を有する本家系においては,薬物治療と併用したうえで突然死予防(二次予防)に有効であり,ICDの選択は適切であったと考えている.発端者の第1子(症例IV-1)はプロプラノロールとフレカイニドを併用中だが,十分な薬物治療下でも失神や不整脈を認めた場合は,ICD植込みを検討する.また,発端者含む成人3人は,主に労作時にVT/VFが確認されている.除細動によるESの惹起や心筋ダメージの点からもICD作動は可能な限り少ないほうが好ましく,当科で管理している末妹(症例III-7)に関しては,ナドロールなど半減期の長いβ遮断薬への変更や,用量依存性であるフレカイニドの薬用量調整などが検討に値する.

長妹の第2子(症例IV-5:RYR2変異+)は,現在まで無症状で不整脈の出現もなく,定期的にHolter心電図を行い無投薬で経過観察している.小学校入学前を目処に,あるいは心電図に不整脈が出現した場合には速やかに薬物治療を開始予定である.発端者の第1子の経験から,β遮断薬とフレカイニドの併用を選択肢の一つとしている.

結語

我々は濃厚な突然死家族歴を有するCPVT家系において,遺伝子解析を積極的に行い,RYR2に新規の病的変異を同定した.早期の遺伝子診断と,適切な薬物治療(β遮断薬,フレカイニド)によって不整脈の出現を抑えることが可能である.CPVT患者は若年者が多くICDは必ずしも有効ではないとの報告もあるが,本家系のような極めてハイリスク患者に対しては薬物治療下でも不整脈や症状を認めた場合には,ICDの適応も考慮すべきと考えられる.

利益相反

本論文について,開示すべき利益相反(COI)はない.

付記

本論文の要旨は,第53回日本小児循環器学会総会・学術集会(2017年7月,浜松)で報告した.

著者の役割

斉藤裕子は筆頭著者として論文の構想,データ収集,論文執筆を行った.佐藤純一は,論文作成の構想に貢献し,執筆内容の直接的な指導を行った.高田展行は,データ収集を行った.相庭武司は,遺伝子検査解析,執筆内容の構成考察の妥当性を検討し必要な修正を行った.全ての著者が出版原稿の最終承認を行った.

引用文献References

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