全冠動脈孔閉鎖を伴う純型肺動脈閉鎖症に対するAo-RV シャントの新たな治療戦略:Ao-RV シャントの有用性を類洞交通血流の変化で評価
1 JCHO中京病院中京こどもハートセンター小児循環器科
2 JCHO中京病院中京こどもハートセンター心臓血管外科
症例は妊娠39週6日,3,052 gで自然経腟分娩にて出生.胎児期に純型肺動脈閉鎖症(PA-IVS)と診断.日齢3に啼泣時の心電図のST変化から右室依存性冠循環(RVDCC)を疑い,心臓カテーテル検査にて,全冠動脈孔閉鎖(ACA)を伴うPA-IVSと診断された.SC血流の経時変化に注視し,パルスドップラー (PW)で評価し,日齢41にBTシャントおよび上行大動脈右心室短絡術(Ao-RVシャント)を施行.出生時のSC血流は収縮期にRV(右室)内から心筋内への順行性血流と,拡張期に心筋内からRV内への逆行性血流波形であったが,術後は収縮期に順行性血流,拡張早期は逆行性血流,新たに拡張末期に順行性血流を認め,2峰性順行性血流となった.加えて,Ao-RVシャントによりSCの酸素飽和度の上昇も冠循環の改善に寄与した.Ao-RVシャントはACAを伴うPA-IVSの新たな治療戦略として有用であった.
Key words: pulmonary atresia with intact ventricular septum; aortocoronary atresia; sinusoidal communication; aorta to right ventricle shunt; transthoracic echocardiography
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純型肺動脈閉鎖症(PA-IVS: pulmonary atresia with intact ventricular septum)は比較的稀な疾患で,全先天性心疾患の約1%を占めている.肺動脈弁は完全に閉鎖した状態(PA: pulmonary atresia)で,約80%は膜様閉鎖,約20%は右室流出路も閉鎖している.さらに,右室からの冠動脈への瘻孔(類洞交通SC: sinusoidal communication)を認めることがあり,発生率は約45%とされている1).SCはしばしば正常の冠動脈の発達を妨げ,約10%に冠動脈の近位部の閉塞を伴い,極まれに左右の冠動脈孔が閉鎖している場合もあり1),本来の冠動脈の閉塞や狭窄により,冠循環が右室の類洞交通からの血流に依存している場合を,右室依存性冠循環(RVDCC: right ventricular-dependent coronary circulation)と定義され,約7.5%に認められる1).そして,この場合は容易に心筋虚血から心機能の低下を招くことがある.今回,我々は心電図(ECG)でのST変化を契機としてRVDCCを疑い,心臓カテーテル検査にて左右の冠動脈孔の閉鎖を認め,全冠動脈孔閉鎖(ACA: aorotocoronary atresia)と診断し,上行大動脈右心室短絡術(Ao-RVシャント)(Fig. 1)を施行して救命することができた1例を経験した2).このAo-RVシャントの新たな治療戦略についてSC血流の変化を中心に報告する.
胎児診断にてPA-IVSと診断.妊娠39週6日に自然経腟分娩にて3,052 gの男児を出生.出生後の経胸壁心エコーにてPA-IVSと診断し,三尖弁輪径は2.3 mm(Z scoar −8.76),肺動脈弁は筋性閉鎖であった.右室は低形成かつmonopartiteで,動脈管開存維持のためにPGE1-CDの静注を開始し,当初より単心室循環の方針として生後1カ月頃でのBlalock–Taussig shunt(BTシャント)の予定とした.日齢3より啼泣時にECG上でST変化を認め経時的に増悪(Fig. 2 A, B),経胸壁心エコーでSCと思われる血流を認め,大動脈基部から冠動脈を描出することが困難でRVDCCを疑い,日齢20に心臓カテーテル検査を施行.左室造影(LVG)にて大動脈(Ao)から冠動脈が造影されないことを確認し,ACAの可能性を考慮して,冠血流への酸素飽和度の上昇を得るために心房中隔裂開術(BAS)を先行した.BAS施行後に大動脈造影(AoG)にてACAを確認(Fig. 3).さらに右室は低形成にて,右室造影(RVG)を用手にて施行しSCを確認した(Fig. 4).また,圧測定では,右室圧(RVp)>左室圧(LVp)とover systemicの所見を認めた(Fig. 5).ACAでは,生後3か月以内での死亡率は100%で心移植の適応3)と報告されており,本症例はBTシャントのみでは救命は不可能と判断した.一方でACAではない,RVDCCの症例でBTシャント術による拡張期血圧の低下や低酸素血症の進行によって生じた心筋虚血に対し,Bidrectional Cavopulmonary Shunt(BCPS)時やTotal Cavopulmonary Connection(TCPC)時にAo-RVシャントを追加することで心筋虚血の改善を得たとのLaksらの報告4, 5)
から本症例は,BTシャント時にAo-RVシャントを同時に施行する方針とした.そこで我々は,SC血流とAo-RVシャント血流の経時変化に注視し,パルスドップラー(PW)にてモニタリングした.出生時からAo-RVシャント術前までのSC血流は収縮期にRV内から心筋内へ向かう順行性血流と,拡張期に心筋内からRV内へ向かう逆行性血流波形を認めた(Fig. 6).手術待機中にECG上で非持続性心室頻拍の出現や僧帽弁逆流(MR)の増悪を認め,日齢41に準緊急で手術① BTシャント(3.5 mm)+Ao-RVシャント(3.0 mm)+動脈管(DA)結紮術を施行.人工心肺からの離脱は容易で,Ao-RVシャント術後のSC血流はシャント前と変わらず収縮期には順行性血流,拡張早期に逆行性血流を認めていたが,拡張末期にも順行性血流を認め,順行性血流が2峰性になり順行性血流が増加した(Fig. 7①A).Ao-RVシャント内の血流は拡張期にAoからRV内に向かう順行性血流と,収縮期にRV内からAoに向かう逆行性血流を認め,血流量は順行性血流が優位となっており,さらに波形はsharpな形をしていた(Fig. 7①B).その後,DA組織遺残による左肺動脈(LPA)の完全閉塞を来したため,日齢77に手術② LPA形成術+三尖弁閉鎖術を施行,さらに日齢127に手術③ BCPSを施行し,日齢148に退院.Ao-RVシャントの閉塞を懸念してINR 2.0を目安にワーファリンコントロールと抗血小板薬の内服を継続していたが,日齢222に頻回嘔吐および顔色不良にて救急外来を受診.心エコーにて著明な心機能の低下およびMRの増悪を認めた.この時のSC血流の拡張末期の順行性血流は完全に消失し,Ao-RVシャントの血流波形はAoからRV内に向かう順行性血流は加速し波形も鈍的な形であった(Fig. 7③A, B).Ao-RVシャント閉塞による心筋虚血と判断し緊急カテーテル検査を施行.AoGにてAo-RVシャントの閉塞を確認し,ウロキナーゼ(1,000 u/kg/dose)のAo-RVシャントへの局所静注による血栓溶解療法にてシャントの開存を得た(Fig. 8).翌日に手術④ Ao-RVシャントのサイズアップ(3 mm→5 mm)を施行,日齢238に退院.Ao-RVシャントのサイズアップに伴い心筋虚血が改善された後の血流波形では,初回のAo-RVシャント術後の血流波形と同様に,SC血流は拡張末期の順行性血流を再度認め,順行性血流が2峰性となった.Ao-RVシャントの血流波形は拡張期に順行性血流,収縮期に逆行性血流を認め,血流量は順行性血流が優位で波形もsharpな形(Fig. 7④A, B)に戻り,ECG上のST変化は消失した(Fig. 2D).TCPC術前のカテーテル検査ではRVの収縮期圧の低下ならびに拡張期圧の上昇を確認し(Fig. 9),日齢709にTCPCおよびAo-RVシャントのサイズアップ(5 mm→8 mm)を施行.現在も元気に生存している.将来的には冠動脈バイバス手術の可能性を検討している.
Right ventriculography arrow: sinusoidal communication RVEDV (right ventricular end diastolic volume): 9% of Normal
We examined SC flow and Ao-RV shunt flow using a probe of 8 MHz with an ultrasonic wave machine of IE33 made by PHILIPS company. We monitored blood flow of SC and Ao-RV shunt by pulse doppler (PW). The blood flow of SC was measured every time in the site where the origin from RV was seen with apical four-chamber view, and the blood flow of Ao-RV shunt was measured every time in the shunt site which arose from aAo in long axis view.
①after Ao-RV shunt operation ②before BCPS operation ③on Ao-RV shunt obstruction ④after Ao-RV shunt size up operation. arrow: antegrade flow at late diastolic phase
Laksらは,Ao-RVシャント術の効果はRVの収縮期圧を体血圧レベルまで減圧し,一方で高くなったRVの拡張期圧で酸素化された血液を冠循環へ供給することと考察している4).その考察を支持する所見として,本症例のSC血流変化に注視した.正常心での冠動脈血流は収縮期,拡張期にかけて順行性の2峰性波形を示し,左冠動脈では収縮期成分が少なく拡張期成分優位の波形を示し,右冠動脈では,収縮期および拡張期にほぼ同等のピークを有する波形を示すことが知られている6).左心室は心筋壁が厚く,収縮期には心筋収縮により心筋内細小動脈や毛細血管が圧迫され,血流が途絶する.拡張期には心筋の弛緩によりこれらの血管に対する圧迫が解除され,急速に血流が再開する.一方,右心室は心筋壁が薄く,収縮期における心筋内細小動脈や毛細血管の圧迫の程度は弱く,さらに大動脈収縮期圧と右室収縮期圧の圧格差は大きく収縮期にも血液が流れやすいとされている7–10)
.本症例では,Ao-RVシャント施行前のSC血流は収縮期にRV内から心筋内へ順行性血流が向かい,拡張期にかけて心筋内からRV内へ逆行性血流が向かっている.これは正常心の冠動脈血流とは異なり冠循環としては非常に不利な状況であったが,それに対しAo-RVシャントはover systemicだったRVの収縮期圧を体血圧まで低下させ,さらにRVの拡張期圧が体血圧の拡張期圧まで上昇したことにより冠循環の拡張期順行性血流を生じさせ,冠血流量を増加させた.Freemanらは,RVの収縮期圧が減圧されることによってSCへの高圧の血流が減圧され,そのことがSC内の血管の拡張や狭窄の進行を抑えることができ心筋虚血を予防することができると報告している5).加えて,Ao-RVシャントによってSCに流れる血液の酸素飽和度の上昇も冠血流量の増加と共に冠循環の改善に寄与したと考えられる.しかし,人工物を使用したAo-RVシャントは,常に血栓閉塞の危険性があり,4 mm以下のサイズはリスクファクターと報告されている11).本症例においてもAo-RVシャントの閉塞を来した.BCPS後のAo-RVシャント閉塞時におけるSCおよびAo-RVシャントのPW所見はSC血流の拡張末期の順行性血流の消失とAo-RVシャント波形の加速と鈍的パターンであった.これは,Ao-RVシャントの閉塞に伴って,RVへの流入血流が減少しRVの拡張期血圧が低下したためにSC血流の拡張末期の順行性血流が消失し,Ao-RVシャントの拡張期順行性血流速度の増加と拡張末期の流速減衰パターンの消退(鈍的パターン)が生じたと考えられる.すでに,BCPS後の退院前にも,SC血流の拡張期血流は減少し,Ao-RVシャントの血流波形もbidrectional(両方向性)で鈍化を呈しており,SC血流の拡張期の順行性血流の減少・消失とAo-RVシャント波形の鈍的パターンは,シャント狭窄や閉塞を示唆する所見であった.Ao-RVシャントは新たな治療戦略ではあるが,シャント閉塞に伴う心筋梗塞での急変と常に背中合わせであり,慎重な経過観察が不可欠になる.その際,この危険性を回避するためにSCとAo-RVシャントの血流についてPWでの評価は非常に有用と考えられた.
PA-IVSのACAの1例を報告した.ACAの3か月以内の死亡率は100%であり,通常であれば移植適応となる疾患であるが,Ao-RVシャントを作成し,冠循環を改善させることで救命することできた.人工物である,Ao-RVシャントは常に血栓塞栓のriskを伴うがSCとAo-RVシャント血流をエコーで追跡することで安全かつ有用な治療戦略であった.
本論文について開示すべき利益相反(COI)はない.
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