動脈管依存性肺循環の先天性心疾患(congenital heart disease with duct-dependent pulmonary circulation: CHD-DPC)に対する初回の姑息的治療は,現在Blalock-Taussig短絡術(Blalock-Taussig shunt: BTS)が主流であるが,近年動脈管ステント留置術(ductal-stenting: DS)が増加傾向である1, 2).その治療成績もBTSと同等であり,ICU滞在日数や左右肺動脈の均等な発育などに関しては,DSが有意に好成績であるという報告がなされている3, 4).今後本邦でもDSの対象がさらに拡大することが予想されるが,その適応や手技・デバイスの選択に統一した見解はなく,各施設が独自の基準で行っているのが現状である.
2007年10月から2019年8月に当院でCHD-DPCに対しDSを施行した4症例を対象に,DSの適応と手技,およびその予後について,診療録から後方視的に検討した.また,上記の期間中CHD-DPCに対しBTSを施行した76症例と,周術期合併症や死亡率について比較検討を行った.なお,DSを施行するにあたり,当院倫理審査委員会において承認を得た(倫理委員会承認番号:27).
統計学的検討
統計学的解析にはEZR(Ver. 1.41)を使用した.連続変数は,平均±標準偏差もしくは中央値(第1四分位点–第3四分位点)で示した.群間の比較は,連続変数に対してMann–Whitney U検定を,カテゴリー変数に対してFisherの正確確率検定を行った.p<0.05を有意と判断した.
4症例のまとめ(Fig. 1)
今回の検討の対象とした4症例の患者背景(時期,基礎心疾患,心外先天異常,年齢,体重),動脈管のサイズ,使用デバイス,アプローチ,合併症および最終到達状態をTable 1に示す.施行時年齢は日齢29~生後11か月(中央値日齢58),全例女児,体重は3.1~5.1 kg(中央値3.45 kg)であった.基礎心疾患は,肺動脈閉鎖兼心室中隔欠損(Pulmonary atresia/ventricular septal defect: PA/VSD),両大血管右室起始・肺動脈閉鎖(Double-outlet right ventricle/pulmonary atresia: DORV/PA),完全大血管転位・心室中隔欠損・肺動脈狭窄(Transposition of great artery/Ventricular septal defect/Pulmonary stenosis: TGA/VSD/PS),心室中隔欠損を伴わない肺動脈閉鎖(Pulmonary atresia with intact ventricular septum: PA/IVS)が各1例だった.奇形症候群に伴う多発形成異常,不安定な肺動脈順行性血流,左前下行枝(Left anterior descending coronary artery: LAD)離断を伴う著明な類洞交通(Sinusoidal communication: SC)など,4症例とも開心術のハイリスク例であった.アプローチは大腿動脈1例(PA/IVS),その他3例では垂直に走行する動脈管であり,総頸動脈(うち2例は3Frシース穿刺法)とした.DSは全症例で成功した.留置後は48時間のヘパリン点滴に引き続き,抗血小板剤およびプロスタグランジン誘導体製剤であるリマプロスト・アルファデクスの内服を継続した.合併症として,PA/IVS, TGA/VSD/PSでDS後に高肺血流性心不全のため内科的治療を要し,1か月後にはステント狭小化のため,それぞれステント内再留置を行った.PA/IVSの例では,アプローチ部の右大腿動脈で高度狭窄をきたし,ステント再留置の際に大腿動脈のバルーン拡張も追加した,その後,再び著明な高肺血流性心不全を呈し,生後3か月での両方向性Glenn手術で対応した.予後に関して,PA/IVSではGlenn手術に到達し,現在Fontan型手術の待機中であり,PA/VSD, TGA/VSD/PSはいずれもRastelli手術に到達した.18トリソミーに伴ったDORV/PAでは在宅移行が可能となった.
Table 1 4 cases profiles of DS from 2007 to 2019Case No. | 1 | 2 | 3 | 4 |
---|
Year | 2007 | 2014 | 2017 | 2019 |
Diagnosis | PA/VSD | DORV/PA | TGA/VSD/PS, SCA | PA/IVS, SC, LAD interruption |
Extracardiac complications | Pulmonary & renal hypoplasia | 18 trisomy | None | Low body weight infant |
Age (days) | 62 | 345 | 29 | 53 |
Body weight (kg) | 3.6 | 4.8 | 5.1 | 3.1 |
PDA size (mm) | 4.0/3.9/12.4 | 4.3/3.7/16.7 | 3.1/2.3/8.5 | 6.4/2.8/15.5 |
(Ao/PA/length) |
Device | Driver 3.0×9+3.0×12 | Multi-link8 4.0×12 | Integrity 3.5×9 | Multi-link8 3.0×18 |
Approach | RCCA cutdown | LCCA puncture | LCCA puncture | RFA puncture |
Complications | None | None | High flow | High flow |
RFA occlusion |
Re-intervention | None | None | Stent in stent | Stent in stent |
Prognosis | Rastelli | Discharge | Rastelli | Glenn |
BAS: balloon atrium septostomy, DORV: double outlet right ventricle, DS: ductal stenting, LAD: left anterior descending coronary artery, LCCA: left common carotid artery, PA/IVS: pulmonary atresia with intact ventricular septum, PA/VSD: pulmonary atresia with ventricular septal defect, PDA: patent ductus arteriosus, RCCA: right common carotid artery, RFA: right femoral artery, SC: sinusoidal communication, SCA: single coronary artery, TGA: transposition of great artery |
4症例の経過
症例1は,PA/VSD,奇形症候群に伴う多発形成異常があり,肺低形成や緊張性気胸,肺出血の合併から人工呼吸管理を要し,腎低形成による代謝性アシドーシスの補正が困難で腹膜透析を導入していた.プロスタグランジン製剤に不応の動脈管の狭小化を認めたものの,開心術のリスクが高い基礎疾患と判断し,生後2か月,体重3.6 kgでDSの方針とした.右総頸動脈をカットダウンでアプローチし,屈曲したPDAにDriver™ 3.0×9.0 mm(Medtronic Inc; Santa Rosa, CA)を留置した.肺動脈側へステント位置がずれ,スネアで修正困難だったため,Driver™ 3.0×12.0 mm(Medtronic Inc; Santa Rosa, CA)をstent in stentで追加したところ,動脈管全体をカバーすることができた(Fig. 2).その後の経過は良好で,生後6か月でRastelli手術に到達し,腹膜透析下に退院した.
症例2は,DORV/PA, 18トリソミーで,開心術のリスクが高く生後11か月までプロスタグランジン製剤の持続投与を継続されていた.当初は積極的治療を行わない方針だったが,両親より在宅移行の希望を認め,DSを目的に他院から紹介された.生後11か月,体重4.8 kgで左総頸動脈穿刺によるDSを行った.動脈管は屈曲しており,MULTI-LINK 8® 4.0×12.0 mm(Abbott; Chicago, IL)を留置した(Fig. 3).その後の経過は良好で,速やかに在宅移行が可能だった.
症例3は,TGA/VSD/PS,右室軽度低形成,単一冠動脈で,二心室修復の境界域であった.DSにより段階的に心室容量増加を促し,初回手術をRastelli手術とすることを目標とした.チアノーゼが増強したため,日齢29,体重3.3 kgでバルーン心房中隔裂開術(Balloon atrial septostomy: BAS)および,左総頸動脈穿刺によるDSを施行した.動脈管は屈曲・狭窄していたが,Integrity™ 3.5×9.0 mm(Medtronic Inc; Santa Rosa, CA)を留置し直線的な開大を得た(Fig. 4).治療後は経皮的酸素飽和度(SpO2)が70%から90%に上昇し,高肺血流性心不全に対する内科的治療後に退院した.その後,体重増加に伴いSpO2が再び70%台まで低下したため,生後3か月,体重5.1 kgでステント追加の方針とした.体格の成長に伴い,動脈管へのアプローチは右大腿動脈から右室経由で順行性に到達した.MULTI-LINK 8® 4.0×12.0 mm(Abbott; Chicago, IL)を追加し,SpO2は81%に上昇した.ステント追加により,段階的な心室,特に右室容量の増加(日齢3→生後8か月:心胸郭比0.51→0.63,右室拡張末期面積係数15.9 cm2/m2→23.2 cm2/m2)が達成できたため(Fig. 5),生後8か月,体重6.4 kgでRastelli手術に到達した.
症例4は,心エコー検査にて,PA/IVS,右室低形成,SCの発達が著明と診断されていた.プロスタグランジン製剤の持続投与で管理し,心房間交通の狭小化のため,日齢22にstatic BASを行った.その際の冠動脈造影で,LAD離断とSCからの側副血行路を認めた.また,static BAS中に心電図上,II・III・aVF誘導で一過性にST上昇が出現し,右室流入血流の減少による冠還流低下が原因と考えられた.加えて,啼泣時にショックをきたした既往もあり,顕著な右室依存性冠循環(Right ventricle dependent coronary circulation: RVDCC)が示唆された.これらの所見から,周術期の心筋虚血のリスクが高いと判断し,初回の姑息的治療としてDSを選択した.日齢53,体重3.1 kgでDSを施行した.本症例の動脈管は大動脈弓遠位部からやや横走する形態であり,右大腿動脈アプローチとした.Parent Plus 30®(メディキット株式会社;東京)から,LEONIS Mova HF™(住友ベークライト;東京)と0.014 inch GT wire™(テルモ株式会社;東京)で動脈管を通過し肺動脈に到達した.その後0.014 inch Flexi wire™(Boston Scientific; Malborough, MA)に入れ替え,主肺動脈内で反転した状態で安定させ,MULTI-LINK 8® 3.0×18.0 mmを留置し21 atm(3.4 mm)まで後拡張した.確認造影で,ステントは若干肺動脈側に偏位していたものの,肺動脈の狭窄を認めず手技を終了した(Fig. 6).DS後,高肺血流性心不全は軽度でSpO2 85%程度で安定していたが,右大腿動脈触知不良を認めていた.DS後3週間ほどで,上気道炎を契機にSpO2が70%台に低下し,心エコーで新生内膜肥厚によると思われる,軽度のステント内狭窄(In-stent restenosis; ISR)を認めたため,日齢71,体重3.5 kgでステント追加の方針とした.確認造影で,前回留置したステント位置はISRに伴い前方への偏位が自然に是正され適正化していた.左大腿動脈からアプローチし,MULTI-LINK 8® 4.0×15.0 mmを留置し,大動脈側15 atm(4.39 mm),肺動脈側12 atm(4.0 mm)で後拡張した.その後,右大腿動脈の閉塞を確認したため,0.014 inch ACSハイトルクバランスガイドワイヤー™(Abbott; Chicago, IL)で開通後にRX Trek 2.0×15.0 mm™(Abbott; Chicago, IL)で順次拡張した(Fig. 7).DS追加後,高度の高肺血流性心不全を認め,ドブタミン塩酸塩,ミルリノン,アンギオテンシン変換酵素阻害薬,ジゴキシンによる心不全治療を必要とした.心不全は徐々に改善しSpO2 80%前半で安定し,体重増加も順調となったが,心エコーで心内膜下の輝度上昇や腹部血管の虚血所見を認め,高肺血流の影響が疑われたため,生後3か月,体重4.4 kgで心臓カテーテル検査を施行した.肺体血流比1.08と肺血流の増加はなく,肺血管抵抗2.8 units·m2と許容範囲であったものの,大動脈圧95/23(48) mmHgと脈圧の増大があり,冠動脈血流に懸念が残るため,カテーテル検査から5日後に両方向性Glenn手術を施行した.術後経過は良好で,心内膜の輝度上昇も改善し,術後3週間で退院となった.
BTS症例の経過
同期間に当院で施行したBTS単独例(人工心肺下での肺動脈形成を含む)は76症例あった.そのうち,RVDCC合併が示唆されたPA/IVS,または心外先天異常や染色体異常を有する群(H群)は20症例(26.3%),有しない群(L群)は56症例(73.7%)だった.心外先天異常の内訳は,多発奇形,鰓弓症候群,VATER連合などで,染色体異常の内訳は,21トリソミー,22q11.2欠失症候群,47, XXXなどであった.周術期合併症は,31症例(40.8%)にのべ41件(53.9%)認め,内訳はシャント閉塞,縦隔洞炎,反回神経麻痺,横隔神経麻痺,高肺血流性ショック,体外式膜型人工肺(Extracorporeal membrane oxygenation: ECMO)による蘇生事象,乳糜胸,脳梗塞,心筋梗塞などであった(Fig. 8).9症例(11.8%)で術後予定外の再手術を要し(止血困難での再開胸を除く),3症例(3.9%)が術後90日以内に死亡した.さらに,H群はL群と比較して,周術期合併症の発生率が有意に高かった(H群:13/20=65.0%,L群:18/56=32.1%, p=0.016).再手術率や死亡率はH群で高い傾向にあるものの,有意差を認めなかった(再手術率:H群:4/20=20.0%,L群:5/56=8.9%.死亡率:H群:2/20=10.0%,L群:1/56=1.8%)(Table 2).DS症例とH群との比較では,有意差を認めなかったものの,合併症発生率や死亡率はDS症例で低い傾向にあった(Table 3).
Table 2 Patient profiles, morbidity and mortality of BTS | H group* | L group* | p value |
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N (%) | 20 (26.3) | 56 (73.7) | |
Age of intervention (days) | 60 (43–90) | 43 (28–69) | 0.04 |
Weight (kg) | 3.59 (3.17–4.43) | 3.68 (3.31–4.36) | >0.05 |
Male N (%) | 12 (60.0) | 35 (62.5) | |
LOS days | 42 (19–84) | 22 (15–33) | 0.008 |
Acute complications N (%) | 13 (65.0) | 18 (32.1) | 0.016 |
Re-interventions N (%) | 4 (20.0) | 5 (8.9) | >0.05 |
Death N (%)** | 2 (10.0) | 1 (1.8) | >0.05 |
*: “H” means a group with PA/IVS-RVDCC or multiple malformations or chromosomal abnormalities, and “L” means a group without that. **: 90 days’ death from the operation date. BTS: Blalock-Taussig shunt, LOS: length of stay from the operation date, PA/IVS-RVDCC: pulmonary atresia with intact ventricular septum and right ventricule dependent coronary circulation |
Table 3 Comparison of patient profiles, morbidity and mortality of DS versus BTS | DS | H group* | p value |
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N | 4 | 20 | |
Age of intervention (days) | 58 (47–133) | 60 (43–90) | >0.05 |
Weight (kg) | 3.45 (3.10–3.90) | 3.59 (3.17–4.43) | >0.05 |
Male N (%) | 0 (0) | 12 (60.0) | |
LOS days | 38 (12–82) | 42 (19–84) | >0.05 |
Acute complications N (%) | 2 (50.0) | 13 (65.0) | >0.05 |
Death N (%)** | 0 (0) | 2 (10.0) | >0.05 |
*: “H” means a group with PA/IVS-RVDCC or multiple malformations or chromosomal abnormalities. **: 90 days’ death from the operation date. BTS: Blalock-Taussig shunt, DS: ductal-stenting, LOS: length of stay from the operation date, PA/IVS-RVDCC: pulmonary atresia with intact ventricular septum and right ventricule dependent coronary circulation |
また,PA/IVSに対するBTS施行例は11症例あった.うち9症例はSCの発達が軽度で,人工心肺下で肺動脈形成を追加した5症例を含め,周術期に心筋虚血所見を認めた症例はなかった.残りの2症例は右室低形成が高度で,1症例はSCの発達が著明であり,もう1症例は症例4と同様にLAD離断を認め,両者ともRVDCCが示唆された.前者は染色体異常(47, XXX)を合併し,人工心肺を使用せずにBTSを施行したが,術後5日目に啼泣をきっかけに徐脈・血圧低下をきたした.胸骨圧迫に反応なくECMOを導入し,3日後に離脱でき,最終的にFontan型手術に到達した.後者は心外先天異常や染色体異常はなく,人工心肺を使用せず手術に臨んだものの,麻酔導入時に事故抜管から心肺蘇生を要した.術中心電図ではST変化が著明で,術後に心室中隔部の心筋梗塞が判明した.こちらも,最終的にFontan型手術に到達した.
日本循環器学会の2014年のガイドラインによると,CHD-DPCのうち開心術のハイリスク症例に対するDSは,BTSの代替的な治療としてクラスIIbに位置付けられている5).日本心臓血管手術データベース(Japan Cardiovascular Surgery Database: JCVSD)先天性部門によると,本邦における体肺動脈短絡術は2015年,2016年の2年間で1179例あり,56例(4.7%)が術後90日以内もしくは在院中に死亡した6).当院のBTS症例には,症例1のように術前から厳密な呼吸・循環管理を要する重篤な心外先天異常はなく,また,症例2の18トリソミーのように生命予後の厳しい染色体異常合併例もなかった.それにもかかわらず,H群の死亡率10.0%はJCVSDの報告の2倍以上であり,合併症発生率はDS症例と比較して高い傾向にあった.このような背景から,基礎疾患のより重篤な症例1と症例2ではDSを選択した.
症例3はTGA/VSD/PSで不安定な肺動脈順行性血流のためDSの適応だったが,それだけであればBTSも選択肢であった.しかしDSであれば後拡張圧の調整やステントの追加により段階的に肺血流量を増やし,開心術を経ずとも心室内血流転換に十分な右心室容量を達成することが可能であると判断し,最終的にDSを選択した.これにより,当初の予定どおりRastelli手術を初回の開心術とすることができた.
症例4はPA/IVSでRVDCCが示唆されたため,人工心肺を用いずBTSを行うことも検討した.しかし,BTS症例でRVDCCが示唆されたPA/IVSの2症例はどちらも人工心肺を用いなかったものの,啼泣をきっかけに循環不全をきたしECMO管理を要したり,心肺蘇生後に心筋梗塞を発症したりするなどの,RVDCCに由来すると思われる周術期合併症を認めていた.当院のBTS症例には,人工心肺下での肺動脈形成を施行した症例も含まれているため,DS症例との単純な比較はできないが,BTSでも肺血流コントロールや周術期管理は必ずしも容易とはいえず,侵襲度も考慮してDSを選択した.RVDCC合併のPA/IVSに対する右室減圧は禁忌であり7),初回手術として体肺動脈短絡術を行い,Fontan型手術を最終姑息術とする外科治療のアルゴリズムが確立しているものの,依然冠還流低下による死亡例が認められる8).近年,PA/IVSに対するBTSの代替治療として,DSの安全性と有効性を示した海外の報告はあるが9),RVDCC合併例における治療成績を比較した研究は見当たらず,今後良好にデザインされた前方視的研究が望まれる.
症例2は18トリソミーに対するDSであり,その厳しい生命予後や重度の発達遅滞により,積極的な治療が控えられてきた歴史があることから,他の3症例のDSとは治療介入の意味合いが異なる.近年,両親の意思を尊重し,18トリソミーに対して積極的な治療を行う傾向がみられるが,多くは肺血流増加型の心疾患に対する姑息手術であり,BTSの報告例は非常に少ない10).当院における18トリソミーに対する姑息手術は3症例あったが,VSDが1例,DORVが2例で,いずれも肺動脈絞扼術と動脈管結紮術を施行していた.CHD-DPC合併の18トリソミーに対する積極的な心臓治療が,長期予後の改善に寄与するかはいまだ不明だが,今後は呼吸器離脱や在宅移行を目的とした治療例も増えてくると推察される.その場合,18トリソミーでは肺小動脈の形成不全や低形成の合併,呼吸機能の問題などから,Glenn手術やFontan型手術へ進むことは困難であり,BTSまたはDSが最終的な姑息治療となる可能性が高い.18トリソミーは消化器や泌尿器,中枢神経などに心外先天異常を合併することが多く,周術期リスクが高い.加えて,肺閉塞性病変が早期に進行しやすく11),肺高血圧の合併が多いことから,BTSの際に適切なシャント径の選択が難しい可能性がある.その点で,DSは後拡張やステント追加により,開胸を経ずに肺血流量を増加方向に調整可能であり,CHD-DPC合併の18トリソミーに対する姑息的治療として有用であると思われる.
今回の検討でDSは全例で成功したが,合併症として症例3と症例4で高肺血流性心不全をきたし,症例4の追加DS後には臓器虚血所見のため,生後3か月での早期Glenn手術を要した.BTSのシャント長と比較して,DSはステント長が短い症例が多く,同径ではBTSより血管抵抗が低く,肺血流量が増加しやすい傾向にある.体重あたりのステント径を,ステント径(mm)/体重(kg)で算出し,各症例で比較してみると,DS後に高肺血流性心不全をきたさなかった症例1(3.0/3.6=0.83),症例2(4.0/4.8=0.83),症例3の追加DS(4.0/5.1=0.78)に対し,高肺血流性心不全をきたした症例3の初回DS(3.5/3.3=1.06),症例4の初回DS(3.0/3.1=0.97),追加DS(4.0/3.5=1.14)は有意差を持って高値であり(Table 4),症例3と症例4のステント径はオーバーサイズであったと考えられる.オーバーサイズとなった原因として,症例1や症例2では基礎疾患からDS後の体重増加がそれほど期待できなかったのに対し,症例3や症例4ではDS後の体重増加と次回手術までの期間を考慮したステント径を選択する必要があったことが挙げられる.症例4の追加DS時には3.5 mmのステントを選択することも検討していた.しかし,生後から2か月以上の入院で,すでに2回目のDSであり,次の介入までの期間をなるべく開けたいという狙いもあり4.0 mmを選択した.結果として,高肺血流性心不全に対する治療が必要になったが,その際の早期Glenn手術も事前に検討は行っていた.RVDCC合併のPA/IVSでは,大動脈拡張期圧の低下や,心不全に伴う頻脈による拡張期時間の短縮で,冠血流が低下し心筋虚血を惹起する可能性があるため,その他のCHD-DPCと比較してオーバーサイジングにより注意が必要である.オーバーサイジング時の対応として,海外ではステント追加により内腔を厚くして肺血流を制限する報告がみられる12).また,当院ではオーバーサイジングや圧着不全を回避するため,DS施行当日の朝にプロスタグランジン持続投与を中止し,動脈管をある程度退縮させた状態でDSを行うようにしている.
Table 4 Comparison of groups with and without congestive heart failure after DS | Y group* | N group** | p value |
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N | 3 | 3 | |
Body weight (kg) | 3.30±0.20 | 4.50±0.79 | >0.05 |
DS size (mm) | 3.50±0.50 | 3.66±0.58 | >0.05 |
DS size/Body weight (mm/kg) | 1.05±0.08 | 0.81±0.02 | 0.009 |
*: “Y” means a group with congestive heart failure after DS. **: “N” means a group without congestive heart failure after DS. DS: ductal-stenting |
ステント留置を安全に,そして速やかに行うためには,アプローチ部位の選択が重要である.主に心室・大血管関係によって,動脈管の形態と起始部は異なっており13),当院では4群に大別している(Fig. 9).
- グループ1:いわゆる「横走する」動脈管で,胸部大動脈から起始し,胸部大動脈と動脈管がなす角度が鋭角(<90度)である.典型的には重症肺動脈弁狭窄やPA/IVSでみられる.多くが直線的だが,ときに屈曲・蛇行を伴う.
- グループ2:グループ1より鈍角(90–135度)に起始し,典型的には単心室に伴う重症肺動脈弁狭窄でみられる.
- グループ3:いわゆる「垂直な」動脈管で大動脈弓横走部から起始する.多くが屈曲・蛇行を伴い,典型的にはPA/VSDでみられる.
- グループ4:大動脈弓と対側の腕頭動脈や鎖骨下動脈から起始する(左側大動脈弓・右動脈管または右側大動脈弓・左動脈管).
アプローチする血管に関して,総頸動脈(Common carotid artery: CCA),腋窩動脈(Axillary artery: AXA),大腿動脈(Femoral artery: FA)が主な選択肢となる.CCAはグループ3のような垂直に起始する動脈管に対して直線的な経路を形成でき,ステント挿入に有利と考えられる.さらに穿刺部から動脈管までの距離が短く,ロングシースへの入れ替えが不要である点も,手技を短時間で終了するために重要である.また,当院NICUで体重1,500 g未満の正常心構造の新生児10例で検討した結果,血管径はFAを1とした際,AXAが1.1, CCAは1.5–1.6であり,CCAの穿刺の難易度が最も低いと思われる.それに対し,AXAは動脈と静脈の位置関係や血管径の問題から,動静脈瘻や狭窄の形成などの合併症が多く,避けたほうが良いと思われる.FAはグループ1のような横走する動脈管への挿入に適しているが,AXA同様にCCAと比べて血管径が小さく,血管狭窄・閉塞のリスクがある点に留意する必要がある.グループ4の動脈管はCCAやFAからのアプローチが容易であり,DSの良い適応である.異所性鎖骨下動脈から起始する動脈管の場合もCCAやFA, AXAからアプローチ可能だが,血管輪を形成する可能性があるため手術時に離断が必要となる.
今回の4症例のうち,症例1~3の動脈管はグループ3のいわゆる屈曲を伴う垂直なPDAであり,頸動脈アプローチを選択した.当院では症例1までは頸動脈アプローチの際にカットダウンを行っていたが,2014年に3Frシースを導入したことで症例2からは穿刺でのアプローチに変更しており,CCA・FAの両方にアプローチ可能なセッティングとしていた.症例4はグループ1に類似した,遠位大動脈弓からやや横走する形態であり,弓部分枝との位置関係も考慮し大腿動脈アプローチを選択した.アプローチ自体は問題なかったものの,後に大腿動脈の閉塞という重篤な合併症をきたし治療介入を要した.閉塞の原因として,3.3Fr相当のParent Plus 30®ではダイレーターとの段差が問題となりうる.3Frで,特に頸部アプローチを選択することで,閉塞は避けられた可能性がある.
グループ3のような垂直起始の動脈管では,屈曲・蛇行が強くステント長の決定に難渋する.当院では経験的に,ステントの支点となる大動脈端と肺動脈端の最短距離を基にステント長を決定しているが,単独のステントでは動脈管全体をカバーするのが困難な症例がある.大動脈端のカバーに関して,ヒト大動脈縮窄部では,通常大動脈で発現の少ないプロスタグランジンE特異的受容体であるEP4が過剰に発現しており,その部位に一致して弾性線維が低形成となり,血管の狭窄が起こるという研究結果がある14, 15).しかし,CHD-DPCの大動脈端におけるEP4の発現に関する既存の報告は見当たらず,大動脈端膨大部では狭窄が進行してこないこともしばしば経験する.それに対して,肺動脈端は特に分岐部にEP4が発現している.そのため,当院では初回のDSで肺動脈端は若干突出しても確実にカバーしているが,大動脈端のカバーは必須ではなく,なるべく短時間で手技を終了することを優先している.そして,ISRを認めた際や2回目のDSが必要となった際に,改めて大動脈端をカバーするようにしている.肺動脈分岐部に狭窄がある症例に対しては,狭窄が軽度な側の肺動脈にステントを留置し,もう一方の肺動脈のjailに対してサイドセルにバルーンを追加することで対応が可能である.しかし,海外の症例では合併症の報告も多いため16),現時点において当院では分岐部狭窄が高度な例ではBTSを選択し,その際に人工心肺下に狭窄部の動脈管組織を切除した上で肺動脈を形成する“primary central pulmonary artery plasty”を追加している17).経カテーテル的にこのような分岐部狭窄症例にどう対応するかは今後の課題である.
DS後は次回手術の際にステント除去が必要となる.今回の4症例中,3症例でDS後に動脈管結紮を行ったが,ステント除去が困難な例はなかった.動脈管結紮の際にステントが大動脈側へ突出した症例はあるが,血流制限は認めず,海外でも問題となった既存の報告はない.肺動脈側のステントは,肺動脈形成の際に除去し自己心膜またはパッチで補填するため問題とならないと思われる.
DS後の血栓予防として,当院ではDS後48時間のヘパリン点滴に引き続き,抗血小板薬2剤(アスピリンまたはチクロピジンと,リマプロスト・アルファデクス)を使用している.リマプロスト・アルファデクスはプロスタグランジン誘導体製剤であり,当院では抗血小板作用のほか,ISRの予防および動脈管維持を期待して使用している.これまで特に下痢など副作用を認めた症例はない.
現在,国内で小児の先天性心疾患に適応を持つステントは存在せず,冠動脈や末梢血管用,胆管用のステントを流用して治療が行われている.しかし,欧米で使用されているステントの国内導入制限は持続し,特に冠動脈ステントに関してはベアメタルステント(Bare Metal Stent: BMS)自体の生産縮小,供給停止といった問題がある.BMSの代用品として,Palmaz® medium(Johnson & Johnson; New Brunswick, NJ)はクローズドセルでストラットが鋭角であり,サイドセルへのバルーン追加は困難である.それに対し,Express Vascular SD®(Boston Scientific; Malborough, MA)はセミクローズドセルでストラットが鈍角のため,屈曲部への留置やサイドセルへのバルーン追加も可能だが,最低でも5Frシースが必要であり,血管アプローチをカットダウンに戻すことも検討する必要がある.さらに,免疫抑制薬の影響を懸念する必要があるが,薬剤溶出性ステントを使用する選択肢もある.今後の治療成績向上のためには,新生児から成人の幅広い体格の先天性心疾患の血管狭窄病変に対応可能なBMSの開発,ならびに保険償還が望まれる.
BTSの合併症率は低くなく,血行動態や基礎疾患から周術期リスクが高いCHD-DPCに対する初回姑息術として,DSは選択肢となりうる.DSの成績向上のためには,動脈管およびその周辺の形態を評価し,さらには循環動態を加味してステントサイズやアプローチ部位を最適化する必要があると思われる.これらの経験をふまえて,今後は通常リスク症例への適応拡大が示唆される.個々の症例において,治療の進歩に合わせて,カテーテル治療と既存の外科的アプローチの利点とリスクを多職種で十分に協議の上,治療方針を決定していくことが最も重要と思われる.
利益相反
日本小児循環器学会の定める利益相反(COI)に関する開示事項はない.
著者の役割
鈴木康太は筆頭著者として論文作成を行った.
金成海は本論文におけるカテーテル治療の主術者を務め,内容に関する直接的な指導を行った.
石垣瑞彦は論文の重要な知的内容に関わる批判的校閲に関与した.
佐藤慶介は論文の重要な知的内容に関わる批判的校閲に関与した.
芳本 潤は論文の重要な知的内容に関わる批判的校閲に関与した.
満下紀恵は論文の重要な知的内容に関わる批判的校閲に関与した.
新居正基は論文の重要な知的内容に関わる批判的校閲に関与した.
田中靖彦は論文の重要な知的内容に関わる批判的校閲に関与した.
引用文献References
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2) 芳本 潤,犬塚 亮,松井彦郎,ほか:2017年における先天性心疾患および小児期頻拍性不整脈に対するカテーテルインターベンション・アブレーション全国集計—日本Pediatric Interventional Cardiology学会データベース(JPIC-DB)からの年次報告—.J JPIC 2018; 3: 43–55
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