Online ISSN: 2187-2988 Print ISSN: 0911-1794
特定非営利活動法人日本小児循環器学会 Japanese Society of Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery
Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery 35(1): 18-26 (2019)
doi:10.9794/jspccs.35.18

原著Original

成人先天性心疾患患者の就業状況とその背景要因Employment Status and Contributing Factors for Adults with Congenital Heart Disease

1東洋大学Toyo University ◇ Tokyo, Japan

2千葉県循環器病センターChiba Cerebral and Cardiovascular Center ◇ Chiba, Japan

3東京情報大学Tokyo University of Information Sciences ◇ Chiba, Japan

受付日:2018年8月14日Received: August 14, 2018
受理日:2018年11月16日Accepted: November 16, 2018
発行日:2019年3月1日Published: March 1, 2019
HTMLPDFEPUB3

背景:現在移行期支援が注目され,その課題のひとつに就業が挙げられる.就業は男女で状況が異なるが,日本において男女別に患者の就業状況を明らかにした研究はほとんどない.そこで本研究では成人先天性心疾患患者の就業状況とその状況に影響を及ぼす要因を男女別に検討する.

方法:先天性心疾患患者193名(平均年齢:男33.62歳・女32.69歳,男性89名:学生は除く)に,就業状況,社会的属性(婚姻状態,教育歴),疾患状況(疾患名,疾患重症度,手術回数など),就業支障評価,生活の質(QOL: Linear Analog Scale for quality of life),生活満足度(SWLS: Satisfaction with Life Scale)を問う質問紙調査を実施した.

結果:国勢調査による同世代の成人と比較して,男女とも未就業(男13名:14.6%,女13名:12.5%)が有意に多く(p<0.01),さらに男性は常勤就業者が有意に少なかった(p<0.01).また未就業患者で「(疾患のため)仕事ができない」と回答したのは男女1名ずつで,多くの患者は就業可能と考えていた.未就業患者はQOL, SWLSともに有意に低く,未就業の背景要因としては,男性は年齢が若いこと,女性は疾患が重いことであった(それぞれp<0.05).

結論:患者は就業可能と考えているにもかかわらず未就業者が多く,疾患を起因として就業に不利益を被っていることが考えられる.さらにその状況にある患者は生活の質,満足感が低く,就業に課題を抱えている状態であることが明らかとなった.

Background: Working is one of the important concerns in transitional care for adults with congenital heart disease (ACHD) because, apart from offering them financial autonomy, it also connects them with the society. Hence, this study aimed to explore the employment status of ACHD by sex and the factors influencing the employment status.

Methods: In this study, 193 Japanese ACHD patients (mean age: male 33.62 years/female 32.69 years, 89 males, no students included) completed the patients’ characteristics form, including the employment status and the degree of impact on their ability to work due to heart disease and also completed the quality of life (QOL) form, comprising the Linear Analog Scale and the Satisfaction with Life Scale (SWLS).

Results: In the study group, 13 (14.6%) of 89 male patients and 13 (12.5%) of 104 female patients did not have a job. These rates were higher than the national standard values in Japan (male, 5.0%; female, 2.9%). Among those patients, only one male and one female stated their illness as a reason for their unemployment. The main factor of males’ unemployment was young age, whereas for females, it was related to their disease complexity. Unemployed patients showed significantly lower scores in QOL and the SWLS.

Conclusion: Although most ACHD patients can join the workforce, a higher percentage of ACHD patients do not work and find it challenging to have a career than regular people. Therefore, as unemployed patients have a low QOL and SWLS, it is clear that work is crucial for them to have a mentally and emotionally stable and fulfilling life.

Key words: adult congenital heart disease; employment status; quality of life; transitional care

背景

多くの先天性心疾患患者が成人期に達することが可能となり,現在,成人期への移行期支援が注目されている.移行期支援とは小児医療から成人医療への医療の場の移行のみを指すわけではなく,成人期への移行過程の中で,患者が疾患・治療に関する知識を得て自己管理を可能にする患者の自律を目指した支援であるといえる.その過程で就業は社会との接点や経済的自立に関わる重要な側面であり,移行期支援における課題のひとつといえよう.

先天性心疾患患者の就業については,各国で調査が行われている.全体には,患者の就業率は常勤・非常勤勤務で50%~80%,未就業率は数%~10%を超える程度の範囲で報告されている1–6).全体に患者は疾患を持たない人より就業状況は悪いが,国によって状況は異なっている.例えばイギリスにおける患者への調査においては7),未就業率は33%とされ(学生,退職者を除く),これは調査地域の平均失業率8.3%と比較すると患者の就業はかなり困難があるといえる.一方でフィンランドにおける調査では6),就業率70%,未就業率6%(学生13%,退職者7%,主婦等4%)で,これは同国一般のそれぞれ66%,11%(13%,3%,7%)と比較して良好な就業状態が報告されている.

本邦においては,2000年前後の報告ではあるが,患者の就業状況として非チアノーゼ性の根治群で常勤就業率58%,パート就業率13%,主婦12%,未就業率17%,チアノーゼ性の根治群ではそれぞれ46%,18%,20%,16%で,未根治群では根治群より常勤,パート就業率は低く未就業率は高いことが報告されている8).またチアノーゼ性の患者を対象とした調査では9),常勤就業率72.6%,未就業率10.9%(学生を除いた場合の結果),別の調査においても患者全体の常勤就業率は82%とされ,比較的良好な報告もある10)

ところで就業は基本的に性差があり,多くの国で一般的に男性のほうが常勤就業率が高く,女性のほうが非常勤就業率が高い11).つまり就業自体が男女で異なる状況下にあるため,就業に関わる調査は男女別で検討する必要があると考えるが,先天性心疾患患者の就業に関して男女別に報告した調査は少ない.男女別に患者の就業状況を報告した結果では,男女とも一般と比較して就業状況は悪いが,特に男性において常勤就業者が少なく12),未就業者が多いことが挙げられ13),男性患者のほうが疾患による就業への影響が強いことが示されている.しかし日本においては男女別に患者の就業状況を明らかにした研究は見当たらず,その詳細はよくわかっていない.

患者の未就業状況の背景要因としては,国外の調査では性別,年齢,疾患重症度,教育歴が挙げられている.同世代の対照群と患者を比較すると,若い男性患者で未就業者が多いことや2),年齢の若い複雑心疾患患者の就業者が少ないことが示されている14).さらに,疾患の重症度で比較した場合,全般に複雑心疾患患者のほうが単純心疾患患者より就業者が少ないことが示されている3).これ以外にも,未就業には,低い教育歴や重い疾患重症度が影響しているという報告がある14).日本においては常勤就業者とそれ以外(非常勤就業者・未就業者・主婦・学生など)を比較した場合,常勤就業者はNYHAの重い患者や強心薬内服例が少なく,精神疾患例がないことが見いだされているものの9),未就業者に着目して背景要因を検討した研究はない.しかし就業に関して支援のあり方を探るうえでは,就業していない状態に着目し,その背景要因を検討することが有効であると考える.

そこで本研究では,1. 日本の患者の就業状況について男女別に明らかにし,2. 未就業に影響を与えている背景要因を検討することを目的とし,今後の移行期支援への視座を提示する.

方法

対象者

循環器専門病院に通院し,1)先天性心疾患を持ち,カルテの参照が可能なこと,2)日本語で質問紙を読み,必要事項に記入が可能なことを条件とした.18歳以上の患者492名に調査の説明書,質問紙票を郵送し,参加に同意をした患者260名から回答を得た(回収率52.8%).本研究は就業について明らかにすることが目的であるため,回答者の中から年齢が20~60歳未満(219名)で,学生(19名)を除き,さらに回答に欠損値が多い7名を除いた193名を最終的に分析対象とした.ACC/AHAのガイドライン15)を用いて対象者の心疾患の診断を重症度別にTable 1に記した.調査時期は2013年12月~2014年1月であった.

Table 1 Congenital heart disease (CHD) diagnoses (n=193)
Simple CHD (n=59)
Isolated aortic valve disease3
small ASD/VSD11
small PDA1
Repaired ASD/VSD44
Moderate complexity CHD (n=85)
Fistula (aorto-left ventricular/sinus of valsalva)1
Anomalous pulmonary venous drainage and/or sinus venous ASD4
AV septal defects or ostium primum ASD6
Coarctation of the aorta6
Ebstein anomaly6
Pulmonary valve disease (with stenosis or regurgitation)5
Subvalvar or supravalvar aortic stenosis4
Repaired tetralogy of Fallot36
VSD with other complications8
Marfan syndrome5
Other defects of moderate complexity4
Great complexity CHD (n=49)
Conduits (valved or non-valved)17
Cyanotic heart disease or Eisenmenger syndrome8
Double-outlet ventricle3
Univentricular anatomy (Fontan circulation)10
Repaired TGA (atrial or arterial switch procedure)4
Congenitally corrected transposition of the great arteries7
ASD: atrial septal defect, AV septal defect: atrioventricular septal defect, PDA: patent ductus arteriosus, TGA: transposition of the great arteries, VSD: ventricular septal defect

なお,患者群と比較する国民標準値については平成27年国勢調査16)から当該年齢の調査結果を使用した注1

調査内容

就業状況:就業状況について尋ね,1. 常勤職,2. 非常勤職,3. 専業主婦,4. 未就業(就職活動中,失業中,働けない)に分類した.

社会的属性:性別,教育歴,婚姻状況を尋ねた.

就業支障評価:疾患から生じる就業への支障について,1. 支障はない,2. 時々支障がある,3. しばしば支障がある,4. 非常勤の仕事のみできる,5全く仕事はできない,の中から自らの状況に応じて選択を求めた注2

疾患状況:疾患に関わる情報(疾患名,疾患重症度,入院・手術・通院回数,植込み型デバイス(ペースメーカー,植込み型除細動器)の有無)について,同意を得たうえでカルテを参照した.

心理的側面:1.生活の質(QOL: Quality of life): a Linear Analog Scale(LAS)17)により測定(生活への幸福感に関して,とても悪い(0点)からとても良い(100点)の直線の物差し上に対象者が線を引き,線を引いた箇所が尺度得点となる).2.生活満足度尺度(SWLS: the Satisfaction with Life Scale)18, 19):生活満足度を測定(5項目,7件法:合計点が尺度得点となる).

分析方法

就業状況,社会的属性,疾患状況における男女の比較,および就業状況についての患者群と国民標準値との比較はFisherの正確確率検定を用いて検討し,必要に応じて残差分析を実施した.また就業状況によるQOL,および生活満足度の検討についてはKruskal–Wallis検定を実施し,有意差がみられた場合は多重比較を実施した.さらに未就業患者の背景要因については,未就業患者とその他の患者を目的変数とし,社会的属性や疾患状況を説明変数とした単変量の2項ロジスティック回帰分析を実施した.統計分析にはSPSS ver. 22を用い,検定における有意水準は5%(両側)とした.

倫理的配慮

本調査は調査施設の倫理委員会の承認を受けたうえで実施された.対象者には調査紙票を郵送で送付し,参加の同意が得られた患者のみ同封の返信用封筒にて郵送で回収した.質問紙票は未記名とし,その後は通し番号で管理して個人名が特定できないように配慮した.

結果

患者の背景

対象者の就業状況,社会的属性,および疾患状況について男女別にしてTable 2に記した.

Table 2 Demographics and medical characteristics of patients (n=193)
VariablesACHD patients
n (%)
Male
n (%)
Female
n (%)
p-value (a)
Sex89 (46.1)104 (53.9)ns
Age mean±SD33.62±10.5032.69±10.5434.42±10.46ns
Age range (20–59)ns
20–2984 (43.5)47 (52.8)37 (35.6)
30–3962 (32.1)22 (24.7)40 (38.5)
≧4047 (24.4)20 (22.5)27 (26.0)
EthnicityJapaneseJapaneseJapanese
Employment0.00
Full-time worker110 (57.0)66 (74.2)44 (42.3)
Part-time worker42 (21.8)10 (11.2)32 (30.8)
Homemaker15 (7.8)0 (0)15 (14.4)
Unemployed26 (13.5)13 (14.6)13 (12.5)
Education Levelns
>High school education112 (58.0)56 (62.9)56 (53.8)
Marital statusns
Married72 (37.3)29 (32.6)43 (41.3)
Single115 (59.6)59 (66.3)56 (53.8)
Divorced or widowed6 (3.1)1 (1.1)5 (4.8)
Defect complexity0.015
Simple59 (30.6)18 (20.2)41 (39.4)
Moderate85 (44.0)45 (50.6)40 (38.5)
Great49 (25.4)26 (29.2)23 (22.1)
Cyanosisns
No182 (94.3)85 (95.5)97 (93.3)
Yes11 (5.7)4 (4.5)7 (6.7)
History of congestive heart diseasens
No186 (96.4)86 (96.6)100 (96.2)
Yes7 (3.6)3 (3.4)4 (3.8)
History of arrhythmians
No140 (72.5)62 (69.7)78 (75.0)
Yes53 (27.5)27 (30.3)26 (25.0)
Frequency of follow-upns
Two times or less a year121 (62.7)57 (64.0)64 (61.5)
Three or four times a year40 (20.7)17 (19.1)23 (22.1)
Five times or more32 (16.6)15 (16.9)17 (16.3)
Number of cardiac admissionsns
None92 (47.7)41 (46.1)51 (49.0)
Two times or less62 (32.1)28 (31.5)34 (32.7)
Three times or more39 (20.2)20 (22.5)19 (18.3)
Number of cardiac surgeriesns
None27 (14.0)8 (9.0)19 (18.3)
Two times or less134 (69.4)64 (71.9)70 (67.3)
Three times or more32 (16.6)17 (19.1)15 (14.4)
Cardiac device (PM or ICD)ns
No179 (92.7)80 (89.9)99 (95.2)
Yes14 (7.3)9 (10.1)5 (4.8)
ACHD: adult congenital heart disease, ICD: implantable cardioverter defibrillator, (a) Fisher’s exact test: Male versus Female, PM: pacemaker, ns: non-significant

患者の就業状況と心疾患を起因とする就業支障評価

対象者の男女別の就業状況(Table 2を参照),および国民標準値(男:常勤職85.6%,非常勤職8.6%,専業主夫0.9%,未就業5.0%;女:常勤職40.3%,非常勤職34.2%,専業主婦22.5%,未就業2.9%)をFig. 1に示し,患者群については患者自身が評定した心疾患を起因とする就業支障評価を就業状況に重ねて示した.

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Fig. 1 Patients’ estimatin of their work impairment within the employment status (left bar) and national standard value (right bar)

就業状況について,患者と国民標準値を比較したところ男女とも有意差があり(男:p=0.002;女:p=0.000),残差分析によると国民標準値と比較して男性患者については常勤者が少なく(患者群:74.2%;国民標準値:85.6%; p<0.01),未就業者が多いこと(同:14.6%;同:5.0%; p<0.01),女性患者については,未就業者が多く(同:12.5%;同:2.9%; p<0.01),専業主婦が少なかった(同:14.4%;同:22.5%; p<0.05).

患者が評定した心疾患を起因とする就業支障評価について,「全く仕事はできない」と回答した患者は3名で,そのうち男女1名ずつが未就業,女性1名が専業主婦だった.また「非常勤の仕事のみできる」と回答したのは,男性では0名,女性は13名だった.さらに未就業者26名(男13名,女13名)のうち,10名(男5名,女5名)は仕事への「支障はない」と回答した.なお未就業者26名のうち,障害年金受給者は9人(男3名,女6名)だった.

就業状況とQOL,生活満足度

就業状況における患者のQOL,および生活満足度をFig. 2に示した.男女ともに有意差が見られ(QOL:男p=0.002,女p=0.039;生活満足度:男p=0.014,女p=0.003),男性患者ではQOL,生活満足度ともに未就業者は常勤者より低く(QOL:p<0.01;生活満足度:p<0.05),女性患者ではQOLについて未就業者は常勤者,非常勤者より低く(p<0.05),生活満足度について未就業者は常勤者,非常勤者,専業主婦よりも低かった(未就業者と常勤者:p<0.01;未就業者と非常勤者,専業主婦:p<0.05).

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Fig. 2 Box plot showing the distribution of QOL (left) and SWLS (right) values within the employment status

QOL: quality of life, SWLS: satisfaction with life scale

未就業と社会的属性・疾患状況との関連

未就業者の背景要因となる社会的属性を検討した結果(Table 3),男性では年齢が有意に関連し,若いほど未就業であること,また女性では疾患重症度が有意に関連し,疾患が重いほど,さらにチアノーゼを持っているほど未就業であることが示された.

Table 3 Factors associated with employment status from univariable logistic regression models
MaleFemale
Number (%) of patientsEmploynment status (being unemployed)Number (%) of patientsEmploynment status (being unemployed)
unemployedOR95% CIp-valueunemployedOR95% CIp-value
Age at time of study0.0330.82
20–2911 (23.4)1.005 (13.5)1.00
30–391 (4.5)0.160.02–1.294 (10.0)0.710.18–2.88
≧401 (5.0)0.170.02–1.444 (14.8)1.110.27–4.60
Education Level0.6060.234
≦High school4 (12.1)1.008 (16.7)1.00
>High school9 (16.1)1.390.39–4.925 (8.9)0.490.15–1.61
Marital status0.130
Single11 (18.3)1.0013 (21.3)
Married2 (6.9)0.330.07–1.600 (0)
Defect complexity0.1140.026
Simple4 (21.1)1.003 (7.3)1.00
Moderate8 (18.2)0.760.20–2.923 (7.5)1.030.20–5.41
Great1 (3.8)0.140.01–1.387 (30.4)5.541.27–24.18
Cyanosis0.5760.035
No12 (14.1)1.0010 (10.3)1.00
Yes1 (25.0)2.010.20–21.143 (42.9)6.531.27–33.43
Congestive heart disease0.4060.486
No12 (14.0)1.0012 (12.0)1.00
Yes1 (33.3)3.080.26–36.701 (25.0)2.440.24–25.43
History of arrhythmia0.9710.615
No9 (14.5)1.009 (11.5)1.00
Yes4 (14.8)1.020.29–3.674 (15.4)1.390.39–4.97
Frequency of follow-up0.3980.055
Two times or less a year7 (12.3)1.004 (6.3)1.00
Three or four times a year2 (11.8)0.950.18–5.085 (21.7)4.171.01–17.18
Five or more times4 (26.7)2.600.65–10.444 (23.5)4.621.02–20.89
Number of cardiac admissions0.4790.150
None8 (19.5)1.004 (7.8)1.00
Two times or less3 (10.7)0.500.12–2.064 (11.8)1.570.36–6.74
Three or more times2 (10.0)0.460.09–2.395 (26.3)4.200.99–17.78
Number of cardiac surgeries0.6220.405
None2 (25.0)1.001 (5.3)1.00
Two times or less8 (12.5)0.430.07–2.509 (12.9)2.660.32–22.39
Three or more times3 (17.6)0.640.09–4.893 (20.0)4.500.42–48.53
Cardiac device (PM or ICD)0.7460.109
No12 (15.0)1.0011 (11.1)1.00
Yes1 (11.1)0.710.08–6.192 (40.0)5.330.80–35.5
ICD: implantable cardioverter defibrillator, PM: pacemaker

考察

患者の就業状況

患者の就業状況を見ると,国民標準値と比較した場合,男女とも標準値より未就業率が高く,加えて男性については常勤就業率が低いことが示された.本研究における男女込みにした患者の常勤・非常勤就業率は78.8%,未就業率は13.5%であり,海外の結果と比較して悪くないものの,国内で見ると,患者は就業に課題を抱えている状態であり,疾患を持つことによって社会的不利益を被ることにつながっている状況であるといえよう.日本における心疾患以外の小児期発症の慢性疾患患者の未就業率を見ると,小児がん患者で15.2%(男:20.5%;女:9.8%;学生を除いた場合の結果)20),腎疾患患者で21~24%(学生を含む調査)21)との報告があり,小児期発症の疾患は,全般的に成人期の就業に影響を及ぼしていると推察される.さらに本研究では女性患者は専業主婦の割合が国民標準値と比較して低く,疾患を持つことが婚姻に影響を与えていることが考えられる.

また未就業の患者の大多数が,自らを働けると評価していたことは注目される.つまり,未就業の患者の多くは就業に向けて動き出せる,もしくは就業形態によっては就業可能であるといえる.男性においては,非常勤勤務に従事している患者で「非常勤の仕事のみできる」と回答した者はいなかったことから,非常勤勤務に従事している男性患者全員が,常勤勤務が可能であると判断していることがわかる.これらの状況の背景には,患者本人が就業そのものや常勤勤務に向けて活動していないケースもあれば,活動をしつつも企業側から採用されずに就業,もしくは常勤勤務に至っていないケースもあろう.就業については,a.患者側の課題(意欲や病態),b.医療者側の課題(病態と就業に関する説明),c.雇用者側の課題(患者の雇用の抑制)など整理しながらさらに精査し,患者の疾患状態に沿った就業に向けて,患者本人,医療機関,企業,行政に働きかけていく必要があろう.

また未就業者のQOLや生活満足度は低く,未就業でいることは患者の生活を不安定にさせている可能性がある.QOLや生活満足度の結果は分散が大きかったことから個人差が生じていると考えられるが,患者が自らを働けると評価していることを考えても,未就業の患者は家で過ごす生活に満足しているわけではないと考えられる.成人患者の生活にとって就業は重要であり,患者一人一人の生活の質,満足感に合った支援を考慮しつつ今後は柔軟な勤務形態を含めた就業状況の改善について考えていく必要がある.

未就業の背景

未就業に影響を与えている要因として,男性は年齢が若いことが挙げられた.現在,国内全体に若者の失業率が高いことは課題となっている.本研究における20歳代の男性患者の未就業率は23.4%であった.国勢調査の失業率の結果を年齢別に見ると16),やはり年齢が若いほど失業率が高く,20歳代男性では7.7%(30歳代:4.9%,40, 50歳代:4.3%)であり,若い男性は失業につながりやすいことがわかる.国内の社会情勢を背景に,疾患を持つことで,顕著な影響を受けているといえよう.また海外の調査においても,若い患者で,かつ男性の就業率が低いことが示されており2),学生から社会人への移行期における支援を充実させる必要がある.ある年代を超えると男性は就業する可能性が高く,継続的な支援をしていくことが不可欠であろう.

一方女性は,重い疾患重症度が未就業に影響を与えていた.本研究の対象者では,男性のほうが女性より疾患の重い患者が多かったが,男性では疾患重症度は就業に影響を与えず,重い疾患の患者の多くが常勤で働いていた.このことから,単純に疾患重症度が就業に影響を及ぼしているわけではないことがわかる.男性のほうが将来的な就業を見据えた生育過程を経るのに対して,女性は比較的そのような過程を経ておらず,そのため将来設計が未設定のまま成人している患者が男性より多いことが推察される.女性は当初の疾患の重症度が重いほど将来設計を立てる機会が失われがちで,社会的に消極的になりやすいのかもしれない.医療者は患者の疾患に関する適切な情報を提示し,患者の疾患に合わせた社会生活が選択できるよう支援していく必要があろう.

本研究において,未就業者で年金を受給していた患者は3分の1程度であった.つまりこれは未就業患者の中に全く無収入の患者がいることを表しており,生活面を考えると常勤とは言わぬまでも疾患を持ちつつ就業することは大きな課題である.

就業への支援

さて今後,患者の就業状況を改善し,支援していく視点としては,「就業すること」,「就業を続けること」の2つがあろう.就業することへの支援は,最近行政としても力を入れて盛んに行われている.例えば若者への就業支援22)(「わかものハローワーク」,「ジョブカフェ(若年者のためのワンストップサービスセンター)」など),障害を持つ人への就業支援23)(「障害者雇用率制度」,「障害者職業センター」など)はさまざまに展開されている.海外の報告を見ると,先天性心疾患患者へのキャリア支援については,医療者側は就業に関する情報を知らず,キャリアアドバイザーは医療に関する情報を知らず,結局は患者にとって有益な支援が展開されていないという7).医療者側の的確な情報提供をもとに,患者が国の制度や支援センターを利用して自分に合った職場や働き方を探すには,医療と就業支援がもっと連携するシステムが必要である.

また就業を続けるための整備も重要となる.就業に関する先天性心疾患患者への面接調査の結果では24),就業の阻害要因として,体力的疲労からの回復時間が十分に取れないこと,雇用者の疾患に対する理解が乏しいこと,職場における疾患の開示の問題が挙げられている.一方で就業への促進要因として仕事内容への配慮(肉体労働の軽減など),勤務時間や日数の配慮といった疲労回復のための柔軟な勤務態勢,さらに同僚や雇用者との良い関係など組織環境が重要であるとしている.

研究の限界と今後の課題

本研究の限界として,一つの専門病院に通院している対象者に限定した調査であることが挙げられる.先天性心疾患患者の中には,専門病院に通院していない,もしくは病院自体に通院していない者がいることから,本研究の結果は先天性心疾患患者の就業全体を表しているとはいえない.また就業状況は地域によって状況が異なることが考えられるがそれについて本研究では考慮されてはいない.

今後は,患者の就業における困難さについて,「就業すること」,「就業を続けること」の2点について,面接調査等,直接的に患者の情報を得られる方法で現状を丁寧に探り,それらの困難さの心理的・社会的背景を明らかにすることが肝要である.また就業状況については,障害者雇用率制度の利用の有無,さらには就業形態のみならず収入の実際についても社会的立場や生活実態を反映する大事な指標となろう.日本の患者の就業に関わる現状を多面から捉えて具体的な支援に結びつけていくことが必要である.

結論

本研究では先天性心疾患患者の就業状況とその背景要因について検討した.患者は男女とも国民標準値より未就業率が高く,加えて男性については常勤就業率が低いことが示された.患者は就業について課題を抱えている状態であり,疾患を持つことによって社会的不利益を被っていると考えられる.また未就業患者の多くは,自らを就業可能と考えており,さらに未就業患者の生活の質,満足感が低かったことから,就業は患者の生活に重要であるといえよう.未就業患者の背景要因としては,男性は若い年齢,女性は重い疾患重症度であった.今後は患者の就業状況の改善に向けて支援策を具体的に検討することが望まれる.

謝辞Acknowledgments

本研究の質問紙調査にご協力をいただきました対象者の方々に厚く御礼申し上げます.なお本研究は,JSPS科研費JP26380958, JP17K04460の助成を受けたものです.

利益相反

日本小児循環器学会の定める利益相反に関する開示事項はありません.

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注1)平成27年国勢調査就業状況等基本集計結果(総務省統計局)を加工して使用した.加工に際しては,国勢調査中の「就業者」のうち,「通学のかたわら仕事」は学生とみなして除外し,さらに「不詳」についても除外して再計算した.また本研究中の「常勤者」とは国勢調査での「正規の職員・従業員」「役員」「雇人のある業主」「雇人のない業主」「家族従業者」とし,「非常勤」とは国勢調査での「労働者派遣事業所の派遣社員」「パート・アルバイト・その他」「家庭内職者」とした.さらに,本研究中の「専業主婦(主夫)」とは国勢調査での「家事」とし,「失業・就業不可能」とは国勢調査での「完全失業者」とした.

注2)この問いについては複数回答を求めている.その結果,男性4名,女性9名が複数に回答したが,分析にあたっては複数回答のうち,重い支障状態を対象者の就業支障評価とみなした.なお,「4. 非常勤の仕事のみできる」とともに複数に回答があった場合はすべて「4. 非常勤の仕事のみできる」として分析を行った.

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