免疫グロブリン5%製剤と10%製剤の川崎病に対する治療効果・安全性の比較
大津赤十字病院小児科
背景:川崎病に対する免疫グロブリン大量療法(IVIG)は標準治療として確立している.今回,従来の5%製剤から10%製剤に切り替えが行われた.
目的:免疫グロブリン5%製剤と10%製剤の川崎病に対する治療効果・安全性についての比較検討,および10%製剤によるIVIG不応症例に対する追加投与時間短縮の可能性についての検討.
方法:2015年1月から2019年5月までに当院で川崎病と診断しIVIGを行った5%製剤103例,10%製剤60例を対象として,後方視的に比較検討を行った.
結果:両群間で投与前の患者背景に有意差はなかった.初回IVIG不応例は,5%製剤で31例(30%),10%製剤で20例(33%)で有意差を認めなかった(p=0.727).初回IVIG投与から追加IVIG投与までの時間は,10%製剤で有意に短かった(48.8 vs 45.3時間,p=0.004).冠動脈病変(CAL)は5%製剤で1例(1.0%)認めたのみであった.重大な副作用については,両製剤とも認めなかった.
結論:免疫グロブリン10%製剤は,従来の5%製剤と同等の治療効果および安全性があり,不応例に対する追加治療を早期に実施できる可能性があると考えられた.
Key words: Kawasaki disease; intravenous immunoglobulin; 10% immunoglobulin; administration time; non-responeders
© 2020 特定非営利活動法人日本小児循環器学会
川崎病は小児期に発症する原因不明の血管炎症候群であり,免疫グロブリン大量療法(intravenous immunoglobulin: IVIG)が標準治療として確立している1, 2)
.現在川崎病に適応を有する静注用人免疫グロブリン製剤は4種類あるが,従来の製剤はすべて5%製剤であった.しかし,2013年1月からpH 4処理酸性人免疫グロブリン(献血ポリグロビン®N)10%製剤が販売され,さらに2018年6月からポリエチレングリコール処理人免疫グロブリン(献血ヴェノグロブリン®IH)10%製剤の販売も開始された.これに伴い,今後10%製剤の使用頻度が増加することが予想される.
従来の報告はすべて5%製剤を使用したものであり,10%製剤に関する検討は製造販売後の221例の使用成績調査3)
と最近Odaらによって報告された98例の検討4)のみである.Odaらの報告では,10%製剤において治療開始後の有熱期間が短縮され,また初回IVIG不応例に対する追加治療までの時間が短縮されたと述べられている.我々は,10%製剤の最大の利点はIVIG投与時間の短縮にあると考え,その結果IVIG不応例に対する追加治療が必要な際に,従来より早く追加投与が可能になると考え検討を行った.また,5%製剤と10%製剤の川崎病に対する治療効果・安全性についても比較検討した.
2015年1月から2019年5月までに大津赤十字病院で川崎病と診断し,第9病日までに初回治療に2 g/kg単回のIVIGを行った患者を対象として,個々の診療録から後方視的に検討した.除外基準として,1)初回治療で免疫グロブリン製剤,アスピリンまたはフルルビプロフェン以外の薬剤を併用している症例,2)IVIG副反応により薬剤変更を行った症例,3)献血ポリグロビン®Nまたは献血ヴェノグロブリン®IH以外の免疫グロブリン製剤を投与している症例,4)退院後に再燃のために再入院した症例,5)治療開始時にすでに冠動脈病変を認めていた症例,を除外することとした.なお,2015年1月から2018年1月途中まで献血ポリグロビン®N 5%製剤を,2018年1月途中から2018年11月まで献血ポリグロビン®N 10%製剤を,2018年12月から2019年5月までは献血ヴェノグロブリン®IH10%製剤を使用した.
対象症例において,性別,年齢,川崎病主要症状数,不全型の割合,小林スコア,小林スコア5点以上の症例数,治療開始日,IVIG投与時間,不応例数,IVIG投与前後での収縮期血圧の変化率,入院期間,冠動脈病変(coronary artery lesion: CAL)の有無,副作用,血液検査値を比較した.さらに,それぞれの不応例において,併用療法の有無,小林スコア,初回IVIG投与開始から追加IVIG投与開始までの時間,初回IVIG投与病日,追加IVIG投与病日,追加IVIG不応例数を比較した.CALについては,発症1か月時の冠動脈Z-scoreが2.5以上の場合にCAL有りと定義した2, 5)
.プライマリ・エンドポイントは初回IVIG投与開始から追加IVIG投与開始までの時間とし,セカンダリ・エンドポイントは不応例の頻度,CALの合併頻度,副作用の頻度とした.
初回治療はIVIG 2 g/kg単回投与とし,IVIG投与は原則日勤帯に行っている.全例でアスピリンまたはフルルビプロフェン内服を併用している.初回治療不応例は,初回IVIG終了後24時間以内に37.5度未満に解熱しない例と,24時間以降に再度37.5度以上の発熱を認めた例と定義した.追加治療(2nd line)はIVIG 2 g/kg単回投与を基本とし,プレドニゾロン等の併用は個別対応としている.IVIG投与速度については各々の添付文書に従い,最大投与速度(0.06 mL/kg/min)まで徐々に増量している.5%製剤と10%製剤の添付文書上の投与速度は同じであり,いずれも同様の方法で投与している.
対象症例全体の検討は平均±標準偏差で,初回IVIG不応例の検討は中央値(下限値,上限値)で表した.2群間の比較はMann–Whitney U検定を用いて検討し,頻度の比較はFisherの直接確率検定法を用いて検討した.
本研究は,大津赤十字病院倫理委員会の承認を得ている(承認番号:548号).
対象期間中に川崎病にて当院に入院した症例は173例,このうち第9病日以内にIVIG 2 g/kg単回投与の治療を受けた症例は163例,除外基準に該当する症例は10例であった.その結果,本研究の対象となった症例は,5%製剤についてはポリグロビン®N 5%製剤を使用した103例,10%製剤についてはポリグロビン®N 10%製剤を使用した症例が30例,献血ヴェノグロブリン®IH10%製剤を使用した症例が30例の合わせて60例となった.除外症例の内訳は,5%製剤では第10病日以降の症例が2例,IVIG 1g/kgを2日間に分けて投与した症例が1例,プレドニゾロン初期併用療法を行った症例が1例,薬剤変更を行った症例が2例,他の免疫グロブリン製剤を使用した症例が1例,再燃症例が1例であり,10%製剤では第10病日以降の症例が1例,再燃症例が1例であった.ただし,副作用についての検討は薬剤変更を行った症例を加えたため,5%製剤の対象症例が105例となった.
5%製剤使用群と10%製剤使用群を比較すると(Table 1),性別,川崎病発症時月齢,主要症状数,不全型割合,初回IVIG投与病日,いずれも2群間で有意差を認めなかった.小林スコアについては,5%製剤のほうが有意に高い結果となったが(3.7 vs 2.9点,p=0.041),小林スコア5点以上の割合については有意差を認めなかった(36 vs 26%,p=0.232).IVIG投与時間は,5%製剤で15時間,10%製剤で7.4時間であり,10%製剤で投与時間は半分以下になっていた.初回IVIG不応例は,5%製剤で31例(30%),10%製剤で20例(33%)であり2群間に有意差を認めなかった(p=0.727).また容量負荷の観点から,IVIG投与前後における収縮期血圧の変化率を検討した.両群共に投与後に血圧が低下していたが,5%製剤のほうが有意に低下する形となった(−4.8 vs −0.7%,p=0.013).在院日数は5%製剤で平均8.7日,10%製剤で7.8日であり,10%製剤で1日短縮された(p=0.014).CALについては,一過性拡大を示したものが5%製剤で5例(4.8%),10%製剤で3例(4.9%)であり2群間に有意差を認めなかった(p=1.000).発症1か月時のCALについては,5%製剤で1例(1.0%)認めたのみで,10%製剤では認めなかった.副作用については,5%製剤で7例(6.7%)で,その内訳は,蕁麻疹4例(薬剤変更2例を含む),好中球減少2例,頻脈1例であった.10%製剤については,好中球減少を1例(1.7%)認めるのみであり,2群間で有意差を認めなかった(p=0.260).いずれの薬剤においても,アナフィラキシーやショック様症状などの重篤な副作用は認めなかった.また10%製剤は製剤濃度が濃くなっているが,それにより点滴漏れや血管痛が増えるといったデメリットも認めなかった.逆に投与時間の短縮により,5%製剤で7例(6.8%)認めた点滴漏れは,10%製剤では認めなかった(p=0.048).
5% group n=103 | 10% group n=60 | p value | |
---|---|---|---|
Male (%) | 60 (58) | 29 (48) | 0.255 |
Age (month) | 30±23 | 35±24 | 0.129 |
Number of symptoms | 5.4±0.7 | 5.4±0.8 | 0.873 |
Number of incomplete KD (%) | 12 (12) | 7 (12) | 1.000 |
Kobayashi score | 3.7±2.6 | 2.9±2.3 | 0.041 |
Number of Kobayashi Score 5 points and over (%) | 37 (36) | 16 (26) | 0.232 |
Day of illness of 1st IVIG initiation | 4.9±1.0 | 5.2±1.0 | 0.124 |
administration time of IVIG (hour) | 15.0±2.4 | 7.4±0.8 | <0.001 |
Number of non-responder (%) | 31 (30) | 20 (33) | 0.727 |
Change rate of systemic pressure before and after IVIG (%) | −4.9±9.9 | −0.6±9.7 | 0.013 |
Length of hospital stay (day) | 8.7±2.2 | 7.8±2.2 | 0.014 |
Number of patients with CAL (%) | |||
Transient dilatation alone | 5 (4.9) | 3 (5.0) | 1.000 |
Small aneurysm | 1 (1.0) | 0 (0.0) | 1.000 |
Frequency of adverse events (%) | 7/105 (6.7)* | 1/60 (1.7)** | 0.260 |
Extravasation (%) | 7 (6.8) | 0 (0.0) | 0.048 |
*Skin rash 4 (including 2 cases of medicine change), Neutropenia 2, Tachycardia 1. **Neutropenia 1 |
両群のIVIG投与前血液検査では(Table 2),白血球数,好中球比率,血小板数,AST,ALT,アルブミン,CRPについては2群間の検査値に差を認めなかった.総ビリルビン値については5%製剤で有意に高く(0.9 vs 0.7 mg/dL,p=0.047),血清ナトリウム値については5%製剤で有意に低い結果となった(133.6 vs 134.5 mEq/L,p=0.048).
5% group | 10% group | p value | |
---|---|---|---|
WBC (×103/µL) | 15.1±4.3 | 14.5±5.3 | 0.368 |
% Neutrophils | 68.8±14.3 | 68.2±15.7 | 0.992 |
Platelet (×104/µL) | 35.4±9.2 | 33.5±9.7 | 0.234 |
T-bilirubin (mg/dL) | 0.9±0.8 | 0.7±0.6 | 0.047 |
AST (IU/L) | 143±284 | 120±269 | 0.447 |
ALT (IU/L) | 136±201 | 105±180 | 0.787 |
Na (mEq/L) | 133.6±2.7 | 134.5±2.9 | 0.048 |
Albumin (g/dL) | 3.5±0.4 | 3.5±0.4 | 0.379 |
CRP (mg/dL) | 8.4±4.8 | 8.6±5.7 | 0.810 |
次に初回IVIG不応例について2群間で比較した(Table 3).追加治療(2nd line)の内訳は,IVIG単独の追加が5%製剤で27例(87%),10%製剤で20例(100%)であり,IVIGにプレドニゾロンを併用した症例が5%製剤で4例(13%)であった.小林スコア4点以下の例は5%製剤で11例(35%),10%製剤で10例(50%)であり,2群間で有意差は認めなかった(p=0.386).初回IVIG投与開始から追加IVIG投与開始までの時間(中央値)は,5%製剤で48.8時間,10%製剤で45.3時間と,10%製剤で有意に短縮されていた(p=0.004).また初回IVIG投与病日は5%製剤が有意に早かったが(中央値4 vs 5日,p=0.044),追加IVIG投与病日はいずれも第7病日であり2群間で有意差を認めなかった(p=0.562).追加IVIG不応例は5%製剤で3例(9.7%),10%製剤で4例(20%)であり,2群間で有意差は認めなかった(p=0.411).
5% group n=31 | 10% group n=20 | p value | |
---|---|---|---|
2nd line treatment | |||
IVIG alone (%) | 27 (87) | 20 (100) | |
IVIG+PSL (%) | 4 (13) | 0 (0) | |
Kobayashi Score 4 points or fewer (%) | 11 (35) | 10 (50) | 0.386 |
Interval between starting 1st IVIG and 2nd IVIG (h) | 48.8 (42.5–167.4) | 45.3 (24.9–70.4) | 0.004 |
Day of illness of 1st IVIG initiation | 4 (3–6) | 5 (4–7) | 0.044 |
Day of illness of 2nd IVIG initiation | 7 (5–12) | 7 (6–9) | 0.562 |
Number of 2nd IVIG non-responders (%) | 3 (9.7) | 4 (20) | 0.411 |
免疫グロブリン10%製剤については,製造販売後の使用成績調査3)
において,初回IVIG不応例の割合は過去の治療成績と差を認めていない.しかし,これまで5%製剤と比較した報告はわずかな学会報告6)
のみであった.最近Odaら4)が,初めて川崎病に対する免疫グロブリン5%製剤と10%製剤の治療効果と安全性を比較した論文を発表した.彼らは,5%製剤と10%製剤の初回IVIG不応例の割合に差は認めず,CALの発生率にも差がなかったと述べている.さらに10%製剤のほうが有意に有熱期間を短縮し,また初回IVIG不応例に対する追加治療までの時間も有意に短縮したと述べている.今回我々の検討でも,10%製剤は初回IVIG投与開始から追加IVIG投与開始までの時間を有意に短縮していた.しかし有意差は出たものの,5%製剤と10%製剤の初回IVIG投与開始から追加IVIG投与開始までの時間差は3.5時間しかなかった.この結果についての要因の一つに,当院におけるIVIG投与速度が挙げられると考える.第24回川崎病全国調査7)
において対象となった施設に対して実施されたアンケート調査において,岡本ら8)
は免疫グロブリン静注時間が24時間であった施設が70%,24時間以上であった施設が4%と述べている.また免疫グロブリン投与速度については,0.03 mL/kg/minであった施設が76%であり,当院と同じ0.06 mL/kg/minであった施設は14%と述べている.当院におけるIVIG投与方法は最も速い部類に属しており,5%製剤と10%製剤の投与時間の差がつきにくい方法であった.投与速度が遅いほど5%製剤と10%製剤の投与時間の差は大きくなるため,大多数の施設において,当院より初回IVIG投与開始から追加IVIG投与開始までの時間差に大きな差が生まれると考える.一方IVIG投与病日で検討すると,5%製剤の初回IVIG投与病日が第4病日で,追加IVIG投与病日が第7病日であったのに対し,10%製剤の初回IVIG投与病日は第5病日で,追加IVIG投与病日が第7病日であった.結果,10%製剤は5%製剤と比較して追加IVIG投与病日を1日早めることができていた.このことは,急性期川崎病治療のゴールである,CALの発生頻度を最小限にするために,“急性期の強い炎症反応を可能な限り早期に終息させる”こと1)
に寄与する結果であった.
治療成績の面でも,5%製剤と10%製剤の初回IVIG不応例の割合に差は認めなかった.また,CALの発生率についても,一過性拡大と発症1か月時の両方において2製剤間で差を認めなかった.小林スコアが5%製剤で有意に高い結果となっていたが,小林スコア5点以上の割合については有意差を認めず,初回IVIG不応例の割合対する影響は限定的と考えた.IVIG投与前の血液検査結果において,血清ナトリウム値が5%製剤で有意に低値となっており,このことが小林スコアが5%製剤で有意に高くなった要因と考えられた.ただ,当院における初回IVIG不応例の割合は,最近の川崎病全国調査と比較して高かった.当院では冠動脈障害発症予防の観点から,再発熱症例に対し積極的にIVIG追加投与を行っており,結果として冠動脈後遺症の発症を抑えることができているが,これらのなかには追加治療が不要であったと考えられる症例も含まれていた.IVIG投与終了後に一過性の再発熱を認めることはしばしば経験するが,不応例として治療した症例の中で,IVIG後いったん解熱(腋窩温で37.5度未満が24時間以上)した後,再び一過性に37.5度以上の発熱が見られるものの,発熱以外の主要症状は改善傾向にあった症例について再検討すると,5%製剤で5例,10%製剤で6例が該当していた.これらの症例では,追加IVIG開始直後に解熱した後,一貫して解熱を維持しており,追加治療が不要であった可能性が高い.同様の一過性発熱について述べた廣田ら9)
や灘ら10)
の報告でも,追加治療を行わずに自然解熱し,冠動脈後遺症の発生も認めなかったと報告されている.これらの症例を初回IVIG有効例であったとすると,初回IVIG不応例の割合は5%製剤で25%,10%製剤で23%となり,全国調査の成績と比較して極端に不応例の割合が多い結果にはならないと考えられた.
今回不応例の定義は,初回IVIG終了後24時間以内に37.5度未満に解熱しない例と,24時間以降に再度37.5度以上の発熱を認めた例とした.AHAのガイドライン2)では,「初回IVIG投与終了後,少なくとも36時間以内に解熱しない例と,7日未満の内に再発熱を認めた例をIVIG抵抗例とする.」と定義されている.一方,日本の川崎病急性期治療ガイドライン(平成24年改訂版)1)
では,初期治療の項において,「おおむね80%近くはIVIG終了後48時間以内に37.5度未満に解熱する.残りがIVIG不応例であり,これらの症例に対してどのような追加治療を選択するかがCAA合併阻止の鍵を握る.」と記載されているが,初期治療不応例への治療選択の項では,「IVIG投与後24時間でも解熱しない,または再発熱が認められた場合,いくつかの治療選択肢がある.」とも記載されており,統一した基準がないのが現状である.このようななかで,我々は不応例の定義をIVIG投与終了後24時間での発熱の有無としてきた.こちらの定義については,川崎病急性期治療ガイドラインの川崎病急性期治療のアルゴリズムに記載されており,さらにRAISE study11)の治療抵抗例の定義でも採用されていることから,日本において広く受け入れられた定義であると考える.今回10%製剤への変更に当たり,不応例の定義はこれまでと同様とした.不応例の比較にあたり,投与開始から一定時間(例えば48時間)で比較する方法もあるが,10%製剤の最大の特徴である投与時間短縮のメリットが活かされず,不応例に対する追加治療を早く始められる可能性について検討できないため採用しなかった.ただし,日本の不応例の定義は5%製剤の下で考えられたものであり,投与時間が半分に短縮されうる10%製剤における不応例の定義が従来どおりでよいのかは慎重な検討が必要と考える.
IVIG投与速度については,川崎病急性期治療のガイドライン1)
のなかで12~24時間の投与が推奨されている.当院ではIVIG投与を最大投与速度近くまで増量しており,投与時間は5%製剤で15時間,10%製剤で7.4時間であった.添付文書上の推奨投与時間は,5%製剤で12時間以上,10%製剤で6時間以上とされており,標準どおりの投与方法で実施されていた.10%製剤は容量が半分になっているが投与速度については5%製剤と同じ速度で投与できるため,投与時間が半分に短縮されていた.IVIG投与中は通常より頻回のバイタル測定が必要であり,患者安静の面からは負担を強いている.また看護の面からも,IVIG投与中は患者のバイタル変動に注意する必要があるため看護側の負担も大きい.IVIG投与時間の短縮は,患者・看護両方の負担の軽減に大きく寄与すると考えられる.ただし,24時間かけて投与する場合に比べると容量負荷の面で懸念があるため,IVIG投与前後における収縮期血圧の変化率を検討した.すると,両群共に投与後に血圧が低下していたが,5%製剤のほうが有意に低下する形となっており,当院の投与方法でも容量負荷の懸念はあまりないと考えられた.また小林スコア5点以上の症例に限って検討しても,こちらも両群共に投与後に血圧が低下していたが,2群間に有意差を認めなかった(−3.8 vs −3.9%,p=0.897).ただし,今回の症例の中には治療開始前に左室駆出率が50%を下回るような症例は含まれていない.心不全症例に対しては,容量負荷の軽減は重要であり,10%製剤は容量負荷の点からもメリットが大きい.
副作用については,今回の検討では5%製剤と10%製剤で差を認めなかった.投与速度が速いと起こりやすいとされるアナフィラキシーやショック様症状などの重篤な副作用も認めなかった.Odaらの報告4)においても,同様に副作用に差を認めていない.また製造販売後の使用成績調査3)
で報告された重篤な副作用2件については,製剤との因果関係は低いと報告されており,安全性に大きな問題は認めていない.
本研究の限界としては以下のことが挙げられる.
今回の報告は1施設の少数例における後方視的検討であるため,特にIVIG不応症例数が少なくなった.不応例のなかには,いわゆるくすぶり型でIVIG追加投与のタイミングが遅れた症例も含まれており,IVIG投与時間のばらつきの影響を受けやすい結果となった.また,勤務体制の問題からIVIG投与は原則日勤帯に行っているため,不応例に対する追加治療のタイミングに影響を与えた可能性を否定できない.ただしこちらについては,IVIG不応例において再発熱から追加投与までの時間に2群間で有意差を認めなかった(中央値6.6 vs 6.9時間,p=0.616)ことから,限定的と考えられる.
今後10%製剤の使用頻度が増加することが予想されるなか,これまで積み上げられた知見はすべて5%製剤を使用したものであり,川崎病急性期治療ガイドライン1)
にも10%製剤に対する記載はない.詳細な検討には,今後多施設における多数例による前方視的検討が必要である.
免疫グロブリン10%製剤は,従来の5%製剤と比較して川崎病に対する治療効果・安全性に差は認めなかった.10%製剤による治療は,投与時間の短縮や輸液量減量による患者負担の軽減に寄与する.さらに,不応例に対する追加治療を早期に実施できることで,今後CALの発症率軽減に寄与する可能性もある.
本稿について,日本小児循環器学会の定める利益相反に関する開示事項はありません.
美馬隆宏は論文の構想,デザイン,データ収集・分析および解釈,論文作成において貢献した.
石塚潤・樋口嘉久は論文作成に関する批判的校閲に関与した.
本論文の要旨は,第55回日本小児循環器学会学術集会(2019年6月,札幌)において報告した.
1) 佐地 勉,鮎澤 衛,三浦 大,ほか:川崎病急性期治療のガイドライン(平成24年改訂版)日小児循環器会誌2012; 28(Suppl 3): s1–s28
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3) 一般社団法人日本血液製剤機構:日赤ポリグロビンN10%使用成績調査https://www.jbpo.or.jp/med/di/file/c67fb5ace3d56a373e114acf66f0da05/(2020年3月16日閲覧)
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7) 屋代真弓,牧野伸子,中村好一,ほか:第24回川崎病全国調査成績.特定非営利活動法人日本川崎病研究センター 川崎病全国調査担当グループ2017
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9) 廣田篤史,冨田安彦,坂口恵美,ほか:いわゆるリバウンド熱を来した症例の検討.Progress in Medicine 2009; 29: 1695–1700
10) 灘 大志,佐藤厚夫,津久井理絵,ほか:川崎病における免疫グロブリン療法後のリバウンド熱に対する管理指針の提案.小児感染免疫2016; 28: 139–143
11) Kobayashi T, Saji T, Otani T, et al: RAISE study group investigators: Efficacy of immunoglobulin plus prednisolone for prevention of coronary artery abnormalities in severe Kawasaki disease (RAISE study): A randomized, open-label, blinded-endpoints trial. Lancet 2012; 379: 1613–1620
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