カンファレンス力をアップ—先天性心疾患各論—: 内科医が外科医に求めること
国立循環器病研究センター小児循環器内科
小児循環器の診療において,心臓血管外科と循環器科が分け隔てなく患者の治療方針について話し合うカンファレンスは非常に大切である.エビデンスが出にくく,正しい答えが必ずしも1つとは限らないこの分野において,患者を最善の結果に導くためのチーム医療を実現するためには,話し合いをするしかないのである.そのカンファレンスの質が保たれず,多忙を極める医師が漫然と集まっているようではいけない.また,人間はつねに様々な認知バイアスによって判断を歪められていることを認識する必要がある.意識的に効率的かつ効果的なカンファレンスを行い,外科医と内科医が協調して治療にあたることは,将来の心臓病の子ども達のより良い予後につながることが期待される.
Key words: joint conference; behavioral economics; heuristics; bias
© 2020 特定非営利活動法人日本小児循環器学会
小児循環器患者の治療は,自分一人の力でどうにかするものではない.近年,医療の高度化や複雑化が進む一方で,医療の質や安全性の向上が求められており,高い専門性を持ったスタッフが目的と情報を共有し,互いに連携して医療を提供するチーム医療が,必須となっている.医療の質を改善させるためにはコミュニケーション,情報の共有化,チームマネジメントが重要なポイントとされるが,カンファレンスはそのためにとても大切な手段である.
医療におけるカンファレンスとは一般的に情報共有,議論,意思決定を目的とし,具体的には個々の患者に対する治療方針について,分野の枠を超えて検討する会議を指す.心臓血管外科と小児循環器科が一堂に会して患者さんの治療方針について話し合われる外科カンファレンス,術前カンファレンスや,内科カンファレンス,M&M(死亡症例検討会),カテーテルカンファレンスや,パフォーマンス回診など様々なものが存在する.1週間のうち,外来,病棟業務や手術などに負けず劣らず時間を割いているのがこのカンファレンスであろう.その集まりは果たして対価に見合う有意義なものになっているだろうか.カンファレンスでの決定事項は正解に近いものにできているだろうか.
ここでは,主に心臓血管外科と小児循環器科が集って話し合うカンファレンスに関して,その質について考え,われわれが陥りやすい判断の誤りを知ることを通して,患者にとって最善の選択をするために,一人一人が心がけることは何かを考えてみたい.
以下のような症例が入院になったとする.日齢1男児.予定帝王切開にて在胎38週0日,体重2,490 g, APGAR 7/8で出生した.NICU入院時バイタルは血圧66/38 mmHg(上下肢差なし),HR 150 bpm, SpO2 85%(上下肢差なし),呼吸数70回/分であった.経胸壁心エコーにて,左心低形成症候群,卵円孔狭窄と診断し,プロスタグランジンE1を5 ng/kg/minで開始した.
さて,次に何を計画するだろうか.①Norwood術,②両側肺動脈絞扼術(bil PAB),③経皮的心房中隔裂開術(BAS),④一酸化窒素を始めて経過観察,⑤近隣の専門センターに紹介.誰もがこれだと思う方針があるだろう.小児循環器学会の講義でこの質問をしたところ,聴衆の約半数が②,20%が③または④,残りは①か⑤であった.国内の施設から参加する若手の循環器専門医師,という比較的画一的な集団の中でもばらつきを認めた.この例から示唆されるのは「1つの病態に対する答えは必ずしも1つでかつ一致するとは限らない」ということである.だからといって,この患者に①から⑤まですべての選択肢を試すことは不可能である.したがって,われわれは限られた時間の中でチームとして話し合いをしたうえで何らかの決断を下し,患者に提示しなくてはならない.
上の例のみならず,先天性心疾患の診療はその性質から話し合いが必要な分野である理由を以下に示す1).
第一に,病気が多種多様で患者の数が少ない.そのため客観性の高い大規模な臨床試験を行うことは難しく,エビデンスが出にくい.例えば2012年に小児循環器学会より発行された小児カテーテル治療の適応ガイドラインにおいて,複数のランダム化コントロール試験やメタアナリシスで証明されている適応と手技(Level A)は重症肺動脈弁狭窄に対する経皮的弁形成術1項目のみで,半数近い項目がLevel Cつまり,専門家の意見が一致している,という前提による推奨にのみ止まっている2)
(Table 1).現在,小児循環器領域でもデータベース化が起こっているが,成人循環器のように疾患の類似性が高く,患者の数も多い分野には遠く及ばない.
クラス | ||||||
---|---|---|---|---|---|---|
I | IIa | Iib | III | |||
カテーテル治療が有用と広く考えられている | エビデンスや見解から有用である可能性が高い | エビデンスや見解から有用性はそれほど確立してない | カテーテル治療が有害であると広く考えられている | |||
レベル | A | 複数の無作為介入臨床試験,またはメタアナリシスで実証されたデータ | 1 | 0 | 0 | 0 |
B | 1つの無作為介入臨床試験,または否無作為介入試験(比較試験,コホートなど)で実証されたデータ | 15 | 13 | 5 | 5 | |
C | 専門医の意見の意見が一致しているもの,症例報告があるもの,または標準的治療 | 12 | 12 | 21 | 15 | |
記載なし | 3 | 6 | 7 | 1 |
第二に医学は日進月歩であり,かつての常識が今の非常識ということがある.とりわけ,この30年の先天性心疾患医療の発展は目まぐるしく,手術で複雑性心疾患が修復できたり,カテーテルで心内短絡病変を閉鎖できたり,弁置換が行えるようになったりと,これまで想像もできなかったような状況が現実となっている.つまり時間をかけて数が集まり,ようやくエビデンスらしきものができ始めた時点ですでにもっと有効で画期的な治療法が開発されている,ということも起こりえてしまう.
第三に教科書に引用されるような論文を発表している施設はたいてい世界の中でも名だたる大センターであり,そこで出されているデータが他のすべての施設で当てはまるとは限らないということである.特に術後成績はその限られた外科医の成績であることも多く,全く同じ成績を他の外科医が達成できるとは限らない.施設によりスタッフの人数や研修医の数,症例数は様々で,体制や設備も異なり,ある病院での答えが,他の病院に当てはまらないことなどは往々にして存在する.そのような差は多かれ少なかれ患者の予後に影響しうるため3),その施設ごとで可能な最善の選択肢の検討が必要となる.
以上により,教科書やガイドラインの踏襲,他施設を参考にするのみでは治療方針を決定することができないことが多く,各自チームで話し合いをすることが必須となる.
問題に対する答えは必ずしも一つとは限らない.
小児循環器分野において永続的で汎用性のあるエビデンスはない.
したがって,チームによる話し合いで治療方針を決定しなくてはならない.
チームでの議論,検討は建設的に行われているだろうか? その会が本当に意義あるものにできているのかどうか,ぜひ今一度考えてみてほしい(Table 2).
参加者 | |
---|---|
出席者は必要十分か | □ |
参加者は意見を言えているか | □ |
症例提示の準備は万全か | □ |
全員が討議に集中しているか | □ |
役割分担 | |
司会者がいるか | □ |
書記はいるか | □ |
タイムキーパーはいるか | □ |
目的 | |
明確な目標があるか | □ |
話が逸れていないか | □ |
費用対効果 | |
会議が始まる時間は適切か | □ |
会議の長さは適切か | □ |
時間通りに始まっているか | □ |
時間通りに終わっているか | □ |
環境・設備 | |
PHSが鳴り続けていないか | □ |
画像の質は保たれているか(読影がなされているか) | □ |
部屋の明かりは調節されているか | □ |
声の大きさは適切か | □ |
結果 | |
網羅的な意見のやりとりがあったか | □ |
明確な方針ができているか | □ |
目的は達成されているか | □ |
討議の内容が治療に反映されたか | □ |
過不足ないのがよい.小児循環器科医(外来主治医,入院担当医)と担当する小児心臓血管外科医は最低限として,ただ全員集まればよいわけではないだろう.実際,参加する人数とその場で発言する人数,参加する人数と彼らの満足度,などは必ずしも相関していないことも多い.逆に,症例によっては,心臓麻酔科医,新生児科医,小児外科医,成人循環器科医など多領域チームが参加することによってより安全な決断に至ることができるかもしれない.また,非常に重篤,あるいは慢性期の患者においては,医師だけでなく看護師,臨床工学士,理学療法士などパラメディカルも加わった多領域カンファレンスを行い,患者やその家族の意向がきちんと反映される検討がなされなくてはならない.
出席者はそのカンファレンスで話される討議に積極的に参加すべきである.PHSがけたたましく鳴り響き,話を妨害されることは多々ある.できるだけその時間は病棟からの不要なコールを控えてもらうことも大切である.また,昨今スマホで世界といつでもつながることができるが,会議室の参加者とつながらずに,外の人間とばかりつながっている人はいないだろうか.
効率的な会議にはいわゆる司会者,タイムキーパー,書記が任されており,他の出席者はなぜ自分はこの会議に参加しているかを自覚している.しかし,医療カンファレンスではなんとなく人が集まり,各々症例を提示し,すべての討議が終わったらなんとなく終了となることが多いのではないか.しばしば論点を見失った討議がなされる,時間内に終わることが稀有(そもそも時間という観念がない),という施設では討議の方向性がずれないように軌道修正する係,時間調整役などを作ってみてはどうだろう.
またカンファレンスにおいて,発言者が毎回同じということもしばしば見かける光景である.単純な疾患においてはそれが効率的でよいのかもしれないが,固定した考え方は後に述べるバイアスの一因となりうるため,時には司会者がファシリテーターとして,最も患者と接している研修医や担当看護師などに活発な議論を促す必要がある.そして,参加者はそれぞれ出席している意味を考え,決して発言をためらってはいけない.
PDCAサイクルとは1950年代,W・エドワーズ・デミングが提唱した考え方で,Plan(計画)→Do(実行)→Check(評価)→Act(改善)を意識的に回す(検討していく)ことによって,継続的に品質改善を図っていくものである(Fig. 1).例えば,最初に提示した左心低形成症候群の患者に対し,BASを行ってからbil PABを行うこと計画し(Plan),生後1日でBAS,翌日にbil PABを行ったとする(Do).しかし,卵円孔狭窄はBASのみでは十分に解除できず,左房圧が下がりきらなかった.このアウトカムを評価し(Check),外科的な拡大術を行う(Act 1).また,次回からは同様の症例に対し,bil PAB時に欠損孔を外科的に拡大する,卵円孔にステントを挿入する,一期的Norwood術を目指すなどの対策を立てる(Act 2).そして次の症例でPlanをする…と回旋しながら改善させていくことである.
カンファレンスは主にPlan-Doに重点をおいているが,定期的にCheck-Actをすべきである.カナダのトロント小児病院では毎週心臓外科主体のパフォーマンス回診があり,その週に行った手術について,その後どのような経過をたどっているかについて話し合う時間があった.また,1か月に1回死亡症例検討会があり,死亡症例,手術やカテーテル治療の合併症について話し合われ,改善すべき点があったか,例えば病棟での急変,横隔神経麻痺や創部感染がどの頻度で発生しているのか,傾向はどうなのか評価され,次の月までに改善に向けて対処をするよう求められていた.反省がなければ同じミスを繰り返し,患者さんに害を与え続ける医療集団になりかねない.治療行為の振り返りは治療の計画と同等に必須項目である.
「会議は踊る,されど進まず」という風刺が1814年のウィーン会議であったくらいであるから,いつの時代でも人と人が納得する結論を話し合いで導き出すということは難しいのだろう.しかし,多くの人間が一堂に会する時間はできるかぎり効率よく使われるべきである.ある日本のアンケートをもとにした試算では1,500人規模の企業で無駄な会議によって年間約2億円の損失額を被っているそうだ4)
.多くの合同カンファレンスは夕方,多くの人の仕事が終わってから行われることが多い印象がある.全員が疲れている時間に話し合う内容はどのくらいの精度が保証されているのだろうか.ぜひ一度参加人数×時間×時間外手当でいくらかかっているか計算していただきたい.働き方改革が叫ばれている今,積極的に向かい合うべき問題だと思われる.
われわれの症例はたいてい画像を見ながら話し合われる.この画像の質は最適化されるか,しっかり読影されていなくてはならない(参加者全員が画像を見ていて所見を見逃していることも時に生じる).また,部屋が明るいと画像が見にくいが,部屋が暗いと疲れている若手医師は軒並み船を漕ぎだすことになる.ずっと暗い部屋にしておくよりも,話し合うときには明るくするといった工夫も可能である.
議論している内容がそこに参加している人たち全員に聞こえているだろうか? マイクを準備できればよいが,スクリーンに向かって全員が前を向いて話すのではなく,発表者が向く方向を変えたりするだけでもかなり違ってくるであろう.カンファレンスの内容によっては机や椅子の配置を変えて,お互いの顔と目を見て話し合うほうが意見の一致を得られやすいこともある.
冒頭にも述べたが,カンファレンスの目的は情報共有,議論,チームの意思決定・統一である.一方的な情報の共有であれば,症例のリストをメールで回せばいいだけである.複数の人間がわざわざ時間を作って集まるのだから,議論がなければ意味がない.また一度で方針が決まらなかったり,データが足りずに再度集まったりすることはある.さらに,方針が決定したものの一晩のうちに患者の状態が変わり,転換を迫られることもよくある.しかし,方向性をきちんと一致させ,そこに向かってチームとして進むための合意を得るのがカンファレンスである.全体で話し合っておきながら,部屋を出た瞬間から個人行動に走っているメンバーはいないだろうか.
マンネリ化したカンファレンスは時間の無駄である.
少しの工夫が効率的かつ効果的なカンファレンスにつながる.
小児循環器科の診療では,エビデンスに頼る部分の方が少なく,基本的には経験則で判断せざるをえないことを最初に述べた.その経験と知識を元に,われわれは様々な選択を行っていくわけだが,残念なことに人間は必ずしも合理的な正しい判断をするとは限らない.人の認知,判断は実に多くのバイアスが伴っており,われわれは常にその歪みの影響を受けながら一つ一つの選択を行っていることを自覚すべきである5, 6).どれだけ正しい知識や様々な経験があっても,判断を誤る可能性がある.逆に,自分たちの考え方の傾向や歪みの実態を知り,自らの判断やチームの判断の偏りを客観的に評価できれば,より正しい答えに到達できるかもしれない.近年,行動経済学を医療の分野に取り入れ,患者や医者の意思決定の傾向を探ることが行われているが5, 7)
,ここでいくつかその代表的なものを紹介したい(Fig. 2).
人の趣向は様々である.専門分野が違えば基本的な考え方も異なる.同じ科の医師でも知識,経験,価値観,信念や信仰は人それぞれだろう.また,自分が主治医や担当医,執刀医であるのと,そうでないのとでは患者に対する思いは違う.どちらが優れており,どちらが劣っているというのではなく,異なる意見の存在を認めることが大切である.また,その日の体調や情緒の状態,後に控えている用事の有無などで,個人の考え方も先週と今週で異なる可能性がある.自分の今日の発言に,明日,1年後きちんと責任は持てるだろうか.
ここでいうヒエラルキーとは序列,上下関係のことである.1977年スペインのテネリフェ空港でKLM航空とパンナム航空のジャンボジェット機が衝突し,583人が死亡するという航空史上最悪の事故が起こった.この事故は決して経験の浅いパイロットの操作ミスで起こったわけではない.それどころかKLMの機長は社内でも最上級の操縦士でありチーフトレーナーであった.しかし彼は,同僚の機関士が滑走路に他機が存在する可能性を何度も伝えたにもかかわらず,耳を貸さなかった.機関士(部下)は機長(上官)の言うことに対し強く反論できないまま,多くの客が乗った機体はそのままパンナム機に衝突し,両機体は無残にも壊れ炎上した.このように上官の過誤を正すことができずに重大な事故につながった事例は他にもあり,航空界はヒエラルキー文化を徹底的に排除するように動いた.
さて,医療界ではどうだろうか.日本において,今でも外科医が主人公でヒエラルキー色の強い病院を舞台とした医療ドラマが高視聴率を獲得しているが,あながち虚構ばかりではないだろう.医療者のコミュニケーションエラーは患者の安全性を脅かす8).今後“失敗しない”医療を実現したければ,誰もが自分の考えを表出できる風通しの良い雰囲気作りを,今から始めるべきである.
単心室,重症房室弁逆流,肺動脈閉鎖症,総肺静脈還流異常症,肺静脈狭窄の3か月の患者に,生後早期に手術を行い,BTシャント術を行ったが術後ショックとなって補助循環を要した.その際腎不全を合併し,腹膜透析を行っていたが,壊死性腸炎からの敗血症を合併し小腸ストーマを造設したため,人工透析ができなくなった.水分管理ができず,房室弁逆流が悪化し,内科的には心不全コントロールできなくなった.
このような症例がカンファレンスにあがったらどうするだろうか.
従来の医療の方針は往々にして進め,進め,進め,であった.これまでに費やしてきた回収できない時間,費用を無駄にすべきではない,ここまでやってきたのだから最後まで続けたい,というのがこのバイアスの特徴である.ここでは,本当に進むことがよいのか,それは何に向かって進んでいるのか,誰のために進んでいるのか,冷静な視点を持つことが大切である.
人は変化を好まず,安定を望む傾向にある.未知なる事物を受け入れるよりも,現状のままを維持したいという選択をしがちである.われわれが行う治療や処置には必ずリスクを伴う.例えば,診断カテーテルのみであっても搬送,鎮静や造影剤,カテーテルの刺激により患者の状態が急激に悪化することがある.前述したように,進めだけが答えではない.しかし,改善が期待できる機会を逃がしては,患者の状態悪化や死につながることもある.これは患者一人の治療方針のみに限定されるものではない.現状維持は衰退であると松下幸之助やウォルトディズニーは言った.物事の好転のためにはプロトコルやシステム,人間関係すら変化させる勇気が時には必要であり,自分の選択に伴うリスクベネフィットの天秤は常にアクティブにしておかなくてはならない.
われわれはカンファレンスにおいて多くの患者さんの病歴や検査所見を聞き,今後の方針について検討するが,1例1例に割り当てられる時間は限られており,短時間で次から次へと答えを出していかなくてはならない.この際,無意識に行われているのが,ヒューリスティックスという考え方である.ヒューリスティックスとは,いわゆる直感的な意思決定方法のことであり,これまでの経験を踏まえて,短時間で正解に近い答えを得ることができる.これは様々な事象を合わせることにより未知の問いにも対応できるというメリットがある一方で,答えの精度は保証されていない9).このヒューリスティックスの反対語はAI(人工知能)に必要とされるアルゴリズムであり,情報を可能な限り収集したうえで合理的な結論を導き出す方法である.これは精度が高い反面,時間がかかる.さらに未知の事柄への対応は困難であるといった欠点がある.ヒューリスティックスの精度に及ぼす原因の一つはバイアスであり,可用性バイアス,代表性バイアス,確信バイアス,アンカリング効果などが含まれる5)(Table 3).様々な議論の中で直感的な答えが頭に浮かんだとしても,一度立ち止まって考えるのがよい.
種類 | 内容 | 例 |
---|---|---|
可用性バイアス | 想起されやすい出来事(印象的な記憶,最近の記憶)に引っ張られる | 術後7日目に発症したMRSA敗血症で患者を亡くしたため,術後の抗生物質はバンコマイシンを必ず10日間投与することにした. |
代表性バイアス | 物事の一部で全てを表していると思い込み,異なる点を軽視または無視すること | 患者がグレン術後に合併症を起こしたが,左心低形成症候群だからやむを得ないと考える. |
アンカリング効果 | 最初に入る情報にとらわれて,その後に続く情報が入らないこと | ワーファリンを飲んでいなかったフォンタン術後の患者が脳梗塞を起こした,と聞いて,抗凝固療法を行わなかったことがいけないと判断する. |
確信バイアス | 自分の考えが正しいと信じ,それを支持する情報ばかりを集めようとする | フォンタン術後の低アルブミン血症に対し,蛋白漏出性胃腸症のワークアップをたくさん行った結果,タンパク尿・ネフローゼ症候群を見落とす. |
極端回避性 | 上・中・下では中を選びやすい | 抗生物質の投与量は1日100~200 mg/kgと記載されていたため,150 mg/kgとなるよう指示を出す. |
個人の判断は客観性に欠けがちである.
バイアスを予防するためにはまずバイアスの存在を知る必要がある.
かつて心臓を治すのは外科の独壇場であった.外科医が麻酔をし,ポンプを回し,手術をし,術後管理を行い,外来で経過を診ていた.しかし,近年は専門化が進み,一人ですべての分野の最先端の技術と知識を備えて,患者に還元することはもはや不可能となった.一方,内科医も他力本願のままであってはいけない.診断ツールは飛躍的に進歩しており,外科医が必要な情報を術前に十分に備えさせることが要求される.また様々な病変がカテーテルと手術により多角的に治療可能になっている.現代の医療において,チームでのアプローチは欠かせず,コミュニケーションの重要性は増す一方である.
日本における先天性心疾患術後の院内死亡率は4.5%であり,心臓術後の心不全による死亡は決して低いとは言えない10).患者が悪くなるのは何がいけないのか,専門の垣根を越え,バイアスを外し,お互い腹を割って議論すべきである.そこから学んで,さらに良い状態にするためには何が必要なのか,チームの一員として責任を持ち,有機的につながることが大切である.低侵襲化,術後合併症,遠隔期成績,などあらゆる点でまだまだ改善の余地があるはずだ.
チームと聞いて記憶に新しいのは,2019年のラグビーW杯であろう.トライを得るために選手が一人一人役割を持ち,全力で走り,タックルをし,パスを回していた.ボールが進んでは押し戻される様子を,息を呑んで見守った人たちは多かったのではないか.日本代表はONE TEAMというスローガンのもと史上最高のベスト8を達成した.
どんなスポーツでもミスが少ないチームが強いという.医療においてもそうであろう.しかし,人は完璧ではない.人間であるがゆえにミスをするのである11)
.したがって,われわれは常に謙虚であり続けなくてはならず,しばしば他人の助けを必要とする一方で,時には仲間を戒め,そして許さなくてはならない.
“美しい調和”を意味する令和の時代が始まった.目指すは暗黙の了解の中での予定調和ではない.チーム内の活発なコミュニケーションと,積極的な切磋琢磨により,医療における本当の調和・ONE TEAMを実現し,さらに多くの患者を助ける時代を作っていこうではないか.
本稿について,申告すべき利益相反(COI)はありません.
1) Duignan S, Ryan A, O’Keeffe D, et al: Prospective analysis of decision making during joint cardiology cardiothoracic conference in treatment of 107 consecutive children with congenital heart disease. Pediatr Cardiol 2018; 39: 1330–1338
2) 先天性および小児期発症心疾患に対するカテーテル治療の適応ガイドライン作成委員会:先天性および小児期発症心疾患に対するカテーテル治療の適応ガイドライン.日小児循環器会誌2012; 18: s1–40
3) Carayon P, Schoofs Hundt A, Karsh BT, et al: Work system design for patient safety: The SEIPS model. Qual Saf Health Care 2006; 15 Suppl 1: 50–58
4) パーソル総合研究所・中原 淳:長時間労働に関する実態調査(第一回・第二回共通).https://rc.persol-group.co.jp/column-report/201812130003.html
5) Ryan A, Duignan S, Kenny D, et al: Decision making in paediatric cardiology: Are we prone to heuristics, biases and traps? Pediatr Cardiol 2018; 39: 160–167
6) Scott IA: Errors in clinical reasoning: Causes and remedial strategies. BMJ 2009; 338 jun08 2: b1860
7) 大竹文雄,平井 啓:医療現場の行動経済学—すれ違う医者と患者—.東京,東洋経済新報社,2018
8) Bognar A, Barach P, Johnson JK, et al: Errors and the burden of errors: Attitudes, perceptions, and the culture of safety in pediatric cardiac surgical teams. Ann Thorac Surg 2008; 85: 1374–1381
9) Tversky A, Kahneman D: Judgment under uncertainty: Heuristics and biases. Science 1974; 185: 1124–1131
10) Hoashi T, Miyata H, Murakami A, et al: The current trends of mortality following congenital heart surgery: The Japan Congenital Cardiovascular Surgery Database. Interact Cardiovasc Thorac Surg 2015; 21: 151–156
11) Kohn LT, Corrigan JM, Donaldson MS (ed): Committee on Quality of Healthcare in America Institute of Medicine. Washington D.C. National Academy Press, 1999
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