エコーの歴史としては,1953年EdlerらによるAモードの開発を契機として,1960年代にMモード,1970年代に2Dエコー,連続波(CW)ドプラ法,パルス(PW)ドプラ法,1980年代にカラードプラ法,そして1990年代3Dエコー,2000年代4Dエコーの開発にまで至っている.
胎児心臓領域においては,1960年代に胎児well-beingや胎児心拍モニターとしてパルスドプラ法の利用が開始され,1970年代後半に胎児不整脈モニターとしてMモードの利用が始まった.そして1980年頃より日本製の装置による2Dエコーでの胎児心臓形態の描出についてイギリスのAllanなど欧米のチームから報告されるようになり,さらには日本発のカラードプラマッピングを利用する画像診断が進化した.1990年代にはハーモニックイメージング法や3Dイメージング法によりさらに胎児心臓の形態や機能評価を正確に行うことが可能となった1).
日本における胎児心臓病学の歴史としては,胎児心臓診断の世界的な広がりから小児循環器医の中でも必要性が高まってきた1994年にまず日本胎児心臓病研究会が発足した.その後,胎児心臓診断の需要の増大とともに研究会の活動は拡大し,2006年に胎児心エコーガイドラインを発表,また同年には胎児心エコー検査が先進医療に認定された.活動の拡充に伴い2009年には日本胎児心臓病「学会」と名称が変更され,2010年に胎児心エコー検査(レベル2)が保険収載となり,2017年には「胎児心エコー認証医」制度も発足した.2004年に開始されたレベル2胎児心エコー全国登録であるが,2017年には検査数が年間10,000件を超え(Fig. 1),これまでの登録総数として5万件を超す件数となり更に急速に増加している状況である.
日本における胎児心エコー検査は,スクリーニングとして主に産科医,超音波検査士が行う「レベル1」と,精査としてスキルのある産科医および小児循環器科医が行う「レベル2」とに分けられている.以下で,「レベル2」胎児心エコーにおける重症度評価について説明する.
「レベル2」胎児心エコー検査においては,2D画像を描出するだけでなく,ドプラ法(カラーやパルス)も駆使して診断し,さらには胎児の出生後の重症度を予測し説明(カウンセリング)することが必要となる.説明をする上で家族や他の医療スタッフにも胎児の疾患の重症度を理解してもらう必要がある.
①「疾患名」での重症度分類
先天性心疾患は,軽症なものから重症なものまで様々である.その中で例えば,心室中隔欠損,肺動脈弁狭窄といった診断名を聞けば,疾患内での幅はあるにせよ,生後早期に緊急治療を要する疾患ではないであろうと理解できる.対して,左心低形成症候群や総肺静脈還流異常と聞くと,生後重症心不全や強いチアノーゼを認め早期治療もしくは複数回の手術を要すると考えられる.そのように疾患名によって,胎児期からわかりやすく分類をすることでご家族へのカウンセリングや他のスタッフへの周知にも役立つ.Table 1に,Allan2)が作成したCHD重症度スケールを示した.Scale 1は軽症で予後良好であるのに対し,高値となると重症度が増して,Scale 10が最重症を示している.また,胎児の疾患の重症度に合わせて,出生前よりあらかじめトリアージを行っておくことも有用である.Table 2のような表を用いて大阪府立母子医療センターでは2008年より胎児心臓トリアージを行っている3).具体的には,胎児心エコー結果から出生後に児が必要とする治療や主管科,入院病棟を予測し,その重症度に合わせてレベル1(軽症)からレベル4(重症)に分類して関連各科のスタッフに情報共有できるようにしたものである.これを用いることで,児が「レベル4」であると伝えれば重症なCHDであるという認識や出生後対応の情報が簡便に共有でき,病棟や物品の準備も迅速に進められる.
Table 1 Suggested scale of CHD on a 1 to 10 basis, 1 with best prognosis, 10 with worst1) |
Table 2 CHD levels classified by postnatal medical correspondence3) |
②「疾患毎」での重症度判定
同じ疾患群であっても重症度は異なっているため,胎児心エコーにおいては正確な重症度評価のために確認するべきポイントがある.以下で疾患ごとにまとめた.
1. 心室中隔欠損(ventricular septal defect: VSD)
胎児心エコーでVSDを見つけた場合,まずはVSD単独であるのか,それとも他の複雑心疾患に伴うVSDであるのかを確認することが重要である.例としては,ファロー四徴症,両大血管右室起始,総動脈幹,大動脈縮窄・離断複合などに伴うVSDでないかどうかの確認である.そしてVSD単独であれば,欠損孔の位置や大きさの確認を行い,出生後早期の手術から自然閉鎖まで幅の広いその予後を推定する4).
2. ファロー四徴症(tetralogy of Fallot: TOF)
大きなVSDおよび左室流出路の観察で大動脈騎乗と太い大動脈を認める.右室流出路狭窄の程度は,肺動脈閉鎖(pulmonary atresia: PA)を合併したいわゆる「極型TOF(心室中隔欠損を伴う肺動脈閉鎖)」から肺動脈弁下にごく軽度の狭窄のみの「pink TOF」まで様々であり重症度が異なる.典型的な肺動脈狭窄(pulmonary stenosis: PS)合併の場合は,その程度の評価が重要である.動脈管血流の逆行(大動脈から肺動脈方向)があれば出生後に動脈管(patent ductus arteriosus: PDA)依存肺血流となることが予想される(Fig. 2).PA合併の場合は,肺血流がPDA依存か主要大動脈肺動脈側副血行路(major aortopulmonary collateral artery: MAPCA)依存なのか確認し,PDA依存ならその位置と太さを,MAPCA合併ならその位置と中心肺動脈(central pulmonary artery)の有無と太さの確認が重要である.また稀だが重症なTOFとして肺動脈弁欠損合併がある.これは,肺動脈弁尖が欠損して弁輪のみ遺残しており,著しい肺動脈弁閉鎖不全により肺動脈が巨大な瘤状に形成される(Fig. 3(video)).そのため胎児期に見つかりやすいが胎児死亡例も多く,出生後も重度心不全や呼吸不全を来すため胎児期より肺動脈形態や肺動脈狭窄・閉鎖不全の評価をして予後の推定をすることが重要である5).またTOFでは30~40%に染色体異常や奇形症候群,中でも21trisomyや22q11.2欠失症候群を合併することが多いので胸腺の確認や心外奇形(肺や腹部など)の有無の確認も重要である.
3. 房室中隔欠損(atrioventricular septal defect: AVSD)
AVSDのなかでも完全型(complete)は心房中隔から心室中隔にまたがる心内膜床が大きく欠損し,共通房室弁口を形成する.重症度評価としてはTOFと同様にPAやPS合併の有無とあればその程度の評価,共通房室弁逆流の有無と程度の評価,左室流出路狭窄の評価,大動脈縮窄・離断合併の有無を確認する6).また心室の大きさのアンバランスが強い場合は2心室修復が困難でフォンタン手術目標となり,VSDの大きさの評価も必要となる.合併症として21trisomyや内臓錯位症候群(Heterotaxy)があるのでその確認も行う7).
4. 三尖弁閉鎖(tricuspid atresia: TA)
TAは最終的にFontan循環を目標とする疾患であるが,その病型によって段階手術の方針が異なるため分類(Keith-Edwards分類)を正確に行うことが重要である.具体的には大血管の位置関係(I:正常,II:完全大血管転位,III: L-loop),肺動脈形態(a:閉鎖,b:狭窄,c:狭窄なし)を確認する.特にIIcやIIIbでは大動脈弁下狭窄に伴い大動脈縮窄や離断を合併しやすく,それらが予後に影響するので注意が必要である.分娩直前の時期には卵円孔の形態や静脈管血流を確認することが生後早期BAS(balloon atrial septostmy)の必要性を評価する一助となる8).
5. 総動脈幹症(Truncus Arteriosus)
総動脈幹症は,左右両心室からの流出路が単一となり,その総動脈幹から肺動脈が直接分枝して非常な肺高血圧かつ高肺血流となり新生児期に心不全となる.診断した際には,左右肺動脈の分岐部と形態の確認と大動脈離断合併の有無の確認を行う.また総動脈弁の異形成にともなう弁狭窄および逆流の有無と程度も出生後の治療方針に関わるため確認が重要となる9, 10).
6. 純型肺動脈弁閉鎖(pulmonary atresia with intact ventricular septum: PA/IVS)
PA/IVSは肺動脈閉鎖に伴う右室低形成の程度により最終目標とする状態(Fontan循環,1.5心室修復,2心室修復)が異なるため,右心室の大きさや形態の確認を行う.三尖弁輪径と僧帽弁輪径の計測も有用である11).また類洞交通の有無と程度を確認する.類洞交通,とくに右室依存性冠血流(right ventricle dependent coronary circulation: RVDCC)の合併は出生後の予後に影響する12).(Fig. 4(video))また肺動脈閉鎖が膜様閉鎖かどうかも出生後の肺動脈弁形成術(バルーン治療もしくはBrock手術)適応に関わる.三尖弁閉鎖と同様に,卵円孔の形態や静脈管血流を確認することが生後早期BAS(balloon atrial septostomy)の必要性を評価する一助となりうる.
7. Ebstein病(Ebstein’s disease)
Ebstein病は重症度に幅のある疾患であるが,胎児期に診断されるものは心拡大を伴う重症例が多い.Ebstein病を診断した際には,肺動脈狭窄・閉鎖を合併しているかどうか,肺動脈閉鎖であれば機能的閉鎖(functionalPA)か解剖学的閉鎖(anatomicalPA)かどうかを確認して治療方針を決定する.重症度の評価としては右房と右房化右室を計測するCelermajer Scaleやそれを利用したSASscoreがある13, 14).また三尖弁逆流の最大流速も参考になる15).肺動脈弁逆流を多く認める場合にはcircular shuntを呈する最重症のEbstein病として胎児死亡もしくは出生後も治療に難渋することが多い16).具体的には,重度三尖弁逆流によりうっ滞した右房の血流(Fig. 5A(video))が卵円孔を介して左房,左室,上行大動脈,そして動脈管を逆行し(Fig. 5B(video)),さらに主肺動脈から右室へ逆流する(Fig. 5C(video))circular shuntとなり胎児心不全となる状態である.
8. 完全大血管転位(complete transposition of the great arteries: TGA)
TGAは四腔断面が正常であるため胎児診断の難しい疾患とされていたが,近年スクリーニング方法(I-shaped sign17)など)の開発などから診断例が増加している.診断された場合にはVSDとPSの有無による病型分類を行い,1型の場合には卵円孔狭小化・閉鎖の有無の確認および動脈管狭小化の有無の確認が出生後の状態評価のためには重要である.具体的には,Maenoらの呈示した胎児卵円孔の異常として「Fixed, flat, redundant」18)やPunnらの「Hypermobile septum, reverse diastolic DA shunt」19)がある.いずれも出生後の重度チアノーゼ,緊急BASの必要性を予想するのに有用とされている.それらの画像をいくつか示した(Fig. 6).
9. 総肺静脈還流異常(Total Anomalous Pulmonary Venous Connection: TAPVC)
TAPVCは四腔断面が一見正常に見えるため胎児診断の難しい疾患である.近年スクリーニング方法(PLAS index20)など)の開発で胎児診断例が増加してはいるが,胎児診断されずいまだに出生後搬送となることの多い疾患である.胎児診断した場合には病型を確認し,特に1型と3型においては垂直静脈の狭窄に伴う肺静脈狭窄がないかどうかの確認が重要である.また共通肺静脈腔の大きさや位置の確認も生後の術式を考える参考となる.肺静脈狭窄がある場合には胎児期からの肺うっ血により出生後肺高血圧を合併する可能性が高くなり予後に影響する21, 22).実際の重度肺静脈狭窄例における肺静脈血流を,正常例と合わせて呈示した(Fig. 7).
10. 左心低形成症候群(Hypoplastic Left Heart Syndrome: HLHS)
HLHSは,左室と上行大動脈の著しい低形成を認めることから胎児診断されることが多い.重症度の評価としては,主心室となる右室からの三尖弁逆流の有無と程度を確認し,上行大動脈の太さ・大動脈縮窄合併の有無の確認も必要である23).また卵円孔狭小化の評価が重要で,肺動脈血流パターンからも出生後の状態評価を推測できる24).具体的には3つの肺静脈血流パターンとして,A:連続性順行血流でわずかなa波逆行のみ(VTIR/VTIF ratio <or=0.18),B:連続性順行血流で増強したa波逆行(VTIR/VTIF ratio >or=0.18),C:短いto-and-fro血流,に分類した結果,Cは生後全例で卵円孔閉鎖,BはAより卵円孔が有意に狭小化していた(Fig. 8).このように胎児期早期より卵円孔狭小化による肺静脈うっ血パターンを呈する症例は生後肺の状態が悪く治療に難渋することが予想できる.
11. 内臓錯位症候群(Heterotaxy)
Heterotaxyは心臓の左右軸の異常により様々な心疾患を合併するが,重症度の高いものが多く胎児期からの予後判定が重要である25).Heterotaxyの中で,Right isomerism(無脾症,右側相同)は単心室型疾患が多く共通房室弁の場合はその弁逆流の有無と程度(Fig. 9),肺動脈狭窄・閉鎖合併の確認,そして総肺静脈還流異常合併の確認が必要である.総肺静脈還流異常合併の場合は肺静脈狭窄の有無を確認する.また,腹部疾患として食道裂孔ヘルニア,腸回転異常を合併して生後の心臓治療にも影響することが多い.Left isomerism(多脾症,左側相同)は様々な心室形態をとりうるが,AVSDの場合は共通房室弁逆流による心不全の合併もあり,心室アンバランスの有無,左室流出路狭窄,大動脈縮窄合併の確認が必要である.また洞不全や房室ブロック合併による徐脈を来し胎児死亡することも少なくない.腹部合併症として腸回転異常,先天性胆道閉鎖症があり,とくに胆道閉鎖は生命予後に影響することも多い.
12. その他
動脈管早期収縮(premature constriction of ductus arteriosus: PCDA)は,胎児期に右室の出口である動脈管が狭小化して右室に負荷がかかり,右室収縮不良や壁肥厚,三尖弁逆流の増加,動脈管の高速連続血流を認め,場合によっては出生後に重症の新生児遷延性肺高血圧(persistent pulmonary hypertension of the newborn:PPHN)を来しうる病態とされている.そのため診断とその重症度の評価が重要である26, 27).
また,心内合併症のない卵円孔早期狭窄・閉鎖(Premature closure or restriction of the foramen ovale: PCFO/PRFO)も左房圧上昇から肺うっ血による肺高血圧を来しうるため,左右心室のアンバランスさと心房中隔の所見(8. TGA項を参照)を確認する必要がある28).
同様に左上大静脈遺残(persistent left superior vena cava: PLSVC)単独の場合も,HLHSや大動脈縮窄(Coarctation of the aorta: CoA)を来すことがあるため,満期までの確認が重要である29, 30).