Online ISSN: 2187-2988 Print ISSN: 0911-1794
特定非営利活動法人日本小児循環器学会 Japanese Society of Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery
Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery 34(1): 22-29 (2018)
doi:10.9794/jspccs.34.22

原著Original

日本人小児肺動脈性肺高血圧症患者に対するボセンタン新規小児用製剤の治験成績:有効性,薬物動態,安全性,及び忍容性の検討Clinical Use of Pediatric Bosentan in Japanese Children with Pulmonary Arterial Hypertension: Investigation of Efficacy, Pharmacokinetics, Safety, and Tolerability

1東邦大学医学部心血管病研究先端統合講座Advanced and Integrated Cardiovascular Research Course in the Young and Adolescence, Toho University ◇ Tokyo, Japan

2東京女子医科大学成人先天性心疾患病態学寄附研究部門Pediatric Cardiology, Tokyo Women’s Medical University ◇ Tokyo, Japan

3国立循環器病研究センター小児循環器科Department of Pediatrics, National Cerebral and Cardiovascular Center ◇ Osaka, Japan

4東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科小児・周産期地域医療学講座(小児)Department of Pediatrics, Perinatal and Maternal Medicine, Tokyo Medical and Dental University, Graduate School ◇ Tokyo, Japan

5神奈川県立こども医療センター循環器内科Department of Cardiology, Kanagawa Children's Medical Center ◇ Kanagawa, Japan

6東京大学小児科Department of Pediatrics, Tokyo University ◇ Tokyo, Japan

7滋賀医科大学小児科Department of Pediatrics, Shiga University of Medical Science ◇ Shiga, Japan

8Actelion Pharmaceuticals Ltd.Clinical Pharmacology, Actelion Pharmaceuticals Ltd. ◇ Actelion Pharmaceuticals Ltd., Allschwil, Switzerland

9アクテリオン ファーマシューティカルズ ジャパン株式会社研究開発本部Research and Development, Actelion Pharmaceuticals Japan Ltd. ◇ Tokyo, Japan

2017年5月22日逝去.Deceased 22 May 2017.

受付日:2017年2月10日Received: February 10, 2017
受理日:2018年1月12日Accepted: January 12, 2018
発行日:2018年1月1日Published: January 1, 2018
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背景:日本人小児PAH患者に対するボセンタン(BOS)新規小児用製剤の有効性,薬物動態,安全性,及び忍容性を検討する目的で治験を実施した.

方法:本研究は非盲検,単群,多施設共同,第3相試験として実施した.投与対象は15歳未満のPAH患者とし,BOS新規小児用製剤を2 mg/kg,1日2回(4 mg/kg/日)投与した.治験期間は12週までの有効性評価期間,その後の継続期間及び製造販売後臨床試験期間の2プロトコルで実施した.主要評価項目はベースライン値から12週後の右心カテーテル検査で肺血管抵抗係数(PVRI)の変化とし,副次評価項目は,投薬終了まで12週毎のWHO機能分類(WHO-FC)の変化等とした.さらに,薬物動態として血中濃度,曝露量,最高濃度到達時間を評価し,安全性及び忍容性では有害事象,投与中止に至った有害事象等を評価した.

結果:患者数は6例,中央値5.5歳(1~13歳),男:女は4 : 2であった.投与後のPVRIは平均4.0±258.6 dyn·sec·m2/cm5低下したが統計学的な有意差は認めなかった.WHO-FCは,全例IIで不変であり,BOSの血漿中薬物濃度の幾何平均値は,最高血漿中濃度が494 ng/mL,1投与間隔の薬物血漿中濃度–時間曲線下面積が2300 ng·h/mLであった.安全性及び忍容性は良好であった.

結論:日本人小児PAH患者に対するBOS新規小児用製剤の安全性と忍容性が確認された.有効性評価項目である平均PVRI及びWHO-FCの悪化はなかった.

Background: The efficacy, pharmacokinetics, safety, and tolerability of bosentan (Tracleer® 32 mg, new dispersible tablet for pediatric use) for pulmonary arterial hypertension (PAH) were investigated in Japanese children.

Methods: This was an open-label, multi-center, phase III, single-arm trial. Patients aged <15 years with PAH were administered a new pediatric formulation of bosentan (2 mg/kg twice per day). The efficacy of bosentan was evaluated during the first 12 weeks of the trial, and the subsequent period, including a post-marketing study, was evaluated by following a separate protocol. The primary outcome measure was a change in the pulmonary vascular resistance index (PVRI) from baseline to 12 weeks after starting treatment. Secondary outcome measures were changes in World Health Organization functional class (WHO-FC) every 12 weeks. Additionally, the pharmacokinetics of bosentan were evaluated by measuring blood concentrations, area under the curve (AUC), and time-to-peak blood concentrations (Tmax). To assess safety and tolerability, adverse events were evaluated, including those leading to study drug discontinuation.

Results: In total, 6 subjects with a median age of 5.5 years (range, 1–13 years; 4 males, 2 females) were enrolled. The mean change±standard deviation from baseline to Week 12 in PVRI was 4.0±258.6 dyn·sec·m2/cm5, which indicated no significant change in PVRI relative to the baseline value. WHO-FC II was unchanged in all patients. The geometric mean Cmax of bosentan and AUCtau were 494 ng/mL and 2300 ng·h/mL, respectively. Safety and tolerability were satisfactory.

Conclusion: A new pediatric formulation of bosentan was confirmed to be safe and well-tolerated in Japanese children with PAH. There was no worsening in the mean PVRI and WHO-FC.

Key words: Bosentan; children; endothelin receptor antagonist; new formulation; pulmonary arterial hypertension

背景

肺動脈性肺高血圧症(PAH)は,肺血管の血管壁の肥厚と内腔狭窄に伴う肺血管抵抗(PVR)の増加により右心不全を来す進行性の難治性疾患である1, 2).PAHの病理及び病態は成人と小児で概ね類似しているが,小児では成人より急速に病態が進行し,予後不良であることが多い2, 3)

現在PAHの治療薬として,エンドセリン受容体拮抗薬(ERA),プロスタサイクリン関連薬(PGI2),ホスホジエステラーゼ5阻害薬(PDE5-I),及び可溶性グアニル酸シクラーゼ刺激薬(sGC)といった血管拡張薬が使用されている.これらの薬剤のうち欧州では小児患者に対してボセンタン(BOS)及びシルデナフィルの有効性,忍容性及び安全性が確認され,承認を得ている4).一方,2015年時点でその他の薬剤は小児に対する承認が得られておらず4),世界的に小児患者に対して適応外で投与されていた.

本邦でも,これまでPAH治療薬はすべて成人患者に対するものであり,小児患者がBOS既存製剤(トラクリア®錠62.5 mg)を服用する際は,外国人小児患者を対象としたBREATHE-3試験5)で用いた用法・用量が添付文書に掲載されていた.投与方法は10 kg以上20 kg以下の低体重群,20 kg超え40 kg以下の中体重群,40 kg超えの高体重群に分け,BOS既存製剤を投与するものである.医療現場では,錠剤の服用が難しい小児患者に対して,薬剤師が錠剤を粉砕して剤形変更した上で投薬していた6).特にBOS既存製剤は,小児用製剤として重要な医薬品例の一つと報告されているが6),錠剤の粉砕量自体が少量であり調剤と服薬が難しいという問題点があった.このような現状を鑑み,ヨーロッパで既に販売され,服用しやすく,また調剤しやすいBOS新規小児用製剤を用い,日本人小児PAH患者に対する有効性,薬物動態,安全性,及び忍容性を検討した.

方法

本研究は非盲検,単群,多施設共同,第3相試験とし,9施設の治験審査委員会で妥当性が審議され,承認された.また,ヘルシンキ宣言(2008年ソウル総会修正)及びGCP(Good Clinical Practice)に準拠して実施した(Trial Registration: JAPIC Clinical Trials Information[JapicCTI-132154, JapicCTI-132155]).各担当医師は,研究開始に先立ち,患者本人及び代諾者に対して治験の方法,目的,及びリスク等を十分に説明した.代諾者からの自由意思による同意を文書で取得し,患者本人からは年齢及び理解能力に応じてアセントを取得した.ここでは,投与12週までの有効性評価期間と,その後の継続期間及び製造販売後臨床試験期間を含む,平均投与期間±標準偏差が506±248日(投与期間範囲:207~766日)の有効性,薬物動態,安全性,及び忍容性の結果を報告する.

対象はPAHと確定診断された日本人小児患者で,疾患分類は特発性PAH,遺伝性PAH,または先天性心疾患(CHD)に伴うPAH,年齢は0歳以上15歳未満,体重は4 kg以上とした.CHD-PAH患者で根治手術後の場合は,修復術後最低6か月間持続または再発を繰り返している患者とし,短絡性CHDの場合は手術適応ではないと判断された患者とした.PAHの診断基準はBOS新規小児用製剤の服用前90日以内に実施した右心カテーテル検査の結果,1)安静時平均肺動脈圧が25 mmHg以上,2)肺血管抵抗(PVR)は240 dyn·sec/cm5以上,3)肺毛細血管楔入圧又は左室拡張末期圧が15 mmHg以下の患者とした.投与開始時に4歳以上の患者は,WHO機能分類(WHO-FC)がII~IVを対象とした.除外基準は,低血圧,肝機能(AST及び/またはALT)検査値高値(施設基準値上限の1.5倍を超える),肝機能障害(Child-Pugh Class BまたはC)を合併している患者とした.また,既にBOS既存製剤の投与歴がありその効果が明らかな患者も除外とした.BOS新規小児用製剤以外のPAH治療薬を新たに投与することは原則禁止としたが,PDE5-I及びベラプロストは,適格性を確認する検査日の90日以上前から投与12週後まで一定用量で使用されている場合に限り併用可能とした.利尿薬及びカルシウム拮抗薬は,適格性を確認する検査時及び投与12週後の右心カテーテル検査の7日前から検査当日まで一定用量とし,BOS既存製剤及びエポプロステノール持続注入は併用禁止とした.

BOS新規小児用製剤の投与量は2 mg/kgを1日2回(朝・夕)とした.BOS新規小児用製剤は,四葉のクローバー型で,1錠あたり32 mgが含有されている(Fig. 1).製剤には十字の割線が入っており,4つに分割可能であるため1欠片あたり8 mgとなっており,甘味が付されて小児でも服用しやすいよう工夫した.服用時には,スプーン一杯程度の水に分散させて服用した.

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Fig. 1 Bosentan pediatric formulation

主要評価項目は投与12週後の右心カテーテル検査による肺血管抵抗係数(PVRI)の変化とした.その他の有効性評価項目として,心係数(CI),平均右心房圧(mRAP),平均肺動脈血圧(mPAP),全身血管抵抗係数(SVRI),PVR/全身血管抵抗(SVR)比,混合静脈血酸素飽和度(SvO2)の投与12週後の変化を確認した.心拍出量(CO)は熱希釈法又はFick法のいずれかを用いて測定し,各患者で投与前後の測定法を同一とした.WHO-FCは投与12週までは4週毎,その後は12週毎の変化を確認した.

血中薬物濃度測定は投与12週後に,投与直前,投与後0.5時間,1時間,2時間,3時間,7.5時間,12時間後で実施し,BOSの最高血漿中濃度(Cmax),最高濃度到達時間(tmax),及び反復投与時の1投与間隔の薬物血漿中濃度–時間曲線下面積(AUCtau)を算出した.本研究は対象年齢を0歳以上15歳未満の患者としたため,薬物濃度測定用の採血量を最小限にする目的で,全血を用いるDMPK-Aカードを使用した7).BOSは赤血球中への移行性が低いことが確認されていることから8),患者毎の全血中薬物濃度とヘマトクリット値(%)を用いて血漿中薬物濃度推定を行った.換算式には以下を用いた. 血漿中 C max 推定値 C max (全血) /1ヘマトクリット値 [%]/100 血漿中 AUC tau 推定値 AUC tau /1ヘマトクリット値 [%]/100

安全性及び忍容性は,有害事象,臨床検査値,血圧,脈拍数,心電図,身長,体重の変化で確認した.

目標患者数は,実施可能性を勘案し,有効性評価が可能な患者として5例と設定した.有効性解析集団は治験薬が投与された全例とし,安全性評価解析集団は治験薬の投与を少なくとも1回受けた患者を含めることとした.評価項目は臨床的に評価し,統計学的仮説検定は設定しなかったが,補足的位置づけでWilcoxonの符号付順位検定を行った.投与12週後のベースライン値からの変動は,中央値及び平均値,それらの95%信頼区間(CI),標準偏差,最小値及び最大値等で要約した.安全性及び忍容性の評価項目では,カテゴリカル値(定性的データ)は計数及び%頻度,連続値は中央値及び平均値,それらの95%CI,標準偏差(SD),最小値及び最大値の記述統計量で要約した.解析はすべてSAS Ver. 9.3(SAS Inc., Cary, NC, USA)により行った.

結果

組み入れ患者は6例で,2013年6月~2014年4月に6施設(神奈川県立こども医療センター,国立循環器病研究センター,滋賀医科大学医学部附属病院,東京医科歯科大学医学部附属病院,東京女子医科大学病院,東京大学医学部附属病院)で6例の患者が登録された(Fig. 2).研究開始時の年齢中央値は5.5歳(1歳11か月~13歳2か月,平均:6.7歳)であった(Table 1).疾患分類は特発性PAHが4例,遺伝性PAH及びCHD-PAH(手術適応ではない心房中隔欠損)が各1例であった.治験薬投与開始時点で,ベラプロスト(PGI2)とタダラフィル(PDE5-I)が各3例,シルデナフィル(PDE5-I)が2例に使用されていた.いずれのPAH治療薬も使用されていない患者は1例であった.投与開始時に4歳以上であった4例のWHO-FCは全例IIであった.投与開始前のPVRIは907.7±494.9 dyn·sec·m2/cm5(平均±SD)であった.

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Fig. 2 Disposition of patients

Table 1 Baseline characteristics
Age (year)6.7±4.8
range: 1~13
Sex: male/female (n)4/2
PAH etiology (n)6
Idiopathic PAH4
Heritable PAH1
PAH associated with congenital heart disease1
Medication used for PAH (n)5
Beraprost3
Sildenafil2
Tadalafil3
WHO classification (n)4
II4
Cardiopulmonary Hemodynamics
PVRI (dyn·sec·m2/cm5)907.7±494.9
mPAP (mmHg)50.8±20.6
CI (L/min/m2)3.87±1.10
PVR/SVR0.56±0.29
Height (cm)119.2±33.1
Body Weight (kg)23.5±13.1
mean±SD

評価期間を満了した患者は3例であった(Fig. 2).評価期間中に投与を中止した3例の理由はそれぞれ,4週毎の来院が困難であること,PAHに対する治療強化目的で併用禁止薬として設定していたエポプロステノールの投与を検討するため,そしてベラプロスト追加投与時に肝機能検査異常を発現したためであった.

有効性

ベースラインから投与12週後の各心肺血行動態の変化量をTable 2及びFig. 3に示した.PVRIは4.0±258.6 dyn·sec·m2/cm5(平均±SD)低下した.補足的解析として実施したWilcoxonの符号付順位検定ではp=1.00であり,治験薬投与前後でのPVRIの変化量に統計学的有意差を認めなかった.mPAPも同様にベースラインから4.7±10.9 mmHg(平均±SD)低下したが,Wilcoxonの符号付順位検定ではp=0.56であり,統計学的有意差を認めなかった.

Table 2 Change from baseline to Week12 (n=6)
PVRI
(dyn·sec·m2/cm5)
Cardiac Index
(L/min/m2)
mPAP
(mmHg)
mRAP
(mmHg)
SVRI
(dyn·sec·m2/cm5)
PVR/SVR
Mean±SD−4.0±258.6−0.40±0.71−4.7±10.91.3±2.5142.8±288.6−0.06±0.14
Median37.5−0.60−3.51.0308.0−0.05
95% CI of mean−275.4, 267.4−1.15, 0.35−16.1, 6.8−1.3, 4.0−160.0, 445.7−0.20, 0.08
SD, standard deviation, CI, confidence interval
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Fig. 3 Change from baseline to Week 12 in PVRI, CI, mPAP, mRAP, SVRI, and PVR/SVR

WHO-FCは,評価した4例全例が投与中止・終了時点までWHO-FC IIと一定であった.このうち1例が投与8週でWHO-FC IIからIへ一時改善したが,12週の評価でIIと評価された.

薬物血漿中濃度

薬物血漿中濃度測定採血前にシルデナフィルを服用した1例では,AUCtau, Cmax,及びtmaxの結果は算出しなかった.投与12週まで反復投与した際のBOSの血漿中薬物濃度Cmax(推定値)の幾何平均値は494(95% CI: 187, 1301)ng/mLであり,血漿中薬物濃度AUCtau(推定値)の幾何平均値は2300(95% CI: 887, 5963)ng·h/mLであった.tmaxの中央値は2時間であった.

安全性

6例の投与中止・終了後30日までのデータを集積した(Table 3).何らかの有害事象を発現したのは6例中5例であった.そのうち,1例で軽度の肝機能検査異常により投与中止に至った.本件は,ベラプロストを追加投与した際に発現した事象であったため,治験担当医師により治験薬の有害事象への関与を積極的に示唆する事象は見当たらないと判断された.GCPの定義に準じた重篤な有害事象は2例3件で発現した.いずれの事象も中等度であり,治験担当医師により治験薬の有害事象への関与を積極的に示唆する事象は見当たらないと判断された.その内訳は,1例で投与2日目にアデノウイルス性上気道感染による入院期間の延長,及び投与106日目に肺炎により入院となったためであった.いずれの事象も後遺症なく回復し,BOS新規小児用製剤の投与を継続した.他の1例では投与358日目に網膜静脈閉塞を発症した.当該患者は「永続的または顕著な障害・機能不全に陥るもの」と判断されたため重篤な有害事象となり,最終評価時点で未回復と判断された.なお,治験担当医師により,併用していたタダラフィルに網膜静脈閉塞の副作用報告があることから,本事象はこれによる影響が強いと判断され,BOS新規小児用製剤の投与を継続した.

Table 3 Adverse events occurring in at least 2 patients
Adverse eventsN=6
n (%)
Total patients with at least one adverse event5 (83.3%)
Nasopharyngitis4 (66.7%)
Pyrexia3 (50.0%)
Dry skin3 (50.0%)
Brain natriuretic peptide increased2 (33.3%)
Vomiting2 (33.3%)

評価期間中に発現頻度の高かった有害事象は鼻咽頭炎4/6例(66.7%),発熱及び皮膚乾燥が3/6例(50.0%)であった.肝機能に関連する有害事象は2例で発現した.AST上昇(AST: 37 U/L)を示した1例では,BOS新規小児用製剤を服用中に検査値が回復した(発症期間:15日間).肝機能検査異常と報告された1例は先述したベラプロストを追加投与した症例であった.両事象とも,治験担当医師により治験薬の有害事象への関与を積極的に示唆する事象は見当たらないと判断された.

投与中止・終了時までの血圧,脈拍,12誘導心電図,及び臨床検査値に大きな変化はなかった.身長及び体重は,それぞれ8.2±5.8 cm(平均±SD)及び3.8±2.1 kg(平均±SD)増加した.

考察

BOS新規小児用製剤は,甘味を付した薬剤であり,少量の水に分散して服用できることから,乳幼児でも服用しやすい剤形となっている.また,1錠あたり32 mgのBOSを含有しており,十字の割線が付されていることから,容易に4分割して1欠片あたり8 mgのBOS分散錠として患者の体重に合わせた投与が可能である.また,粉砕する必要がなくなり,医療現場の負担も軽減される.

BOS既存製剤を小児PAH患者に投与した海外のBREATHE-3試験では,12週間投与した際のPVRIがベースライン値と比べ平均300 dyn·sec·m2/cm5低下しており,有効性が示されている5).一方,本研究ではベースラインから投与12週のPVRIの低下が4.0±258.6 dyn·sec·m2/cm5とBREATHE-3試験で得られた結果に比べて小さかったものの,小児PAHは病態が急速に進行し予後が不良であると言われていることから3),今回得られた結果は病態の進行抑制を示している可能性もある.また,本治験では6例中5例でPDE5-IやPGI2が既に使用されており,BOS新規小児用製剤はこれに上乗せする形で投与されたため,本剤の有効性がマスクされた可能性も考えられる.もう一つの理由として,患者数が6例と少なく,PVRI平均値の95% CIは-275.4, 267.4 dyn·sec·m2/cm5とばらつきが大きかったことも原因と考えられた.

本治験期間中にWHO-FCの悪化を示した患者はいなかった.さらに海外で実施された小児PAH患者にBOS新規小児用製剤を投与したFUTURE-1試験9)及びその継続試験であるFUTURE-2試験10)では,22.7か月(中央値,範囲:1.9~59.6か月)投与された際のWHO-FCが改善した患者は39.3%(11/28例)であり,悪化した患者はわずか7.1%(2/28例)であった.このことからもBOS小児用製剤投与が病状を改善または維持させる可能性があると考えられた.

血漿中薬物濃度解析では,Cmax及びAUCtauの幾何平均値が海外小児PAH患者の値9)に比べ日本人小児PAH患者でやや低い結果であった.その要因として,今回は被験者数が少なく,さらに個体間のばらつきが非常に大きかったことが影響したと考えられた.これに関しては,日本人小児PAH患者46例にBOS既存製剤を投与した際の報告で,血漿中のBOS濃度が最も低い患者と高い患者では50倍以上異なったとの報告と一致している11).また,BOSの治療域は広範囲に及ぶとの報告もある12).なお,人種差の視点からは,成人でのデータではあるものの白人と日本人でBOSの血漿中薬物濃度は類似していることが確認されている13, 14).今回の結果より,小児PAH患者では状態維持または改善を示すだけのBOSの血漿中薬物濃度を有していたと推察され,BOS新規小児用製剤の2 mg/kg 1日2回投与は小児患者の用法用量として適切であったと考えられる.

安全性では,BOS投与により肝機能の上昇が高頻度で発現すると報告されている2).しかし,ヨーロッパで実施されたBOS既存製剤に対する市販後調査で,12歳未満の小児PAH患者を抽出した報告では,肝機能検査値の異常を発現した患者の割合は2.7%(4/146例)であったとされている.また,肝機能検査値の異常の程度は基準値の3倍以下が0.7%(1/146例),3~5倍以下が2.1%(3/146例)であり,5倍を超える患者はいなかった15).本治験でも肝機能異常に関する報告は2例のみであり,日本人小児PAH患者でも成人に比べ肝機能異常を発症する割合は低い可能性が示唆された.今回,治験薬投与中止に至った有害事象の発現は1例のみであり,忍容性は良好であると思われた.

試験の限界

本研究には結果の解釈に制限をもたらす要因が認められた.まず第1に,非盲検試験であったためWHO-FCの評価にバイアスがかかる可能性は否定できない.第2に,単群試験であったため,有効性指標の改善がBOS新規小児用製剤以外による可能性も否定しえない.これについては,主要評価期間である最初の12週間はPAHの評価に影響を与えるような治療薬(PDE5-I及びPGI2)の追加使用を禁止することにより,他剤の影響は可能な限り排除した.第3に,患者数が6例と少なく,治験で得られたデータのばらつきが多いことであった.

結論

日本人小児PAH患者に対するBOS新規小児用製剤の安全性と忍容性が確認された.有効性の主要評価項目である平均PVRI及びWHO-FCの悪化はなかった.

謝辞Acknowledgments

治験分担医師や治験コーディネーターなどの本治験に協力して下さった皆さまに謝意を表します.

薬物血漿中濃度測定は,Actelion Pharmaceuticals Ltd. のSusanne Globigが行った.

統計解析及びメディカルライティングはアクテリオン ファーマシューティカルズ ジャパン株式会社が協力した.

資金源

本治験はアクテリオン ファーマシューティカルズ ジャパン株式会社がスポンサーとして資金を提供し実施した.

利益相反

日本小児循環器学会の定める利益相反に関する開示事項に則り開示します.

心血管病研究先端統合講座及び成人先天性心疾患病態学寄附研究部門はアクテリオン ファーマシューティカルズ ジャパン株式会社の寄附講座である.

Jasper DingemanseはActelion Pharmaceuticals Ltdの社員である.また,八田基稔と横山由斉はアクテリオン ファーマシューティカルズ ジャパン株式会社の社員であり報酬を得ている.佐地 勉及び土井庄三郎はアクテリオン ファーマシューティカルズ ジャパン株式会社から講演料の支払いを受けた.

著者の貢献度

本論文作成には,著者全員が関与した.

佐地 勉は論文作成に加え,治験デザイン検討,プロトコル作成,データ解釈,研究結果発表決定に関与した.治験の実施には中西敏雄,山田 修,土井庄三郎,上田秀明,犬塚 亮,宗村純平が関与した.アクテリオン ファーマシューティカルズ ジャパン株式会社の横山由斉及び八田基稔は,治験デザイン検討,プロトコル作成,モニタリング,監査,データ収集,データ解析及び解釈,研究結果発表決定に関与した.Actelion Pharmaceuticals Ltd.のJasper Dingemanseは薬物血中濃度のデータ解釈に関与した.

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