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特定非営利活動法人日本小児循環器学会 Japanese Society of Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery
Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery 34(3): 153-154 (2018)
doi:10.9794/jspccs.34.153

Editorial CommentEditorial Comment

成人期Fontan手術と治療選択A Classical Question?To Do or Not to Do Fontan Procedure in Adults: A Classical Question?

Toronto Congenital Cardiac Centre for AdultsToronto Congenital Cardiac Centre for Adults ◇ Canada

発行日:2018年9月1日Published: September 1, 2018
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「Fontan手術を施行できそうだが未施行の機能的単心室の成人患者さんに対して,果たして今さら手術をお勧めするか?」外来でしばしば頭に浮かぶ悩みの一つである.石井論文は,成人期にTCPC法によるFontan手術を施行した25例の中期遠隔期成績を検討した貴重な報告であり,この問いに対する大切な情報を提供している1)

Fontan手術の平均施行年齢が高かった黎明期には,このような問題に今以上に頻繁に遭遇したものと思われる.実際1988年には,Mayo Clinicから18歳以上で施行したFontan手術77例についての報告がなされている.驚くことに,18歳以上の手術例における院内死亡率は6%と,同時期の17歳以下419例における19%よりもかなり低いとの結果であった2).30年前の報告であり現在の医療と単純に比較はできないが,確かに個人的な経験からも,血行動態的には問題がないにもかかわらず何らかの事情でFontan手術の機会を逃していたような場合には,成人でも比較的安全にFontan手術を行えているように思う.

Fontan手術を勧めるかどうかを検討する際には,手術を受けた場合とこのまま受けなかった場合の患者の将来を比較して考えることが必要である.しかし当然のことながら,この疑問に答える無作為比較試験などは存在しない.2001年にTorontoから,成人期になってからFontan手術を施行した61例と,施行しなかった機能的単心室50例(Glenn手術後35例,AP shunt術後15例)の予後を比較した研究結果が報告された3).約10年間の経過観察期間において,Fontan手術を施行した症例のほうが生命予後も機能予後も良好であったとの結果であった.しかしながら,論文のLimitationにもあるとおり,後方視的研究のため選択バイアスが影響している可能性は否定できない.

より最近の情報としては,日本胸部外科学会の2014年度報告によると,Fontan手術397例のうち病院死亡は4例(1.0%)でみられたが,18歳以上の30例では病院死亡はみられなかった4).他の報告も同様に良好な短期成績を報告しており5–7),少なくとも短期生命予後において,適応と判断された成人例が小児例に劣ることはないようである.石井論文においても短期成績(25例中早期死亡1例)は,諸家の報告とほぼ同様で比較的良好な結果である.興味深いのは早期死亡の1例はGlenn手術を経なかった症例であり,他の24例はGlenn手術を経て段階的にTCPCに進んでいるということである.Glenn手術を経た段階的手術の血行動態的なメリットについては,すでに過去に報告がなされており8),小児においては標準的な治療となっている.しかしながら,上大静脈血流量が心拍出量の約35%しかない成人例においては,Glenn手術後の低酸素血症は重要な問題であり9),additional flowが必要となることも多い.そのため,諸外国を含めた他の成人例の報告では,Glenn手術を経ずに一期的にFontan手術を施行している症例も比較的多くみられる(73~90%)5–7).全体的な生命予後に関しては石井論文と大きく変わらない報告が多いが,他の報告の多くが胸水の遷延を高頻度に報告しているのに対して(60~63%)5–7),石井論文ではわずか20%の症例でみられるのみである.血管塞栓などの予防処置の影響もあるのかもしれないが,段階的手術を徹底したことによるメリットの一つの可能性があるように思う.

成人期Fontan手術による症状の改善が主にSpO2の増加によることは,過去の報告においても指摘されている.しかしながら,心拍出量がここまで低くなる(平均CI 1.9 L/min/m2)ことを指摘したのは,石井論文における大切な知見の一つであるように思う.筆者が現在勤めているToronto Congenital Cardiac Centre for Adultsには常に何人ものfailed Fontanの患者が入院しており,心臓移植の適応などについて議論がなされている.患者の主な年齢層は30代であり,近い将来に日本も似たような状況になるのかもしれない.ひとくくりにfailed Fontanと言っても実際にはその病態には様々なタイプがあるが10),その中にはもちろん低心拍出量が主体のものも存在する.遠隔期の主な合併症の一つであるFontan associated liver disease(FALD)についても,高い中心静脈圧に加えて,低心拍出も重要な要因であると言われている11).Fontan手術をせずとも元気に暮らしている壮年期の単心室症例もいることを考えると,成人期Fontan手術では心拍出量が下がることを念頭に慎重に適応を検討する必要があるだろう.

1971年に初めてFontan手術が報告されてからもうすぐ50年が経とうとしている.当初は4歳以上が適応とされていたが,現在はより低年齢で安全に施行されるようになっている.術式も時代とともに改良され,数多くの肺血管拡張薬も使用可能となり,その適応については日々変化していると言ってよい.Fontan手術未施行の成人例について明確な手術適応の指針は存在しないが,肺血管や心機能などの条件がよければ,成人であることだけを理由に手術を躊躇する必要はないと考える.しかしながら,適応の判断に悩むような症例に少し無理をしてFontan手術を行った場合に苦労するのは,成人も小児も同様であろう.成人例が小児例と大きく異なるのは,すでに一定期間の人生を過ごしており判断力のある一個人であるということである.Fontan未施行の成人例は,肺血管などの条件が厳しいことが多いのも事実であるが,なかには十分な資格があるにもかかわらず,20年以上前の議論の後に特に方針の再検討はなされず,漫然と診られていることもある.そのような場合にまず一度血行動態を評価することを提案して,手術を施行した場合としなかった場合の将来について患者や家族と話し合う機会を持つことは,患者と医療者の双方にとって有用なことが多いように思う.

最後にまとめると,冒頭の問いに対する筆者の個人的な現時点での回答は,①条件がよい場合は成人例だということだけを理由にFontan手術を躊躇する必要はない②すでに社会生活がある成人であり,適応判断に悩む場合は無理はしない③ 「Fontan手術の可能性は?」という視点を常にもち患者とともに考える,というものである.この問いに対してより根拠を持って答えるために,さらなる長期遠隔期の成績や,Fontan未施行の症例の長期予後の情報を今後に期待したい.

注記:本稿は,次の論文のEditorial Commentである.石井 卓,ほか:成人期にtotal cavopulomonary connectionによるFontan手術を施行した症例の中期成績と効果の検討.日小児循環器会誌2018; 34: 143–152

引用文献References

1) 石井 卓,嘉川忠博,矢崎 諭,ほか:成人期にtotal cavopulomonary connectionによるFontan手術を施行した症例の中期成績と効果の検討.日小児循環器会誌2018; 34: 143–152

2) Humes RA, Mair DD, Porter C-BJ, et al: Results of the modified Fontan operation in adults. Am J Cardiol 1988; 61: 602–604

3) Veldtman GR, Nishimoto A, Siu S, et al: The Fontan procedure in adults. Heart 2001; 86: 330–335

4) Masuda M, Okumura M, Doki Y, et al; Committee for Scientific Affairs: Thoracic and cardiovascular surgery in Japan during 2014. Gen Thorac Cardiovasc Surg 2016; 64: 665–697

5) Ly M, Roubertie F, Kasdi R, et al: The modified Fontan procedure with use of extracardiac conduit in adults: Analysis of 32 consecutive patients. Ann Thorac Surg 2014; 98: 2181–2186

6) Valente AM, Lewis M, Vaziri SM, et al: Outcomes of adolescents and adults undergoing primary Fontan procedure. Am J Cardiol 2013; 112: 1938–1942

7) Fujii Y, Sano S, Kotani Y, et al: Midterm to long-term outcome of total cavopulmonary connection in high-risk adult candidates Ann Thorac Surg 2009; 87: 562–570, discussion, 570

8) Tanoue Y, Sese A, Ueno Y, et al: Bidirectional glenn procedure improves the mechanical efficiency of a total cavopulmonary connection in high-risk Fontan candidates. Circulation 2001; 103: 2176–2180

9) 久持邦和:Fontan手術未完了の成人期単心室症例に伴う問題点.日小児循環器会誌2017; 33: 256–258

10) Hebson C, McCabe N, Elder R, et al: Hemodynamic phenotype of the failing Fontan in an adult population. Am J Cardiol 2013; 112: 1943–1947

11) Camposilvan S, Milanesi O, Stellin G, et al: Liver and cardiac function in the long term after Fontan operation. Ann Thorac Surg 2008; 86: 177–182

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