Online ISSN: 2187-2988 Print ISSN: 0911-1794
特定非営利活動法人日本小児循環器学会 Japanese Society of Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery
Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery 35(4): 271-276 (2019)
doi:10.9794/jspccs.35.271

原著Original

先天性心疾患を有する18トリソミー児に対する姑息術が在宅移行へ与える効果Effects of Palliative Surgery on Children with Congenital Heart Disease Due to Trisomy 18 to Promote Transition to the Home Environment

1岐阜県総合医療センター小児循環器内科Department of Pediatric Cardiology, Gifu Prefectural General Medical Center ◇ Gifu, Japan

2岐阜県総合医療センター小児心臓外科Department of Pediatric Cardiac Surgery, Gifu Prefectural General Medical Center ◇ Gifu, Japan

受付日:2019年3月29日Received: March 29, 2019
受理日:2019年7月12日Accepted: July 12, 2019
発行日:2019年11月1日Published: November 1, 2019
HTMLPDFEPUB3

背景:18トリソミー児の先天性心疾患に対しては現時点で明確な治療指針が定まっていない.当施設では,手術介入が在宅移行にあたって不可欠で両親の介入希望がある場合のみ姑息術に限って行う方針としている.

方法:2010年1月~2016年9月に当科で診察した17例を対象として,姑息術の有無が在宅移行へ与える効果について後方視的に検討した.在宅移行にあたり手術介入を行った例(I群=5例)と行わなかった例(N群=12例)に分類し,2群間で比較した.

結果:2017年8月末時点で,生存日数の中央値はI群427日,N群255日であった(p=0.1168).院内死亡例はI群1例,N群5例で,在宅期間(=死亡日齢−退院日齢)の中央値はI群647日,N群72日であった(p=0.0495).

結論:在宅移行に向け姑息術を行うことで生存日数および在宅期間を延長し,児と家族が一緒に過ごせる期間を長くできる可能性がある.

Background: For children with congenital heart disease (CHD) resulting from trisomy 18, we do not perform intracardiac repair; instead, we opt for palliative surgery when their parents wish to proceed with surgical intervention.

Methods: From hospital medical records, we retrospectively identified 17 patients whose attending physicians had consulted our department between January 2010 and September 2016. We classified patients into two groups: those who required surgical intervention for CHD to promote transition to the home environment and who underwent surgery with parental consent (Group I: 5 patients), and those who did not require surgical intervention for CHD and did not undergo surgery (Group N: 12 patients). We compared the ease of transition to life in the patient’s own home between Group I and Group N.

Results: The median survival of the patients was 427 days in Group I and 173.5 days in Group N (p=0.0534). The median number of days spent in the patients’ own homes was 647 days in Group I and 72 days in Group N (p=0.0495).

Conclusion: Palliative surgery for CHD in patients with trisomy 18 extended the period of time that patients and their families could spend together in the home environment following hospital discharge.

Key words: trisomy 18; congenital heart disease; cardiac surgery; hospital discharge; prognosis

緒言

18トリソミーは3,500~8,500出生に対し1人の割合で出生する染色体異常であり1),厳しい生命予後と生存児における重度の発達遅滞のため,積極的な治療介入が控えられてきたという歴史がある.しかし近年,心臓手術を含む外科治療など積極的な治療介入を行った国内外の症例が集積されつつあり,18トリソミーであるという理由だけで一律に治療を差し控えるという従来の方針にも変化がみられる.ただしCHDに対する治療方針,特に心臓手術については,児に与える影響についての評価がまだ定まっていない.2015年に日本小児循環器学会心血管疾患の遺伝子疫学委員会で学会評議員307名を対象として行われた「無侵襲的出生前遺伝学的調査(NIPT)と13, 18, 21トリソミーの心疾患治療の現状についてのアンケート」においても,「姑息手術まで行う」,「心内修復術まで行う」など,現状でも各施設で意見が分かれていることが示された.当院においては,当院における適応条件を満たした症例に対してのみ,姑息手術に限って行う方針としている.当院は循環器基幹施設かつ総合周産期母子医療センターであり,県内外から心疾患をもつ胎児・新生児が他院の産科・小児(新生児)科より搬送・紹介されるという特性をもつ.そのなかで当科は,周産期における循環器診療の核となり,児が自宅へと退院し家族とともに大切な時間を過ごせるように支えるチームの中心的役割を担っている.このような背景のなかで,今回われわれは,当院の治療方針が在宅移行へ与える効果について検討した.

対象・方法

2010年1月~2016年9月の間に,当科で診察をした18トリソミー児17症例を対象とし,2017年8月末日時点までのカルテ記載を基に経過と現在の状況について検討した.また他院でフォローアップされている症例については,必要に応じフォローアップ先の小児科医に連絡し回答を得た.

検討にあたり,17症例を分類した(Fig. 1).当院においては,①倫理的側面にも配慮し,手術介入を行うことが在宅移行に当たって不可欠であること,②両親が心臓手術のリスクを理解したうえで治療介入の希望があることの2つの条件を満たした場合のみ,姑息手術を行う方針としている.17症例中,上記を満たした5症例に対して手術を実施していた.今回の検討においては,姑息術を実施した5例を手術群(I群),手術を行わなかった12例を非手術群(N群)として2群間で比較を行った.なお,当院の症例では,N群において,姑息術の有用性が期待されるが家族の希望がなく手術を行わなかったケースは1例もなかった.

Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery 35(4): 271-276 (2019)

Fig. 1 Classification of the cases

結果

検討を行った17症例の概要についてTable 1に示す.

Table 1 Details of patients with trisomy 18
CaseSexGA(w-d)BW(g)PrenataldiagnosisBirth atour hospitalVentilation(At birth→At discharge)CHDOperation method(Age at operation; days)Dischargeto homeAge at discharge(days)Age at death(days)Cause of death
Group N1M26-5549YesMV→(Deceased)DORVNo (Deceased)(32)32Digestive disease
2F34-01094YesMV→noneCoA, VSD, PDAYes206255RF/HF
3M36-21292YesMV→(Deceased)VSDNo (Deceased)(2)2RF/HF
4F36-41339YesMV→(Deceased)DORVNo (Deceased)(197)197RF/HF
5F37-61628YesMV→CPAPDORV, ASD, PDAYes170Alive (415)
6F38-51868YesCPAP→(Deceased)DORVNo (Deceased)(381)381RF/HF
7M37-01886YesCPAP→NoneVSD, PDAYes69295Unknown(Sudden death)
8F40-61892NoNone→NoneVSDYes1475RF/HF
9F37-21936YesMV→(Deceased)VSD, ASDNo (Deceased)(0)0RF/HF
10F40-51970YesNone→NoneDORV, PFOYes78150RF/HF
11F40-32118NoNone→NoneDORV, PDA, PFOYes264463RF/HF
12F40-52258NoNone→NoneVSD, ASDYes72144RF/HF
Group I1M34-11081YesMV→(Deceased)VSD, PDA, 4th arch IAAPAB (126)No (Deceased)(251)251RF/HF
2F37-21455NoCPAP→CPAPVSD, PDAPAB+PDA ligation (37)Yes201Alive (1311)
3F38-61647NoCPAP→CPAPDORV, mVSD, vPS, PDAPDA ligation (42)Yes113196RF/HF
4F36-51985YesNone→NoneDORV, hypoLV, hypoMV, ASD, PFOPAB (14)Yes1041043RF/HF
5F39-22030YesNone→NoneDORV, ASD, PDAPAB+PDA ligation (26)Yes70Alive(427)
GA: Gestational age at birth, BW: Body weight, CHD: Congenital heart disease, MV: Mechanical ventilation, CPAP: Continuous positive airway pressure, CoA: Coactation of the aortic arch, VSD: Ventricular septal defect, PDA: Patent ductal arteriosus, DORV: Double outlet right ventricle, ASD: Atrial septal defect, PFO: Patent foramen ovale, IAA: Interruption of the aortic arch, mVSD: Muscular ventricular septal defect, vPS: Valvular pulmonary stenosis, hypoLV: Hypoplastic left ventricle, hypoMV: Hypoplastic mitral valve, PAB: Pulmonary artery banding, RF/HF: Respiratory failure and/or heart failure

出生時の状況として,在胎週数,出生体重,性別について2群間で比較した.在胎週数,出生体重の中央値はI群が37週2日(34週5日~39週2日),1,647 g(1,081~2,030 g),N群が37週4日(26週5日~40週6日),1,877 g(549~2,258 g)と有意差は認めなかった(t検定;在胎週数:p=0.8987,出生体重:p=0.8808).性別はI群が男1名,女4名,N群が男3名,女9名であった.合併心疾患(主病名)としては,I群が両大血管右室起始3例,心室中隔欠損2例,N群が両大血管右室起始6例,心室中隔欠損5例,大動脈縮窄複合1例であり,すべての症例が肺血流増加型疾患であった.

出生前診断については,I群では5症例中3例が,N群では12症例中1例が受けていた.群間で有意差は認めないものの,I群で出生前診断例が多い傾向があった(Yate補正χ2検定;p=0.0967).

出生時の人工呼吸器の使用状況として,気管内挿管下での人工呼吸器管理を行った症例はI群では1例,N群では6例であり,経鼻持続陽圧呼吸を行った症例はI群で2例,N群で2例であった.両群間で気管内挿管下での人工呼吸器管理,経鼻持続陽圧呼吸,2つの呼吸管理を合計した人工呼吸器の使用についてそれぞれ有意差は認めなかった(Yate補正χ2検定;p=0.5456,p=0.6848,p=0.7681).I群では経過中に呼吸状態が悪化し,準緊急手術を施行され呼吸が改善した例(表中;I群症例3,4)も認めた.

以上のようなプロフィールの17症例について,2群間で生存日数を比較したところ,中央値はI群で427日(196~1,311日),N群で173.5日(0~463日)となった(Fig. 2).群間でLog-rank検定を行ったところ,p=0.0534と有意差を認めなかった.I群,N群のいずれにおいても,呼吸不全と心不全による死亡例がほとんどであった.

Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery 35(4): 271-276 (2019)

Fig. 2 Age at death

また在宅移行について比較したところ,I群では5例中4例(80%)が,N群では12例中7例(58%)が在宅療養へと移行できていた.そのうち,退院後自宅をベースとし生活できた期間(=死亡日齢−退院日齢)の中央値はI群で647日(83~1,110日),N群で72日(49~266日)となった(Fig. 3).群間でLog-rank検定を行ったところ,p=0.0495と2群間で有意差を認めた.

Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery 35(4): 271-276 (2019)

Fig. 3 Number of days spent in the home environment after discharge

考察

18トリソミーは1979~1997年の米国での調査において,1年生存率5.6%,生存期間の中央値10日,先天性心疾患(congenital heart disease; CHD)の有無は生存に影響しないようだとの報告がなされた2).しかし,2016年のカナダでの調査では,生存期間の中央値は9日とやはり短いものであったが,1年生存率12.6%,10年生存率9.8%と前述の米国での調査と比べて生存率の改善が伺える結果であった.またそのカナダでの調査では,何らかの外科手術を行った児の1年生存率は68.6%に上っており3),18トリソミーであるという理由だけで一律に外科治療を差し控えるという従来の方針は変わりつつある.

今回の研究において,退院困難で在宅移行に向け心臓の手術介入が不可欠と判断された5症例に姑息術を行うことで,4例が在宅移行可能となっていた.18トリソミーでは多くの合併奇形を有することが通常であり,先天性心疾患の状態のみで各症例の重症度を述べることはできないが,当院の手術適応から考えると,手術後在宅移行できたI群の4例は,手術をせずに在宅移行できたN群の7例と比較し,高肺血流の影響が顕在化しているという面ではより重症な状態であったと予想された.それにもかかわらず,自宅をベースとして過ごせた日数が逆に有意差をもってI群の方が長いという結果となった.本研究においては,症例数が少ないことと,両群ともにではあるが調査時点での生存例(I群2例,N群1例)が含まれていることをふまえると,観察期間の延長によっては全症例で検討した際に,生存日数にも有意差がでる可能性もあると推察された.

当院の症例では,在宅移行の際に気管内挿管下あるいは気管切開を行ったうえでの強制換気を必要とする症例はなかったものの,経鼻持続陽圧呼吸を用いながら退院となった症例はみられた(I群2例,N群1例).人工呼吸器の進歩も18トリソミー児の生存率の改善に大きく寄与していると考えられるが,どのような形で呼吸のサポートを行うにせよ在宅移行にあたっては呼吸の安定化を図ることが条件と考えられる.姑息術を行うことは,過剰な肺血流を適正な状態に近づけ呼吸状態の改善と安定化を図ることにつながり,また気道の分泌物を減らすことで感染のリスクも下げることが期待できる.さらに,今回検討した症例においては手術に関連する重大な合併症を認めていなかった.以上のような結果,姑息術を行うことで自宅をベースとして過ごせた日数や生存日数を長くすることができたのではないかと考察した.

ただし,当院に紹介される症例は,ある程度循環器的な治療介入の必要があると判断された症例が多いと考えられる.岐阜県とその周辺では,周産期医療・小児循環器医療を行う施設が限られるため,基幹施設の役割が明確となっており,他院にて「CHDを合併した18トリソミー」と診断されながらも,家族の意向で積極的な治療を希望されなかった症例や,在宅移行へ向けCHDへの介入が不要との判断が前医でなされて当院に紹介とならなかった症例が一定数存在する可能性が高い.よって,本研究の限界として,症例数が少ないというだけでなく,すでに前医において在宅移行のために心臓手術が必要と判断された症例の割合が高くなっていることが予想され,CHDへの介入が不要な群の予後が正確に反映されていない可能性がある.また,当院の手術適応は在宅移行を目標としており,長期的には必要となる可能性のある姑息術について家族に手術介入の希望があり,手術適応の判断を目的に紹介となった児においても,在宅移行にあたって必ずしも必要でないと判断して手術を行わなかったケースもあった.介入不要群に長期生存を目標として手術を行うことがよいのかどうか,在宅移行後に介入が必要と判断した場合に手術を行うことがよいのかどうかについては今回の検討からは言及できない.死因についても調査を行ったが,呼吸不全や心不全に伴う死因が多く,在宅移行後であっても姑息術での介入を考慮することは当院における今後の検討課題である.

近年,18トリソミーに対する心臓手術や長期予後などに関するデータが集積しつつある.心臓手術により生存期間や在宅移行率の改善が得られたという本邦からの報告も多い4–7).しかし一方で18トリソミー児は,合併奇形により健常児に比べ周術期におけるリスクが高い.また早期に肺閉塞性病変が進行する可能性も指摘されている8, 9).一般的に開心術は姑息術よりも麻酔・手術の難度も高く,18トリソミー児においては慎重な検討が望まれるであろう.CHDに対し手術以外の標準的な新生児治療によって高い生存率・生存退院率が得られたとする報告もなされている10).まだエビデンスの集積が望まれるところではあるが,常に情報をアップデートしつつ,症例ごとの現状を正確に把握しながら手術の適応を慎重に検討すべきであろう.2004年に日本未熟児新生児医学会より「重篤な疾患を持つ新生児の家族と医療スタッフの話し合いのガイドライン」が発表されている11).この中にもあるように,子どもの最善の利益を考えながら,家庭環境やご両親の思いなどもふまえ,十分話し合いを行ったうえで手術を含めた治療を行っていくことが重要で,基幹施設の責務であると考える.

結論

当院での,18トリソミー児に対し在宅療養の意思があり治療適応がある場合に限り心臓姑息術を行うという方針は,在宅移行が困難と考えられた症例においてもそれを実現させることを可能にし,さらには在宅をベースに家族と過ごす期間を長くすることに貢献している.このような経験や集積されるエビデンスをふまえ,今後も児とその家族に最善の医療を提供していくことが望ましい.

利益相反

日本小児循環器学会の定める利益相反に関する開示事項はない.

付記

本論文の要旨は第120回日本小児科学会学術集会(2017年4月,東京)にて発表した.

引用文献References

1) Jones KL: Trisomy 18. In Smith’s Recognizable Patterns of Human Malformation. 6th ed, Elsevier Saunders, Amsterdam, 2006, pp13–17

2) Rasmussen SA, Wong LY, Yang Q, et al: Population-based analysis of mortality in trisomy 13 and trisomy 18. Pediatr 2003; 111: 777–784

3) Nelson KE, Rosella LC, Mahant S, et al: Survival and surgical interventions for children with trisomy 13 and 18. JAMA 2016; 316: 420–428

4) Kaneko Y, Kobayashi J, Yamamoto Y, et al: Intensive cardiac management in patients with trisomy 13 or trisomy 18. Am J Med Genet A 2008; 146: 1372–1380

5) Muneuchi J, Yamamoto J, Takahashi Y, et al: Outcomes of cardiac surgery in trisomy 18 patients. Cardiol Young 2011; 21: 209–215

6) Maeda J, Yamagishi H, Furutani Y, et al: The impact of cardiac surgery in patients with trisomy 18 and 13 in Japan. Am J Med Genet A 2011; 155: 2641–2646

7) Nakai Y, Asano M, Nomura N, et al: Effectiveness of cardiac surgery in patients with trisomy 18: A single-institutional experience. Cardiol Young 2016; 26: 1391–1396

8) Van Praagh S, Truman T, Firpo A, et al: Cardiac malformations in trisomy-18: A study of 41 postmortem cases. J Am Coll Cardiol 1989; 13: 1586–1597

9) 田原昌博,真田和哉,新田哲也,ほか:肺生検組織所見,臨床所見から考える18トリソミーの管理.日小児循環器会誌2015; 31: 126–132

10) 今井祐喜,加藤太一,加藤有一,ほか:先天性心疾患の手術非介入で経過している18トリソミーの検討.日小児循環器会誌2017; 33: 312–317

11) 田村正徳,仁志田博司,船戸正久,ほか:重篤な疾患を持つ新生児の家族と医療スタッフの話し合いのガイドライン.成育医療委託研究「重症障害新生児医療のガイドライン及びハイリスク新生児の診断システムに関する総合的研究」班,2004

This page was created on 2019-11-18T16:51:06.446+09:00
This page was last modified on 2019-12-16T15:02:43.000+09:00


このサイトは(株)国際文献社によって運用されています。