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特定非営利活動法人日本小児循環器学会 Japanese Society of Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery
Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery 36(1): 90-91 (2020)
doi:10.9794/jspccs.36.90

Editorial CommentEditorial Comment

人工導管狭窄Failing Fontanの新たな引き金Conduit Stenosis: Another Path to the Failing Fontan

国立循環器病研究センター小児循環器内科Department of Pediatric Cardiology, National Cerebral and Cardiovascular Center ◇ Osaka, Japan

発行日:2020年3月1日Published: March 1, 2020
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1971年に初めてFontan1)らが三尖弁閉鎖症に対する右心バイパス術を報告してから,もうすぐ50年になる.以来,医学的知識や技術の向上により,フォンタン術の30年生存率は85%にまで上昇し,今では術後患者は世界中に5~7万人ほど存在していると推測されている2).そんな彼らは今パイオニアとして30年前には予想だにしなかった様々な困難,つまりフォンタン術後合併症に直面している.それは,心臓のみならず,全身のすべての臓器から精神発達にまで及んでいるようであり,この姑息的根治術における詳細な影響,結末にはまだまだわからないことが多い.今回満尾らの報告3)は,我々が今後気をつけなくてはいけない新たな合併症について重要な注意喚起をしている.

人工導管を使用したフォンタン術:total cavopulmonary connection(TCPC)はその汎用性,不整脈や血行動態力学的な観点から,近年最も使われている手法である.このexpanded polytetrafluoroethylene(ePTFE)チューブを用いた人工導管の遠隔期における石灰化狭窄の報告は少ない.Mayo clinicのまとめでは,2002年から2018年の間にカテーテル検査で28人がフォンタン術後13年(中央値)で導管狭窄を認め,大半はDacronチューブやlateral tunnelの狭窄で,7人のみがePTFEチューブを使用されていたと報告している4).そもそも1,000人を超えるフォンタン後の患者がいるうちの233人しかカテーテル検査を受けていないため,導管狭窄の正確な発症率は不明だが,他の報告5)を見てもこの合併症はせいぜい数%と推測される.頻度の低い合併症であるものの,治療介入により改善が期待できるためくれぐれも見逃さないよう気をつけなくてはならない.

導管狭窄はなぜ注意しなくてはならないのか.まずは肝臓うっ滞の問題である.フォンタン循環が成立した瞬間から横隔膜下の臓器は慢性的な静脈うっ滞に晒され,特に肝臓の静脈圧は正常の約3~4倍になる.そのため,フォンタン後の患者の肝臓は多かれ少なかれ肥大,線維化を呈し,経過によっては肝硬変,また肝細胞癌を発症するリスクを伴っている6).肝障害が進行し,悪性化するメカニズムは必ずしも上昇した静脈圧のみにより説明できるわけではないが,悪化因子はできる限り避けたい.また,運動耐容能の低下も大きな問題である.フォンタン循環ではその運動量に見合った心拍出量を保つための前負荷がかかりにくいこともあり,フォンタン後の患者では運動耐容能の低下(一般成人の6割程度)を認める.運動により静脈還流が増加しても,導管狭窄によって血液が前負荷として有効に使われないと,動耐容能が低下することが予想される.他にも腸管や腎臓,静脈血栓などへの影響も考えると,導管狭窄はフォンタン術後患者のADL, QOL,そして生命予後を悪化させる因子となりうる.

しかしながら,日々の臨床において,いわゆるフォンタンルート狭窄の質的,量的評価,さらに治療適応の判断は必ずしも容易ではない.症状はあってもたいてい軽微である.小児と異なり成人の導管狭窄を経胸壁心エコーにて描出するのは難しい.カテーテル検査を行っても静脈系は低圧であるため,圧較差が生じにくいし,造影は血液の淀みで造影剤が薄まっているのか,石灰化病変により薄まっているのか,明確にわからないことが多い.さらに1~3 mmHg程度の圧較差が有意であるかどうかを判断することも難しい.満尾らの症例も1例は房室ブロックや大動脈弁閉鎖不全の合併に加えて,造影CT検査で石灰化狭窄を認めたため手術介入している.2例目は明らかな狭窄と症状があったため治療に至っているが,このような症例の方が稀であろう.日本ではフォンタン患者に対しルーチンで定期的にカテーテル検査を行なっている施設もしばしばあるが,そこで狭窄が疑われた場合は積極的にCTを行うことによって石灰化と狭窄を定性・定量を行い,さらに肝実質の変化や運動耐容能の評価などを合わせて,多角的に治療介入を決めなくてはならない.

狭窄起点の解除法も悩ましい問題である.ACHDにおける再手術は癒着が著明であり,剥離や出血コントロールに難渋することもしばしばある.予防的な手術を行なったところ,昨日まで元気だった人を失ってしまったという経験は誰しもあるのではないだろうか.実際,満尾らの報告3)における手術時間は10時間前後で,さらに入院期間は2週間以上と短くなく,十分に侵襲度の高い治療であると思われる.一方,Mayo clinicからの報告では導管狭窄を認めた28例のうち20例はカテーテル治療(ステント留置術およびバルーン拡張術)が行われ,全例で狭窄は改善し,過半数で症状の改善を認めている4).血栓形成,石灰化の進んだ病変において,その拡張には高耐圧のバルーンが必要になると彼らは述べているが,残念ながら日本にはそのような大口径かつ高耐圧のバルーンが今のところ存在しない.近い将来16 mm以上に拡張可能であるCPステントは導入される予定だが,加えて大口径の高耐圧バルーンも開発されれば,このような患者に予防的治療を行うことに対する意識の敷居を下げることができるだろう.

最後にこの合併症の予防について考えたい.満尾らの症例では狭窄所見があったにもかかわらず抗凝固薬内服を怠ったこともあり,たった2年で狭窄の急激な進行を認めている.フォンタンルート開存に対する抗血小板療法,抗凝固療法の効果を示すエビデンスはなく,今後の症例の蓄積を要する.次に導管の形態やサイズに関しても注意を払う必要がある.導管をカーブさせることにより屈曲が起こり血栓形成を助長させてしまったり,短い導管のために成長に伴い過伸展が起こり,その結果,狭窄につながる可能性もある.最後に,近年日本の多くの施設では,小児期に16 mmの導管が使用されているが,コンピュータシミュレーションでは,成人での最適な導管のサイズは18~20 mmとも言われている7).したがって,将来導管狭窄をきたし,交換を必要とする患者が爆発的に増える可能性を考えておかなくてはいけない.

先天性心疾患の診療に関わるものとしては,今後これまで以上にこの合併症について注意深く経過観察をすべきであり,導管狭窄症例を蓄積していくうえで,リスク因子の解析や治療適応やその効果,方法の評価が行われることが期待される.

まとめ

  1. 1)ePTFEチューブでも遠隔期に石灰化による狭窄が起きうるため,カテーテル検査やCTによる画像検査を定期的に行う必要がある.
  2. 2)狭窄に対し,導管置換術により血行動態や症状の改善が見込めるが,カテーテル治療も欧米では治療の選択肢となっている.
  3. 3)現在多く使われている16 mmの導管の予後についても,今後改めて注意,検討が必要と考えられる.

注記:本稿は,次の論文のEditorial Commentである.満尾博,ほか:心外導管型フォンタン手術後遠隔期に導管狭窄をきたした二例.日小児循環器会誌2020; 36: 84–89

引用文献References

1) Fontan F, Baudet E: Surgical repair of tricuspid atresia. Thorax 1971; 26: 240–248

2) Rychik J, Atz AM, Celermajer DS, et al: American Heart Association Council on Cardiovascular Disease in the Young and Council on Cardiovascular and Stroke Nursing: Evaluation and management of the child and adult with Fontan circulation: A scientific statement from the American Heart Association. Vol.140. Circulation 2019; CIR0000000000000696

3) 満尾博,帯刀英樹,坂本一郎,ほか:心外導管型フォンタン手術後遠隔期に導管狭窄をきたした二例.日小児循環器会誌2020; 36: 84–89

4) Hagler DJ, Miranda WR, Haggerty BJ, et al: Fate of the Fontan connection: Mechanisms of stenosis and management. Congenit Heart Dis 2018; 2019: 571–581

5) Careddu L, Petridis FD, Angeli E, et al: Dacron conduit for extracardiac total cavopulmonary anastomosis: A word of caution. Hear Lung Circ 2018: 1–9. Available from: https://doi.org/

6) Kuwabara M, Niwa K, Toyoda T, et al: Research Committee of the Japanese Society of Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery: Liver cirrhosis and/or hepatocellular carcinoma occurring late after the fontan procedure: A nationwide survey in Japan. Circ J 2018; 82: 1155–1160

7) Itatani K, Miyaji K, Tomoyasu T, et al: Optimal conduit size of the extracardiac Fontan operation based on energy loss and flow stagnation. Ann Thorac Surg 2009; 88: 563–565

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