小児重症心不全に対する内科的管理:心臓再同期療法(CRT)Cardiac Re-synchronization Therapy for Patients with Severe Heart Failure in Infancy
国立循環器病研究センター 小児循環器科Department of Pediatric Cardiology, National Cerebral and Cardiovascular Center ◇ Osaka, Japan
小児領域における心臓再同期療法(CRT)では,心構築異常がある場合とない場合で心室再同期のアプローチの仕方が変わる.心構築異常がない場合は十分に成人領域で培われた経験をもとに応用することができる.しかし,ただ体格が小さいだけではない小児のCRT適応患者に対してどのようにアプローチしていくか具体的に自験例をもとに解説する.また心構築異常を伴い複雑な心室形態を有する症例に対するCRTは,個々の症例ごとにペーシング部位や,植え込み方法を選択していかなければならない.小児の重症心不全治療におけるCRTの適正な導入を行っていくために,今後この領域でのさらなる知見の集積が望まれる.
Techniques of cardiac re-synchronization therapy (CRT) for pediatric patients differs from those in patients with and without congenital heart defects. However, despite the use of CRT implants for pediatric patients based on the conventional method used in adults with medically refractory heart failure, specific ventricular morphologies need consideration when performing CRT in cases of complex congenital heart defects. Herein we introduce a novel method for managing CRT in infants, who not only have a small body size but also need individualized determination of pacing sites and surgical implantation methods, considering ventricular morphologies and the type of dyssynchrony in patients with complex congenital heart defects. For appropriate CRT in pediatric patients with severe heart failure, integration of further perspectives in this area are desirable.
Key words: cardiac re-synchronization therapy; ventricular assist device; heart transplant; dyssynchrony
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2009年7月に臓器移植法が改正され小児(15歳未満)のドナーからの心臓移植が日本国内でも実施できるようになり,その後2015年8月より本邦でBerlin Heart社EXCOR® VAD(ventricular assist device)が臨床使用可能となり小児心臓移植実施への扉が開け,心臓移植待機患児の補助人工心臓によるサポートが可能となった.しかしながらまだドナー不足という重大な問題を抱えているのも事実である.深刻なドナー不足は移植待機期間を著しく延長させる結果となり,補助人工心臓でのブリッジなしでは現実的には心臓移植は不可能な状態である.本邦での心臓移植までの険しい道のりを考えるとBridge to VADとしての治療の充実が不可欠である.その中で慢性期心不全治療の充実や,心室間および心室内非同期運動を有する症例に対する心臓再同期療法(CRT; Cardiac re-synchronization therapy)は我々小児内科医として確実に取り組んでいくべき治療である.
CRTは成人の心不全においてはmortalityおよびmorbidityを改善する治療法としてもはや確立した心不全治療となっており1–5),Deviceの発展も著しく,その植え込み手技も比較的侵襲度は低いといえる.しかし小児においてはその体格からリードの留置は開胸手術で行わざるを得ず,重症心不全児に対して侵襲度の高いものとなる.そのため,小児期の心不全の原因に心室非同期運動が関与していると考えられる場合は十分に検討を行いCRTの導入を決断しなければならない.先天性心疾患に対するCRTの知見も徐々に増えてきているが6–10)もちろん,植え込み手技の侵襲によって状態の悪化が懸念される病態であれば小児心臓移植施設との十分な連携のもとで進めていく必要がある.我々はTable 1に示すようにこれまでに7例の左脚ブロック型心電図を呈し,エコーで典型的なShuffle motionを認める症例にCRT-Pの植え込みを行った.全例で急性効果は非常に良好であったが,Case 1のみ3年の経過で慢性期のreverse remodelingが得られず慢性心不全が徐々に悪化しEXCOR®装着,心臓移植となった.Case 4は重症大動脈弁狭窄でRoss–Konno手術後にsurgical LBBBとなり,術後半年で心不全発症しCRT-P植え込みにて心不全が改善した症例である.それ以外の5例はおそらく先天性左脚ブロックからdyssynchronyを来したものと考えられる.興味深いことにCase 3と6は母体から移行した抗SS-A抗体が陽性であった.特にCase 3では,新生時期の心電図もLBBBパターンを呈し(Fig. 3a),当時の心エコーでは明らかなDyssynchronyを認めていない(Fig. 1b)にもかかわらず,心不全症状を呈した4ヶ月後の心エコーでは典型的なshuffle motionに変化し,CRT-Pの植え込みにより心室容積,左室駆出率ともに劇的に改善してる.すなわち,伝導障害が先天的に存在し数ヶ月の経過で非同期運動がすすみ,心室のリモデリングを来したものと思われる.伝導障害の原因が母体からの抗SS-A抗体である可能性も示唆される症例である.Surgical LBBBおよび先天性にLBBBであった症例から考えると,CRTに対するsuper response(LVEFが50%以上に改善するもの)を示す症例では伝導障害からの二次性心筋症であり,原疾患に心筋症があるわけではないことが推測されるが,今後の症例の蓄積が必要だと思われる.
Case | Age (month) | mRoss classification | QRS duration (ms) | 3DE | f/u period (m) | SS-A | ||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
LVEDVi | LVESVi | eLVEF (%) | ||||||||||||
at HF | at CRT | before | after | before | after | before | after | before | after | before | after | |||
1 | 2 | 5 | 4 | 2 | 142 | 100 | 401 | 278 | 368 | 248 | 10 | 16 | 14 | − |
2 | 2 | 2 | 4 | 1 | 128 | 95 | 111 | 78 | 87 | 32 | 19 | 59 | 9 | ND |
3 | 4 | 5 | 3 | 1 | 134 | 93 | 199 | 82 | 165 | 41 | 17 | 49 | 7 | + |
4 | 20 | 21 | 3 | 1 | 160 | 100 | 102 | 126 | 74 | 61 | 27 | 51 | 7 | ND |
5 | 3 | 133 | 4 | 1 | 186 | 133 | 164 | 116 | 130 | 56 | 20 | 52 | 13 | − |
6 | 3 | 4 | 4 | 1 | 126 | 108 | 138 | 88 | 120 | 50 | 14 | 43 | 4 | + |
7 | 5 | 5 | 3 | 1 | 136 | 100 | 280 | 83 | 245 | 37 | 12 | 55 | 5 | − |
The CRT-P system in 7 patients with LBBB pattern on ECG and typical shuffle motion on echocardiography. LVEDVi; left ventricular end-diastolic volume index estimated by 3DE, LVESVi; left ventricular end-systolic volume index estimated by 3DE, eLVEF; estimated left ventricular ejection fraction, SS-A; anti SS-A antibody, SS-A; maternal derived anti SS-A antibody. |
a. CXR before CRT-P implantation. b. CXR 1 month after CRT-P implantation. Three unipolar steroid eluting suture-on type lead (4965 Medtronic) were placed on RA, RV apex and LV lateral wall by left thoracotomy and median sternotomy.
慢性期のreverse remodelingを考えてみると,Fig. 2に示されるように,平均観察期間8.4ヶ月後では全例で劇的にQRS時間の短縮があり,電気的非同期性の改善を来していることがわかる.心室容積と駆出率をみると,心臓移植に至ったCase 1以外では劇的にreverse remodelingが観察されている.
小児症例に対する明確な植え込み適応基準は存在しない.成人においては左室駆出率<35%の心不全患者においてQRS幅>120 msもしくは>130 msが一般的な適応基準となる.NYHAクラスはIIIあるいはIVが対象であったが近年ではより軽症例にも応用されつつあるが,その長期予後についてエビデンスはまだない.また心エコーの指標も様々な研究がなされているがいまだ確立した反応性・有効性の指標は定まっていない.小児においては,我々の経験においてはQRS幅が120 ms前後の症例でも左脚ブロックを呈し(Table 1),心エコーで典型的なSeptal flashやApical shuffle motionを認める症例ではsuper responseを示している.このことから成人に比しQRS時間の短い小児ではQRS時間の基準では適応を評価できないと考えられる.現時点で確実な適応指標は左脚ブロック型の心電図と心エコーでの心室非同期の存在ということになる.
成人の症例では左室リードは多極リードが使用できるようになり,植え込み後に任意のペーシング部位を選択できるようになった.一方,小児の場合は開胸でのリード植え込みとなるため,任意の場所に留置することができる反面,至適ペーシング部位の決定はCRTのoutcomeを左右する重要な問題である.左室の心室内非同期を改善させることが目的であることから,右室は流出路から心室中隔へ伝導させるか,心尖部から心室中隔へ伝導させるかどちらかということになる.現時点ではspeckle trackingでmechanicalなdelayを評価して再遅延部位を指標に左室リードを逢着するのがいいと考える.Fig. 3bに示す例ではseptal to posterior wall motion delay(SPWMD)で見ると,中隔と左室後壁にmechanicalな収縮時相のズレが認められる.このmechanicalな収縮時相のズレを局所の非同期性だけでなく,心室全体の動きについて収縮期の時相のずれを見ることができるのがspeckle tracking法(Movie 1)である.Fig. 1a, bにCRT-Pシステムの植え込み前後のレントゲンを示す.右房,右室,左室の3カ所にリードを逢着するため,BipolarリードよりUnipolarリードを選択することも心臓の絞扼性障害を避けるためには有効な手段である.
a. 12 leads ECG at 10 days of life (left) and 4months (right) just before CRT-P implantation in Case 3. b. M-mode echocardiography at 10 days of life (left) and 4months (right) just before CRT-P implantation in Case 3. c. Interestingly, arterial pressure monitoring shows the significant elevation of pressure at a single ventricular premature contraction arose from LV.
術前は非常に強い肺うっ血が特徴である.強心薬の使用は時に心室内非同期や心室間非同期を強くして状態を悪化させることもあるので注意が必要である.すなわち,改善でき得る心室内(間)非同期が存在する場合は,非同期を改善させた後に慢性心不全治療へ移行することが望ましいと考えられる.すなわち,CRTは急性期治療の一つとして位置付けられるものである.よって可及的速やかにdyssynchronyの評価を行い,CRT治療を行った上で慢性心不全治療の導入を行う必要がある.時に,術前の管理のなかで期外収縮がストレッチした左室より起こることがある.その場合は左室起源の期外収縮により観血的動脈圧モニターで血圧上昇が観察されることがある.これはすなわち左室ペーシングで血圧が上がる可能性を示唆し,CRTによる急性効果を予測させる所見となり得る(Fig. 3c).
植え込みが終わると,CRTペーシングのon/offで観血的動脈圧はダイナミックに10~20 mmHg変化することが多い(Fig. 4).術後の管理で最も慎重な対応を要することは乳幼児であれば洞性頻脈への対応である.我々は少し長めに鎮静を継続し,CRT pacingに左室が順応するのを待って覚醒させるようにしている.そのときは可能な限り強心薬の使用は避け,左室の後負荷軽減を目指す管理を行う.
我々の施設では術後急性期の管理でしっかり除水を行い,ACE-IもしくはARBを導入して左室後負荷軽減を行ったらβ遮断薬未導入の症例では,必要に応じてゆっくりβ遮断薬の導入を行っている.CRTによる急性効果は術後の血圧の反応で確認される.ACE-IもしくはARBおよびβ遮断薬の導入は,その後の慢性期reverse remodelingを誘導するべく行っている.Fig. 1にあるように,おおむね1年前後で心室容積の縮小が観察され,その頃には左室駆出率は50~60%まで回復する.CRTの設定においては,最大の心拍出を実現するべく心電図におけるPR間隔に相当するAV delayや両心室でのペーシングのタイミングを決定するVV delayの至適化にも気を遣う必要がある.心房心室間の非同期によっても心拍出量の低下を招き,両心室のペーシングのタイミングの至適化も慢性期のreverse remodelingの実現に影響を及ぼしうる.Case 1のように遠隔期のreverse remodelingが観察されなかった症例では,AV delayおよびVV delayの至適化を試みる,それでも非同期の改善が得られていないのであればペーシング部位の変更なども考慮する必要がある.非同期の改善にもかかわらず心機能の改善が得られない場合は心臓移植適応検討が必要になるだろう.
先天性心疾患への応用もすでにいくつかの報告がなされている6–10).当科では先天性心疾患ではその心室形態は複雑であるため,CRT-P植え込み術前に,電気生理検査にて心室2点ペーシングを行いCRTの急性効果判定および,至適ペーシング部位の決定を行っている10, 11).単心室血行動態の場合は,心室pacingされている場合には心室内非同期を来しやすい.また解剖学的に2心室を合わせて一つの体心室としている場合には,心室間非同期はすなわち血行動態的には心室内非同期となり,駆出効率を低下させることになる.これらの場合にはCRTの適応となる.この解剖学的心室間非同期,血行動態的心室内非同期を同期させるべく心室2点ペーシングを行い,主心室の収縮特性が最も改善するペーシング部位を探すようにしている.この際にpressure wireを使用して心室のpeak dP/dtを測定することで心室内圧の変化を詳細に検討し至適ペーシング部位を同定している.Systemic RVの心室内非同期の場合は右心室の形態を考慮してRVを長軸方向(心尖部と流出路でペーシングする)に同期させるようなイメージでCRTを行うようにしている11).
小児領域におけるCRTは成人の心不全治療での成功を応用してこれまで進歩してきた.しかし,デバイスそのものは小児用ではなく,その植え込み手技には工夫が必要である.さらには成人でのCRT適応基準は小児には当てはまらないのも現状である.特に乳幼児ではsuper responseを示す症例が存在し,その適応をしっかりと認識しCRTへ導くことが重要と考えている.実際に心臓移植適応とされ搬送されてくる乳児のなかにはCRTを試みるべき症例が存在する.小児心不全診療においては心室非同期の存在を常に念頭に置いて心エコーを評価するべきである.また,最近では先天性心疾患への応用も徐々に行われてきている.複雑な心構築異常の場合はその適応,ペーシング部位そして植え込み後の設定の至適化にも配慮が必要となります.心室の形態と非同期のパターンを十分に認識してCRTを導入することが小児領域の心不全治療に非薬物療法として大きな武器になると信じている.
本論文について,開示すべき利益相反(COI)はない.
この論文の電子版にて動画を配信している.
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