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特定非営利活動法人日本小児循環器学会 Japanese Society of Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery
Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery 35(4): 214-220 (2019)
doi:10.9794/jspccs.35.214

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手術部位感染(SSI)の予防についてCDCガイドラインを中心にPrevention of Surgical Site Infections: Important Points from the Centers for Disease Control and Prevention 1999 and 2017 Guidelines

大阪市立総合医療センター 小児心臓血管外科Department of Pediatric Cardiovascular Surgery, Osaka City General Hospital ◇ Osaka, Japan

発行日:2019年11月1日Published: November 1, 2019
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手術部位感染(SSI)はこれを治療するための人的および経済的コストを増加させる.しかしSSIの約半数はエビデンスに基づく戦略により予防できると推定される1, 2).本稿では,SSI予防策についてCDCを中心とした各種のガイドラインを中心に述べ,注意を喚起したい.おもにCDCガイドライン1999年版および2017年版に示される手術室の環境整備,術前の剃毛,消毒法,手洗い法,抗生剤予防投与,術中の注意点,術後創部の管理法などについて述べる.CDCをはじめとする各種ガイドラインに沿ってSSI予防に努め,手術の質を向上させることが求められる.

The human and financial costs of treating surgical site infections (SSIs) have been increasing. It has been estimated that approximately half of SSIs are preventable by using evidence-based strategies. The objective of this paper is to review the new and updated evidence-based recommendations for the prevention of SSIs, such as those of The Centers for Disease Control and Prevention (CDC, USA) guidelines for Prevention of SSIs published in 1999 and 2017. We mainly discuss the guidelines of 1999 and 2017 regarding preoperative preparation of patients, prophylactic antibiotics, intraoperative ventilation, aseptic and surgical technique, and postoperative incision care to identify differences between the older guideline and the new and updated recommendations to prevent unpleasant SSIs.

Key words: surgical site infections; CDC guideline 2017; CDC guideline 1999; pediatric cardiac surgery

はじめに

19世紀半ばまで,手術患者は通常,術後に発熱をきたし,手術創から排膿があり,重症の敗血症になり死亡することが多かった.

このような悲惨な状況が改善したのは1860年代にJoseph Listerが抗菌という原理を導入してからである.Lister以後,外科手術は感染と死を伴う作業から病気を終わらせて生命を永らえる技術へと劇的に変わった1)

感染の制御は手術室の換気,滅菌法,無菌的処置,手術手技,予防的抗菌薬などの進歩により可能になりつつある.しかし依然として手術部位感染症(surgical site infection:SSI)は入院患者の発病や死亡の重要な原因であり続けている.原因として耐性菌の出現,患者の高齢化と合併疾患,また器具の挿入や移植手術の著しい増加が挙げられる.

SSIは手術リスクを増大させ,これを治療するための人的および経済的コストは増加する.しかしSSIの約半数はエビデンスに基づく戦略により予防できると推定される1, 2).種々のガイドラインがSSIの予防策を示しているにかかわらず,未だに,その存在を知らなかったり無視したりする施設もある.

ここでは外科医が当然知っておくべきSSI予防策についてCDCを中心とした各種のガイドラインを中心に述べる.

CDCガイドラインとは

CDCとは,Center of Disease Control and Preventionの略でアメリカ疾病予防管理センターと訳される.アメリカ連邦政府機関であり,設立は1992年,職員15,000人,年間予算は1兆円という巨大組織である.健康に関する信頼できる情報の提供と健康の増進を目的としており,本センターより勧告される文書は非常に多くの文献やデータを基にしており世界共通ルールとみなされている.

CDCガイドラインは種々のものがあるが,1999年版はSSIに関して,その定義,手術室の環境,器具の滅菌法,術前の患者管理,手洗い法,皮膚消毒,抗菌剤使用法,術後の創などを網羅している.最新の2017年版では新たな知見について追加している.本章では1999年1)および2017年のSSI予防ガイドライン2)の勧告を中心に述べ,補足的にWHOなどの他の主要なガイドラインにも言及する.

SSIの定義分類

手術部位感染とはSSIの日本語訳であり,概ね手術に関連して発生する術野の感染を指す.Fig. 1に示すように感染の深さにより3種類に分かれる.SSIの66%は表層および深部切開創感染である.

Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery 35(4): 214-220 (2019)

Fig. 1 SSIの定義

  1. 1) 表層切開創SSI(Superficial incisional SSI)
    • 表層切開創SSIは,以下のA),B),C)を全て満たさなければならない.
    • A)感染が,手術後30日以内に起こる.
    • B)切開創の皮膚と皮下組織のみに及んでいる.
    • C)以下の少なくとも1つにあてはまる:
      1. 表層切開創から膿性排液がある.
      2. 表層切開創から無菌的に採取した液体または組織から病原体が分離される
      3. 表層切開創が手術医によって意図的に開放され,かつ培養陽性または培養されていない.なおかつ,以下の感染の徴候や症状の少なくとも1つに該当する:
        • 疼痛,圧痛,限局性腫脹,発赤,熱感.
        • 培養陰性の場合はこの基準を満たさない.
      4. 手術医または主治医による表層切開創SSIの診断
  2. 2) 深部切開創SSI(Deep incisional SSI)
    • 深部切開創SSIは,以下のA),B),C)を全て満たさなければならない.
    • A)埋入物を置いていない場合は術後30日以内に,埋入物を置いた場合は術後1年以内に感染が発生したもの
    • B)感染が切開創の深部軟部組織(筋膜と筋層)に及んでいる.
    • C)以下の少なくとも1つにあてはまる:
      1. 手術部位の臓器/体腔部分からではなく,深部切開創から排膿.
      2. 深部切開創が自然に離開した場合,あるいは手術医によって意図的に開放されかつ切開創の培養が陽性,または培養がされていない.なおかつ,以下の感染の徴候や症状のうち少なくとも1つに該当する.発熱(>38°C),限局した疼痛もしくは圧痛.培養陰性の場合はこの基準を満たさない.
      3. 深部切開創に及ぶ膿瘍または他の感染の証拠が,直接的検索,再手術中,組織病理学的,放射線学的検査によって発見される.
      4. 手術医または主治医による深部切開SSIの診断.
  3. 3) 臓器/体腔SSI(Organ space SSI)
    • 臓器/体腔SSIは,手術手技中に開放,あるいは操作された,皮膚切開創・筋膜・筋層を除く身体のどの部分にも及ぶ.特定部位は,感染部位をさらに識別するために臓器/体腔に割り当てられる.
    • 臓器/体腔SSIは,以下のA),B),C)3つの基準を全て満たさなければならない.
    • A)埋入物を置いていない場合は術後30日以内に,埋入物を置いた場合は術後1年以内に感染が発生し,感染が手術手技に関連していると思われる.
    • B)感染は,手術手技中に開放されあるいは操作された身体のいずれかの部分に及ぶ.(切開創,筋膜または筋層を除く)
    • C)以下の少なくとも1つにあてはまる:
      1. 刺創を通じて臓器/体腔に留置されているドレーンから膿性排液がある.
      2. 臓器/体腔から無菌的に採取した液体または組織検体から病原体が分離される.
      3. 臓器/体腔に及ぶ膿瘍または他の感染の証拠が,直接的検索,再手術中,組織病理学的,放射線学的検査によって発見される.
      4. 手術医または主治医による臓器/体腔SSIの診断.

SSIによる損失

SSIは入院手術患者の2~5%に発生し,それによる損失は莫大で,Table 1に示すように米国では年間100億ドルの損失と見込まれる3).当然,深部SSIのほうで入院費用がさらに多くなる.我が国ではSSI発生率はわずかに減少傾向にあるとはいえ総手術件数の6%に発生し,入院日数が20日延長しその損失は1件あたり80万円と医療費増大を招いている4)

Table 1 SSIの損失(米国)

SSIの原因菌

SSIから分離された病原体はこの10年間で大きな変化はない.上位5種の原因菌のうち30%がEnterococcus faecalis, 20%がStaphylococcus aureusでありこの2種で半数を占める.SSIの増加で目立つのはMRSAと真菌類である.この要因はより病態が重篤な患者や免疫機能が落ちた患者が増加していることと,予防的かつ治療的な抗菌剤投与がより広範囲に行われていることを反映しているのかもしれない.

リスクファクター

Table 2に示すようにリスクファクターとしては,患者側と手術の要素がある1).CDCをはじめとするガイドラインはこれら要素の全てに言及している.以後,要素ごとに予防の要点を述べる.

Table 2 SSIのリスクファクター

ただし,今回は小児循環器領域に限るので,患者側要素である年齢,栄養状態,糖尿病,喫煙,肥満については割愛する.

SSI予防ガイドラインについて

1999年のCDCから現在まで種々の団体のものが発表されているが,基本的に重要な点での相違はなく同様の内容になっている.それらのうちでも特に重要な最近の3種類についてTable 3に示す.この3種類のガイドラインは特に重要で,十分に理解して運用すべきである.CDCガイドラインは2017年5月に最新版が発表された2)

Table 3 最近のSSI予防ガイドライン

ガイドライン改定の背景はSSIの経済的損失が飛躍的に増大しつつあることにある.特に人工関節手術が激増し感染を合併した場合の経済的損失が2030年には16.2億ドルに達するとしている.基本的には1999年版ガイドラインを中核として,いくつかの項目を更新している.対象は外科医師だけでなく,看護師,麻酔科,感染管理スタッフ,病院管理者などを想定している.

ここからCDCのSSI予防ガイドラインの勧告について述べていく.2017年版の勧告のカテゴリはTable 4に示す.カテゴリIAが最も推奨度が高く,上から順に推奨度が下がる.カテゴリIAが8件19%,IBが4件9%,IIが5件12%,推奨なし(NR/UI)が25件60%である.

Table 4 勧告のカテゴリ

術前

術前要素についてまず遠隔部位の感染対策が挙げられる.予定手術の前には全ての遠隔部位の感染は治療する(カテゴリIA).

除毛に関して,未だに前日に剃毛する施設があるが,手術のガイドラインにはっきりと規定されているように剃毛は行ってはならない(カテゴリIA).

SSIの頻度は剃刀による剃毛が5.6%,剃刀を使用しないと0.6%であるとしている.除毛が必要な場合はクリッパー(バリカン)を使用する.除毛クリームも推奨されていない.除毛クリームは剃毛より感染リスクは低いが,強力なタンパク分解作用を持つチオグリコール酸カルシウムを主成分としており,肌荒れやアレルギー反応を起こすことがあるためである.

CDC1999年では消毒薬による前夜のシャワー浴を推奨(カテゴリIB)しているがCDC2017年では石鹸でもよいと変更された(カテゴリIB).WHO, ACS/SISでも消毒薬での入浴にエビデンスはなく普通石鹸でよいとしている.

術野の皮膚消毒

皮膚消毒はヨードホール(ポピドンヨード,イソジン®)アルコール含有剤,グルコン酸クロルヘキシジン(ヒビテン®)が使用可能である.CDC2017では禁忌でなければアルコール含有製剤の使用を勧奨している(カテゴリIA).

我が国では,アルコール含有ポピドンヨード液またはクロルヘキジンアルコールが使用されている.

注意点としては,

  1. 1) 有機物が存在すると消毒効果がなくなるので,皮膚消毒前に,しっかり石鹸で洗浄すること.
  2. 2) 即効性はなく消毒が有効に行われるまでに,塗布後2分間かかるため,2分以内に拭き取ってはいけないこと.
    • 以前の製品はヨード熱傷が起こることがあったが,今は界面活性剤が含まれており拭き取らなくても熱傷は少ない.もしハイポアルコールで拭き取る場合は2分以上待たなければならない.塗布後,完全に乾燥しなければ消毒効果がないと言われることがあるが,間違いである.2分待てばよい.ただしそこにある限り滅菌効果は持続するので,乾燥させて手術時に流れ落ちにくくするのがよい.

手術時の手洗い

CDC 1999は,手術時は適当な消毒薬(アルコール,クロルヘキシジン,ヨウ素,ヨードホール,OCMX,トリクロサン)を用いて2~5分間手を洗い(カテゴリIB),滅菌タオルで手指を乾燥させ,滅菌ガウンと手袋を着用する(カテゴリIB)と記載している.

ブラシで擦って手洗いするスクラブ法とブラシを使わずアルコール製剤を擦り込むラビング法の比較では消毒効果に差はないとしている5)

ラビング法は手洗い時間の短縮,コストの削減(1/2~1/5),手荒れの減少などの利点があり,採用されるべきである.

予防的抗菌薬投与とタイミング

予防的抗菌薬投与とタイミングをTable 5に示す.半減期を考慮して皮膚切開予想時間の120~130分前までに投与を完了しなければならない.

Table 5 予防的抗菌剤投与とタイミング

また血中濃度は閉創2~3時間後まで維持されるべきである(カテゴリIA).

閉創後の追加投与の効果は一般的にはエビデンスがなく勧められない(カテゴリIA).

しかし,ACS/SIS(米国外科学会,感染症学会)は,予防的抗菌薬の追加投与を認めている.心臓手術においては術後24時間投与で胸骨創感染などが減少することが報告されており,48時間投与が推奨されている6, 7)

MRSA鼻腔内保菌者に対する除菌についてはCDCでは推奨なしであるが,他のガイドラインでは推奨している.

術中

CDCガイドラインは手術室環境について多くのページを割いている.換気については1時間に最低15回の全空気交換が必要であるとし,うち最低3回は外気を入れるとしている.全空気交換のためには手術室が密閉されている必要があるので無用な出入りは極力避けなければならない.

器械の消毒について,当然ながら不適切な滅菌は感染のアウトブレイクを引き起こす.よく行われるハイスピード滅菌は不用意に器具を落とし,代替えがない場合のみに限る.1セットしかなく,2例目の手術を日常的にハイスピード滅菌で行うことは許されず,追加セットを買うべきである(カテゴリIB).

手術着および覆い布については以下に示す(Table 6).

Table 6 手術着および覆い布

マスクを着けて帽子を被るのは当然であるが,滅菌ガウンや覆いは濡れてもバリア効果があるものとされている(カテゴリIB).使い慣れているとしても,木綿の術衣や覆い布はバリア効果がなく,使用は推奨されない.

手袋については2重手袋が推奨されている.まず新品の手袋では日本工業規格(JIS)において80枚に3枚までのピンホールが許容されていること,もちろん実際ははるかに少ないとされるが,危機管理上,最初から穴があるかもしれないと考えるべきである.さらに,手袋は長時間手術では穴が開くことが多く,特に縫合針を多く使用する心臓手術では容易にピンホールが発生する.このため数時間ごとに手袋を交換すべきである.これは患者に対する感染防御策であると同時に術者を患者の血液,体液からも防御する.二重手袋は内側に着色したもの,外側に薄い色のものを装着するとピンホールを発見しやすい(indicator手袋).手術操作上,どうしても2重手袋ではできないなら,手袋を頻繁に交換すべきである.

術中,術後の投与酸素濃度については肺機能が正常で気管内挿管を用いて全身麻酔を受けている患者では,術中と手術直後期間の抜管後の双方でFiO2を増やして投与する(カテゴリIA).組織酸素添加を最適化するため,周術期の正常体温および十分な補液を維持する(カテゴリIA).

小児循環器領域では,疾患によっては,高濃度酸素投与ができない場合も多いが,できれば術後数時間は投与酸素濃度を高めにする.術中の体温は正常を維持するとされる.実際にはなかなか困難であるが,体外循環症例では感染予防の観点から低体温はできるだけ避けるのが望ましい.

ドレーンに関しては手術切開層から離れたところから挿入し,閉鎖式吸引ドレーンとする(カテゴリIB).

縫合糸についてはTable 7に示すように編み糸での感染リスクが指摘されており,2017年で初めてトリクロサン抗菌縫合糸(バイクリルプラス®)を推奨している(カテゴリII).

Table 7 縫合糸

創洗浄に関してヨードホール水溶液での洗浄を提案しているが,エビデンスレベルは低い(CDC2017カテゴリII).重要なことは,覆い布がたとえ防水素材であっても,創部から溢れるような洗浄は汚染を招くので絶対にやってはいけないことである.プラスチック製粘着ドレープはSSI予防のためには使用する意味がないようである.

術後

ドレーンは必要がなくなればできるだけ早期に抜去する(カテゴリIB).創閉鎖が終了すればフィルムドレッシングにより外部と遮断する1).さらに24~48時間は創の安静,固定が必要である.zip surgical skin closure®やダーマボンドプリネオ®のようなものを活用すべきである(Table 8).

Table 8 創の固定

最後に

SSI予防法についてCDCを中心に各種ガイドラインについてまとめた.2017年版ガイドラインは8ページであるがsupplementは全部で600ページある.本稿はそれらを要約したものである.

はじめに述べたように重大な感染が起こった際にSSI予防ガイドラインを知らなかった,知っているけれど独自の考えで遵守していなかったということがないようにすべきであると考える.

利益相反

本論文について開示すべき利益相反(COI)はない.

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