Online ISSN: 2187-2988 Print ISSN: 0911-1794
特定非営利活動法人日本小児循環器学会 Japanese Society of Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery
Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery 37(2): 124-125 (2021)
doi:10.9794/jspccs.37.124

Editorial CommentEditorial Comment

平野論文:「先天性消化管閉塞を合併した先天性心疾患の治療方針について」へのEditorial CommentEditorial Comment to Hirano et al. “Clinical Features of Congenital Heart Disease Accompanied by Congenital Intestinal Atresia”

横須賀市立うわまち病院小児医療センター小児科Department of Pediatrics, Children’s Medical Center, Yokosuka General Hospital Uwamachi ◇ Kanagawa, Japan

発行日:2021年8月1日Published: August 1, 2021
HTMLPDFEPUB3

平野論文1)は,先天性消化管閉塞性疾患を合併した先天性心疾患患者の治療経過を後方視的にまとめたものである.

腹壁欠損を含む消化管系の先天異常の15.5%に先天性心疾患が合併しているという報告2)もあり,実際の臨床では様々な場面でこのような症例に遭遇すると思われる.

出生後の栄養維持や腹部の減圧などを考慮して多くの場合,心臓手術に先んじて消化管の修復または姑息術が行われる.2003年に新川ら3)は緊急的な処置を要する心疾患を除いて全て消化管疾患を先行していると報告し,2018年に好沢らはチアノーゼ性心疾患を合併した食道閉鎖7例の全例で心疾患に対する姑息術の前に食道閉鎖に対する外科治療を行っている4).平野論文でも40例中38例が心臓手術の前に消化管の治療を行い,良好な結果を得ている.しかし,循環状態が不安定な心疾患を合併している患児に対し腹部手術を行うことはリスクを伴い,その都度関係診療科間で治療方針を検討することが必要である.そのような際に本論文の知見は非常に有益である.

本論文の有益な点の第一は,消化管疾患ごとに経過をまとめ,各々の注意点を考察している点である.人工肛門が必要な消化管疾患を心疾患に先行させて治療した場合,人工肛門の位置がその後の心臓手術に影響を与えた症例があったと述べている.正中切開による心臓手術が必要な症例の場合は人工肛門や胃瘻の位置を可能な限り尾側に置く方針としている施設もあり3),本論文の筆者の経験もそれを裏付けるものである.この知見は手術方針と方法を決定する際の一助となるであろう.

第2にHirshsprung diseaseの症例もまとめ,致死的な合併症について言及している.出生直後から問題となる消化管閉塞性疾患とは必ずしも言いがたいが,Hirshsprung diseaseに先天性心疾患は5~8%に合併すると言われており,染色体異常を有する例では51%の合併率であると報告がある5).そのため,心疾患を合併したHirshsprung diseaseの管理や治療方針の決定に苦慮することも少なくない.

治療成績は良好であるが,先天性心疾患合併例では非合併例より消化管機能の低下が多いと報告されている6).平野論文でまとめられた症例中,消化管疾患が原因で死亡した4例のうち3例がDown症候群に合併したHirshsprung diseaseの症例であったと述べられ,死因は劇症型腸炎によるものとされている.全症例が非常に激烈かつ短時間の経過で死亡に至っており,注意すべき事象である.筆者は,肺血流増加型の心疾患では腸管血流の低下により劇症型腸炎の悪化を来しやすいとしているが,本論文の死亡例の中でも肺血流増加型ではない症例がある.論文中の参考文献からもDown症候群での死亡率が高く,これに関しての更なる知見の蓄積が必要であろう.

何かの縁か,このEdirtorial Commentの執筆依頼を受けた時を同じくして,VATER連合にファロー四徴を合併した患者さんが私の成人先天性心疾患外来に紹介されてきた.その方は,消化管も心臓も全て修復され結婚・出産を経て今,子育てを頑張っている.小児病院での医師たちの努力がこの方を育て,次の世代につなげる手助けをした.平野論文は,こうした先人たちの努力と工夫と経験がまとめられており,このような子どもたちの更なる予後の改善に寄与するものである.

注記:本稿は,次の論文のEditorial Commentである. 平野恭悠,ほか:先天性消化管閉塞症を合併した先天性心疾患の検討.日小児循環器会誌2021; 37: 117–123

This page was created on 2021-06-25T16:59:06.019+09:00
This page was last modified on 2021-07-29T11:43:47.000+09:00


このサイトは(株)国際文献社によって運用されています。