小児上室頻拍の心電図診断と急性期治療Diagnosis and Acute Therapy of Supraventricular Tachycardia in Children
国立循環器病研究センター小児循環器内科Department of Pediatric Cardiology, National Cerebral and Cardiovascular Center ◇ Osaka, Japan
小児の上室頻拍の臨床像は成人とは異なり,年代に合わせた対応が必要である.乳児期には心不全による症状が主となり,発見が遅れて重症化することがある.学童期以降では動悸が主症状となり,軽症なことが多い.小児においては持続する頻拍では頻拍誘発性心筋症を来すことがあり,成人以上に注意が必要である.小児の上室頻拍では房室回帰性頻拍,房室結節回帰性頻拍で90%を占め,異所性心房頻拍などの他の不整脈は稀である.心電図診断においては,P波を認識し,P波の波形,QRS波との時間関係などを確認する.アデノシン三リン酸投与を併用するとより正確な診断が可能となる.急性期治療において,血行動態が安定していない場合はただちに同期下カルディオバージョンを行う.血行動態が安定していれば,迷走神経刺激,アデノシン三リン酸投与を要し,多くのSVTは停止する.停止しないSVTに対しては他の抗不整脈薬投与が必要となる.本稿では,小児SVTの心電図診断の具体的な方法を概説し,急性期治療の新たな知見を紹介する.
The clinical characteristics of supraventricular tachycardia (SVT) in children differ from those in adults. SVT has a nonspecific presentation in neonates and infants with symptoms caused by heart failure and sometimes becomes severe because of delayed diagnosis. In older children, palpitations may be a subjective complaint, and most SVTs have a mild presentation. Tachycardia-induced cardiomyopathy secondary to incessant SVT is more often observed in children than in adults. Atrioventricular reciprocating tachycardia and atrioventricular nodal re-entrant tachycardia account for >90% of cases of pediatric SVT, and ectopic atrial tachycardia and other SVTs are less common. The first step in the electrocardiographic diagnosis of SVT involves detection of the P wave, followed sequentially by assessment of P wave morphology and assessment of the time relationship between P waves and QRS complexes. Intravenous administration of adenosine triphosphate is useful for elucidation of the mechanism of SVTs. In hemodynamically unstable children, acute management includes performing immediate synchronized cardioversion. If the child is stable, performing a vagal maneuver and/or intravenous administration of adenosine triphosphate can achieve termination of most SVTs. Administration of second-line antiarrhythmic agents is necessary to treat intractable SVTs. This review discusses a practical approach to electrocardiographic diagnosis of this condition and provides a brief overview of recent information about acute management of pediatric SVT.
Key words: supraventricular tachycardia; electrocardiographic diagnosis; adenosine triphosphate; antiarrhythmic agent; Valsalva maneuver
© 2019 特定非営利活動法人日本小児循環器学会© 2019 Japanese Society of Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery
上室頻拍(Supraventricular Tachycardia: SVT)は非専門医でも遭遇することがある,比較的頻度の高い疾患である.小児のSVTはWolff–Parkinson–White(WPW)症候群に伴う房室回帰性頻拍(Atrioventricular Reciprocating Tachycardia: AVRT)または房室結節回帰性頻拍(Atrioventricular Nodal Reentrant Tachycardia: AVNRT)で90%を占める.頻拍の機序は成人のSVTと共通である点は多いが,その臨床像は異なる点も多く,年齢に応じた対応が必要である.心電図での診断を中心として,急性期の薬物治療,非薬物治療について最近の話題を加えて概説する.
現状としてSVTの分類は文献や施設により異なり,どの不整脈をSVTの範疇とするかも各ガイドライン間で差がある1, 2).一般に,SVTは頻拍回路に心房が不可欠な不整脈の総称とされている.歴史的には心電図波形で推測された不整脈機序から不整脈の分類が進められてきたが,最近では心臓電気生理検査による心内の詳細なマッピングに基づく分類も提唱され,さらに細分化が進んできている.本稿においては,(Table 1)のように頻脈性不整脈を分類し3),SVTとして頻度の高いAVRT, AVNRT,異所性心房頻拍(Ectopic Atrial Tachycardia: EAT)を中心に概説する.
Reentrant | Enhanced Automaticity | Triggered Activity | |
---|---|---|---|
Sinus Node | Sinus Tachycardia | ||
Atrium | Atrial Flutter/IART | Ectopic Atrial Tachycardia | Some Ectopic Atrial Tachycardia |
Atrial Fibrillation | Multifocal Atrial Tachycardia | ||
AV Junction | AVNRT | Junctional Ectopic Tachycardia | |
Ventricle | Fascicular Ventricular Tachycardia | Focal Ventricular Tachycardia | Some Focal Ventricular Tachycardia |
Torsade de Pointes | |||
AV Accessory Pathways | AVRT | ||
Orthodromic AVRT | |||
PJRT | |||
Antidromic AVRT | |||
Atrio-fascicular Mahaim | |||
AV, atrioventricular; AVNRT, atrioventricular nodal reentrant tachycardia; AVRT, atrioventricular reentrant tachycardia; IART, intra-atrial reentrant tachycardia; PJRT, permanent junctional reciprocating tachycardia |
小児は出現する頻拍の種類が年代により大きく変化し,発症する時期は乳児期と学童期の2つのピークがある.胎児期から乳児期にかけては90%がAVRTで,徐々にAVNRTとEATの割合が上昇する4).幼児期はSVTの出現頻度は低くなるが,学童期から上昇し,90%以上はAVRTとAVNRTで占められる.成人期においては,加齢に伴い心房細動での頻拍の頻度が上昇する.
症状は年代により大きく異なり,同程度の心拍数であれば,一般に,成人に比べて小児のほうが症状は乏しい.胎児期には胎児水腫,新生児期~乳児期には活気不良,経口摂取困難などの非特異的な心不全症状が主となる.胎児~乳幼児では洞性頻脈でも一過性に230回/分となることがある一方で,頻拍により心拍数が200回/分以上が継続すると心機能低下を来すことがある.学童以降では動悸が主症状となることが多く,失神を来すことは稀である.ただし,年少児においては,頻拍を“動悸”として認識できないことが多く,診察時には注意が必要である.
EATやAVRTの亜型である永続性接合部回帰頻拍(Permanent Junctional Reciprocating Tachycardia: PJRT)の一部では,心拍数が比較的低く,無症状で,持続することにより頻拍誘発性心筋症(Tachycardia-Induced Cardiomyopathy: TIC)を来すことがある5–7).拡張型心筋症と診断される症例の中にはTICが含まれることがあり,SVTの有無を確認することは重要である.
古典的な記述法ではあるが,本稿ではladdergram(Fig. 1)を用いてSVTの機序を解説する.上段から心房,房室結節,His-Purkinje系,心室に並べ,心筋興奮の過程を図示化したものである.興奮伝搬が速い部位では傾斜が大きく,遅い部位では傾斜が小さくなる.
Sinus rhythm (A), and sinus tachycardia (B). AVN, atrioventricular node; HPS, His-Purkinje system
AVRT, atrioventricular reciprocating tachycardia; PJRT, permanent form of junctional reciprocating tachycardia
一般に順行性または逆行性のいずれかの房室伝導に房室副伝導路を含む頻拍を指す.房室結節を順行伝導し,房室副伝導路を逆行伝導する正方向性AVRT(Orthodromic AVRT)と,房室結節を逆行伝導し,房室副伝導路を順行伝導する逆方向性AVRT(Antidromic AVRT)とがある.房室副伝導路は房室結節に比べて一般に伝導が速く,洞調律時に房室結節を介する心室興奮より早期に副伝導路付着部位の心室を興奮させる(preexcitation)ために,心電図でQRS波の直前にスラー(いわゆるデルタ波)を形成し,その心電図変化はWPW pattern(またはWPW ECG pattern)と呼ばれる8).房室副伝導路(いわゆる“Kent束”)以外の①右房–束枝,②房室結節–心室,③房室結節–束枝,④束枝–心室の間での副伝導路でもPreexcitationにより,WPW patternを呈することがある.歴史的には,房室副伝導路によりWPW patternを呈し,頻拍を来すものを“WPW症候群”として報告されてきたが8, 9),その呼称は欧米では使用されない傾向にあり,WPW patternを呈する疾患の総称として心室早期興奮症候群(Preexcitation syndrome)と記載されることが多い.日本においては,①WPW patternを呈するものを顕性WPW症候群と呼ぶだけでなく,②房室伝導路によりWPW patternを呈するが頻拍を来さないもの(無症候性WPW症候群),③房室副伝導路の順行伝導が間欠的であるもの(間欠性WPW症候群),④房室副伝導路が逆行伝導のみでWPW patternを呈さないもの(潜在性WPW症候群),⑤房室副伝導路以外の副伝導路によりWPW patternを呈するものなども含めて,広義のWPW症候群に含めることがあり,用語の解釈に注意が必要である.
副伝導路の伝導特性,位置により出現する不整脈は異なり,各々の患児においてどのような臨床像となるかを想定しておく必要がある.通常の房室副伝導路は房室結節に比べて伝導速度が速く,減衰伝導特性をもたない.房室副伝導路は順行・逆行のいずれかが伝導しないものや,両方向のものがある.順行伝導のないものは心電図ではpreexcitationはないが,逆行伝導のために正方向性AVRTの原因となり,AVRT with concealed accessory pathwayと記載されるが,以前より使用される潜在性WPW症候群とほぼ同義である.房室副伝導路の伝導特性,房室結節の伝導特性,心臓のサイズ,トリガーとなる期外収縮の出現頻度は年代により変化するため,AVRTの出現頻度が年代で変化すると考えられている10, 11).小児においては房室結節を介する伝導が比較的速いために,房室副伝導路の順行伝導があってもデルタ波が目立たずに見逃されることがある.特に左側壁に房室副伝導路がある場合には,short PQとはならず,小さなデルタ波だけが観察されることもある.また,順行伝導の不応期が短い房室副伝導路を有する顕性WPW症候群では心房細動出現時に過剰に心室への刺激が伝わり,いわゆる“偽性心室頻拍”を来し致死的となることがある.Pediatric and Congenital Electrophysiology Societyのステートメントでは,頻拍がなくてもWPW patternを呈する症例においては房室副伝導路の伝導特性を調べて,リスク評価することが推奨されている12).学校検診で発見されることの多い束枝—心室副伝導路(Fasciculo-ventricular pathway)ではWPW patternを呈するが,頻拍は来さない13).また,稀ではあるが,顕性WPW症候群の一部ではpreexcitationによる心室内同期不全から心機能低下を来す症例も報告されている14).また,逆行性にのみ伝導し,伝導速度が遅く,減衰伝導特性を有する特殊な房室副伝導路を持つ症例ではインセサント型に頻拍を呈するPJRTを来すことがある15).PJRTは頻拍として比較的遅いために,頻拍の存在に気づかれずに持続することとなり,TICの原因となりうる7, 16).複数の房室伝導路を有する症例では,それらの複数の副伝導路を介しての複雑な房室回帰性頻拍を来すことがある.
WPW症候群は学校心臓検診で遭遇することが多く,その頻度は0.15%と報告されているが,調査の対象により大きく異なる.房室副伝導路の成因は諸説あるが,発生学的異常によるものであり,WPW症候群は先天性心疾患の範疇にあると考えられている.心臓の発生の初期段階では心房と心室の心筋は連続しているが,徐々に心房と心室の間は線維組織で電気的に隔離される.その過程の異常で残存した心房と心室で連続する心筋線維が房室副伝導路であると推測されている17, 18).三尖弁輪形成の異常であるEbstein病では房室副伝導路の合併が多く(20%)19),複数の房室副伝導路をもつこともある.弁輪付近の横紋筋腫や,肥大型心筋症や左室心筋緻密化障害での房室副伝導路の合併も報告されているが,その機序は不明な点が多く,後天的な要素も含まれると推測されている20).
AVNRT, atrioventricular nodal reentrant tachycardia; FP, fast pathway; SP, slow pathway
古典的には房室結節内での縦解離による房室結節二重伝導路(遅伝導路Slow pathway(SP)と速伝導路Fast pathway(FP))間でのリエントリー性頻拍と考えられていたが,実際の頻拍回路は不明な点が多い.房室結節周囲の解剖学的構造は複雑で,個人差が大きいが,心内の詳細なマッピングにより,房室結節内(Compact AV node内)だけでなく周辺の心房組織も含めたリエントリー回路が想定されている21).頻拍は学童以降に出現することが多く,成長による解剖学的変化22)とトリガーとなる期外収縮の出現頻度の増加によりリエントリーが成立しやすい状況になるためと考えられている.AVNRT以外の不整脈での小児患者に対する心臓電気生理検査によるデータでは15~40%で房室結節二重伝導路を有するが23),全例でAVNRTを来すわけではない.そのため房室結節二重伝導路自体は必ずしも異常な構造物ではないと考えられている.
通常型AVNRTではSPを順行伝導し,FPを逆行伝導するためにShort RP′型頻拍(後述)を呈する(Slow/Fast型).FPを順行伝導しSPを逆行伝導するFast/Slow型AVNRTはLong RP′型頻拍(後述)となり,非通常型AVNRTと呼ばれる.また通常のSPやFPとは異なる部位で遅い伝導特性を持つ伝導路との間でリエントリー回路を形成することがあり,Slow/Slow型AVNRTと分類される頻拍も存在する21).SPとFPのリエントリー回路より下位で心室への順行伝導が機能性にブロックされると,2 : 1房室ブロックを呈することがある.また,房室結節二重伝導があることで,心房からの刺激が心室に二重に入ることがあり(Ventricular double response),洞調律時でも頻拍を呈することがある.
心房頻拍は施設や文献により分類や呼称が大きく異なる.ここでは心房の1か所の部位を起源とする心房頻拍(異所性心房頻拍:EAT)について述べる.EATは異常自動能,トリガードアクティビティやマイクロリエントリーによるものがある.成人においてはEATは分界陵,房室弁輪付近,静脈と心房の接合部付近を起源とするものが多いが,下大静脈を起源とするものは稀である24).小児においては上記に加え心耳起源のものが多く,頻拍自体は遅く,持続することでTICの原因となる症例もあり注意が必要である5, 6).
診断の第一歩は頻拍の存在を認識し,心電図を記録することである.前述のように,年少児においては動悸以外の症状が初発症状となることが多い.心電図を確認すれば上室頻拍の有無は容易に判断できるが,その後の有効な治療に繋ぐため,より詳細な診断が必要である.頻拍時心電図のみから診断しようとせず,臨床経過,安静時や頻拍停止時の心電図なども合わせて総合的に判断することで,正確な診断に近づくことができる.
上室頻拍の多くは,His-Purkinje線維を順行性伝導するため,洞調律時と同様のQRS幅の狭い頻拍を呈し,Narrow QRS頻拍と呼ばれる.心電図による診断の手順を示す.前述のAVRT, AVNRT, EAT以外にも洞性頻脈(Sinus Tachycardia),不適切洞頻脈(Inappropriate Sinus Tachycardia),洞結節リエントリー頻拍(Sinus Nodal Reentry Tachycardia),心房細動(Atrial Fibrillation: AF),心房粗動(Atrial Flutter: AFL),接合部頻拍(Junctional Ectopic Tachycardia: JET),心室頻拍(Ventricular Tachycardia: VT)なども鑑別する必要がある.
頻拍時心電図のみではP波の同定が困難なことは多く,洞調律時の心電図があれば必ず比較する.QRSやT波と重なり,ノッチとして認識されることも多い.P波の確認が困難な場合には,経食道リードを用いるとわかりやすいことがある.
心房細動や心房内のマクロリエントリー性頻拍である心房粗動以外では,基本的には心房の興奮は1か所の心房筋から周囲に拡がるように伝播するため,P波の波形により心房のどの部位が最初に興奮したかをある程度推測することができる.房室副伝導路を逆行伝導する正方向性AVRTでは,房室副伝導路の心房への付着位置によりP波の波形が異なる.下壁誘導(II, III, aVF誘導)で陰性P波はAVNRTや後中隔の房室副伝導路を介するAVRTでの心房への逆行性P波の可能性が高い.下壁誘導で陽性P波ではAVRTよりもEATの可能性が高く,AVNRTはほぼ否定的である.AVRTで左自由壁の房室副伝導路ではI誘導で陰性P波,右自由壁の房室副伝導路ではI誘導で陽性P波かつV1誘導で陰性P波となる.EATにおいても頻拍の起源によりP波の波形が異なり,洞調律のP波と類似した波形であれば洞性頻脈か,洞結節近くの心房を起源とするEATと考えられる.
心房と心室の両方を頻拍回路に含むAVRTはP波とQRS波の数は1 : 1となる.房室結節での伝導が良好な小児においては多くの頻拍で1 : 1となることが多いが,房室伝導の特性によってはその比率が異なってくる.一部のAVNRTではリエントリー回路より下位の部位での伝導ブロックにより2 : 1で房室伝導することがある.EAT, AFLでは心房の頻拍周期が短いと,全ての心房の興奮は心室には伝わらず2~4 : 1となることがある.逆に<1 : 1となる場合,つまりは心室の興奮が心房の興奮よりも多い頻拍ではJETやVTを考慮する.
QRS波から次に出現するP波までの間隔であるRP′間隔をPR間隔と比較する.RP′間隔がPR間隔より短い場合はShort RP′型頻拍,長い場合はLong RP′型頻拍と呼ばれる.多くの房室副伝導路を逆行伝導する正方向性AVRTではQRS波の少し後に逆行性P波が出現するために,RP′間隔はPR間隔より短く,Short RP′型頻拍を呈する.SPを順行伝導し,FPを逆行伝導する通常型AVNRTではRP′間隔が短く,逆行性P波がQRS波に埋没して観察できないこともある.また,QRS波に逆行性P波が一部重なり,QRS波の一部と見えることから,V1誘導でのPseudo R′波,下壁誘導でのPseudo S波を形成することがある.伝導特性によってはP波がQRSに先行することもあり,下壁誘導でPseudo Q波を呈することがある.EATではP波に引き続きQRS波が出現し,P波は先行するQRS波には依存しないため,RP′間隔は変動するが,一般にLong RP′型頻拍となる.ただし,1度房室ブロックを合併していると,P波に引き続くQRS波よりも先行するQRS波のほうが近くなるとShort RP′となることもある.伝導の遅い特殊な房室副伝導路を逆行するPJRTや,速伝導路Fast pathway(FP)を順行伝導して遅伝導路Slow pathway(SP)を逆行伝導する非通常型AVNRTでは,QRS波から次の逆行性P波が出現するまでに時間を要するためにLong RP′型頻拍となる.
Onset | Heart rate | Termination | Response to adenosine triphosphate | |
---|---|---|---|---|
Sinus Tachycardia | Warm up | Varies slightly with respiration and activity | Cool down | Transient slow down without termination |
EAT | Warm up | Nearly constant | Cool down | Transient slow down and/or AV block without termination* |
Atrial flutter/IART | Sudden | Nearly constant | Sudden | Persistent tachycardia with transient AV block |
AVRT | Sudden | Nearly constant | Sudden | Terminate with AV block |
AVNRT | Sudden | Nearly constant | Sudden | Terminate with AV block or VA block |
JET | Warm up | Varies slightly with respiration and activity | Cool down | Transient slow down without termination* |
*Some EAT and JET due to triggered activity can slow down and terminate AVNRT, atrioventricular nodal reentrant tachycardia; AVRT, atrioventricular reciprocating tachycardia; IART, intra-atrial reentrant tachycardia; JET, junctional ectopic tachycardia |
突然に頻拍が開始する場合はリエントリーを頻拍機序とすることが多く,心房期外収縮でPR延長とともに開始する場合はAVNRTの可能性が高く,心室期外収縮で開始する場合はAVRTの可能性が高い.期外収縮やPR延長がない場合はEATやPJRTの可能性が高い.異常自動能を頻拍機序とする場合には徐々に速くなる,いわゆる“Warm up”で頻拍開始することが多い.
P wave preceding QRS complex slow down without atrioventricular block, and accelerate again (A). Tachycardia terminated abruptly with AV block (B). Tachycardia terminated abruptly with VA block (C). Tachycardia slowed down transiently with 3–4 : 1 AV block while atrial rate did not slow (D).
突然に頻拍が停止する場合はリエントリー性頻拍であるAVRTかAVNRTの可能性が高い.異常自動能によるEATでは徐々に遅くなる,いわゆる“Cool down”で頻拍は停止する.
頻拍中に左脚ブロック,または右脚ブロックとなり,頻拍周期が延長した場合は同側の房室副伝導路を逆行伝導するAVRTが示唆される(Coumel現象).
急速静注することで,房室伝導を一時的に遮断し頻拍を停止させるだけでなく,洞調律も徐拍化させ(Fig. 5A),一部のATP感受性EATでは停止効果を有するものがある.正方向性AVRTでは房室ブロックで停止し(Fig. 5B),AVNRTは多くは房室ブロックだが,室房ブロックのいずれでも停止する(Fig. 5C).ATP非感受性EATでは一過性に房室ブロックを来し,頻拍は停止せず,房室ブロック出現時に異常なP波が顕性化する(Fig. 5D).新生児では心室頻拍でも比較的QRS幅が狭く,上室頻拍と判断されることがある.一部の心室頻拍ではATPで頻拍自体が停止し,一部では頻拍は停止しないが室房伝導がブロックされ,逆行性P波が一過性に消失することがある.
QRS幅の広い頻拍はWide QRS頻拍と呼ばれ,VTであることが多いが,一部でSVTが含まれる.変行伝導を伴うSVT,房室副伝導路を順行伝導し房室結節を逆行伝導する逆行性AVRTなどである.小児ではVTでは房室解離がなく,1 : 1で室房伝導を呈することも多い.
顕性WPW症候群のQRS波形は,房室結節を介した通常の心室興奮と,副伝導路の心室付着部位から拡がる異常な心室興奮との融合波である.デルタ波は三尖弁輪または僧帽弁輪起源の心室期外収縮の初期成分と一致することから,デルタ波の形態により副伝導路の位置推定が可能となる.房室副伝導路の位置を推定するのに,古典的にはRosenbaum分類が有名で,V1誘導でのQRS波がRまたはRsパターンはA型で房室副伝導路は左側,rSパターンのものはB型で房室副伝導路は右側に存在するとされている26).V1誘導でQSパターンの場合は房室副伝導路は中隔に存在することが多く,それをC型として前述のA, B型に加え3パターンに分けた上田分類も日本独自の概念だが,房室副伝導路の位置推定に有用である27).小児においても,成人のデータからArrudaらが考案したV1のQRS波形と,各誘導でのデルタ波の初期成分(20 ms)の極性を用いるアルゴリズム28)が利用されることが多い.他にもいくつかのアルゴリズムが考案されているが29),体格の異なる小児や先天性心疾患に合併するものでは正確性を欠くとの報告もあり30, 31),解釈には注意が必要である.
SVTの治療は,頻拍発作時に対応する急性期治療,発作が起こらないようにする予防的治療,カテーテルアブレーションによる根治的治療に分けられる.さらに急性期治療は,頻拍自体を停止させて洞調律に戻すリズムコントロールと,頻拍自体は停止させないが心拍数自体を減らし症状を和らげるレートコントロールに分けられる.日本循環器学会のガイドライン32),欧州心臓病学会のステートメント2)では抗不整脈薬選択の推奨度,エビデンスレベルが提示されているが,小児のSVTの治療においては高いエビデンスレベルのデータに基づく治療法は確立されていない(Table 3).有効な治療選択のためには,常に治療の標的が何であるかを意識する必要があり,正確な診断が不可欠である.AVRTは房室結節または房室副伝導路が治療の標的となり,AVNRTでは房室結節が治療の標的となる.EATは機序が様々であり,症例によって有効な治療が大きく異なる.頻拍を停止させる急性期治療としては,血行動態が安定していれば,まずは迷走神経刺激を試み,停止しなければ薬物治療に移行するのが一般的である.未診断例についてはライン確保が必要だが,ATP急速静注による診断的治療を行うことが有用である.
Drug/Intervention | EHRA/AEPC 2013 | JCS 2013 | |||||
---|---|---|---|---|---|---|---|
Dosage | Class | Level | Dosage | Arrhythmia | Class | Level | |
Vagal maneuvers | For infants: ice immersion, gastric tube insertion | I | B | Ice immersion, Valsalva | IIa | C | |
For older children: Valsalva, head stand | |||||||
Adenosine triphosphate | 0.1–0.3 mg/kg | AVRT | IIa | C | |||
AVNRT | IIa | C | |||||
EAT | IIa | C | |||||
Adenosine | For infants: 0.15 mg/kg | I | B | ||||
For > 1 year of age: 0.1 mg/kg | |||||||
Verapamil | 0.1 mg/kg slowly over 2 min | I | B | 0.1–0.2 mg/kg over 5 min | AVRT | IIa | C |
AVNRT | IIa | C | |||||
Flecainide | 1.5–2 mg/kg over 5 min | IIa | B | 1–2 mg/kg over 5 min | AVRT | IIa | C |
EAT | IIb | C | |||||
Amiodarone | Loading: 5–10 mg/kg over 60 min | IIb | B | Loading: 5 mg/kg over 30 min | EAT | IIb | C |
Maintenance: 5–15 µg/kg/min | Maintenance: 10 mg/kg/day | ||||||
Transesophageal overdrive pacing | I | B |
小児に対する高周波カテーテルアブレーション治療が開始され30年近く経過し,SVTのほとんどが根治可能となっている.この間の医療技術の進歩は目覚ましく,3次元マッピングシステム,ロボットナビゲーション,イリゲーションカテーテル,冷凍凝固アブレーション,多点同時マッピングなどが開発され,より効率的で安全な治療が可能となってきている.同時に,心臓電気生理検査での詳細な心内マッピングにより,体表心電図では知り得なかったAVNRTなどの複雑な頻拍回路が徐々に解明されてきた.一方でSVTの心電図診断については目新しい進歩はないが,心電図は不整脈診断の基本となる欠かせない検査であることに変わりはない.心電図から得られる情報は多く,背景にある頻拍回路を想定しながら心電図波形をじっくりと観察し,診断を進めていただきたい.本稿が小児SVTの心電図診断の理解の一助になれば幸いである.
本論文について,開示すべき利益相反(COI)はない.
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