冠動静脈瘻管理上の課題Management Algorithm for Coronary Arteriovenous Fistula
北海道大学大学院医学研究院小児科Department of Pediatrics, Faculty of Medicine and Graduate School of Medicine, Hokkaido University ◇ Sapporo, Japan
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冠動静脈瘻は小児ではほとんどが先天性と考えられるが小児の検討は少なく,更に小冠動静脈瘻を扱った検討は少ない.三井らの報告1)は,その小児例に関する情報を与えてくれるものである.今一度冠動静脈瘻の臨床上の問題点を再考してみる.
疫学的側面では著者の報告同様,心エコーベースの研究では0.06%と診断率は低い2).近年ではCTは血管描出能力に優れ,6,000人以上の複数の報告で頻度は0.75~0.9%と高い3–5).しかし血管造影は確定診断には依然非常に有用である.
解剖学的項目では起始は右冠動脈50~60%,左前下行枝25~40%,回旋枝20%,対角枝2%,両側5%.開口部は肺動脈15~40%,右心室15~40%,右心房20~25%程度とされる.心腔への開口は原始心臓における類洞の遺残により冠動脈と心腔の交通が残存することによると考えられるが,肺動脈への開口はHackensellner’s theoryが有力である3).右心系以外では左心房,左心室が2~5%と低頻度である.臨床上要注意は5%と頻度は低いが冠静脈洞に開口するものである.中等度以上の冠動静脈瘻になりやすいこともあるが,心不全,血栓,虚血を呈しやすく,予後不良因子として知られる6).
特に問題なのは治療適応の考え方である.Angeliniらは
を適応と報告した7).
本邦ガイドラインでは中等度以上を治療適応とするが,その程度の定義は明記されていない8).Reddyらは
という基準を私見として提案しているが参考にはなる9).この点では,川崎病の評価で用いられることも多い冠動脈Z scoreなどを予後と比較することで本邦からの基準を発信することもできるのではないかと考える.
次に適応を考えるうえで考慮すべきに自然軽快例の存在がある.著者も引用しているがSherwoodらの小児例の報告では23%と著者の報告同様高い閉鎖率が報告されており,また9年の追跡期間でやはり著者の報告同様に症状出現などはほぼ認めていない.しかもこのなかには中等度例も含まれており2),中等度だからといって一律に治療対象としてよいかは疑問である.
ほかに考慮すべきは治療自体のデメリットである.瘻は近位型と遠位型に分けられ,外科手術はどちらにも対応でき最も有効性が高いが,近年は経カテーテル的治療もよく用いられる.しかし遠位型や蛇行が強い,開口部が複数,側枝が近いなどは適応困難である.また両者とも瘤状拡大,長い瘻,蛇行の強い場合は治療後血栓形成,心筋梗塞に加えて石灰化,不整脈などの可能性が増加し,治療のデメリットとなる.外科的,経カテーテル的,共に治療による死亡率は1%,再発率は10%で決して成績は悪くないとされるが10),きちんと術後追跡をした数少ない研究では術後無症状でも76%に近位部拡大,48%に遠位の閉塞を認めるとし,術後も厳格なフォローアップが必要なことをうかがわせる11).
以上から,著者が報告したような小瘻孔では保存的アプローチのほうが望ましいと考えられ,小瘻孔含め冠動静脈瘻の管理には図のようなフォローアップ計画案(Fig.1)を提案する.
注記:本稿は,次の論文のEditorial Commentである. 三井さやか,ほか:乳幼児期に無症状で発見されたsmall coronary arteriovenous fistula (CAVF)の中期経過.日小児循環器会誌2020; 36: 306–310
1) 三井さやか,福見大地,羽田野爲夫,ほか:乳幼児期に無症状で発見されたsmall coronary arteriovenous fistula (CAVF)の中期経過.日小児循環器会誌2020; 36: 306–310
2) Sherwood MC, Rockenmacher S, Colan SD, et al: Prognostic significance of clinically silent coronary artery fistulas. Am J Cardiol 1999; 83: 407–411
3) Lim JJ, Jung JI, Lee BY, et al: Prevalence and types of coronary artery fistulas detected with coronary CT angiography. AJR Am J Roentgenol 2014; 203: W237–243
4) Yun G, Nam TH, Chun EJ: Coronary artery fistulas: Pathophysiology, imaging findings, and management. Radiographics 2018; 38: 688–703
5) Yun H, Zeng M, Yang S, et al: Congenital coronary artery fistulas: Dual-source CT findings from consecutive 6624 patients with suspected or confirmed coronary artery disease. Chin Med J (Engl) 2011; 124: 4172–4177
6) Mangukia CV: Coronary artery fistula. Ann Thorac Surg 2012; 93: 2084–2092
7) Angelini P: Coronary artery anomalies—current clinical issues: Definitions, classification, incidence, clinical relevance, and treatment guidelines. Tex Heart Inst J 2002; 29: 271–278
8) 中西敏雄,赤木禎治,天野 純,ほか:2014年版 先天性心疾患,心臓大血管の構造的疾患(structural heart disease)に対するカテーテル治療のガイドライン.循環器病ガイドシリーズ2015; 2014: 3–120
9) Reddy G, Davies JE, Holmes DR, et al: Coronary artery fistulae. Circ Cardiovasc Interv 2015; 8: 003062
10) Latson LA: Coronary artery fistulas: How to manage them. Catheter Cardiovasc Interv 2007; 70: 110–116
11) Cheung DL, Au WK, Cheung HH, et al: Coronary artery fistulas: Long-term results of surgical correction. Ann Thorac Surg 2001; 71: 190–195
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