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特定非営利活動法人日本小児循環器学会
Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery 36(4): 306-310 (2020)
doi:10.9794/jspccs.36.306

原著

乳幼児期に無症状で発見されたsmall coronary arteriovenous fistula (CAVF)の中期経過

1名古屋第一赤十字病院小児循環器科

2愛知県三河青い鳥医療療育センター

3あいち小児保健医療総合センター

受付日:2020年6月9日
受理日:2020年8月10日
発行日:2020年12月1日
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背景:近年エコーの精度向上によりsmall coronary arteriovenous fistula (CAVF)の指摘が増えているが自然経過の報告は少ない.

方法:2009年1月~2019年12月心エコーでCAVFを指摘された18歳以下の児の初診時月齢,性別,転帰,冠動脈走行等を診療録から後方視的に検討した.

結果:65名(男児34名,女児31名)が対象.初診時月齢中央値は4か月(0~86)で平均追跡期間は42か月(0~215).当該期間に31名,48%に自然閉鎖を認めた.閉鎖率に男女差はないが,起始が左/右冠動脈では右冠動脈の,開口部が肺動脈内/心室内では心室内の閉鎖率が高かった(p<0.05).治療例は1例で1歳4か月時コイル塞栓を施行された.経過中虚血や心不全を認めた症例はなかった.

結論:CAVFの自然閉鎖は48%にみられた.右冠動脈起始あるいは開口部が心室内では早期の閉鎖率が高く,起始や流入部位による違いは経過をフォローする上で有用である.

Key words: small; coronary arteriovenous fistula; spontaneous closure; asymptomatic; children

背景

近年エコー精度が向上し,small coronary arteriovenous fistula(CAVF)が偶然みつかる頻度が増えている1)

.有症状あるいは短絡量が多いCAVFの場合,幼少期でも治療経験の報告は散見される2)が,小児期には治療介入は不要であることが多い1).しかしながら治療介入しなかった症例の自然経過の報告は少なく,しかも自然閉鎖はみられないという報告から3),稀にみられる1, 4),という報告まで自然閉鎖率も様々である.一方で,小~中のCAVFでも,中高年になると心不全や狭心症を生じることがあるとされており,small CAVFでも3~5年ごとのエコーフォローが推奨されている3).今回我々は,無症状で偶然みつかったsmall CAVFの閉鎖率や自然経過を明らかにするため自験例を検討した.

対象と方法

2009年1月~2019年12月に,当科で退院時新生児スクリーニング心エコー,あるいは外来で心エコーを施行し,合併心奇形を伴わない(ただし,卵円孔開存(PFO),血行動態にほぼ影響しない動脈管開存(PDA),筋性部心室中隔欠損(VSD)は含む),左右短絡量が少なく有意な左室容量負荷所見のないsmall CAVFを指摘された18歳以下の患者を対象とした.エコーにて左室容量負荷所見のないsmall CAVFをCAVFの発見時,自然閉鎖時月齢,性別,転帰,冠動脈走行などについて,開存群,自然閉鎖群で診療録から後方視的に比較検討した.エコーは全例小児循環器科医によって行われ,CAVFの転帰(開存/自然閉鎖),CAVFの走行は診療録,エコーレポートの記載,エコー画像から判定した.フォロー間隔は概ね乳児期は3~6か月ごと,1歳~就学前は6か月ごと,就学後は1年ごとであった.

使用機器はPHILIPS IE-33, EPIQ7(Philips Co., Amsterdam, The Netherlands),Vivid E9(General Electric Company, Fairfield, Connecticut, US)を用いた.統計学的解析はEZRを用いて,2群の比較にはstudentのt検定,分割表の比較にはFisherの正確検定,Kaplan–Meier曲線を用いて,男女間の検討にはlog rank検定,CAVFの起始部・開口部の検討には一般化Wilcoxon検定を行った.p<0.05を有意とした.

結果

対象は,男児34名,女児31名の計65名であった.外来で心エコーを施行した契機は,川崎病既往8例,心雑音6例(うち,肺動脈狭窄3例,small muscular VSD1例,CAVFのみ2例),新生児スクリーニング心エコーのフォロー42例(PDA再検18例,CAVFフォロー13例,PFO再検6例,VSD再検3例,大動脈二尖弁再検2例),その他9例(悪性リンパ腫の化学療法前スクリーニング,慢性肺疾患に伴う肺高血圧のフォロー時など)であった.

なお,該当期間に新生児スクリーニング心エコーを16,489例に行い,初診時にCAVFを指摘されたのは13名のみで,新生児スクリーニングでの有病率は0.07%であった.新生児スクリーニング心エコーを施行され,初診時にCAVFを指摘されなかった29例(PFOの再検時6例,PDA再検時18例,VSD再検時3例,大動脈二尖弁再検時2例)が,退院後の外来心エコーで,概ね生後2~6か月でCAVFを指摘されていた.

CAVFを初めて指摘された月齢は中央値4か月(0~86か月)で,追跡期間は平均42か月(0~215か月)であった.CAVFの起始部は左冠動脈61例,右冠動脈4例で左冠動脈が多く,CAVFの開口部は肺動脈内:右室:左室=55 : 9 : 1例で肺動脈内が多かった.フォロー当該期間でCAVFの自然閉鎖は65例中31例(48%)で認めた.観察期間中に治療されたのは1例で,右冠動脈から左室に開口する4 mm台のCAVFであった.心雑音を聴取したが体重増加良好でその他の症状はなかった.生後10か月時に転居され,他院にて1歳4か月時に右冠動脈から左室へのCAVFに対しコイル塞栓術を施行された.その他治療介入を要した例はなく,経過中虚血・心不全症状をきたした症例は認めなかった.また,全例12誘導心電図において異常Q波,ST-T異常などの異常所見は認めなかった(Table 1

).

Table 1 Baseline characteristics of all patients diagnosed with CAVF
Total patients65
Sex : Male (%)34 (52%)
Female (%)31 (48%)
Age at the diagnosis (months)4 (median, 0~86)
Follow-up(months)42 (mean, 0~215)
Origin of CAVF (LCA : RCA)61 : 4
Drainage (PA : RV : LV)55 : 9 : 1
Spontaneous closure (%)31 (48%)
CAVF: coronary arteriovenous fistula

CAVFの自然閉鎖がみられた31例の,閉鎖時期を年齢別に示す(Fig. 1

).自然閉鎖時期は0~2歳で多く,3歳以降は少なくなっており,年少時に閉鎖例が多かった.

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Fig. 1 CAVF closure period by age. CAVF closure was mostly found between 0 and 2 years old

CAVF: coronary arteriovenous fistula

CAVFの開存率をKaplan–Meier曲線で示す(Fig. 2

).CAVFを指摘されてから5年後には52%が開存,15年で18%のみ開存していた.

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Fig. 2 Kaplan–Meier plot of the CAVF patency. Five years after the diagnosis, the patency rate was 52%, and 15 years after the diagnosis, the patency rate was 18%

CAVF: coronary arteriovenous fistula

自然閉鎖がみられた群と開存群との比較をTable 2

に示す.自然閉鎖群,開存群とで男女差は認められず(p=0.617),CAVFを初めて指摘された月齢,追跡期間にも有意差は認めなかった.CAVFの起始は全体でも左冠動脈が多かったが,自然閉鎖群,開存群どちらも左冠動脈が多く有意差を認めなかった(p=0.607).CAVFの開口部も,全体同様に,自然閉鎖群,開存群とも心室内より肺動脈内が多く,両群間で有意差を認めなかった(p=0.078).

Table 2 The comparison between the spontaneous closure group and the patency group
Spontaneous closurepatencyp value
Male : Female15 : 1619 : 140.617
Age at the diagnosis (mean±SD, months)12.8±2015.8±260.677
Age at closure (mean±SD, months)45±55
Follow-up (mean±SD, months)45±5564±570.186
CAVF(LCA : RCA)29 : 232 : 10.607
Drainage (PA : RV)24 : 731 : 20.078
CAVF: coronary arteriovenous fistula

CAVFの開存率を男女別にKaplan–Meier曲線(Fig. 3

)を用いて評価したところ,性差は認められなかった(p=0.914).

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Fig. 3 Gender differences in the CAVF patency

CAVF: coronary arteriovenous fistula, F: female, M: male

CAVFの起始部及び開口部ごとにKaplan–Meier曲線にて開存率を比較したところ有意差を認めた.起始部(Fig. 4

)は,右冠動脈が左冠動脈より早期の閉鎖率が高く(p=0.004),開口部(Fig. 5)では,肺動脈内より右室内で早期の閉鎖率が高かった(p=0.017).

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Fig. 4 Differences in the CAVF patency by origin

CAVF: coronary arteriovenous fistula, LCA: left coronary artery, RCA: right coronary artery

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Fig. 5 Differences in the CAVF patency by drain age

LV: left ventricle, mPA: main pulmonary artery, RV: right ventricle

考察

Small CAVFは一般的に,無症状であり偶然みつかることが多いが,成人では0.13~0.6%5)

,小児でも0.432)~0.79%1)と頻度は低いと報告されている.本研究では,新生児スクリーニングでの有病率は0.07%と従来の報告より低値であった.これは,ほとんどの症例でスクリーニング心エコー施行時期が生後1週間以内と早く,生理的肺高血圧が残っているため,カラードプラでのCAVFの検出率が下がっている可能性がある.今回新生児期にスクリーニング心エコーを施行し,最終的にCAVFを指摘された42例も,初診時(13例)より他の合併奇形の再検を行った生後2~6か月で指摘された例(29例)が大半であった.

CAVFの自然経過の報告は少なく,自然閉鎖率に関しても,自然閉鎖はみられない3)

,1~2%の自然閉鎖率である2),診断から2.6±2年で23%が自然閉鎖した(初診時平均年齢7.2歳)1)と様々な報告がみられた.本研究では初診から5年で自然閉鎖は48%にみられ,従来の報告よりも高い自然閉鎖率であった.また,自然閉鎖時期も0~2歳と年少時が多かった.CAVFは,胎児期の冠動脈形成の際に,冠動脈が類洞や心腔と直接交通した場合に生じるとされている.CAVF発見時の年齢が年少であるほど自然閉鎖率が高いことは従来の研究でも報告されている1, 6).本研究の対象としたCAVF症例では,初診が中央値生後4か月と,年少時での診断例が多いことから,従来の報告よりも自然閉鎖率が高値になったと考えられる.

従来の報告では自然閉鎖がみられたCAVFの起始は左冠動脈で多いとされていた1, 8)

.本研究では相反して右冠動脈起始で閉鎖率が高い結果となった.しかし,右冠動脈起始の症例数が少なく,今後さらに症例数を増やしての検討が必要と考えている.

今回,CAVFの開口部は,心室内のほうが肺動脈内よりも閉鎖率が高いという結果が出た.既報では,自然閉鎖したCAVFの開口部は心室内が多いという報告8)

も,肺動脈内が多いという報告1)もみられた.自然閉鎖の機序は未だに解明されていない.これまで,①高速の血流によるずり応力により血管内皮細胞障害が生じ,未熟な動脈硬化症と血栓形成が起こり,線維性の交通がCAVFと心内の間に生じ,閉鎖にいたる,②CAVFの線維化,③局所の心筋肥大,といった機序があげられてきた6–8).本研究のように開口部が右室内で閉鎖率が高い原因としては,①のずり応力が自然閉鎖の機序に寄与している可能性がある.今回対象としたCAVFは細く血管内のずり応力は高い.また,わずかな差であるが,右室拡張末期圧は肺動脈拡張期圧よりも低く,CAVF血流は右室内へ開口するほうが圧較差は大きくなると考えられ,ずり応力による閉鎖機序が促進されると思われる.しかし,本研究において右室内に開口していたCAVFの症例数は少なく,起始部同様に,さらに症例数を増やして検討する必要がある.

経過中虚血・心不全症状を呈した症例はなかった.治療介入は,65例中他院でコイル塞栓術を施行された1例のみであった.CAVF全体では,起始は従来の報告2)

どおり,本研究でも左冠動脈由来が多かった.右冠動脈起始のCAVFは有症状例が多いという報告1)もあるが,治療介入を要したCAVFは左冠動脈起始と右冠動脈起始とで差はみられなかったという報告2)もある.本研究では上記の1例(右冠動脈–左室)のみが治療介入されたが,治療を要した症例数が少ないため,今後も症例を重ねて検討する必要がある.

今回の結果から,左室容量負荷を認めない軽度のCAVFは自然閉鎖が半数近くにみられ,特に心室内に開口している例は自然閉鎖が期待できるといえる.一方で,長期間の経過観察でも開存例が少数みられた.既報でも小~中等度のCAVFであっても,成人期に心不全,血栓,虚血を生じることがあるとされており3)

,成人期においてもフォローは引き続き必要と考える.

本研究では心電図で有意な異常所見を認めた症例はなかった.CAVFにおいて,心電図で異常Q波を認める症例はなかったという既報もあり1)

,心電図のみでのフォローは難しい.そのため3~5年ごとのエコーフォローが推奨されている3)が,適切なフォロー期間,間隔については引き続き症例を集めて検討していく必要がある.

本研究の限界

CAVFの診断,冠動脈からの走行,開口部の判断は経胸壁心臓超音波検査のみで施行している.治療介入を要した一例以外,心臓カテーテル検査により冠動脈造影を行って走行を確定した症例はない.

既報とはCAVFの起始や開口部の分布が異なっているが,これは心雑音で見つかるような治療対象となるCAVFではない,無症状のCAVFを対象としているためであり,このため新生児スクリーニングからの症例が多く含まれる結果となった.

結論

small CAVFは初診後5年で48%が自然閉鎖し,従来の報告より自然閉鎖率は高率で,年少時に閉鎖が多くみられた.CAVFの自然閉鎖は,右冠動脈起始,あるいは開口部が肺動脈内より心室内にある場合に早期にみられる傾向があった.CAVFの起始や流入部位による自然閉鎖率の違いは経過をフォローするうえで有用である.

経過中に虚血・心不全症状を認めた例はみられなかった.しかし適切なエコーフォロー期間についてはさらなる長期の検討が必要であると考えられる.

利益相反

日本小児循環器学会の定める利益相反に関する開示事項はありません.

著者の役割

筆頭筆者である三井さやかは論文の構想,デザイン,データの収集・分析および解釈,執筆を行いました.福見大地,大島康徳,羽田野爲夫はデータの収集と本論文の作成に関わる批判的校閲に関与しました.すべての著者が出版原稿の最終確認を行いました.

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